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一日戦争編3

■一日戦争編3

 

 同盟側の対空レーザーの射程外で、1機の小型ヘリが地上300メートル付近の空中でホバリングしていた。

 遠くの地表でやけに明るく光っている所があるが、たぶん、それが今回の目標となる場所であろう。

 403鈴木健太は目をつぶると、その目標に向かって意識を集中する。千里眼の発動である。

 千里眼と言っても、見たことも無い場所、知らない場所は見ることは出来ず、基本的には目標を視認し、そこに向って意識を集中させて千里眼を発動させるのだ。

 健太は焦っていた。何が何でもここで戦果を出さないと、怒られるだけじゃ済まなくなる──。

 

 約1時間前、鈴木健太は北側の包囲網を死守するだけで精一杯の状況だった。

 本来、包囲戦とは守備側の数倍もの兵力をもって行うものだが、それは自衛隊を期待してのことだ。実際には自衛隊はほとんど有効に働いておらず、超能力者の絶対数も少ないこの状況では、政府側が包囲しているというよりは、同盟側の射程外で様子を見ているというのが実情であった。

 味方が総崩れの中、健太は必死に踏みとどまっていた。

 健太は花橘楓との戦闘の影響で本来の力を発揮できなかったため、とにかく当初指示された通り、その場で敵の攻撃を撃退することに集中していた。

 そのような時に鈴木次官から連絡があり、現エリアを放棄し千里眼で敵の本部を奇襲する作戦が命令された。

 

 (お父さんは重要な任務だと言っていた。成功したらきっと褒めてくれるはずだ。これで昼間の失敗をチャラに出来る!)

 

 いかにも子供らしい発想で、ヘリの中から『千里眼』を発動し同盟側の人間を次々と倒していく健太。しかし、主賓に関する有効な情報を得る事が出来ない。

 花橘楓に受けたダメージに今までの長時間戦闘で、もう健太の精神力は限界に近かった。

 だが、このまま何の戦果も無く帰還する訳にはいかない。もう一番手っ取り早く、現状をひっくり返すことが出来るかも知れない方法を取るしかない……それは……。

 

 「敵のランクAを倒すことだ!」

 

 健太はこの周辺にいるランクAは178梅田であることを認識していた。

 そして、今ここに現れるであろう者が、たぶん梅田であることも予想していた。何故なら一連の攻撃が千里眼の仕業と知りながら、のこのこやって来るなんて、ランクA以外いないだろうと考えていたのだ。そして、その考えは正しかった。

 凄まじいスピードで文字通り飛んでくる姿があった。第4特殊部隊隊長梅田だ。全身ダークグレーの特殊ボディスーツとヘルメット、レーザーガンを装備していた。

 梅田は地面に着地すると、スピードを殺さず地面をスライディングするように南病棟のロビーの自動ドアに体当たりし、ガラスを破ってロビーに転がり入ってきた。

 健太はその姿を目で追い、ゆっくりと攻撃体制に入った。

 

 一方、梅田も見えない敵の意識が近くにあることを感知していた。しかし、それは漠然とした感覚的なものであり、正確な位置まではわからなかった。

 ここ、南病棟ロビーのカウンター前で立ち止まり、見えない敵がランクAであるという恐怖心を自制し、精神を集中する。

 気配が移動しているのは微かにわかる……が、そこには実体はなく、超能力者警戒網および超能力センサーにも反応は無かった。

 梅田は403鈴木健太とは直接面識は無かったが、研究所時代に『恐ろしい子供がいる』という風の噂があり、その時はランクSも夢ではないと騒がれていた気がする。

 

 (同じランクAであっても、あのガキはAの上、俺はAの下だろう。力の差は歴然だ。だが、今この時、あのガキを倒せるのは自分しかいない)


 梅田は体中の全ての器官をフル動員して健太の動きに集中する。

 その時、微かに背後で超能力を感知した。

 梅田はすぐに体を反転させながら防御壁を展開し、健太の意識をトレースして本体への攻撃を試みる。

 ──が、それよりも速く右肩をカマイタチのようなもので切られ、鮮血がほとばしる。

 

 (速い!)

 

 梅田はすぐに後ろへ飛び、第二撃の回避行動を取る。

 

 (あのガキ。やってくれるな……)

 

 健太は前回の楓との戦いで、発動時間が長い攻撃だとトレースされる可能性があることを学んでいた。そこで今回は、威力は弱いが発動時間が短い攻撃に変えていたのだ。殺傷力が無い分、倒すまでに多少時間はかかるが安全で確実な方法だ。

 

 (子供にしては冷静な判断だ。だが、本当にいいのかな?)

 

 梅田はロビーの奥へダッシュした。……逃げたのだ。

 トレースが出来ないと分かった今、敵と戦うにも実体がない相手ではどうすることもできない。なるべく時間を稼いで味方の報告を待つ。今はそれしかない!

 健太は梅田があまりにも潔く逃げたので、一瞬、ぼーっとしてしまったが、我に返り急いで後を追った。健太としてももう限界、時間が無いのだ。そのような中でただでさえ時間がかかる攻撃方法を強いられているのに、敵が逃げに徹されると更に時間と体力が奪われてしまう。

 健太は必死に後を追ったが、梅田はランダムに通路を動き回っており、内部構造を全く知らない健太にとっては、今自分がどこにいるのかもわからない状況だった。

 

 「千里眼はなんて不便な能力なんだ!」

 

 健太は闇雲にカマイタチを放つが、周囲の壁に傷をつけるだけだった。

 もう限界と判断した健太は、いっその事この建物ごと破壊しようと考えた。

 

 「そうだ。簡単なことじゃないか……敵の懐の中にいるんだ。一気にカタをつけてやる!」

 

 健太は梅田を追うのを止め、その場で意識を集中する。

 それと同時に、梅田の超能力者警戒網に凄まじい反応が現れた。

 

 (これはヤバイ!あのガキ勝負に出やがった!)

 

 梅田はすぐに反応地点へ向かいながら、健太に聞こえると信じて大声でしゃべった。

 

 「おい403!主賓がどうなってもいいのか!!」

 

 健太は尚も集中を止めようとしなかった。このままではこの辺一帯が蒸発し兼ねない。

 そんなパワーを使ったら、健太自身もただでは済まないだろう。だが、それほどまでに健太は追い込まれていたのだ。

 

 「聞け403!主賓の確保が最優先じゃなかったのか!?このままでは主賓もろとも消し飛ぶぞ!それでもいいのか!」

 

 (?…主賓が?)

 

 健太は我に返った。

 

 (このままでは主賓が…死ぬ?…だめだ…そんなことをするとまた怒られる…)

 

 健太の精神集中は途切れ、それに合わせて警戒網の反応も消えた。

 梅田は反応があった地点へ移動すると、姿が見えない相手に向って更に叫んだ。

 

 「主賓を殺したらお前もただでは済まないぞ!」

 

 健太の集中が切れたという事は俺の声が届いたという事だ。あのガキの居場所は把握している。この状況であればトレースできるかもしれない。

 梅田はすぐに403の残存意識からトレースを試みようとしたその時、本部から報告が入った。

 それを聞いた梅田はニヤリと笑うと、改めてトレースを試みる。

 

 (主賓を殺したら怒られる…。主賓を殺したら…怒られる。主賓を殺したら…怒られる。主賓を殺したら…?)

 

 健太は心の中でつぶやいていたが、突如、何かを思いついたらしく、再び意識を集中しはじめた。

 目の前には梅田の姿が見える。

 

 「主賓を殺したら怒られる。じゃあ、お前が死ね!!」

 

 トレースを開始しようとした矢先、梅田の目前で空気が揺れ、凄まじい衝撃波が襲った。周囲の壁や床は爆音とともに粉々になり、天井も崩れることなく灰塵と化す。

 梅田は咄嗟に防御壁を展開したが、その衝撃を吸収しきれずにボディスーツはズタズタに切り裂かれ、ヘルメットのシールドバイザーは割れ、梅田本人も建物の外まで吹き飛ばされた。

 人形のように手足が変な方向に折れ曲がって横たわるその姿は、全身の骨が折れており、もはや自分の力では動くことも出来ない状態だった。

 健太は梅田に近寄ると「やった、やった」と喜んだ。

 そんな喜ぶ姿も見えない……そもそもすでに視力も失った梅田が、そこにいるであろう健太に向って力を振り絞って話しかける。

 

 「……403……お……お前……本当に……勝った……と……思って……いる……のか……?」

 『どういう意味だ!?』

 

 実体がそこにはないので、どんなにしゃべっても相手には聞こえないのだが、つい無意識に問いかける健太。

 

 「俺が……どうして……こんな……じかん……・・・」

 

 梅田は独り言のようにつぶやいていたが、やがてそれも止まった。

 健太はその亡骸を見ながら考えていた。この男は何を言っていた?

 

 『勝ったと思っているのか?』

 

 これが負け惜しみじゃないとしたら、どんな意味が隠されている?

 この男がこんな状況で負けを認めない理由……それは……僕も……やられるから!?

 危険を察知した健太はすぐに千里眼を解除したその時、激しい揺れとともに眩しい光に包まれるのを感じた。

 意識が遠くなり、天にも昇るような感覚。

 

 「ああ…あたたかくて気持ちがいい……これが……死……」

 

 健太が乗るヘリコプターは空中でそのほとんどが瞬時に蒸発し、一部の小さな残骸が地上へ降り注いだ。それはまるで流れ星のように綺麗な輝きで、健太の最後の命が放つ幻想的なものであった。

 その様子をダークグレーのボディスーツにヘルメット姿の男達が見守っていた。

 

 「こちら第2特殊部隊黄川田……ターゲットの完全破壊を確認。これより現エリアを離脱する」

 

 

 ◆

 

 榊原は同盟本部にあって、全部隊の指揮をとっていた。

 経験豊富な榊原の戦術眼はさすがであり、味方の被害を最小限に考えたその指示は、各部隊から好意的に受け止められていた。

 深夜に入ると敵の包囲も崩れ、砲撃やレーザーによる攻撃も散発的なものとなり、政府側の攻め手が無いという意味で膠着状態となっていた。

 この機を見て榊原は指揮を剣淵に任せ、自分は作戦司令室の長机でサンドウィッチとアイスコーヒーにありついていた。一息入れた榊原は無精髭を撫でながら、夜明けにはこの戦いも収束するだろうと考えていた。

 それにしても……榊原は手元にあるタブレットでテレビを見ながら首を傾げた。

 テレビでは同盟側が有利に戦っている状況が放送されていた。

 同盟側ということは政府に敵対する超能力者の部隊の事だ。その部隊が活躍するところを放送しては、当初の政府の目的である『超能力者の排除』が困難であることを露呈しているようなものではないか。すなわち政府の失策を意味しており、それをマスコミが堂々と放送するのは、報道規制の観点から見ても納得できなかった。

 だがそもそも、同じ日本人同士が戦う必要がどこにあるのか?国防という重要な使命がある自衛隊が、同じ日本人を攻撃し、消耗し、疲弊する……。こんな戦いに何の意味があると言うのか?

 榊原は剣淵と合意のもと、2時間後に政府側へ一時休戦とトップ会談の申し入れを考えていた。

 その席で3つの申し入れをするつもりだった。第一に超能力者の人権保護。第二に超能力開発の禁止だった。この2点については、政府としてすでに超能力者の存在を世界的に認める発言をしているため、要望を飲むことはそれほど大変な事ではないと考えていた。

 問題は第三の『超能力者の軍事利用の禁止』だった。

 今回の戦いでも、超能力者の有用性が色濃く出てしまった現状において、はっきりと『軍事利用禁止』を明示しなければ今までと同じ事の繰り返しになりかねない。超能力者は物ではない。人間なのだ。

 榊原はアイスコーヒーの氷をボリボリ噛みながら、7インチのタブレットで各部隊の配置確認を行っていた。

 すると、178梅田から連絡が入った。

 

 『こちら第4部隊隊長178梅田。本部に緊急要請。味方のレーザー砲の射程外にいる敵の飛行部隊の中で、明らかに自衛隊機ではない機体で、その場に留まっているものがないか探して欲しい』

 「意図は?」

 

 剣淵は梅田が言っている意味が理解できなかった。


 『そこにランクAがいる可能性があります』

 「?」

 

 剣淵はまだ困惑していたが、榊原はピンときて横から口をはさむ。

 

 「梅田。そいつを見つけ出して撃墜すればいいんだな?」

 『榊原か。そうだ。急いでくれ』

 「わかった。だが、敵の航空部隊はこちらの射程外の周囲の空を、少なくとも50機ほど飛んでいる。すぐに判断は出来ないのでちょっと時間をくれ」

 『了解。時間を稼いでみるが、俺でもそれほどもたないだろう。なるべく急いでくれ』

 「了解。任せろ!」

 

 榊原は通信を切ると、すぐに光学望遠カメラで機体の識別作業を行うよう指示した。

 そこで剣淵が話しかける。

 

 「榊原君。敵のランクA……『シングルナンバー』は君が撃退したはずだったな。……つまり、梅田君が言うランクAとは、403鈴木健太がそこにいるのだな?」

 「ご認識の通りです」

 「なるほど。千里眼か」

 「さすがに話が早い」

 

 榊原は痛む身体を庇いながらタブレットを操作し、自衛隊所属の航空機の写真を表示して説明する。

 

 「403は北側の包囲網を形成していました。しかし、急にそこを放棄して上空にいるということは突発的な命令……ほぼ間違いなく単独飛行のはず。従って、現在上空にいる航空機の中で、編隊を組まずに単独飛行している機体を洗い出し、その中でも自衛隊機ではないものが該当すると思われます」

 「自衛隊機ではない……つまり民間機ということか?」

 「もしくは政府専用機です」

 「!!!」

 

 ここでやっと剣淵は榊原の意図を理解し、その洞察力に舌を巻いたのであった。

 剣淵は自分のデスクに戻ると、煙草に火をつけゆっくりと一服すると口を開いた。

 

 「なるほど、確かにそうだな。今は非常事態宣言中であり飛行規制や報道規制も出ている。民間機が戦争の真っただ中を飛んでいるとは考えにくい。また、403鈴木健太に命令を出したのが鈴木次官だとすると、彼の権限で使用出来る航空機は政府専用機でほぼ間違いないという事か」

 

 榊原は答える代わりに、コーヒーを右手で上げながら肩をすくめてみせた。

 その間にも、コンピューターによる画像解析にて、次々に調査が進んでおり後は待つだけであった。

 

 「結果が出ました。スクリーンに表示します」

 

 オペレーターの声とともに、壁のスクリーンに調査結果が表示される。

 そこには飛行中の航空機の内訳が表示され、そのほとんどが自衛隊所属機であったが、1機だけ政府所有の小型ヘリが確認された。

 

 「一番近い部隊はどこか!?」

 「第2特殊部隊です」

 

 榊原はニヤリとすると、すぐに第2部隊にデータを送信させると、自らマイクを取り作戦指示を出した。

 

 「こちら榊原。緊急の作戦指示を出す」

 『こちら黒田。何ですか隊長?元気そうですね?』

 「今送ったデータのヘリを急ぎ撃墜しろ。単に撃墜ではない。空中で完全破壊だ」

 『高度300メートルですよ?地上からだとレーザーガンが届かな……はぁ、了解です。自分のフルパワーをぶつけてやりますよ』

 

 通信を切ると、黒田はすぐに行動に移った。ターゲットの位置は包囲網の外で、味方の対空レーザー砲の射程外でもある。つまり、完全に政府軍の真っただ中という事になる。

 黄川田に警戒網を展開させ、青木・赤松を先頭して一気にターゲットの真下まで移動すべく行動を開始する。

 本来であれば屋根を移動する方が早いのだが、敵に見つかりやすくなるため、余計な戦闘を避けるべくあえて路地を進んだ。この時点で敵の包囲網はほとんど崩壊していたため、政府側の超能力者と遭遇することはなかった。

 第2部隊は狭い路地を抜けると大通りに出た。この先は区画整理が行き届いた新開発エリアであり、道幅もある程度確保されているため、路上には自衛隊の戦闘車両がずらりと並んで停まっていた。

 そんな中、第2部隊は何事もないように先を急いだ。所詮、自衛隊が自分達を発見したとしても、上官からの発砲許可が出るまでは動けないのは黒田も理解していた。悪く言えば融通が利かないのが日本という国の特徴なのだ。

 第2部隊はひたすら目標のヘリを目指す。

 この周辺は道幅は広いがマンションや団地が多く、地上を移動していると全く上空の視界が効かない状況であった。だが、情報端末ヘルメットには目標の方向と距離と高度が記されており迷う事は無かった。

 

 そして、遂にターゲットの真下に到着した。

 6階建ての賃貸マンションの屋上に登ると、黒田は3人に周囲の警戒を指示し、自らはターゲットとなるヘリを撃墜すべく目を閉じ精神集中に入った。

 黒田はランクBの超能力者である。

 ヘリを落とすことなど造作も無い事だったが、隊長のオーダーは『空中での完全破壊』だ。これまでに長時間戦ってきた黒田にとっては、この一発は渾身のフルパワーとなる。撤退時は仲間のサポートが必要なくらい消耗するだろう。だが──。

 

 「これで決める!!」

 

 黒田は目を開くと右手でレーザーガンを構えで発射した。

 本来であればレーザーは可視光線ではないため目に見えないはずだが、黒田の超能力によって出力を増幅されたレーザーは、様々な周波数帯の光の束で構成されており、それが極太のレーザー光として一瞬の光を放ち、音もなくヘリを包み込んだ。

 その一瞬の瞬きで、ヘリはそのほとんどが空中で溶解・蒸発し、残った細かい破片はオレンジの筋を引きながら地上へ落下していった。更にその直線状にあった雲は、レーザーが通過した所だけ蒸発して、ぽっかりと丸く穴が空いた状態が月明かりに浮かび上がっていた。

 黒田は片膝をつくと黄川田に向って指示を出した。

 

 「任務完了。本部へ報告後、帰投する」

 「了解」

 

 黄川田が本部へ報告する間、青木と赤松が黒田を両側から抱える。

 赤松がニヤリとしながら青木に話しかける。

 

 「さあて、俺たちの仕事はこれからが本番だぞ?」

 「確かにな。この荷物を無事に送り届けないといけないからな!」

 「誰が荷物だ。だが……よろしく頼む」

 

 三人は立ち上がると、黄川田とともにマンションから飛び降りた。

 

 「遠足は家に着くまでが遠足って言うからな!」

 

 4人は同盟本部を目指して来た道を引き返した。

 

 

 ◆

 

 倉本内閣情報官は車で5分程度の距離にある、旧内閣府庁舎に入って行った。

 今ではその建物は1階と2階の一部しか使用されておらず、基本的には倉庫のような状態であった。

 以前はここの6階が内調のフロアーであったが、倉本はエレベーターには見向きもせず、1F奥にあるドアの前に立つと、首から下げたセキュリティーカードを通し、暗証番号を入力するとドアは内側に開き、倉本はそのまま部屋の中へ入って行った。

 それを物陰から見ていた黒いスーツの男は、急いでドアまで音もなく走ると、ドアが閉まる寸前で薄い金属の板を滑り込ませ、間一髪、鍵がかかるのを防いだ。

 黒スーツの男がゆっくりと部屋に入ると、ちょうど倉本が地下へ続く階段を下りて行く姿が見えた。男はゆっくりと階段に近づき下を覗くと、そこは光が無く真っ暗な階段が伸びていた。

 倉本は懐中電灯を使用しているようで、人の影が下へ降りていく様子が見える。男は躊躇もなく倉本を追うように階段を進む。

 男は暗闇の中、慎重に階段を降りて行く。

 

 もうどれくらい下がっただろうか?ここが地下何階に相当するのかもわからないほど降りてきた。これは一体どこまで続くのだろうか?

 しばらくすると、暗闇で見えないが行き止まりとなったようだった。

 男はスーツのポケットから小指よりも小さなLEDライトを取り出し点灯すると、周囲を照らし状況確認を行う。

 ここは小さなホールになっており、正面には金属製のドアが1つあり、そのドアノブの上部には5桁の暗証番号入力用のパネルがあった。

 男はLEDライトを口に咥え、ポケットからタバコの箱程度の大きさの金属製の箱を取り出すと、そこから伸びた2本の線の内、1本を入力パネル本体の上部へ貼り付け、もう1本をドアノブの付け根に貼りつけた。

 この金属製の箱はパスワードを強制的に初期化する装置で、箱には赤いボタンと液晶画面が付いていた。

 男はその赤いボタンを押すと、その上部にある液晶部分に数字が表示された。

 

 『5…4…3…2…1…』

 

 『0』が表示された瞬間、小さな音とともにドアの暗証番号入力パネルに『88888』が表示され、約1秒後自動的に消灯した。

 どうやらパスワードが初期化されたようだ。

 男は2本の線を金属の箱の周囲に巻きつけるとポケットにしまい、暗証番号のパネルに『11111』と入力しEnterを押した。しかし、エラー警告音が鳴り開錠されなかった。

 男は舌打ちをしながら再度『12345』と入力しEnterを押す。するとガチャリという音ともに鍵が開いた。

 LEDライトを消し、ドアノブをゆっくり回しドアを開くと、真っ暗な廊下に非常口誘導灯だけが薄暗く光っていた。

 よく見るとドアが通路の左右に1つずつと正面に1つあり、その内、右側のドアの下の隙間から光が漏れていた。

 男は右のドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開け中を覗きこむ。

 部屋の中は正面がガラス張りとなっており、そこに机が2つ並んで置かれており、部屋の周囲にはコンピューターが所せましと置かれていた。

 正面のガラス張りの右側にカードキー型のスライドドアがあり、ガラスの向こう側の部屋に繋がっているようだった。

 男はゆっくりとガラスに近づき向こう側の部屋を見ると、部屋の向って右側には3つの円筒状の機械が並んでおり、そこからは様々なパイプやコードが無数にでており、その一部は隣接する大型のコンピューターに接続されていた。

 円筒の機械には大きく白い文字でそれぞれ「049」「090」「113」と書かれていた。

 その機械には10インチほどのモニターが設置されており、何かのデータがリアルタイムで表示されているようだった。

 その内の1つのモニター、「113」の前に倉本が立ち、表示されている内容を確認しているようだった。

 部屋の向って左側には端末が3台置かれており、そこには白衣を着た職員とおぼしき男達がなにやら忙しそうに働いていた。


 黒スーツの男は確信した。

 ここは秘密の超能力者の実験室もしくは研究所であると。

 そして、あの円筒状の機械には間違いなく人間が入っているはずだ。

 人類史上、最強、最悪の超能力者、ランクSが──。

 黒スーツの男はそっとドアを閉めると、暗闇の階段に消えて行った。

 

 

 ◆

 

 『403鈴木健太…生命反応ロスト』

 「な、なんだと!?」

 

 鈴木次官は呆然とその場に立ち尽くした。

 

 (健太の千里眼は無敵のはず……。私の作戦に問題があったという事か……)

 

 確かに鈴木次官は健太が弱っていたのは理解していたが、千里眼で同盟本部の守備をかく乱し、主賓が捕らわれている場所を特定するだけの、それほど難しくは無いミッションだと思っていた。だが、健太はまだ幼かったため、もっと具体的な指示が必要であり、更には子供の心理状態についても鈴木次官は最後まで理解していなかった。

 ここまで出世できたのは自らの力ではなく、健太というランクAの実子がいたからだ。

 健太が死んだとなると、鈴木次官の立場が弱くなることは明白だ。

 それよりも一番の問題は、独断で健太を動かし、その結果ロストしてしまったことだ。ランクAは政府側には二人しかおらず、その内の一人をロストした責任は重い。

 

 (これで同盟側が圧倒的に有利な状況となってしまったか……とにかく今はむやみに戦わず、時間を稼ぐことを優先すべきだ)

 

 倉本から出かける前に釘を刺されたことを、今更ながらに痛感する。

 自分の野望はここで潰えるのか……と考えていると、ふいに秘匿通信が入った。部屋の隅に移動すると「何だ?」と応答する鈴木。

 

 『私です。奴は黒です。現場の証拠を次官の端末に転送しておきます』

 

 手短に要件だけを伝えると、相手はすぐに回線を切断した。

 鈴木は机の7インチタブレットを確認すると、様々なデータが転送中の状態であった。

 その中から転送が完了しているファイルを開いてみると、倉本が訪れた地下研究所の写真や研究データが次々と表示された。


 「ま、まだ……まだ終わってない……!」

 

 鈴木次官はヨロヨロと歩き、両膝から崩れ落ちたが、持っていたタブレットからは一瞬も目を離さず凝視していた。

 その眼は血走っており、肩が震えていた。

 

 「はは…ふははは……やったぞ!遂にやった!……わっははは!」

 

 鈴木次官は笑いながら机に右手をつくと、勢いよく立ちあがった。

 

 「全軍に告ぐ。包囲網を3キロ後退させ、敵の攻撃範囲から完全に離脱し待機せよ。攻撃は一時中断とする」

 

 指示を出し終わると、急いでどこかへ電話する鈴木。

 

 「……そうだ、見つけ出して殺せ」

 

 ──この電話の4時間後、皇居付近で黒いスーツの男が殺されているのが発見された。

 

 

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