ドラゴンスレイヤー/アベンジャー~暗器のリイゼ~
食堂に取り残された男達はマジかよ。と互いに顔を見合わせながら食堂の外に顔を出すと既にやじ馬の人だかりができていた。
「おい!決闘が始まるらしいぞ!」「女が決闘を申し出たぞ!」
その中心に威風堂々と立つリイゼの全身を覆うマントが風になびき、これから決闘が始まる雰囲気を醸し出していた。
本気でやる気だぜ!あの姉ちゃん!ちょっとからかっただけなのによ!と
男達は笑いながら首をかしげた。
そこへ「どけ!」と食堂から出てきたのはリイゼと女主人に突っかかった中心の男
鞘に収まった立派な刀を握り入り口の男どもを払いのけリイゼの前に姿を現した。
男は鞘の先を激しく地面に突き立てた!その衝撃で小石が砕け弾け飛んだ。
「姉ちゃんよ!刀を抜いちまったら後へは引けねぇ!死ぬかもしれねぇ!今のうちに膝をついて謝れや!」
男が威嚇する。
「フフフ!女に勝っても避難され、女に負ければ大恥だな。お前こそ傷の浅い今のうちに去るなら許してやる。」
リイゼはあくまで強気の姿勢で全く引き気は無く逆に挑発する。
「最近体が鈍っていたから丁度良い。遊んでやるよ。フフ」
リイゼは体をマントで隠したまま立っている。剣を構える様子も無い。
「口は立つようじゃねえか!ガハハ!ならばハンデをやろう!俺は剣は使わん!お前は好きに武器を使え!俺はこの拳のみで相手してやる!」
男はそう言って拳と拳をかち合わせた!するとガキン!と鉄と鉄がぶつかり合う鈍い音が響いた。
「ただし鉄の拳だがな!ガハハ!」
「鉄甲か・・・。」達人であればその動体視力で剣撃を防ぐ盾となりそこから攻撃に転じる事で無防備な体に一撃を加える事ができる。
まともに食らえば命をも奪う攻防一体の武器。剣よりもある意味厄介かもしれない。
一般の剣士であればだ・・・。リイゼにとってはさして問題では無かった。
「負けを認めたらドラゴンを狩るなんてもう辞めな!向いてない。」
「ガハハ!これを見ても勝つ気でいやがる!いいだろう!ドラゴンスレイヤーに誓ってやるよ!来い!」
リイゼは一歩踏み出した。
「うおおお!!姉ちゃんから行くか!?」と祭りのように騒ぐやじ馬から歓声が上がる!!
「お前の武器は何だ!?そのマントの中に隠してあるんだろうが!見せてみろや!お前の自慢を!!」
男が自信ありげに手招きする。
ナイフ、レイピア、ボウガン・・・ムチってのも考えられる。
女の筋力で扱える武器は限られる!大概は不意を突いた武器になる。武器を隠す為のマントが物語ってるぜ!
所詮は女の浅はかな知恵よ!
と、考えていたら痛い目に合うよ!リイゼは男目掛けダッシュする!風でリイゼのマントが大きく靡くとマントの下の姿が露わになった。
両手には何も持っておらず、体に武器を仕込んでいるようにも見えない。
身に付けているのは肩から腕が露出しているいたってシンプルな薄手の肌着、防具も無し。下半身もシンプルなズボンとブーツだ。
「何だと!素手!?」俺より軽装だと!?
当たり前だが鎧を身に付けた男達とは速さが違う!この時代には戦士が武器も防具も身に付けないなんてありえない選択だ。
そんな余計な考えが男の体の動きを鈍らせる。
瞬く間に目前に迫るリイゼに反応が遅れる。
リイゼの手刀が男の顔に伸びる!鉄甲でのガードが間に合わず顔を後方に反らす事で紙一重に手刀を避ける。
しかし男の左頬から鼻を通り右頬にスッと線が走り、線から血が噴き出した!
「何ぃ!」避けたはず!!鼻の上が切れたせいで鼻血がドバッと流れ出る。
予期せぬ攻撃を負い男の反応は更に鈍る
リイゼはそこから間を置かず体を回転させ逆の手で水平に手刀で振り抜く、男は意地を見せ鉄甲でガードを間に合わせた!
ギィン!と刃物と刃物が交わった音が響く!
「何だと!?素手のはず!?」なぜ金属音が?
男は意味が分からず軽いパニックに襲われた。
リイゼはそこから更に素早く回転し下段回し蹴り、男は完全に無防備な足にそれを食らってしまった。
足にザクッ!と刃物が突き刺さったような鋭い痛みが走る。
男の足から血が吹き出す!グアア!足にも!!仕込みナイフか!?
男は足の痛みに気を取られた一瞬でリイゼを見失った。
次の瞬間男の足や腕や顔など露出している複数箇所が切れ、たちまち血が吹き出した。
男は叫び全身血まみれになり膝を着いた。
ボタボタと地面に血が滴り戦意を失う。
「あたしに勝てない人間がドラゴンに勝てるのか?」その声は男の背後から聞こえた。
男が振り返ると肩に手を置いたリイゼの突きだした人差し指が男の頬にぷにっと刺さった。
「・・・参った。俺の負けだ。」
いつの間にかやじ馬の歓声は消え、静まり返っていた。
何が起こっているのか理解できていない。素手の娘になぜか男が血まみれにされてしまったのだ。
「見たか?」「どうなった?」「仕込みナイフか?」「ナイフ持ってたか?」「いや!それらしき物は・・・。」
そのなぞなぞを解く為に思い思いに回答を口にし場はざわめき出した。
「あれは暗器だ!達人ともなれば持っている事すら気付かれないのさ!」と調子のいい男が知ったかぶりに解説する。
「ほ~なるほど!暗器か!かなりの達人だあの娘さん!」やじ馬達はその説明であっさり納得した。
男は膝をついたまま動けず、リイゼに言葉を投げかけた。
「あんたドラゴンスレイヤーか?」
「違うよ。」
「ドラゴンを狩った事は?」
「ある。」
「ドラゴンスレイヤーレベルってわけか。とんでもない娘に突っかかっちまったぜ。」
リイゼはマントで体を覆い
「誰か手当してやりなよ」やじ馬達にそう言って食べかけの食事を摂りに食堂へ戻った。
男は出血多量で意識を失いその場で前のめりに崩れた。
「うおおおおお!!すげぇぞ姉ちゃん!」
たちまち食堂前は拍手や口笛で観客が沸き立った。
何処からともなく町の自警団が現れ群衆を解散させた。
リイゼに突っかかった他の男達も言葉を無くして食堂に戻るリイゼの後ろ姿を眺めていた。
食事中リイゼの周りには人集りが出来ており、先ほどと同じくらい鬱陶しかった。
この日を境にこの地区に「暗器のリイゼ」という名が広まったのだった。
頼んでもいないのに何人かの男が古書店までの道を案内すると申し出た。
「姉さん若いのに大したもんだ!手伝わせてくれ!」
「この町は古書の町だ。何十件とある!案内無しじゃ骨が折れるぜ。」
男の名前はメッソと言った。茶色の短髪で顎髭を生やし死んだ目をしたいかにも胡散臭そうな男だ。
身なりからいって戦士では無い。情報屋か何かか?と思った。
メッソが案内を名乗り出た時、他の案内を申し出た男達がメッソに譲った所をみるとこの町では名の知れた男なのかもしれない。
メッソはリイゼの周りに出来た人だかりを追い払い、自分は食堂の入り口付近で待つよ。と言ってリイゼから離れていった。
気の利くヤツだ。私はメッソの案内を受け入れる事に決めた。
食堂を出るとメッソと歩きながら会話を交わす。メッソはとても興奮している様子でリアクションが大きかった。
「姉さんドラゴンを狩った事があるのにドラゴンスレイヤーじゃないんだって!?」
「ああ。それが珍しいのか?」
「そりゃあ珍しいぜ!ドラゴンスレイヤーは英雄!ドラゴンスレイヤーは国の宝だ!皆憧れてる!」
「なれるなら国民全員がなりたいもんだと思っていたがね!姉さんは変わってるよ!」
メッソは身振り手振り大きく動かし主張した。
「これからでもドラゴンスレイヤーになる気は無いのかい?」
「無いね。」
「マジですか!?かぁ~!なんて無欲だ!!」リイゼはメッソのいちいちのオーバーリアクションが鼻についた。
「それだけの実力があるってのに勿体無い!ドラゴンスレイヤーになれば援助も出るし城に召し抱えられりゃ一生安泰だ!」
「各国何人のドラゴンスレイヤーを抱えるかで国力を示すくらいさ!」と手を大きく広げる。
「ふぅん。あたしは一生安泰に興味はないね。」
「でも姉さん!城の仕えるドラゴンスレイヤーになりゃドラゴンの情報は向こうからやってくるんだぜ!」
「へえ?レッドドラゴンの情報も集まるってのかい?」
「そりゃ集まるさ!何せレッドドラゴンを一番恐れているのは各国の王さ!躍起になって所在を探してる!賞金を出してまで情報を買ってるくらいさ!」
「何だって!?それなら城に行くのが手っ取り早くレッドドラゴンの情報が得られるんじゃないのか?」
「まぁそういう事になりますわなぁ。」
「それを早く言え!古書店に行く必要が無いじゃないか!」
「姉さんレッドドラゴンの情報が欲しかったわけか!それなら城が手に入れた情報の方が信憑性あるかもなぁ。」
「もしかしてあんたもそこそこ詳しのか?」
「まぁね。ドラゴンスレイヤーの旦那方に擦り寄ってドラゴンのおこぼれを貰うのが俺の仕事だからな!これからドラゴンスレイヤーになるお方を見極める目も確かなんだぜ!へへへ!」とメッソは得意げに笑った。
そういう事か・・・だからあたしに目をつけたのだな。
「なら城に仕えているドラゴンスレイヤーにも知り合いがいるのか?」
「まぁね。ただ俺からコンタクトを取るのは難しいんだよな。
会う時は大概スレイヤーの旦那からコンタクトを取ってくるもんで。このなりじゃ城に入ろうとしても門前払いさ。知り合いだと主張しても無理。」
「いつコンタクトを取ってくる?」
「そいつぁ分かんねぇ。明日かもしれんし、ひと月後かもしれんしなぁ。」
「お前にコンタクトを取る理由は?」
「他のドラゴンスレイヤーの情報が知りたい時だろうな。
先ほども言いったようにドラゴンスレイヤーになれば王はお会い下さる。
城のドラゴンスレイヤーとも知り合えるでしょう。」
「じゃあ今城へ行っても情報は得られないじゃないか!」
「そういう事になりますわなぁ。」
「ドラゴンスレイヤーになる為の条件は何だ!」
「ドラゴン3体の首をギルドに持って行く事ですな。」
「ドラゴンは何処にいる?」
「さぁ?俺は詳しくないねぇ。」
「ドラゴンの居場所に詳しい人間は何処にいる?」
「古書店にドラゴンマニアがいますんで知ってるかもしれませんな。」
「結局そっちかい!」リイゼは顔を押さえた。