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主賓奪還作戦2

■主賓奪還作戦2


 「どうして剣淵さんが処刑されなきゃならなかったんですか!?」

 

 黒田は今では正式に第2特殊部隊の隊長となっており、他の青木、赤松、黄川田もそのまま部隊に残っていた。

 その黒田が元隊長の榊原を問い詰めていた。

 榊原は黒のスーツに赤いネクタイ姿であり、今では超能力管理センターのセンター長という肩書を与えられていたが、無精髭は相変わらずだった。

 

 「落ち着け黒田……剣淵さんは俺たちのために死んだんだ」

 「だから、それはどういう意味なんですか!?」

 

 特殊部隊司令室で黒田は榊原のデスクを両手でバンと叩いた。

 それを右手を軽く上げて制する榊原。

 

 「お前も正式に隊長になったのだから冷静になる事を知れ。黒田」

 

 この一言ではっと我に返り、一礼する黒田。それを見て榊原は軽くうなずくと話始めた。

 

 「剣淵さんは反政府同盟の罪を一人で背負って亡くなられたのだ」

 「それは…どういう…」

 「考えてもみろ。反政府同盟は自分達の主義主張のため、仕方が無かったとはいえ政府側の何十人という尊い命を奪ってきて、最終的には戦争にまで発展したんだ……誰かがその責任を負わなければ収まりがつかないんだよ」

 

 榊原は紅茶で喉を潤すと、更に続けた。

 

 「本来であれば、俺たち関係者全員が罪に問われてもおかしくは無いんだ。だが、政府としても超能力者に対する不祥事があったので事を大きくしたくはない……そこで剣淵さんに全ての罪を被ってもらい、それで全てを収束させることで解決しようと考えたんだ」

 「……」

 

 黒田は榊原の話を聞き、何も言葉を発することが出来なかった。

 

 「俺は剣淵さんの意思を受け継いだ。これからは俺たちが剣淵さんが見ることが出来なかった、超能力者の素晴らしい未来を作って行かなきゃならないんだ!」

 

 そう言うと、榊原は立ち上がり更に続けた。

 

 「その為には、お前たちの力が必要だ……やってくれるな?」

 「はい。力の限り!」

 

 二人はガッシリと握手し、これからの困難に立ち向かう決意を固めたのであった。

 それにしても、判決から刑が執行されるまでが早過ぎる……。

 そこに明らかに何らかの力が働いていることは確かであった。

 

 

 ◆

 

 倉本内閣情報官は内調の自室に4センター(内閣情報集約センター、内閣衛星情報センター、カウンターインテリジェンスセンター、超能力管理センター)の主幹を集めていた。

 ここである重要案件について話を進めていた。

 

 「どこまでの情報が漏えいしていると想定すべきだろうな?」

 

 倉本が全員へ問いかけると、内閣情報集約センターの渡邊主幹が口を開いた。

 

 「栗林一は朝鮮共和国へ亡命する際、超能力に関する一切の情報記録媒体の持ち出しは行っておりません。また、サーバへの不正アクセスの記録も残っておりません。朝鮮が超能力に関する情報を栗林から得られるとすれば、栗林自身の脳内記憶だけと推測します」

 「なるほど。栗林自身は超能力研究についてどこまで知っているかわかるか?」

 

 倉本の再度の質問に今度は超能力管理センターの榊原が無精髭を触りながら口を開く。

 

 「やつが従事していたのは主賓の警護であり、組織としては完全に独立した任務体制となっており、他部署のメンバーとの関わりもほとんど無かったと聞いてます。つまり、やつが持っている情報は主賓に特化したもので、むしろそれが問題となる可能性があります」

 

 つまり栗林が主賓を人質として連れ出している以上、主賓の情報が漏れる事の方が問題となると言っているのだ。

 もしも主賓の能力が目覚めた場合、これほど隣国が脅威となることはないだろう。

 

 「うむ。で、栗林が亡命してから一ヶ月が経過したが、朝鮮側の動きは無いか?」

 「監視衛星の情報では──」

 

 内閣衛星情報センターの飯田主幹が黒縁メガネを上げながら報告を開始した。

 

 「──朝鮮国内に目立った動きは確認できておりません」

 

 飯田主幹に続いて、カウンターインテリジェンスセンターの金田主幹がメタルフレームのメガネを上げながら報告する。

 

 「外部からの諜報活動につきましても特に動きは見られません」

 「なるほど……」

 

 倉本は一度うなずくと話を進めた。

 

 「……栗林本人からはそれほど重要な情報は流出しないと考えてよさそうだな。では、主賓について意見があるものはいないか?」

 

 倉本の問いかけに、渡邊主幹が発言する。

 

 「正直、今まで超能力者に関する情報は国内…いえ、内調内でも極秘事項でありましたので、我々はほとんど情報は無いに等しい状況です」

 「その通り。榊原主幹以外、この件に関してわかる者はおりません」

 

 佐々木主幹も続いて同調した。

 それを見て、榊原が苦笑しながら話始める。

 

 「主賓に関しては倉本さん、あなたが一番詳しいはずだ。13年前の事故の真相も、あなたであれば知っているはずです。その点私は、最近できた超能力管理センターに今は亡き剣淵さんに推薦されてセンター長になったにすぎません」

 「まぁ、確かに主賓について各主幹に聞いたのは間違っていた」

 

 倉本はあっさりと自分の非を認めると、この会議を解散した。そして退出しようとしていた榊原を改めて呼び止めた。

 

 「榊原君、改めて君の意見を聞かせて欲しい」

 

 榊原は両手を軽く広げ首を振ると元の席に座った。

 部屋には倉本と榊原の二人だけとなった。

 

 「倉本さん。各センター長を招集して報告会を開くのは賛成ですが、ちょっと情報が無さすぎやしませんか?これじゃあ報告するネタもありません」

 「わかっている。超能力者の管理を公言した以上、内調としても内部会議の題材にせざるを得ないのだ。だが、開催したという事実があれば良いのだ。本当の質疑応答は正にこれからだと認識している。……それでどうだ?朝鮮の動向について君の考えは?」

 

 いかにも役人っぽい倉本の対応に榊原はうんざりしたが、そういうものなのだと割り切った。

 

 「遅かれ早かれ朝鮮は日本へ攻めてくるでしょうね。そしてその時は、朝鮮の超能力開発がある程度進んだと考えて間違い無いと思われます」

 「それはそうとは思うが、私が聞きたいのはそんなことでは無い」

 

 倉本はテーブルの上で両手を組み、そこに顎を乗せる。

 榊原は無精髭を触りながら答える。

 

 「それでは主賓がどのように扱われるか?でしょうか」

 「そうだ。先ほど君は栗林の情報から主賓に対して、何らかのアプローチがある事を懸念していたと思うが──」

 

 組んだ両手から顎を外し、背もたれに体を預ける倉本は話を続けた。

 

 「──私が懸念しているのは、あくまでも主賓の動向だけと言っても過言ではない。仮に朝鮮が栗林を中心に急造の超能力者たちと日本へ攻め込んできたとしても、我が国にはまだランクAが3名もおり、それ以外の者も一日戦争を生き抜いた精鋭ばかりだ。何の心配もいらないだろう」

 「だが、主賓だけは違う──」

 

 倉本の言葉を榊原が引き継いで話を続ける。

 

 「──もしも主賓の超能力が朝鮮の能力開発によって目覚めてしまったら、それは日本の……いや世界の脅威となるのは必至。そこで何としても主賓の奪還作戦を立案したい……そんなところでしょうか?倉本内閣情報官どの?」

 「まぁ、そんなところだ。で、どうだ?」

 「内調の特殊部隊として動くのであれば、基本は隠密行動が原則であり政府の支援行動には制限がある認識ですが、同じ内調の各センター長には協力を仰げると考えて良いですか?」

 「情報提供および連携については約束しよう」

 「了解です。あと、最終的なミッションの確認ですが、主賓の確保もしくは……」

 

 倉本が背もたれから体を離し、前傾姿勢になりながら榊原の言葉を引きつぐ。

 

 「……主賓の抹殺だ」

 

 

 ◆

 

 さすがは日本版KGBともCIAとも言われる内調だけはある。

 監視衛星の情報と現地の旧韓国人からの情報などを元に、朝鮮の超能力施設を割りだすことに成功していた。

 倉本内閣情報官によれば、目的を達成するためには朝鮮の超能力研究施設への攻撃は已む無しと、総理からも承認を得ているとの事で、後は部隊の編制案を榊原が提出するのを待つばかりであった。

 その件で榊原は懸念事項があった。


 ──それは昨日の事だ。

 突如、花橘楓が榊原の自室に現れた。

 

 「ほう。花橘がここにやってくるとは珍しい事もあるもんだ」

 

 榊原はドアから入ってすぐにある応接セットの椅子に座るよう勧めた。

 楓は無言でソファーにちょこんと座ると、すぐに本題を切り出した。

 

 「シロの救出作戦にはわたしも行く」

 「いや、まだ人選していない」

 「それではわたしは決定。それ以外の人を考えて欲しい」

 「いや、君は特殊部隊の経験はないので本作戦には選ばないつもりだ。そもそも今回の原因は君が主賓の奪還に失敗したためだ。君には謹慎を申し渡すつもりだ」

 「謹慎という事は、部隊とは関係なくわたしが独断で動いても良いと理解した」

 「どうしてそんな理解になる!?」

 

 このような不毛なやり取りを10分ほど続けたが、榊原が「わかった。考えさせてくれ」と言って強引に話を打ち切ったのだった。


 ──あれから一日経ったが、榊原はまだ回答が出ていなかった。

 噂で聞いていた以上に楓が志郎への拘りを見せるため、どう対応すれば良いのか困り果てていた。

 少なくとも今は作戦目的である『主賓の確保か抹殺』の内、『抹殺』の部分は言わない方が良いと思われた。こんな事が知れると、内調を火の海にしかねない。

 また、人選から外しても単独で行動する可能性があり、下手をすると味方に犠牲者が出る可能性もある。となると、今回のミッションに連れていく事になるが……。

 

 そんな頭を悩ませている榊原の元に別の少女が現れた。

 ショートカットで紺色のセーラー服に膝丈のスカート姿だ。

 

 「君は確か山本さゆり君じゃないか。お兄さんは元気かい?」

 「はい。おかげ様で今では義手の扱いにも慣れ、現場復帰も近いと言っております」

 「それは良かった。それで今日はどうした?」

 

 正直、榊原はこの山本兄妹とはあまり面識も接点も無く、ほとんどしゃべったこともなかったので、どうしてこの娘がここに来たのかもわからなかった。

 

 「実は……主賓の救出作戦についてですが…」

 「え!?ま、まさか……君も参加したいとか言わないよな!?」

 「よ、よくおわかりになりましたね……」

 

 お互いに目を丸くして驚きあう。

 

 「いや、何もわからん!わからんぞ!」

 

 榊原は頭をぶんぶん振って信じたくないと思っていた。

 それを無視するかのようにさゆりは話を切り出した。

 

 「実は一日戦争の時、彼を警護していたのはあたしなのです」

 「ああ。それは私も知っている」

 「……なので、彼の事を多少なりとも知っている者が同行した方が、作戦を遂行する上で良いと考えましたので……」

 「いや、別にそんな知識は必要はない。作戦の目的は単なる『主賓の確保か抹殺』……!!!」

 

 榊原はそこまで言って(しまった!)と思った。

 さゆりの顔が見る見る紅潮し、肩がプルプルと小刻みに震え、榊原を上目づかいで睨んでいた。

 

 「ほう……あたしが命がけで守り抜いた主賓を……抹殺する……?」

 「いや、ち、ちが……わないけど……アレだ。最悪の場合という意味だ!」

 

 もしも、ここで対応を誤ると、この少女はすぐに能力を解放する可能性があった……それはすなわち、榊原の死を意味する。

 ランクDの榊原は命がけの説得を開始した。

 

 「君も知っているだろう?志郎君の潜在能力が危険であることを」

 「聞いている」

 「彼の能力が解放され朝鮮の同志となった場合、その力は世界を滅ぼす可能性もあるのだ。そうなる前に志郎君を奪還するのが一番の目的だ。だが、それが叶わない場合は彼を殺してでも世界を守る必要があるのだ」

 「それは一つの可能性にすぎない。日本政府に保護されたとしても、定期健診という名目で秘密裡に超能力開発をする可能性だって否定できない。そうなればやはり世界が滅びる道もゼロではない」

 「確かにそうかもしれない。だが、今のところ日本は超能力開発が禁じられており、それを監視する第三者団体も設置予定なので問題は発生しない認識だ。例え超能力開発をしたとしても、我々には豊富な経験と長年蓄積されたデータがあるので、被害は最小に留まるはずだ。最悪、ランクSを発動し鎮圧も可能だろう。だが、今のままでは非常に危険なのだ!」

 

 榊原は主賓が日本にいる限り安全であり、朝鮮にいる限り危険であると認識させるのに必死だった。

 その上で、非常時には世界を守るために抹殺も仕方ないと諭したのだ。

 

 「なるほど。理解しました──」

 「そうか。それはよかった」

 

 榊原は胸をなでおろしたが、それはまだ早かった。

 

 「──ですが、あたしが作戦に参加しない理由にはなりません……あたしが主賓を殺させない…」


 (面倒すぎる……)

 

 榊原は心の中でつぶやいた。

 ただでさえ花橘楓を連れて行った場合、主賓を殺すことは難しくなるのに、更に山本さゆりを連れて行ったら、もう主賓を殺すのは実質的に不可能という事になる。だが、ここで断ると、また面倒なことになりそうだ。

 

 「……わかった。考えておく」

 「ありがとうございます!」

 

 さゆりは途端に明るい表情になり、勢いよく椅子から立ち上がり礼をすると、スカートをなびかせて元気よく退出していった。

 榊原はぐったりしながらデスク上の編成表を見つめていた。

 

 すると、今度は見た目が中学生くらいで、体操服にブルマ姿の女の子がやってきた。

 榊原はその姿に見覚えがあった。

 

 「小野寺可憐さん!久しぶりですね」

 「ええ。その節はお世話になりました」

 

 小野寺可憐は戦死した梅田の代わりに第4部隊隊長を任されることになったが、この配置転換を指示したのが榊原であり、可憐が言った『その節』とはこのことを指していた。


 「で、その小野寺さんが今日は何の御用で?」

 「あら、味方として私の前に現れた時は可憐と呼ぶように言ったはずですよ?」

 「あー(メンドくせぇ)。そんな事もありましたか」

 「お忘れですか?」

 「いえいえ。しっかり覚えていますよ、可憐さん。それで、今日はどのような御用ですか?」

 

 可憐はすたすたと勝手に部屋に入り椅子に腰かけると、榊原も対面に座るように促す。

 榊原はため息をつくと、可憐の対面に座り話を再開した。

 

 「……はい、では、お話をお伺いしましょう」

 「実は、今度の主賓奪還作戦ですが……榊原さん、あなたも参加するのですか?」

 「はい。海自にミサイル護衛艦を出してもらえることになったので、艦上にて指揮を執る予定です」

 「そうですか。では私も行った方が良いでしょう」

 「はい?」

 「私の浮遊能力が力を発揮するはずです」

 「た、確かにそうだが…でも、どうして!?」

 

 可憐は一度目を伏せた後、上目づかいで榊原を見ながら答えた。

 

 「あなたのお力になりたい……という理由ではダメかしら?」

 

 榊原は思った。(どうして超能力者の女はこうも面倒なやつばかりなんだ!)と。

 

 「とりあえず承りましたが、留守部隊も含めて編成する必要があるので、はっきり『YES』とは言えませんのでご理解下さい」

 「考慮していただく程度で構いません。私はそれほどわからず屋ではありませんので」

 

 そう言うと悪戯っぽく舌をペロっと出す可憐。

 これでも37歳である……と声に出すと命が危ういので心の奥底に言葉をしまい込む榊原。

 可憐は立ち上がると扉に向って歩き始める。

 

 「それでは私はこれで失礼します」

 「はい。私も部隊編成をこれからやっつけないといけないので──」

 

 そこまで言うと榊原は可憐を見ながら、一つの疑問を投げかけたい衝動に駆られた。

 

 「──えーと、ひとつだけ聞いてもいいですか?」

 「え!?ええ、どうぞ」

 

 可憐はまさか榊原から質問が来るとは思っていなかったので、ちょっと驚いて扉の前で向き直る。

 榊原は少し赤面しながら質問した。

 

 「えーと……あの……どうしていつも体操着とブルマ姿なんですか?」

 

 

 ◆

 

 倉本は総理大臣のデスクの前でタブレットを操作していた。

 

 「……続いて『主賓奪還作戦』における特殊ボディスーツとヘルメットの使用許可願いです」

 

 そう言いながら、倉本は申請書を総理大臣の端末へ送信した。

 デスクにいる総理の端末に申請書が表示され、その右下には『許可する』というボタンがあり、それを総理が押すことで内閣総理大臣が了承した、という事になる。

 総理は躊躇なく事務的に『許可する』を押す。

 本来、特殊ボディスーツとヘルメットはまだ国の認可が下りていない装備であるが、国のトップである内閣総理大臣が特別に許可したのだから、晴れて作戦で使用することが可能となるわけだ。

 

 「有難うございます、総理。続いては『主賓奪還作戦』におけるレーザーガンの使用許可願いです」

 

 このような調子で未認可であろうが、総理大臣の了承を貰えれば、堂々と使用出来るようになるのであった。

 もうかれこれ十数件の書類を了承した総理であったが、さらに同じ件数分の資料が残っていた。だが、すでに倉本の傀儡となっている日本のトップ、内閣総理大臣は文句も言わずせっせとボタンを押し続けた。

 倉本にとっては、内閣総理大臣でさえ自分の駒の一つにすぎなかった。従って、倉本にとって一番重要な申請書もほとんど内容を読まずに総理は了承していた。

 その書類には『113実験申請書』と書いてあるものがあった……。

 

 倉本は主賓奪還作戦に際し、事前に朝鮮に対して総理大臣より非難声明を発表していた。

 その内容は、大きく次の通りだった。

 1.朝鮮共和国は日本国内の混乱に乗じ、日本領海を侵犯して軍事的行動を行った。

 2.朝鮮共和国は人道的観点から世界的に禁止方向にある超能力の開発・研究を積極的に行っている。

 3.朝鮮共和国は日本国内において複数の超能力者を拉致し自国へ連れ去った。

 上記を理由に報復として朝鮮共和国への経済制裁および、軍事行動の対象国であることを宣言した。

 

 これで体裁上、朝鮮を攻めても国際的にはそれほど非難を受ける事は無いだろう。だが、あくまでも主賓奪還作戦は隠密行動である。結果的に世間に露見するまでは密かに主賓を奪還することがミッションの趣旨であった。

 これを受けて榊原は奪還作戦の実行メンバーを悩み抜いて選出し受理された。

  隊長:花橘

  隊員:黒田、赤松、青木、黄川田、山本

 榊原は最後まで隊長を黒田にしようか悩んだが、最終的にはランクが上位である楓にした。また、小野寺可憐率いる第4特殊部隊は後方支援として、榊原とともにミサイル護衛艦にて待機することとした。

 この編成に隊長という肩書を奪われた黒田が不満を言うかと思ったが、彼の返事は「今までも隊長の尻拭い専門でしたから問題ありません」だった。

 また、この作戦には海自の協力を得ているが、外務大臣、防衛大臣、政務官、事務次官および自衛隊統合幕僚長、海上幕僚長等には総理より直接説明して頂いたが、予想通り外務大臣と政務官が異を唱えてきた。だが、これはすでに決定事項として押し切っていた。

 今までであれば、防衛大臣も異を唱えていたはずだが、新しく就任した大臣は倉本との連携強化の姿勢が強かった。

 

 作戦決行は一週間後と決定したが、それに合わせて更に倉本は朝鮮国内をかく乱するために、旧韓国人によるレジスタンスにも呼びかけ一斉蜂起する手筈まで整えていた。

 倉本は自分のデスクに座り、薄笑いを浮かべていた。

 いよいよ、世界に羽ばたこうとしているのだ。自分にとってこれが最初の一歩となるだろう。

 倉本はその時が来るのを待っていた…。

 

 

 ◆

 

 「303すげーな」

 「ホント、マジ神がかってるな」

 

 一人の男の子…5歳くらいか…数人の友達から羨ましがられている。傍にいる白衣の大人たちも微笑みながらそれを見ていた。

 少年たちはみな白地のスウェット上下を着ており、それが少年たちの検査着のようだ。

 自分の体を見てみると、自分も少年たちと同じ服を着ていた。

 友達の内の一人の少年がこちらを振り向く。

 

 「その点、お前は本当に才能無いな」

 

 その言葉に他の仲間も加わり「そーだそーだ」「努力しても無駄だ」などの野次を言ってくる。

 わたしはうつむき、半べそをかきながら数歩ほど後ずさる。

 303と呼ばれた男の子だけは何も言わずこちらを見ていたが、すぐに「お前らやめろよ」と止めてくれた。

 それを聞いて「わかったよ」「また303に助けてもらったな」などと言いながら、また303と呼ばれる男の子を取り巻く。

 

 真っ白い部屋の中、カプセルに入って行く男の子。

 その時、ふいに目が合いドキドキするわたし。

 男の子はわたしを見てニコリと笑ってからカプセルへと消えて行く。

 

 その時──。

 

 カプセルから異常動作音が鳴り響き、同時に周囲のコンピューターからアラート音が鳴り始める。

 わたしは驚いて、何もできず、ただ男の子が入っているカプセルを見るしか出来なかった。

 景色がぐるぐる回り、慌ただしくコンピューターを操作する大人たち。

 怒鳴り声が響き。反響する足音。ガタガタミシミシ金属が軋む音。

 白い部屋がぐるぐる回り、空間に溶けて行く…。

 

 (303あなたは誰……助けて……ごめんね……わ た し ……!!)

 

 

 楓は寝ていたベッドから飛び起きた。

 またこの夢…。

 たまに見るこの夢は子供のころから見ていた。

 

 「どうかしたの?」

 

 山本さゆりが二段ベッドの上から覗き込んでくる。

 

 「何でもない」

 「あそ」

 

 さゆりは顔を引込めると、再び眠りにつく。

 楓も眠ろうと横になる。

 

 (明日はいよいよ敵の真っただ中だ。今のうちにしっかり体を休めなきゃ)

 

 楓は作戦時間になるまで、ミサイル護衛艦の中で気持ちを落ち着けていた。

 

 (シロ……待ってて!)

 

 楓は無表情で決意を新たにするのであった。

 

 

 ◆

 

 最新ミサイル護衛艦『こうき』はレーザー砲1門の他、艦載電磁加速砲<レールガン>も1門装備されており、更に各種ミサイル防衛も従来通り対応していた。

 光学兵器であるレーザー砲は性能が天候に左右されることと、地平線の向こう側の敵には攻撃が出来ないという欠点がある。それを補うために、艦載電磁加速砲がレーザー砲と同時に開発されていた。

 この新型イージス艦にランクAの超能力者を筆頭に、第4特殊部隊が目を光らせているため、この1隻だけで朝鮮からのミサイル攻撃を全て撃ち落とさんと海自の士気は非常に高かった。

 そんな護衛艦とは正反対のテンションで朝鮮に向けて進む1隻の高速艇があった。

 

 「海自のやつらは何であんなにテンション高いんだ?」

 「何でも最新装備を使う時が遂に来た!と舞い上がってるらしい」

 「いやいや、今回の作戦は隠密行動なんだから、そんなもん使う事態になったら、それはもう作戦失敗だろ」

 「こっちは敵の真っ只中に潜入するってのに、呑気なもんだな」

 

 黒田、赤松、青木、黄川田が高速艇の窓から、小さくなっていく護衛艦を見ながらぶつぶつ言い合っていた。

 それを楓とさゆりがぼんやりと眺めていた。

 全員が特殊ボディスーツとヘルメット、レーザーガンを装備し、バックパックには応急処置キットとレーション、予備バッテリー等が入っていた。

 今回のヘルメットには特別に個人が視認できるように後頭部にペイントが施されていた。

 それぞれ、楓、黒、赤、青、黄、百と白字で書いてあり、皆そこそこ気に入っていたのだが、さゆりだけが「どうしてあたしだけ百<ひゃく>なのよ」と文句を言っていた。

 それを聞いた黒田が諭すように説明した。

 

 「さゆりの百合<ゆり>の一文字を引用したんだと思うが」

 

 するとさゆりは黒田をきっと睨んだ。

 

 「だったら百合と書けばいいのよ!無理に一文字にする必要も無いじゃない!そもそもあたしは百合じゃなくて『さゆり』ですけどね!」

 

 プイと横を向いて不貞腐れるさゆり。

 

 「お、俺に言われても…」

 

 黒田はやはり気心が知れた男同士の部隊が一番いいな、と心底思った。

 

 


 

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