ドラゴンスレイヤー/アベンジャー~モーガニクスと古書店のトルファ~
結局古書店に向かう事になったリイゼとメッソ。
小さな町とはいえ徒歩で向かえば数時間は掛かる道のりだ。
馬車を雇い近くまで向かう事になった。
町には煙を上げるだけの建物が設置されていて、町の至る所から煙が上がっているのが目についた。
建物からは煙突が伸びている。
入り口には兵が数人立っていて近づく者を厳重に見張っている。
「あの煙のお陰でドラゴンは町に近付けないんだってね。」
リイゼはその煙を眺めながらボソっと言った。
「ああ!モーガニクスさ。あの木を燃やした煙にドラゴンは寄って来ない。」
ホロ付きの馬車の荷台でリイゼの正面に座るメッソが答えた。
「どこぞの科学者が発明してくれたおかげで、空からドラゴンに襲われる事も無くなった。
町から町への行き来も安全にできるようになった。モーガニクス様様さ!」
「モーガニクスという木を発明したのか?」
「姉さんそれも知らないのかい?モーガニクスというのは薬品さ。
薬液を木に染み込ませて乾かすのさ。その木を燃やした煙がドラゴンを寄せ付けないんだ。」
「・・・私が子供の頃にモーガニクスが出来ていれば町は襲われずに済んだのにな。」
リイゼは寂し気に呟く。
「えっ?姉さん何歳なんだ?モーガニクスが発明されて30年は経ってるはずだぜ?」
「うるさい。」
「それよりそのモーガニクスを使えばドラゴンも楽に殺せるんじゃないのか?」
「モーガニクスは人間にとっても有毒だ。そんな毒でドラゴンを殺せばドラゴンの肉に価値が無くなるからな。
ドラゴンは体の部位全てに価値がある。肉、内臓、ツノ、牙、鱗、目玉まで全て高価で取り引きされるんだ。
ドラゴンを殺して持ち帰ると町は活気づく!だからドラゴンスレイヤーは英雄なのさ!
それにモーガニクスを所有しているのは町を統括している城さ。
人々の税でモーガニクスを染み込ませた薪が町に配布される。
個人では高すぎて手が出せない。町でも厳重に保管され盗む事はできない。
盗もうとすりゃ死罪さ!モーガニクスが無くなればドラゴンに襲われ町が滅ぶからな。どんな罪よりも重いんだ!」
「なるほどな」リイゼは町に立ち上る煙を眺めながら「少しずつ分かってきた。」と言った。
「もうすぐヒルナルデ区のギルドだ。例の古書店も近いぜ。」
リイゼとメッソはギルドの入り口付近で馬車を降りた。
「ギルドに寄るかい?」メッソがリイゼに尋ねる。
「なぜ?」
「ここでは様々な仕事を斡旋してて戦士達のたまり場でもある。
仕事も貰えるし情報収集もできる。誰かに伝言を残したい時も便利だ。
スレイヤーの旦那方が俺に伝言を残す時もギルドを使う。この区のギルドじゃないがね。」
「なら今はいい。古書店に案内してくれ。」
「へいへい。」
二人は古書店の前に到着した。
木目調の外観で外装に絵画などが飾られなかなか洒落ている。コーヒーでも出してくれそうな雰囲気があった。
ガラス張りの窓が多く外から出も中の様子が伺えた。
壁という壁の本棚にギッシリ天井まで本が敷き詰められていて本の壁ができている。
室内中央の奥に店番をしている少女のシルエットが見える。
入口のドアを開けると鈴が鳴り、店番をしている少女と目が合った。
「あ、いらっしゃいませ!」
丸メガネをかけたいかにも勉強の虫と言わんばかりの三つ編み少女だ。
「あなたがトルファ?」
リイゼはノートに書いたメモをチェックしながら言った。
「あ、あたしだす!『だす』だって!恥ずかしい!」と少女は噛んだ事に照れてうつむいた。
凄く若く見えるけど、こんな子がドラゴンに関する重要な情報を知ってるのだろうか?
「あなたがドラゴンに関して凄く詳しいって聞いて来たんだけど。」
「そうですね。人並み以上は情報収集してますね!」
とトルファは得意げに言った。
「小説書いてるそうね。」
その言葉にトルファは目を輝かせた!
「良くご存知で!今書いてるのは『Dスレイヤー戦記』っていうんです!
タイトルだけでも3日悩んだんですけど、やっぱりシンプルな方が受け入れられるかなって思ってもどしたんですよね!
他の候補で『ドラゴンキラーは鱗を穿つ』っていうのも捨てがたかったんですけど、どう思います?」
「最初の方・・・かな?」
「やっぱりそうですよね~!シンプルイズベストですよね!
知り合いのお兄ちゃんが面白い物語を書く為にはリアルな体験を入れなければダメだっていうんでお店が休みの日には取材してるんです!」
「ドラゴンスレイヤーの人達ってなかなか会えないんですけど、会って取材する為には闘技場が一番良くて、決闘がある日に出待ちするんですよ!
闘技場で決闘も見たいんですけど、交通費や入場料も高くてなかなかナマで見れないんですよね。今私が一押しのドラゴンスレイヤーは・・・」
「ちょっと待って!」リイゼは喋り続けるトルファの言葉を一旦遮った。
「ドラゴンスレイヤーは闘技場に来るの?」
「ええと、ドラゴンスレイヤー候補は最終試験で現役のドラゴンスレイヤーと戦うんです。
そこで認められれば晴れてドラゴンスレイヤーの称号が得られるんですよ!その時に会えますね!」
「決闘はいつあるの?」
「ドラゴンスレイヤーの資格を持つ人が現れたらですね!ギルドで大々的に告知されるのですぐ広まりますよ。」
「資格・・・3体分のドラゴンの首の事ね。」
「そうです!ドラゴンスレイヤーになる為の3つの試練の1つがドラゴンの首集めです。ドラゴンスレイヤーたる者ドラゴンを倒せなければ話になりません!」
「2つ目が現役ドラゴンスレイヤーとの決闘。ドラゴンを倒した実力が本物か確かめられます。」
「3つ目が・・・。」
トルファは喋り過ぎたとばかりに両手で口を塞いだ。
「これ以上は何か本を買ってくれたら教えますよ。」とニコニコしながら言った。
「あんた3つ目知ってる?」とリイゼは後ろに居るメッソに尋ねた。
「あれの事かな・・・?焼き印・・・。」とメッソは顎を擦り、思い出しながら答えた。
「ちぇ!なんだぁ知ってたかぁ。」
「そうです。決闘で認められたドラゴンスレイヤー候補はドラゴンの焼き印を体に押されるんです。」
「あまりの痛みで死ぬ人もいるらしいですよ。最後にそれに耐えてこそ晴れて英雄になれるんです!」
「ああ!カッコイイ!ドラゴンスレイヤー様!この町からも出て欲しい!」トルファはまた目を輝かせた。
トルファはドラゴンスレイヤーという肩書に痺れるようだ。
トルファが筋金入りのオタクだという事は分かった。
だが質問内容によっては本を買わなければならないらしい。
本は嵩張るからあまり持ち歩きたくは無い。質問を選ばねば。
さすがにレッドドラゴンの居場所までは知らないだろう。国が躍起になって探しているくらいだ。
ウロボロスの事はどうだろうか?
ウロボロスを探せさえすればレッドドラゴンの事が分かるはず。わざわざドラゴンスレイヤーになって王に近づく必要はないのだ。
そういえばメッソにウロボロスについて聞くのを忘れていた。
「メッソ、あなたウロボロスの事は知ってる?」
「ウロボロス?自分の尾を食わえている大蛇の名前ですね。それぐらいしか知りませんな。伝説でしょ?実在するのかい?」
さすがのメッソでもウロボロスの事は知らないらしい。ウロボロスに出逢うという事はそれだけレアという事か。
「オホン!」とトルファが咳ばらいを1つして話始めた。
「ウロボロスは実在しますよ!ウロボロスは世界を見通せると言われてます。全知なんて事も言われていて探し物をする人はウロボロスに会いに行くんです。」
「不治の病と言われた人がウロボロスに会って治す方法を聞き出しという話もあります。」
「へぇ!俺はそこまでは知らなかったなぁ。大した情報力だ。」とメッソは関心してウンウン頷いた。
「えへへ」トルファは嬉しそうに照れ笑いした。
「トルファ!ウロボロスの居場所は分かる?」
「出会えたら幸運ってくらい世界中を転々としてるらしいから流石に分からないですねぇ・・・。」
トルファは両手で頬を抑えて目をつむり、懸命に頭の中の情報を引き出そうとした。
「自分の尾を食わえているのに世界中を移動できるのかい?何か信じらんねぇな」とメッソは些細な疑問をぶつけてみた。
「そう言われてみればそうですねぇ・・・。考えた事も無かった。
お姉さんはどうしてウロボロスに会いたんです?」とトルファは自分の知識に無かったので話を反らした。
「レッドドラゴンを探して貰う為よ。」
「えぇ!レッドドラゴン!?レッドドラゴンって史上最悪の悪夢って呼ばれてるドラゴン?120年に1度目覚めるんですよね!」
トルファのテンションがまた急上昇した。
「そうよ。」
「なんで!なんでレッドドラゴンを探してるの?聞きたい!聞きたい!」
トルファは机に手をついて立ち上がり前のめり気味にリイゼに詰め寄った。
「レッドドラゴンは生きていてはいけないドラゴン。
目覚める周期が早くなっていてここ10年以内に目覚める可能性が高いの。」
「えっ!?確か前回目覚めたのが・・・。」
「53年前よ。町がレッドドラゴンに襲われるのを私の身内のババが偶然目撃した。その町が滅んだ原因は世間では天災だと思われている・・・。」
「ババが言うにはレッドドラゴンの目覚める周期が120年だったのが100年になって、80年になった。」
「次に目覚めるのが7年後かもしれない!だから、まだ目覚めていない時に探し出して叩く必要がある!町がまた犠牲になる前に!」
「7年後・・・。」トルファとメッソは信じられないといった口調で同時に口走った。
「何てこった!だから城もレッドドラゴン探しに躍起になってるってわけか!」
「レッドドラゴンの情報が少ないのは、襲われた町の人間が誰も生きていないからだわ・・・。」
トルファは力なくイスに腰を落とした。
「ヴィメイル城の占い師はどうだろう・・・。」
「えっ?」トルファの言葉にリイゼが聞き返す。
「ヴィメイル城に専属の占い師がいるんです。その人の評判が凄くて、何度も王様の危機を救ったとか。」
「確かにその占い師の評判は俺も聞くな。めちゃくちゃ当たるらしい。だがレッドドラゴンの所在までは探せていないようだな。」
メッソの言葉にリイゼが反応する。
「その占い師に会うには?」
「占い師は城内の重要人物だ。普通には会えねぇと思う。」
「やっぱり最新の情報を得ようと思うならドラゴンスレイヤーになるのが近道だと思うね。俺は。」
とメッソはリイゼをちら見した。
「結局ドラゴンスレイヤーか・・・。」
「会話がさっきから同じ所をぐるぐる回ってるな・・・。ふぅ。」リイゼはため息をついた。
「分かった。私がドラゴンスレイヤーになろう。」
「その言葉を待ってたぜ!俺は!」とガッツポーズ
「ええ!お姉さんが!?そんなに強いの!?」
トルファも驚く
「そりゃあもう!めちゃくちゃ強いぜ!大男を軽くブッ倒した!」
「過去にドラゴンを殺った事もあるんでしょ?姉さん。」
「数えてはいないが十数ほどはな。」リイゼは思い出しながらあっけらかんと答えた。
「ええ!?」
「そのドラゴンはどうしたんです!?」
「そりゃ食べた。」
「ええ!?」
「ツノとか骨とか鱗とかは!?」
「少しだけお金に換えてあと埋めた。」
「何て勿体無い!十体分のドラゴンなんて、全部売りゃかなりの金持ちになるってのに!」
「だから興味ないって!」
「なんてお人だ!でも俺の目に狂いは無かった!」
とメッソは呆れながらも、腕を組んで納得したように頷いた。
「なら!」トルファはもう一度机に手をついて立ち上がった。
「私ドラゴンの居場所に心当たりがあります!」と言った。