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魔王様、支配してください!  作者: 春花
クラスメイト、やる気ゼロ!
2/24

オージャンの初登校

 主人公のオージャンの名前は「王者」から名付けました。単純でしょ。さて、今回から学園生活の始まり。

 ソロモスチューラ学園――敵対堕天使殲滅機関であり、中高一貫の教育機関でもある。高等部の学生数は六〇〇人前後であり、ほとんどの人がなんらかの超常的能力を有する。


 この学園に、異世界の大魔王オージャンが通うことになった。




 制服である白いジャケットと黒のズボンを着たオージャンが、ホワイトボードの前に立ってそれを荒々しく叩いた。


「大魔王オージャンの栄えある着任式だと言うのに……他の者はどうした、村娘A!」


 ガランとした狭い教室(カラオケボックスのパーティ部屋ぐらいの広さしかない)にオージャンの怒声が響く。彼の前に並ぶ古ぼけた木製の長机が三つ、その一つの真ん中の席に、委員長であるネフィだけが座っている。


「誰が村娘Aよ! 私の名前はネフィよ! それに私は委員長、あなたは副委員長。位としては私の方が上なんだからね!」


「ふ、形ばかりの称号にとらわれるとはやはり愚かだな!」


 胸を張って高らかに勝ち誇るオージャンに、ネフィは怪訝そうな目を向ける。が、そんなこと気にも留めず彼は自信満々に、


「いくら余が有能有益勇敢その他諸々の「ユウ」がつく大体のハイスペックな存在であろうとも、この世界に不慣れな段階で長についてしまえば、下の者も混乱してしまうと言うもの! むしろ、それなのにいきなり要職についたこの隠し切れない魔王性! それが余のことながら恐ろしい!」


「いや、要職って高々副委員長だし」


「ハーハッハッハッハ、すぐ下に余のような人材がきてしまい、地位が脅かされてしまう貴様の恐怖、分からんでもない! そんな負け惜しみの一つも言いたくなろう!」


 オージャンの哄笑で、立てつけが悪いドアやヒビが入った窓ガラスがガタガタと揺れる。


 ネフィは肩から脱力してため息をはく。まあ、ムキになって否定しなくても、その内大した仕事もないと分かるだろう。


 気分を変えてネフィはズレたメガネを指で押し上げてから固い笑みを浮かべ、


「でも、意外にすんなり受け入れてくれてよかった。もっとごねるかと思ったけど」


「…………ふ、笑いたければ笑え。大魔王たる余が神の道化を演じることになるとは、さぞ滑稽だろうよ」


 テンションの急落に、ネフィはちょっと慌てる。


「いや、そこまで自分を卑下しなくっても。それに聖痕を受けるなんて名誉なことよ?」


 ネフィはフォローではなく、心からそう言う。


 聖痕は神様から加護と使命を受けた者である証なのだ。能力を見いだされて神様に選ばれることは大変栄誉なことで、いくら望んだところで受けられるものではない。人々から崇められることも少なくなく、大体百年に一人現れるかどうかで特別なことなのだ。


「これのせいで余の魔力は封じられたがな」


 そんな栄誉も魔王であるオージャンには屈辱でしかないようだ。


「右手を斬りおとして逃れられるなら、すぐさま実行しているのだが」


「怖い怖い」


 陰鬱なオーラを背負っていたオージャンだが、しばしして「くくく」と喉の奥から笑い声を漏らす。


「まあ聖痕は忌々しいが、この学園で地位を得られたのは悪くない」


「おお~、前向きぃ」


「余にも色々と事情ができたのだ。仕方ないから貧乏くさい教室で、十六歳を超えし憎きガキ共と席を同じくする屈辱ぐらいしばらく耐えてやる。と、渋々だが気合いを入れて着任の言葉も考えてきたというのに、ヒラ共を揃えていないとは……この歴史的日に長として怠慢だぞ」


 思いっきり呆れた目で見下ろされ、ネフィはカチンときた――きたが、今までと違って声を荒げて反論できることではない。力無く俯き、しゅんっと背中を丸める。


「仕方ないじゃない。来るように言って来てくれるなら、こんな困っていないわよ」


 そんな泣き言になお呆れ、オージャンはため息を吐きつつかぶりを振る。


「こういうことは初めが肝心なのだ。立場を明らかにし、上下をハッキリとさせておかなければ舐められる。今の貴様のようにな」


 ズケズケと遠慮なく言われるが、ネフィは何も言い返せない。


「不本意だが、余の方から出向いてやろうではないか」


「え?」


 思っていなかった言葉に、俯いていたネフィの顔が上がる。そんな彼女の鼻先に、オージャンは指を突きつける。


「言っておくが、ラスボスである余が自ら出向くなど追い詰められている証拠だからな。猛省しろ」


「うっ」


 怯んで体を後ろに引いたネフィは、ズレたメガネを指で直す。


「挨拶がてらクラスメイトの厚顔な面を拝んで来よう。早速になってしまうが、貴様と余の〈上に立つ者〉としての核の違いを見せることになるな。供をしろ、村娘A!」


「だから、ネフィだって! っていうか、授業は!?」


 そんなことでオージャンの行動が止まるわけも無く、追いかけるネフィも教室から出て行った。そんな二人は、後ろに隠れている小さな影に全然気づかなかった。


 そして数時間後――教室に戻ってきた二人は、


「二年の落ちこぼれ中の落ちこぼれが集まっていると聞き、どれだけヒドイ役立たずがいるのかと思ったが、そう悪くは無いではないか」


「悪くないって……おおむね全戦全敗だったけど」


「はたから見ればそう映ったかもしれないな」


 オージャンの負けず嫌いが発動していた。何があったのか見て行こう。そして余談ではあるが、二年X組は『オンザバージ』認定初日にクラス全員ズル休みという異業を学園に轟かせた。




 学園の敷地から出たオージャンはズカズカと歩を進めつつ、ピタリと止まって背後を振り返った。


「遅いぞ」


 数メートル離れたところを頼りない足取りで歩いているネフィは、不満そうな視線を飛ばしてくる。


「少しは女子にあわせてゆっくり歩くとかしないわけ?」


「たわけたことを。一番レベルの低い者にあわせてレベルアップなどできるはずがなかろう。貴様が真に成長を望んでいるのだとしたら、他者に必死に食らいつけ」


 ようやくオージャンに追いついたネフィは、再び歩み出した彼の歩調にあわせて大股で歩き出す(やけ気味に)。


「ちなみに、余に対する言い訳として年齢・性別・種族を理由にするのは通じんぞ。多種多様のモンスターを統率する魔王は、基本的に平等な能力主義だ。どんな者であろうが有能であれば正当に評価をし、無能であれば評価はしない」


「分かったわよ、もう!」


 ネフィのやりきれないエネルギーが足に回って、ドスドスと力強い踏み込みになる。そして二人は信号機に引っかかり、立ち止まる。


「で、余はどこへ向かっているのだ?」


 その質問にネフィは肩すかしを喰らって体が前に泳いだ。


「どこを目指してズカズカと歩いていたのよ!」


「愚問だな。あっちだ」


「だからそれはどこなのよ!」


 こんな奴にたしなめられた上に、ちょっと影響を受けて大股で歩いたかと思うと、ネフィは自分が恥ずかしかった。


 だが、オージャンはそんなネフィに冷めた視線をやって、やれやれと首を横に振る。


「余は貴様を試したのだ」


「はぁ?」


「余は昨日、この世界に初めて来たのだぞ。少し考えればこの世界について不慣れなのは分かるだろう。そこを言われずとも察して、何も言わずにフォローするぐらいしなければ……上司に気に入られないぞ」


「会社か!」


 たまらずネフィが声を荒げるが、オージャンは堪えた様子が無い。


 なんかもう色々なことを諦めて、ネフィは制服のポケットからスマホを取り出す。


「これ、学園からもらったでしょ?」


「ああ、その板か」


「出して」と言われたので、オージャンも懐からスマホを取り出した。


「それがソロモスチューラの学生証明書よ。それ一つで身分証明書になるし、電子マネーのお財布にもなるし、当然通信も……って言っても分からないわよね」


 ポカンとして疑問符を上げているオージャンに、まず指紋認証でロックを外させ、


「現在地と目的地のマップを送るから」


 ネフィは自分の学生証を操作して、オージャンにデータを送る。彼は画面に表れた地図に少し驚く。


 ネフィはオージャンの学生証を横からのぞき込みつつ、画面の説明をする。


「この赤い点が現在地で、赤い線で繋がったここが目的地。レシャールさんとキネマくんがいる喫茶店『パプリカ』よ。指で拡大とかできるから……」


 オージャンがよく分からないまま画面を指で触ったら、逆に地図が縮小されてしまった。


「そうじゃないって、こっちこっち」


 やり方を指示しようとしたが、オージャンが「待て」と手でネフィの指を制した。


「ここは島なのか?」


 はからずも地図が縮小したことで、オージャンは自分達のいる場所が海に囲まれている島だと分かった。


「それも知らなかったの? あ、ちょっとこっち来て」


 長くなりそうだと思ったネフィは、通行の邪魔にならないように道の端によった。


「この島は堕天使との戦場にするために作られた島よ。島の直径は二十キロを超えるし、都市が一つ入っているようなものね。飛行場や港はもちろん、ショッピングモールやスポーツ施設・病院、山や海岸もあるわよ。もちろん私達のような特殊な学生以外にも、一般の人も住んでいるわ」


「よく分からんことも多いが、ほう」


 よく分からないのに返事をするんだと思いつつ、ネフィは続ける。


「島を戦場にするって言っても、基本的には学園のグラウンドに出てくるよう堕天使を誘導するから、町に被害が出ることはあまりないわ。堕天使警戒レベルスリーの警報が鳴れば一般人はシェルターに避難するし」


「なるほど。学園らしきものが島の東端にあるのは、市街地から戦場を離すためか」


「そう。学園の周りにあるのが第一から第四学生寮と、教職員の住居――準戦闘区画で、もしもの時はそこまで戦場になるわ」


 話を聞き、オージャンは持っている学生証を表裏にして不思議そうに眺める。


「しかし精巧な地図だな。この測量技術からして、余のいた世界よりはるかに発展しているのか、発展の根本が全く違うのか……フゥ」


 オージャンから疲れがこもった神経質そうなため息がもれた。目まぐるしく馴染み無い話を聞かされ、脳や精神にストレスを感じているのだろう。そう思ったネフィは、励ますために朗らかな笑みを見せ、胸元でグッと両手を握る。


「戸惑うことが多いだろうけど、私も色々と協力して――」


 そんな風に言い出したネフィにオージャンは半目の視線をやり、「愚かな」と小馬鹿にして肩を竦めた。新しい世界に不安を感じ、心細くしている人とはあまりにかけ離れたリアクションに、ネフィはフリーズして頭上に理解不能の「…………」が流れた。


「余をそこら辺の展開に流され右往左往するだけの凡人と一緒にするな。神に陥れられ思いもよらぬ事態になった。しかし、過去に幾多の激戦地を経験した余ともなれば違う。目まぐるしく状況が変わる戦場において、適応できなければ待つのは死だけだ。そしてそれを利用できなければ勝利は得られない。つまり、この状況ですら余は利用して見せる。未知なる世界だろうと臆することは無い」


 不敵な笑みを見せるオージャンのセリフは負け惜しみに聞こえなかった。きっと本人は本気でそうできると考えているんだろうと、ネフィは優しさでコメントを控えた。



 ソロモスチューラ学園から徒歩で二〇分。住宅が多い区域に建つ喫茶店『パプリカ』にやってきたオージャンは、開店前の店内にいる二人がクラスメイトだと、ネフィに確認した。


 着任式をすっぽかされたことに対し、オージャンは弁明の余地無しと判断し、制裁を加えるため、一気に店内へ突入して二人へ飛びかかった。


 ……………………………………。


 キネマのヌンチャクで迎撃され、壁に吹っ飛ばされたオージャンは逆さまになっていた。そんな彼を、レシャールとキネマは怪訝な顔で見る。


「何ですこと?」


「強盗とはタイミングが悪かったですね。ただいま当店は次回の中国フェアの会議中でございまして――」


 キネマはヌンチャクを振り回した後、手応えに満足してテーブルに置き、次に青竜刀を持つ。


「せっかく来ていただいたので、一足先にフェアを満喫してください。お代はけっこうでございます」


 テーブルの上には他にも矛やトンファーなど、数種の武器が置かれている。


「ごめん! ちょっと待って!」


 慌てたネフィが店内に入って来て、キネマの前に立ちはだかった。


 ネフィの姿を見て、レシャールは一瞬困ったような表情を見せたが、すぐに呆れた顔で嘆息した。


「委員長、学園を休んで笑いでも取りにきたんですこと? あまり面白くありませんでしたことよ」


「違うわよ! みんなが学園に来ないから、こっちから新しく入った副委員長を「その前に村娘Aよ、確かめておきたいのだが」


 話を遮られてネフィは「村娘Aじゃないわよ!」と言いつつ振り返り――、


「首に激痛が走るのだが、余の首はもげてないか?」


「もげてるわけないでしょ!」


 それを確認したオージャンは倒立していた体を横に倒してから立ち上がり、あらためて正面からレシャールとキネマを見た。


 ライトグリーンの長髪であるレシャールは悠然と椅子に座って、騒ぎにも動揺した素振りは見られない。整った顔立ちでその肌は驚くほど白い。身長は左程ネフィと変わらないが、制服のスカートから伸びる黒タイツをはいた脚は彼女の方が長い。


 薄い水色の髪をオールバックにしているキネマは姿勢が良い。タキシード姿も相まってまるで彫刻のような佇まいだ。表情は硬く、あまり感情が読み取れない。


 オージャンは「さて」と前置きして、右手をかぎ爪の形にして前に突き出した。


「余は部下の意見にも耳を傾ける、話の分かる大魔王として人気を博していた。さあ、貴様らも言うがよい! どうして学園に来ないのか!」


 先程は弁明の余地無しとか言っていたのに、この変わり身様。しかも、それを言い放った態度が堂々としたものだから、一言――スゴイ。


「キネマくんの反撃に恐れをなしたの?」


「貴様と今関わっている暇はない。余は奴らと向き合わねばならんのだ」


 オージャンはネフィに取り合わず(図星だったのだろうか?)、彼女の前に出てレシャールとキネマと対峙する。だが、レシャールの方は彼に興味を示さず、取り出した学生証のスマホを操作する。


「……学生連絡網に来ていましたわ。二年X組にオージャンが入ったと……ふぅ~ん、異世界の魔王ですこと。「大魔王だ」あの学園、ついに異世界人も入学させたんですのね。勇者にやられた敗残魔王が神の使い走りになって異世界で副委員長……、落ちるところまで落ちたものですこと」


 レシャールはテーブルに頬杖をつき、オージャンを見上げる立場にいながら空虚で無感情の視線で見下ろす。明らかに侮辱されているのに、彼は怒る素振りどころか気にした様子も無く、


「あの板はそんなことまで教えてくれるのか?」


 いきなり肩越しに振り返られ、オージャンに聞かれたネフィは少し慌てた。


「あ、うん。学生の基本的なステータスは誰でも閲覧できるようになっているよ」


「面白そうだ。余についてはなんと書かれている?」


「えっと~」と、ネフィは学生証のスマホを取り出して検索する。


「サポートランク:二年X組、オージャン。役職・副委員長。秘めたる力は魔力。趣味・特技は調査中。備考・異世界の大魔王で勇者(十六歳)にやられた。聖痕を持つ」


 一通り聞いたオージャンの第一声は、


「これの自爆ボタンはどこにある?」


「ないわよんなもん!」


「ないだと!? これだけ余のことが赤裸々に書かれているのに、証拠隠滅方法がないとはどういうことだ!? 余の居城ですら、とあるスイッチを押したら瓦解するように出来ていたぞ!」


「住むんじゃないわよ、そんな欠陥住宅!」


 言い合いをしている二人のそばから、吹き出した笑いが漏れた。そちらに目をやればレシャールが口元に手をあて、肩と大きな胸を震わせて笑っていた。揺れる胸を抑えるように、片腕は胸の下を通している。


 一息ついてから、レシャールは背もたれに体を預ける。


「面白かったので名乗ってさしあげますわ。わたくしの名前はレシャール=レイパン。秘めたる力はパイロキネシスの超能力者ですことよ。座右の銘は『面白そうなことに前のめり』。家の帝王学の一環で、この店を経営していますことよ」


「私の名前はキネマ=ブレトです。秘めたる力は妖力で氷雪系を得意とします。学園では『アイスバレット』などと呼ばれていますが、私は学生である前に一人の執事……全てはお嬢様のために」


 レシャールが名乗ったことで、キネマも頭を下げながら挨拶をした。


 和やかな挨拶が交わされ、ネフィはひとまず安心した。


 レシャールが指を鳴らすとキネマが一度奥に引っ込み、ティーセットを銀のお盆に載せて持ってきた。テーブル上の中国フェアの道具が片付けられ、三人分の紅茶が用意される。


 そして椅子を勧められ、オージャンとネフィはレシャールと同じテーブルにつく。準備を終えたキネマはレシャールの背後に控える。


 オージャンは一度紅茶に口をつけてから、


「それで? 貴様らはどうして学園に来ない?」


「理由は二つありますわ。まず、サポートランクに不満がありますことよ」


 なるほどっとばかりにオージャンは頷いてから、


「で、村娘Aよ。サポートランクとはなんだ?」


「そこから!?」


 まさか自分が所属しているランクのことも知らないとは思わず、ネフィは驚いた。サポートランクの仕事内容については、昨日の説明を覚えているようなので割愛し、説明を始める。


「一つの学年にはナンバーズとサブとサポートの三つのランクがあるの。三〇のクラスがそこに振り分けられて、実力がある上位のクラスが数字をもらえるのよ」


「それがナンバーズか?」


「そう。一から九組」


「大層だな。たかがガキの集団に」


「サブとサポートはアルファベットの組で、X組だけはオンザバージを受けた特別なクラス。サブは十一でサポートは一〇あるわ。あとナンバーズは堕天使が襲来した時に最前で戦うけど、その分色々と優遇されているのよ。教室の設備が整っていたり、町での買い物でサービスされたり、食事がすごかったり、寮の部屋が個室だったり――」


「ちょっと待て!」


 ネフィの説明の途中で慌てたオージャンが待ったをかけた。


「余ですら四人部屋に押し込まれたのだぞ!?」


「だから、それはサポートランクだからよ」


「あの四人部屋、余の城にあった牢獄よりも狭いぞ! しかも、二段ベッドの下段だし」


「それは知らないわよ」


「ジャンケンとやらで大魔王を負かすとはどういう料簡だと思う?」


「真っ当な方法の結果じゃない。むしろ、後からノコノコやってきてチャンスを与えられただけいいと思うけど」


 だが、納得してそうにないオージャンは口の中でぶつくさ呟く。変なところで器が小さい男だ。


 オージャンのツッコミで説明が切れたので、レシャールは飲んでいた紅茶を置いて理由の続きを話す。


「サポートランクなど裏方の仕事、わたくしに相応しくありませんことよ。わたくしを呼び戻したいのなら、最低サブランクにまで上がっていただかなくては」


「……余のクラスは現在どの位置にいる?」


「オンザバージ認定されたX組は最低の順位だから、サブランクにまで上がるには一〇のクラスを抜かないといけないわよ」


 自分が所属するクラスの体たらくに、背もたれにつけていたオージャンの背中が少しずり落ちる。


「…………で、もう一つはなんだ?」


「もう一つの理由は、午前中に行われる学園の画一的な授業がつまりませんことよ」


「ほう? その言い方、午後は学園に来ているのか?」


「たまにですけど。午後からはクラスごとの自学自習で好きなものを学べますから」


「うちの学園って午前と午後で授業が分かれていて、午前はランクごとになんクラスか集まって教科ごとの授業を受けるのよ。で、午後はクラスごとに自分達で課題を決めて勉強したり、チームワークを強化したり……あとは、各能力に集まって専門の教師から習ったりするのよ。私は魔法使いだから、魔法の講習がある時はよく出ているわよ」


 まだ授業を一つも受けたことがないオージャンは、それらがどういったものなのかイマイチ分からなかったが、とりあえず頷く。そして椅子を引いて立ち上がった。


「顔合わせはすんだ。次へ行くぞ、村娘A」


「え?」


 意外な言葉に、ネフィは「村娘A」に対するツッコミもできなかった。


「もうお帰りですこと? 意外に張り合いがありませんことね。力ずくで引きずり出そうとしませんこと?」


 と、言葉を投げかけたが、オージャンは振り返りもしないで店を出て行った。


 あまりにアッサリと引き上げたのでネフィは戸惑ったが、とにかくオージャンを追いかけるため二人に頭を下げて店を出た。


 キネマは滞りなく二人が使ったカップを下げ、レシャールはしばし店のドアを見ている。


「まだ諦めていないようですこと」


「そのようですね」


 レシャールは少し冷めた紅茶を飲み干し、おかわりを要求する。


「魔王ごときが来ても、何も変わりませんことよ」


 学園の話はそれを最後に、二人はあらためて中国フェアの話し合いに戻った。

 クラスメイトに全戦全敗! 一体オージャンは何をやるのか!? むしろやれないのか!?

 まあ、次回の話はおいといて、最初の方にはあんまり説明を入れたくないんですけど、話の流れでいれやすいから長くなっちゃった。これでも分散させた方なんですよ。最初はもっとひどかった。

 X組はオージャンを入れて七人なので、あとは三名ですね。次は聖剣所有者と霊能力者です。

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