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十五夜の晩

作者: 長村月夜

 夜なのにとても明るい日、空を見上げると月が煌々と輝いていた。黒兎は月の位置を確認すると、少し慌てたように駆け出した。今日は月に一度の満月の日、この日は森中の兎たちが集まって集会が開かれる日である。

 その中でも十五夜の今日は特別だった。いつもの集会では、主に狼などからどのように身を守るか、今年の実りはどうかなどが話し合われる。しかし十五夜の日は、そういったことを一切話さないお祭りの日だ。みんなで月をたたえ、太陽に感謝する。そして、兎たちは月光が輝く森の広場で踊り歌う。今年の無事と実りを祝い、来年の平穏と豊作(?)を祈って…。


 黒兎が広場についたときには、大部分の兎が集まってわいわいがやがやと楽しんでいる雰囲気が漂っていた。きょときょとと見回すと、一本杉の根元に知った顔がいることに気がついた。

「よう!お前ら速かったんだなぁ。」

「何だよ。いないと思ったら今来たのかよ、遅いぞ!!」

「理由は何?」

耳の先が黒い兎が攻めるような口調で、ニヤっと笑って聞いてくる。その横で茶兎がいたずらを見つけた子供のような顔をして続いて言った。

「ん?木々の間から見えた月がきれいだったから思わず見とれた。ついでに面白いものを見ちまって、つい立ち止まってた。」

負けずと笑って答えた。

「なんなんだ?何が面白かったん?」

面白いことが大好きな茶兎が予想通り食いついてきた。耳の先が黒い兎は興味なさそうにしながらも、しっかりとこっちに耳を傾けている。

「え~どうしようかなぁ…言わないでおこうかなぁ~。」

「そういうなよ!ほれほれさっさと教えろよ。」

じらしてみると茶兎がせっついてきた。

「何を見たんだ?狐が川で溺れてたんか?」

「いや、意外と狼が足を滑らせて転んでたとか。」

「そうか~?って、どうなんだよ?」

「「笑ってないで答えを教えろよ!」」

黒兎は二匹の想像を聞いて一匹で笑っていた。そのうえ、異口同音に言って振り向いてきたことがまた面白くて、さらに黒兎は笑い転げた。

「ははは…だってお前ら面白いよ…あはは…。」

一言言ってまた笑い出した。少しした後、黒兎は続けて話し出した。

「それがさぁ、河原でガマ蛙が相撲してたんだよ。」

「はぁ?相撲~?」

どちらともなくあっけに取られたように、納得できない表情をして聞いてきた。

「そう!相撲。それだけなら別に面白くも無いんだけどさ、これに続きがあってそれが笑えるんだよ。

ガマ二匹が必死な顔をして相撲してるんだよな。なぜか河原で…大きくて平らな石の上でやってたんだけどさ、やっぱやっているうちにだんだん端のほうに行くんだよねぇ。そのうち小さい方のガマが足を踏み外したんだよ。ズルッと!そのとたんに乗っていた石が揺れて、もう一匹もバランス崩したんだよ。んで、そのまんま二匹とも石から落ちた!しかも川側から落ちたからそのまま川にボチャンと!それで少し流されてたんだけど、その時の二匹の『え!』って感じの顔が面白くてさぁ~!」

黒兎は思わず軽いパフォーマンスをしながら話していた。それを聞いていた二匹は話の中身よりも黒兎が面白くて笑ってしまった。

「ぷっぁはは…何だよその結末は~!!」

「お前…それはひどいと思うぞ…くく…でもまあ、確かに面白いかも…。」

二匹はなんだかんだと口では文句を言っているが、楽しそうに笑っている。

「何だよお前ら~面白いなら素直にそういえばいいじゃないかよぉ…!」

黒兎も二匹が楽しそうなのを見て頬をほころばせた。

 三匹がそれをきっかけにしてふざけあいながらも笑っていると、ドーン、ドーンと太鼓の音が聞こえてきた。

「お!もうそんな時間か。せっかくだから踊ろうぜ!!」

最初に笑い終わった茶兎がそういい、二匹も笑うのをやめて、三匹仲良く広場の中心の踊りの輪に入っていった。

 空には雲が無く、月は頂点を過ぎたくらいでますます輝いている。月光の下で兎達は楽しく笑いさざめき、踊った。月が木々の間に隠れるまで…。そして兎達はまた日常に戻っていった―。

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