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エピローグ

2月20日19時20分。日本の特殊部隊が朝鮮共和国のキム・ソギョン以下3名を確保。

 翌21日、朝鮮が無条件降伏を受入れたため、国連は正式に終戦宣言を発表した。

 

 連合国側はこの戦争の戦勝国となったがその被害は甚大で、しかも敗戦国である朝鮮は賠償出来るほどの国力も無いほど疲弊し、独裁国の指導者が不在となった今、国内は荒れに荒れていた。

 そのような中、日本だけは被害がほとんど無く、しかも国連を脱退し一度は連合国を裏切ったという事で、やり玉に挙げられた。

 そもそも日本がこの戦争を仕掛け、日本が戦争を終結するという、完全なる出来レース状態であるため、世界からの非難は日本に集中するのは当然であった。

 だが、日本は強硬姿勢を貫き、この戦争で荒廃した朝鮮と中国の両国を、被害が少ない日本が暫定的ではあるが管理するように仕向け、日本は広大な領土を手に入れる事になった。

 これら全ての調整役を買って出たのが榊原である。

 彼は超能力者という武器を使わずに、だが、この戦争でその恐ろしさを世界に植え付けているため、半ば強引に各国と問題を調整し日本に有利に働くように奔走したのである。

 その結果、倉本とソギョンが苦労の末達成することが出来なかった、朝鮮・中国の完全支配をやってのけたのだ。

 倉本は後の取り調べで言ったという。

 

 「榊原には気をつけろ───」と。

 

 事実、日本……いや、榊原は全超能力者を傘下に組み入れ、日本と朝鮮の超能力施設やクローン技術を掌握した事になり、名実ともに世界で最も影響力を持つ者となった。

 

 ──振り返ると、確かに榊原には謎の行動が目立った。

 ・一日戦争後に剣淵が全ての責任を負って処刑されたが、裁判もなく判決だけを言い渡されて処刑されており、裏で何らかの取り引きが行われていたと考えられていた。その証拠に、処刑された剣淵の後釜には榊原が就任すると同時に、内調に新設された部門のセンター長にまで登り詰めている。

 ・朝鮮に特殊部隊を送り込んだ時、連合国や国連には一切報告を行わずに、独断でキム・ソギョンを強襲しこれを捕えている。

 ・楓や倉本を自衛隊の対空ミサイルで攻撃したのも榊原の独断で行っており、成田への移動についても、花子よりも先に移動を開始したにもかかわらず、その戦闘区域外で傍観し、安全が確認されてから現れたかと思うと、重症者を救助せずに犯罪者2名を捕えて監禁し、あたかも自分がランクSを捕えたように振る舞っていた。

 

 小野寺可憐はその不自然さに気が付いていた。

 だが、自分が好きになった相手が不穏な企てをしているとは思わなかった………思いたくなかった。

 だから誰にも相談せずに、今も榊原の腹心として命令に従っているのだった。

 これから起こる大災害の中心的存在になるとも知らずに───。

 

 

 ◆

 

 4月1日。

 志郎と楓は、ともに高校3年生として始業式に参加していた。

 二人とも体は完全に完治し、今は元気に普通の生活を送っている。

 だが、志郎は超能力症候群の治療と失われた能力の調査をするため、週一回、内調にある超能力研究所での検査を義務付けられている。

 同じく、楓も感情をコントロールする訓練のため、最低でも週二回の検査を言い渡されていた。

 

 3年生のクラスでは、学園始まって以来の才色兼備の1つ上の先輩がいる、という噂で持ちきりだった。

 そんな楓を一目見ようと、楓の周りには大勢いのギャラリーが押し寄せていたが、同じクラスで同じようにダブリの先輩である志郎には、相変わらず誰も感心を示さなかった。

 そこに担任が「はい、席につけー」と言いながら教室に入ってくると、蜘蛛の子を散らすように大人しくなる生徒達。

 新3年生というのは、初々しいですな……。

 などと志郎がぼーっとしながら考えていると、担任が教室へ誰かを招き入れている。

 どうやら新学期早々転入生のようだが、高校で転入生というのも珍しい。

 担任に招かれて教室に入ってきたのは女子だった。

 セーラー服に膝丈のスカート、白のハイソックス……どうやらうちの制服が間に合わなかったようだが、この制服、どこかで見たことが……。

 顔をよく見ると、黒髪のショートカットでかなり可愛い……。

 クラスの全員がその可愛さにざわついている。

 単に外見の可愛さだけで見ると、楓と並んでも遜色ないだろう。

 だ、だが、しかし!……ど、どどどうして……!?

 

 「皆さん、こんにちは。今日から一緒に勉強することになった山本さゆりです。よろしくお願いします」

 

 そう言うと、志郎に向ってウインクをするさゆり。

 それに気づいたクラスメイトと担任の視線が一斉に志郎に集中する。

 

 「は……あはは……あはは……」

 

 俺はこれからの学校生活が一気に不安になり、集まる視線に愛想笑いで答える事しか出来なかった……。

 

 

 帰りのホームルームが終っても、楓とさゆりの周りには人が溢れていた。

 よく見ておくがいい、新3年生ども。

 そこにいる二人こそ、今後、校内における全ての分野で記録と記憶を塗り替える、史上最強の二人なのだから。

 ……まぁ、俺が威張ってもしょうがないのだが。

 で、当の二人は愛想なく人垣をすり抜けると、カバンを持って俺の元にやって来る。

 ふと視線を上に向けると、俺の机の前に並ぶ二人からは満面の笑顔が輝いていた。

 ほんの数ヶ月前までは想像もできなかった光景だ。

 

 「んじゃ、帰るか」

 「「うん」」

 

 二人同時に答えると、嬉しそうに俺の後を付いてくる楓とさゆり。

 これでクラスの──いや、校内の男子全員を敵に回した事が確定しただろう。

 どうやら、さゆりは俺と楓の監視役として送り込まれたらしいが、本当のところはどうなのかわからない。

 ただ、さゆりにとっては初めての一般人との生活なので、当分の間は新鮮な気持ちで楽しめるだろう。

 

 ──そうだ。

 

 俺はこんな普通の生活を望んでいたんだ。

 

 こんな普通の生活。

 

 やっと手に入れた普通の生活。

 

 ───この時は永遠に続くと思っていた普通の生活───。

 

 

 ◆

 

 『ランクS二人のクローンを造ろうと言うのか?……だが、強大な力を制御するのは難しい。一歩間違えると、自らをも滅ぼすことになるだろう』

 

 窓が一切ないこの場所は、元々は地下研究室である。

 ガラス張りの壁の向こう側はコントロールルームとなっており、そこには看守が常駐しこちらの部屋に目を光らせている。

 グレーのスーツ姿の男は、特別に入室許可を貰い、この研究室に隔離されている人物と面会していた。

 部屋には円筒状のカプセルが3つあり、それぞれ049、090、113のナンバープレートが取り付けられてあった。

 スーツ姿の男は、090のカプセルの横に設置されている端末の前に立ち、カプセル内の人物と話しをしているようだった。

 

 「あなたが今まで研究してきた超能力に関するデータと、朝鮮のクローンデータを基に、ゲノム編集と遺伝子ドライヴの技術を使えば、超能力エリート集団を作ることも可能となるでしょう……これはあなたが一番やりたかったことだと理解していますが?」

 

 スーツ姿の男が端末に向って静かに語ると、090のカプセル内から端末を通して返答があった。

 

 『だが、そのような方法で作られた超能力者は、もはや人間とは呼べない種族となるだろう』

 

 端末から聞こえてくる機械的な音声に対して「まあ、そうでしょうね」と答えてから、更に話を続けるスーツ姿の男。

 

 「人間を超越した存在───神と呼ばれる存在となるでしょうね。そして、その頂点に君臨するのが、この私……になる予定です……」

 

 肩をすぼめて無精髭をなでながらスーツ姿の男は宣言した。

 

 「……つまり、この私が世界を支配するという事です」

 『ふん。私が出来なかったことを君がやろうと言うのか……まあ、それも良かろう。だが、心するがいい。事を起こす時、必ずそれを阻止しようとする者も現れるという事を』

 「覚えておきましょう。だが、あなたにはこれからも研究に協力してもらうことになりますので、よろしくお願いします」

 

 そう言うと、グレーのスーツ姿の男は笑いながら端末をスリープモードにすると、面会を終えて部屋を出るのだった。

 

 

 それから半年後、世界は再び繰り返される歴史に恐怖することになる───。

 

 

 

俺は一般人だ!

──完──

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

 実はこの作品、本当に書きたかった事の半分も表現できていません。

 改めて文章表現の難しさを痛感しました。

 

 当初は「人類」対「超能力者」というストーリーで、主役は人類側でした。

 でも、超人的な強さを誇る超能力者集団を作り上げたら、人類なんて瞬殺されてしまい全く勝負になりません。

 そこで超能力者には個人差がある設定にし、更に超能力者の中にも対立があるような設定にすることで、人類は何とか生き残る手段を見つけていく、みたいな切り口で物語を展開していたのですが、あまりにも風呂敷を広げ過ぎてしまい、収拾がつかない事になってしまったので、仕方なくストーリーを大幅修正した次第です(苦笑)

 ここをしっかり表現できていれば、また違った作品になっていたと思います。

 またいつかリベンジさせていただきます。

 

 ともあれ、これにて「俺は一般人だ!」は完結しました。

 本当にありがとうございました。


続編:https://ncode.syosetu.com/n0218en/



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