前作ヒロインがいろいろやらかした
ふとした思いつきで書きました。
『青薔薇の姫』というRPG配合乙女ゲームを皆さんは御存じだろうか?
魔法という物が現実にある世界で、平民だと思って暮らしていた少女が、魔法適正検査を受けた結果、魔力診断でとある男爵家の庶子だと分かり、王立魔法学園に入学する事になる。
そして王国の王子や高位貴族の令息とキャッキャウフフをしながら、特定のあるいは全ての男性を落とすゲームである。
私は『青薔薇の姫2』に出て来る悪役令嬢ルーディアナ・ヴェルナークだ。
何故そんな事を知っているのか、って。私は地球の日本という国から転生した転生者だからだ。
話を戻すと、『青薔薇の姫2』の二十年前に『青薔薇の姫』の初代ストーリーが始まる。
この世界の今から二十年前、『青薔薇の姫』のヒロインは見事にこの国の王立魔法学園でリアル逆ハーレムを築き、その当時の王太子とくっ付いたのだ。
それにはテンプレ的な婚約破棄もあり、当時の国王陛下、先王陛下は当時の王太子とヒロインを幽閉し王太子位を剥奪した。
それに伴い、ヒロインに骨抜きにされていた高位貴族の令息も、次期当主という地位を剥奪された。
変わって王太子になったのは、第三王子だった現国王陛下だ。婚約破棄された令嬢の結婚相手は、病弱という理由で王太子位を外れていた、第一王子がなる事になった。
こうして、事件は収束したかに思えた。
だがしかし、他国ではこの事が問題になっていたのだ。
国の顔たる王子一人まともに育てられないのかと、国その物が舐められたのだ。
その結果、我が国は信頼と共に国力が低下し、私が幼かった頃、戦争にまで発展したのだ。この戦争は一応我が国の勝ちで終わったが、国力の低下は否めない。
私は前作ヒロインに聞きたい。何故そんな事をしたのかと、しかし聞く事はかなわない。何故聞けないかと言うと、廃太子とヒロインは戦争終結後相次いで胸の病で亡くなっているのだ。心労が祟ったか、暗殺されたか分からないが、前作ヒロインも余計な事をしたものだ。
悪役令嬢の私の家族は、前作で婚約破棄された令嬢と兄王子だ。兄王子が公爵家に婿養子に来たのだ。後、年の離れた弟が居る。高位貴族で二人姉弟な為家族は少ないが、良い家族だと思う。
私は戦後の街を視察して、現代日本との違いをまざまざと見せつけられた。
だから私の夢は、国力を上げ平民の生活力を上げる事だ。
なので『青薔薇の姫2』では王子ルートだけは行かせない。
現国王で在らせられる陛下は、こう言っては不敬だが平凡な王だ。国の立て直しは期待できない。
そもそも王になる教育は受けていなかったのだ。
今私は物思いに耽っているが、王立魔法学園で昼食を取っている。
私と王子は十八歳で、最終学年だ。そして今年こそが『青薔薇の姫2』の物語の年でもある。
もう、物語はだいぶ進んでいるが、王子は大丈夫だろう。甘いマスクの割に現実主義というか利益主義なのだ。
私達が食事を取っていると、ヒロインのアリサがやって来て王子にしな垂れがかった。
「シオン王子酷いんですよ、そこに居るルーディアナ様が私の事を虐めるんです」
「アリサ落ち着きなよ。ルーディはそんな事しないよ」
アリサが言うには私がアリサを虐めたらしい。
ラビシオン王子の周りに居る令息達が私の事を伺って来るので、軽く首を振った。
それだけで令息達はアリサに訝しげな視線を向けた。
それもそうだろう。同じ生徒会に勤める仲で、彼らは私にアリサを虐める暇がない事を知っているのだ。
学園の生徒が興味深げに、訝しげに見ている中でアリサは名女優ぶりを誇っている。
私はとりあえず食事を続ける事にした。
食事を取っていると、微笑のポーカーフェイスに覆われたラビシオン王子の目に不満そうな気配が宿る。気のせいと昼食を食べ終わった。
「ルーディアナ様は授業が終わった後などに私に文句を言ったり、階段から突き落としたりしたんですよ」
「うーん。そうだね、証拠はあるのかい?」
「はい! アミリ来て頂戴。貴方が見た事をシオン王子に言って」
アリサは平民出身の生徒を呼ぶと、ラビシオン王子に証言をさせた。
「ルーディアナ様がア、アリサの事を突き落としたのです」
少女は少し青ざめた顔で、そう証言した。
勝ち誇った顔のアリサに、ラビシオン王子は首を傾げながら言葉を続けた。
「おかしいね、昨日も一昨日もルーディは僕とパーティーに出席していたんだよ」
ヒロインはサッと顔を青ざめさせた。
「社交界デビューはまだ先では?」
そう、普通なら社交界デビューはまだ先。学園を卒業してからなのだ。
少し震えながらの声にラビシオン王子が答える。
「何事にも例外はあるんだよ。ところで君は本当にルーディがアリサを突き落とした所を見たのかな?」
ラビシオン王子のその問いに、証言した少女はガクガク震え出しながら、顔を振ると「アリサに証言するように言われました」そう答えた。
「アリサ、君の偽証だと分かったが、仮に君の言った通りルーディが君を虐めていたとしても君に手を伸ばしたりしなかったよ」
「え!?」
「僕はね、この国に利益をもたらす女性と結婚したいんだ。君は男爵家の庶子だ、またこの国に混乱をもたらしても利益は産まない。それと引き換えルーディは僕の戦友で公爵家の娘だよ。どう考えてもルーディを選ぶよね」
王子はキラキラした笑顔でヒロインをバッサリ切って捨てた。
この王子はっきり言ったよ。利益で選ぶって。
まあ、この国を良くする為に私とラビシオン王子は確かに戦友だ。国内のパーティーには一緒に出席して、国内外の人間とのかけ橋になっている。
そして王子はスタスタと私の元に歩いて来て、ひざまづくと真顔になり、こうのたまった。
「王妃には君が相応しいと思う。ルーディ結婚を前提に僕と婚約して欲しい」
そう言うと私の手の甲に唇を付けた。
食堂中の女子生徒の黄色い悲鳴とキラキラした目を見て、逃げ道をふさがれた事を知った。これで拒んだら家どころか貴族の恥だ。
私が答えられずに固まっていると、ラビシオン王子は悲しそうな顔をして立ちあがり、私の顔に手をかけると今までより低い声で囁いて来る。
「俺が食事をできない間に良くも食べていたな。これからは俺と同じ目に合わせてやる」
周りとの対応の差に内心盛大に顔を引きつらせながら、しかし表ではすました顔で小さく答えるのが精一杯だった。これで顔を赤らめる事ができる女性が居ようか。
「はい……」
そう。全てはこの名俳優ばりの幼馴染の掌の上なのだ。
『キャー!』
私の答えはかなり小さな声だったはずが、食堂中の生徒に聞こえていたらしい。
黄色い歓声と拍手に包まれ、私はラビシオン王子と婚約する事になった。王子の周りにいる幼馴染に気の毒そうな顔をされながら。
ああ、食べ物の恨みは恐ろしい。
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この短編は思いつきで書いたため設定がまだまだ少ないです。なので、続きなどを書くことはないと思います。
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