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超能力戦争5

■超能力戦争5

 

 月光院尊人は主賓を抱えながら旧成田空港第3ターミナルにいた。

 113により第1ターミナルが破壊された時は、間一髪、脱出に成功していた。

 だが、尊人はこれまでの花橘楓との戦闘でかなり消耗し、負傷した右脇腹は肋骨が折れており、内臓器官にも影響があると思われた。

 いずれ花橘が追ってくることは想定しているが、このままあっさり主賓を渡すわけにはいかない。

 ランクSの113まで現れた現状において、彼らを海外へ流出することは避けなければならず、その鍵となるのが主賓であると尊人は考えていた。

 

 「このまま住宅地へ逃げ込めば、一般人への被害が予想されます。従って、この成田空港の敷地内を決戦の場とする以外ありません」

 

 尊人は通信回線で榊原と話をしながら歩き続けた。

 

 「わかった。同盟本部に残っている超能力者を成田に集結させよう──勿論、私も行く」

 

 榊原はそう言うと、総理官邸の屋上のヘリコプターを使って成田へ移動を開始した。

 これを受けて、同盟本部の月光院花子は、本部に集まっていたフリーの超能力者と、第3特殊部隊を引き連れて、花子専用機で成田へ移動を開始する。

 

 「ただし、問題は到着まで私がもつかどうか……」

 

 第3ターミナルビル内の椅子に座る尊人。

 もしも、ここで主賓が目覚めたら厄介だ。花橘楓はテレパシーによって主賓の位置を特定し、下手をするとテレポートですぐにこの場へやって来る可能性がある。

 しかも、尊人は全ての武器を花橘との戦いで失っていた。

 いや、一つだけ残っている……スモークボム。いわゆる煙幕だ。ヘルメットが無い今の花橘に対しては、もしかすると有効となる可能性がある。

 最後の頼みの綱が煙幕とは、我ながら情けないと思いつつも、勝つためには情けないのも我慢できるのだと、自分に言い聞かせる尊人。

 椅子から腰を上げ主賓を担ぎ上げると、再びターミナル内を移動する。

 空港という広い敷地の中で、一番大きな建物であった第1ターミナルが崩壊した今、残る建物は第2、第3ターミナルだけだ。

 そう考えると、全く逃げ場が無いとも言える。

 空港の地下はまるで迷路のように通路が走っているらしいが、自由が利かず助けも期待できない場所に逃げ込むのは愚策だ。

 すると、後方から凄まじい爆発音が聞こえてきた。

 窓から外を覗くと、第2ターミナルが爆発、炎上していた。

 

 「普通そこまでやりますか!?」

 

 尊人は呆れたような声を上げたが、心底、花橘の恐ろしさを感じていた。

 主賓のためであれば、一切の躊躇が無い。

 花橘はあえてターミナルビルを盛大に爆破して、防御壁で身を守っている私を発見しようと考えているのだ。

 つまり、この第3ターミナルも近い内に爆破されることを物語っている。

 尊人は逃げるのを止め、ターミナルの中央に位置する椅子に座ると、楓が来るのを待つ事にした。

 どうせ見つかるのであれば、余計な事はしない方が良いという考えだ。

 ──だが、しばらく待っても音沙汰が無い。

 こうなってくると、逆に不安になってくる。

 その時、花子から通信が入った。

 

 『お兄様、あと1分で成田に到着いたします。今どのような状況ですか?』

 「なるほど──花橘の音沙汰が無いのは、そっちに気が向いているからでしょうか。たぶん、花橘の超能力攻撃があると思うので、最大パワーで防御壁を展開しながら第2ターミナル付近に着陸して下さい」

 『りょうか……!!』

 

 花子が返答の途中で通信が途切れた。

 尊人が窓から外を見ると、黒煙が立ち昇っている第2ターミナル方向の上空で、コックピット付近から炎と黒煙を上げながら墜落していく物体を確認した。

 火だるまと化したオスプレイの機体は低空だったこともあり、すぐに地面に激突すると爆発、炎上した。

 だが、尊人は乗っていた者は全員無傷である事を確信していた。

 初めからオスプレイを守るのではなく、個人に対して防御壁を展開していたのだ。

 防御範囲は狭い方が強度が増すのは超能力でも同じである。

 

 「その辺に花橘がいるはずです!攻撃はせず散開して逃げる事に集中して下さい!」

 

 尊人が叫ぶと、オスプレイが墜落した付近でバラバラと散開する人影が見えた。その数は10名以上──おそらく本部にいた超能力者が全員来たのだろう。

 花子たちは、全員が特殊ボディスーツを着用していたが、第3部隊のメンバーだけは白い新型ボディスーツであったため、非常に目に留まりやすかった。

 さすがに第3特殊部隊のメンバーは、お互いをカバーし合いながら、野良<フリー>のメンバーをフォローできるような位置取りしている。

 しかも、あえて目立つように白いボディスーツにしているため、敵の目を引き付けるには十分効果的のはずだった。

 ──だが、花橘楓はそれ以降、動きが無かった。

 尊人は悟った。

 

 「花子たちに食いつかなかったか……」

 

 となると、次に花橘が現れるのは──。

 

 「月光院尊人。シロの護衛、ご苦労様でした。もうここまでで結構です」

 

 全く感情が込められていない口調で礼を述べる楓の声が響いた。

 第2ターミナル方向から歩いてくる、黒いボディスーツを着た花橘楓の姿があった。

 尊人は左手で志郎を抱えて立ち上がると、楓に話しかける。

 

 「どうして貴女は同盟側に来てくれないのですか?志郎君は我々と共にある。貴女が志郎君を連れて倉本の元に行けば、志郎君が苦しむことがわからないのですか?」

 「倉本の元には戻らない。シロと二人で普通の生活をする」

 「その為には同盟側に来るべきだ。貴女はこれまでも長きにわたり同盟側の人間として生活してきたでしょう?」

 「わたしは同盟側に与した覚えはない……」

 「!?」

 

 尊人の驚きの表情を無視し、楓はなおもコツ、コツと足音を響かせながら尊人へ近づいて来る。

 

 「この際だから言っておく。わたしは政府にも同盟にも与した覚えはない。ただ、過去から一貫してシロを守ってきただけだ」

 「だ、だが、同盟のメンバー……栗林君と共に志郎君を警護していたじゃないか!?」

 「それは同盟側が勝手にクリリンを派遣してきただけの事。そしてわたしも一人で警護するよりも二人の方が良いと判断しただけ……」

 

 楓は尊人から5メートルほど離れた所で立ち止まると、更に話を続けた。

 

 「……それに、わたしは特殊部隊には所属しておらず、基本的には野良と同じだ。一日戦争にもわたしは参加していないし、唯一、同盟の人間として参加した主賓奪還作戦も、シロを救出するのが目的であり、たとえ同盟の人間として参加していなくても、わたしは単独でシロを救出していた。つまり──」

 

 楓は髪をなびかせて腕を組むと、はっきりと言った。

 

 「わたしは自分が同盟側の人間だとは思ったことが無い、という事だ」

 

 尊人はこの花橘の意見には反論する余地が無いと悟った。だが、問題の焦点は『花橘がどちらの人間か』では無いのだ。

 

 「貴方の意見はわかりました。ですが、今問題なのは『主賓がどう思っているか』です。貴女は一日戦争や朝鮮侵攻の時に志郎君の傍にいなかった。そう、我々が彼を守ったのです。そして彼は自分から同盟を選んだのです」

 

 尊人はこの会話を、オープンチャンネルで同盟メンバー全員へ流していた。

 散開中の花子たちは勿論のこと、榊原や朝鮮で戦闘中の特殊部隊、さらには帰国中の山本兄妹も聞けるようになっていた。

 

 「それなのに、貴女は志郎君の気持ちを無視して同盟から連れ去ろうとしています。しかも、貴女は志郎君が超能力症候群であることを知りながら、平気で超能力を使う……その結果がこれです」

 

 そう言いながら今だ気を失っている志郎を見る尊人。

 

 「志郎君の意思を尊重せず、志郎君をこのような状態にする──それで、貴女は本当に志郎君のためを思って行動していると言えますか!?」

 

 そう言いながらビシッ!と楓を右手で指差す尊人。

 これが普通の人であれば、自分の配慮の無さを悔いて、謝ってくる者がほとんどだろう。

 だが、楓は己の感情をとうの昔に捨てている。

 楓は無表情のまま口を開いた。

 

 「一日戦争の時は別として、朝鮮侵攻の時に山本妹にシロを守る様に指示したのはわたしだ。また、シロが現在意識を失っている直接的な原因はわたしにあるが、その要因となったのは、地下シェルターを襲撃されたお前たち同盟側の不手際のせいだ。わたしはそこからシロを救うために止む無く超能力を使用したに過ぎない。つまり、わたしがシロを軽んじている訳でもなく、シロのために行動していないという理由にもならない」

 

 感情を捨てた少女は、教師も一目置く校内一の秀才でもある。

 尊人といえども、簡単には楓を論破することは出来ないのだった。

 

 「だが、志郎君は同盟を選んだ。その意思は尊重すべきです!」

 

 尚も言い返す尊人。

 しかし楓は顔色一つ変えず、腕を組んだまま反論する。

 

 「それはシロの確固たる意思ではない。単に助けられたから恩を感じているだけだ。だが、地下シェルターの失態をシロが知った時、お前が言う意思とやらが変わってくるかもしれないな?」

 「……」

 

 尊人は言葉に詰まった。

 ここまで言ってくる相手を、更に言葉で言い包めるのはかなり難しい。

 尊人は志郎を支えるフリをしながら、右手でスモークボムを握りながらも、まだ諦めずに言葉を続けた。

 

 「貴女がどう思おうと、超能力者を戦争の道具として扱い、この戦争を引き起こしたのは倉本だ。主賓はそれを理解した上でわれわれと共にいるのだ。だからこそ主賓は、地下シェルターで私たちの事を『仲間』と言ってくれたのです」

 

 楓はその時の事を思い出す。

 

 『楓!お前自分が何をしたのかわかっているのか!?お前は仲間を攻撃したんだぞ!!』

 『さあシロ。一緒にここから脱出しよう』

 『俺はいかねぇよ!』

 

 たしか……この後、わたしは……シロを……殴った!?

 何故!?────わたしの言う事を聞かなかったから?……シロの意思を無視して?……力ずくで?……従わせるために?……。

 

 「うっ!」

 

 楓は突然激しい頭痛に襲われ、苦悶の表情で右手で額を押さえてうつむいた。

 

 「どうしました!?」

 

 尊人が声をかけたがそれには反応しない楓。

 だが、しばらくすると額から右手を降ろし顔を上げたが、その表情は元の無表情の状態に戻っていた。

 楓は髪を掻き上げると、口を開いた。

 

 「確かにシロはお前の言う通り同盟にいるのを希望している。だが、わたしの希望はシロがあくまでも普通に一般人同様の生活が出来る事だ」

 「それは私も理解しているし、多分、主賓も同じだ。その為には、先ず倉本の野望を打ち砕かねばならない。頼む!花橘。協力してくれ!」

 「……」

 

 楓は目を閉じると「……わかった」と呟いた。

 

 「そ、それでは……!」

 

 尊人が楓にその気持ちを聞こうとしたその時──。

 

 『お兄様!113が第2ターミナル方向の滑走路脇に現れました!』

 「!!!」

 

 遅かった。尊人は楓だけに気を取られ、113の存在を完全に失念していた。

 辺り一面が炎と化した。

 尊人は防御壁を展開し主賓を抱えながらガラスを突き破って外に転げ出る。

 だが、そこもまた炎の中であった。

 この強烈な爆炎で、尊人の防御壁は徐々に消失し始めていた。

 

 「何と言うパワーだ……!!」

 

 尊人は自らの防御壁がもうこれ以上耐えられないと感じていた。

 

 「ならば、せめて主賓だけでもこの炎の中から助けなければ!」

 

 尊人は主賓をサイコキネシスで瞬時に滑走路まで移動させた。

 だが、そのために防御壁のパワーが落ちたため、尊人の防御壁は消失し業火の中にその身が焼かれる事になった。

 滑走路に飛ばされた主賓は花子がキャッチしたが、兄がその炎の中に取り残されるのを目の当たりにした。

 

 「お兄様ーー!!」

 

 花子は志郎を抱き滑走路脇の芝生に座り込みながら叫んだ。

 第3ターミナルビルは巨大な炎の柱の中に閉じ込められると、徐々に瓦解して行く。

 まるでスローモーションのように、ゆっくりとビル全体が崩れ落ちていく。

 炎はまるで空に吸い込まれるように上空へ消えてゆくと、残されたのは瓦礫の山だけであった。

 その瓦礫の山は、至る所から煙が立ち込めていた。

 

 「全員、周囲を警戒!」

 

 花子は兄のことで胸が一杯であったが、今はこれ以上の被害を出さないためにも、113や花橘の動向を警戒すべく指示を出すと、自らも主賓を抱きながら立ち上がる。

 113は車椅子を大男に押されながら、第3ターミナルへゆっくり近づいて来る。

 

 「あー……あー……」

 「そうですね。主賓は逃してしまいましたが、花橘と月光院を葬れただけでよしとすべきでしょう。残るは、あの雑魚どもを始末すれば終わりです」

 

 そう言いながら車椅子を押していた大男だったが、周囲の異変に気が付いた。

 これは……超能力!?

 次の瞬間、超高熱の巨大レーザーが車椅子を襲った。

 通常であれば無色無音のレーザーであるが、超能力により増幅されたそれは、七色に輝きながら車椅子があった場所に降り注いだ。

 アスファルトは溶解し、土砂が爆発的に吹き上がる。

 どす黒い土の柱は優に30メートル以上の高さにまで達した。

 地震とも思えるほどの地揺れが発生し、土砂が周囲に降り注ぐ。

 

 「な、何が起こったの……!?」

 

 花子は凄まじい破壊力を前にして、ただ芝生に立ち尽くすだけだった。

 すると、第3ターミナルの瓦礫の中から光り輝く球体が現れた。

 花子は驚いてそちらに目を移すと、球体の中には花橘楓がおり、その腕には尊人が抱えられていた。

 

 「お兄様ー!」

 

 花子が叫ぶと、それに呼応するように球体がこちらに接近してきて、数メートル手前で光り輝く球体が無くなった。

 楓はそっと尊人を地面に寝かせると、花子に向って口を開いた。

 

 「あなたの兄は自分の命を顧みずシロを救おうとした。だからわたしもこの者を助けた。だが、さすがにランクSの攻撃に対して無傷という訳には行かなかった」

 「お兄様は無事なの!?」

 「無事だ。だが、消耗が激しく、右腹部も損傷している。すぐに……」

 

 楓がそこまで言うと、ゆっくり震えながら尊人が手を伸ばす。

 それを見た花子は志郎を芝生に寝かせると、急いで兄の元へ行きその手を両手で握りしめた。

 

 「お兄様……大丈夫ですか?」

 

 花子はバイザーを跳ね上げ囁くと、尊人のバイザーも跳ね上げ、その頬をそっと撫でる。

 

 「ああ……大丈夫だ……心配ない……」

 

 尊人は弱弱しくも、確かな口調で答えた。

 

 「ううっ……良かった……本当に良かった……」

 

 花子は兄の胸に顔をうずめて泣きじゃくった。

 尊人は右手で花子の頭を撫でながら楓を見ると口を開いた。

 

 「主賓は……無事……ですか?」

 「ああ、無事だ……お前のおかげだ」

 

 楓は抑揚も感情も無い口調で答えたが、目を閉じたその表情には若干の笑みがあるように見えた。

 

 「お前の心に偽りはないと理解した。わたしもそれに応えよう」

 

 そう言うと楓は目を開き、巨大レーザーで大穴があいた方へ歩き出す。

 

 「は、花橘……」

 

 尊人の声に花子は顔を上げると、楓が歩いて行く姿を見て驚いた表情でつぶやく。

 

 「ま、まさか……あの攻撃を受けて……113は生きているの!?」

 

 楓はゆっくり歩いていたが、徐々に早足になり、遂には全力で走って煙が立ち昇る大穴に向っていた。

 それを見て花子が大きな声で指示を出す。

 

 「全員集結!主賓とお兄様を保護しつつ滑走路奥のパーキングエリアまで後退!」

 

 大穴の向こう側は立ち昇る煙が邪魔で良く見えないが、もしも113が生きていたとしたら、自分達が花橘の足手まといになる訳にはいかない。

 ランクSを相手にした戦い──ここは後退し、全てを花橘に任せるしかないのだ。

 花子は素早く後退すると、全員で防御壁を展開する。

 

 「花橘楓!主賓は私たちに任せて!貴女は目の前の敵に集中して下さい!」

 

 花子が叫ぶ。

 楓は黒髪をなびかせながら煙が立ち込める大穴をジャンプする。

 それを狙うように、穴の反対側から衝撃波攻撃が襲うが、楓の防御壁が完璧にそれを打ち消す。

 楓が着地すると、その右横6メートルほど離れた所に、車椅子に座った113の姿があった。

 だが、車椅子を押していた大男の姿は無かった。

 

 『ふふふ……私でさえ付の者を救うことは出来なかった。さすがは花橘楓……049の力を継承した者よ』

 「なに!?」

 

 楓は驚いた。113は何と思念<テレパシー>で会話してきたのだ。つまり、これは113と楓は深い関わりがあるという事に他ならないのだ。

 

 『いろいろと驚いているようだな。花橘楓。では順を追って話そうか』

 『その必要は無い!』

 「!!」

 

 113を制したこの声は、間違いなく倉本の声だった。

 しかも、113同様にテレパシーで会話してきたのだ。

 ふと上空に目を向けると、遠くで2機の飛行機が交戦しているようだった。

 1機は小型ジェット機で、もう1機は中型の輸送機のようで、尾翼にはオーストラリア国旗が描かれている。

 輸送機は機首の埋め込み式の機銃で、小型ジェット機を攻撃しているようだ。

 だが、その効果は全く無いように見えた。

 

 『こちら山本真一。現在、倉本が乗る小型機を機銃掃射中。だが、全く効いていないようだ』

 

 同じ目的地へ向う2機が成田上空で出くわしてしまい、山本兄は輸送機に唯一装備していた機銃で撃墜を試みたのだった。

 小型機は輸送機に構うことなく着陸態勢に入る。

 輸送機の方が速度が速いため、先にアプローチに入った小型機の後方からでは、着陸時に接触の危険があるため同じ滑走路には着陸できない。

 

 「だったら……直接俺達が降りるだけだ!」

 

 輸送機は高度を落とすが着陸態勢には入らず、小型機を追い越しながら後部ランプを開け放つと、そこから山本兄妹が飛び降りた。

 二人は自由落下しながら精神を集中すると、ランディング中の小型機に向って衝撃波を放った。

 小型機が滑走路に進入し車輪が接地した瞬間、山本兄妹の衝撃波をまともに受けた──はずだった。

 しかし、小型機は何事も無かったように減速すると、ゆっくり旋回し第2ターミナルまで誘導路をタキシングしてくる。

 山本兄妹は全能力で減速すると、滑走路脇の芝生に着地し何回転か転がってから止まった。

 

 「あー。結構な高さから飛び降りて、正直、死ぬかと思った」

 

 さゆりが芝生の上で大の字になりながら呟いた。

 

 「俺が全力でサポートするから大丈夫だって言ったろ?まぁ、これほどの速度と高度ではあまり自信はなかったが……」

 「自信無かったのかい!!」

 

 さゆりが全力でつっこむが、二人は本当に疲れ切っていた。

 昨晩から明け方までずっと戦闘し、終わったらすぐに日本へ移動だ。機内で若干眠ったが、輸送機ではリラックスして休むことなど出来なかった。

 何よりさゆりが一番心にかけていたのは志郎のことだった。

 

 「あの時、自分が主賓の警護の任をあっさり他人に譲らなければ、あいつを危険な目に合わせる事はなかったのに……!」

 

 さゆりはその後悔を力に変えて、ここまでやってきたのだ。

 真一もそれをよくわかっていた。

 だからこそ、真一自身、満身創痍でありながらこんな無茶までやったのだ。

 

 ふと第2ターミナルの方を見ると、小型機の乗降口が開き一人のスーツ姿の男が姿を見せた。

 刈り上げの7:3分け……あれは間違いなく倉本だ。

 だが、そのすぐ近くには花橘楓と車椅子の病人の姿が見える。

 月光院尊人と花橘の会話は聞いていたが、途中からぷっつりと聞こえなくなったため、二人は状況がわからないのだった。

 倉本は左耳にヘッドセットを装着すると、完全なオープンチャンネルで話しかけてきた。

 

 「どうやらすべての役者が揃ったようだな……一人は遠くで傍観を決め込んでいるようだが……まあ、いいだろう」

 

 そう言いながら倉本はA滑走路の方を振り返ると、再び113と楓の方へ視線を戻す。

 

 「折角これだけの面子が揃ったんだ。私から真実を話そう」

 

 

 ◆

 

 「先ずは、自己紹介をしよう。私が倉本隆夫……これから世界を統一しようとする男にして、超能力者でもある。コードネームは──090だ」

 

 これを聞いていた全員が言葉を失った。

 朝鮮で戦闘中の可憐、千佳、黒田はその手を止めて、その場で呆然と立ち尽くしたほどだ。

 だが、楓と113だけはすでに知っていたため、顔色一つ変えずに聞いていた。

 

 コードネーム090──日本が誇る超能力者の頂点であるランクSの一人である。

 

 「まあ、驚くのも無理はない。何故ならここにはランクSの全員が揃っているのだからな」

 「!?」

 

 誰も理解できなかった。

 そもそも伝説の存在であるランクSが本当に実在し、しかもこの場に3人とも揃っているというのだ。

 

 「090は私、倉本。そして車椅子に座る113………最後に我々ランクSの長にして、絶対的な存在である049───」

 

 倉本は少し溜めてから指を差して続けた。

 

 「花橘楓。お前を含めてランクSがここに揃ったのだ」

 「な……なんだと!?」

 

 楓は自分が049であることは知らなかったようで、倉本の言葉に珍しく動揺した口調で問い返した。

 

 「ふふふ。お前は覚えていないのだったな。あの13年前の事故の事を」

 「事故……?」

 「そうだ。志郎が記憶を失い、同時に超能力をも失ったあの事故のことだ!」

 「!!!」

 

 楓はビクンと体を震わせた。

 小さい時から何度も見てきたあの夢が蘇る──。

 

 

 白い部屋。

 303と呼ばれる男の子。

 いつもわたしにやさしくしてくれる大好きな男の子。

 いつものようにカプセルへ消えていく男の子。

 検査中は絶対に近寄っちゃダメと言われていたのに……。

 わたしは素質が無いランクD。

 でも好きな男の子はすごく才能があって、大人たちはランクSを超えるかもしれないと言ってた。

 知りたかった。

 近づきたかった。

 好きだったのに……大好きだったのに……。

 気が付くと、カプセルのレバーを引いていた。

 途端にアラートが館内に響き渡り、大人たちの怒号が響き渡った。

 私は怖くなって立ち竦んでいた。

 「そこで何をやっているんだ!」

 白衣の大人に突き飛ばされ、わたしは床に転がった。

 その時、光の中から女性が現れてわたしに問いかけた。

 『あなたはこの子が好きですか?』

 わたしは答えた。

 「好き。大好き!」

 すると、更に女性は問いかけてきた。

 『あなたはこの子を守ってくれますか?』

 私は答えた。

 「わたしが守る!」

 

 

 「わたしが……守る……そう言った……」

 

 楓は知らない内に口ずさんでいた。

 すると、倉本が両手を広げて言った。

 

 「そうだ!お前はあの事故の時、049の前でそう宣言したのだ!」

 

 049?あの女性が049?

 

 『その通りだ。あの事故の直後、お前の前に現れた女こそ、人類の頂点に位置する存在、049だったのだ』

 

 楓の心にテレパシーで答える倉本。

 

 「ま、まさか……」

 

 驚き、怯え、戸惑う楓。

 

 「そうだ!お前に力を与えたのは049なのだ!……そして、その女こそ、我々の姉にして、志郎の母親でもあるのだ!」

 「!!!」

 

 この話しを聞く全ての者が動くことが出来ず、声も出せずに、ただ息をする事しか出来なかった───。

 

 

 

 


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