第3話~疑問は忘れた頃にやって来る~
イェイ(。-∀-)♭
「……んあ」
脱力していた重たい瞼を開けると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。
本日二度目のお目覚めを経験して、微睡みの中で身体を起こす。
「痛たた……今度は、どこだ?」
そこは気を失う前とは違う場所だった。
周りを見回すと、どうやら建物の中の一部屋のようだ。
床は石畳に部屋はそれなりの広さ。机や椅子に、今寝ている少し簡素ながらもそれなりに寛げる寝台などの調度品が申し訳程度に置いてあった。
部屋の中は窓から差し込む夕陽の光に染まっていた。
まだ少し眠気が醒めきっていなかったが、外の夕景からみるに体を休めるには充分な時間経っていると窺える。
それと同時に頭が冴えて来ると、色んな疑問が浮かび上がり狼狽えた。
身体を動いた際に毛布が捲れると、身ぐるみを剥がされてズボンだけの格好だ。
「(ここってどこ?確か裸の女の人に鯰でぶっ飛ばされるまでは森の中だったのに、目が覚めると今度は部屋の中でベッドの上だし、また知らない場所だし服も脱がされてるし!?)」
軽く混乱に陥っていた。
他の上着や装備、それと荷物はベッドの近くの椅子にまとめて置かれている。
どうやら寝やすい様にと色々と介抱してもらったようだ。
「もしかして………アレ、見られた?」
けれどその考えが口を次いて出てくると、とっさに右肩に掛けた左手にグッと力が籠ってしまっていた。
しかし気を紛らわすように頭を左右に振って、改めて視線をぐるりと巡らせる。すると視界を右側へ向けた先に木製のドアがあった。
「……ここにいても何も始まらないか」
そう結論付けてベッドから起き上がり、足元に置いてあった黒のブーツに片足を突っ込んだ。
椅子に掛けられていた紺色の上着と薄汚れた防具や装備を着用し初めた、その時。
「あっ」
着ている最中ふと壁に視線を向けると、そこには頭に包帯を巻かれている自分の姿が鏡に写っていた。
気を失っていた間に手当てをされていたようだった。
「これって、もしかして」
改めてよく見ると所々手当てされていた。それを見て疑念を抱きながらもすぐに誰がしてくれたのかは検討がついた。
バックパックの中身を確認して、最後に部屋を一瞥した後にドアノブを捻り部屋を後にした。
「またか」
これで五度目になる空の部屋の扉を閉めて愚痴を零した。
部屋を後にしてから随分と時間が経ったが、未だに出口らしきものが見当たらなかった。
先へと続くが、そこまで長くはない石畳の廊下を進んでいく。
先程の部屋に置いてあったランプを拝借して、足元を照らしながら右へ曲がり階段を上ったりと宛もなく彷徨いていく。
「しっかし、だだっ広い建物だなぁ」
さながら高層建造物、若しくは遺跡か何かのような 内装、行路だった。
静寂に包まれる廊下に、靴底が床を叩く音と独り言が混ざり谺する。
これまた森を彷徨った時と似たような状況に既視感を感じた。そしてそろそろ本格的に迷子になっていると薄々気付いてきていた。
「といっても、いつの間にか知らない場所にいるんだから迷子になって当たり前か」
と、そんな事をぼやき始めて階段を上った通路の先、今度は両開きの少し開いた状態の扉が目に停まった。
「あ、また発見」
ここまで来た事を思い返しても、確認して来たようにそれといった収穫は無った。
なので今度も同じかと思いながら、とりあえず扉を開けて中に入り部屋の様子を確かめようとした。
もしかしたら今度こそは。そんな淡い期待も含めながら、これまでと同じ言葉を口にして、
[ガチャッ]
「失礼しま―」
止まる。
その時、フィルの体はまるで先程まで動いていた事を忘れたかの様に固まった。
視線はある一点だけに、そこだけに体はもとい心が釘付けにされていた。
部屋の中を目にした時、最初に視界に入ってきた物は向かい側にある大きな窓。
そこから差し込むダンジョンの中では決して見られる筈の無い陽の光、その日の最後を示す放つ夕映えだった。
そして頬を照らす目映い暁の景色は、確かに綺麗だった。
しかしそれよりも、こちらが立てる物音に振り返った窓辺に佇んでいる一人の少女にフィルの心は揺さぶられた。
目鼻立ちは整っており、シャープだが少し丸みを帯びた輪郭。白すぎず程良く日に当たったであろう肌色。
ややつり目混じりだが、くっきりとした目付きに真紅の瞳がより印象的に映った。
そして左耳寄りの位置で、ワンサイドアップに束ねた髪は肩にかかる長さ。
それ以外の髪は軽くウェーブの掛かった腰に届く程の長髪で、夕陽に輝く黄金の麦畑を連想させる琥珀色の髪だった。
髪が風に靡く様は幻想的でとても美しく、つい見惚れてしまっていた。
とどのつまり、紛れもない美少女だ。
そして顔から目線を降ろしていくと、裾が腰より少し下の位置まである飴色のジャケットは前を止めずに全開だった。
そこから見えるインナーはくびれたラインがハッキリと伺えて、臍がチラチラと見え隠れする程に裾が短い黒のタンクトップ。
それはそれは歩けば揺れて跳べば弾みそうな、そしてそれ故に肩に負荷がかかるのだろうと伺える二つの双丘は胸部のメタルアーマーに収まりきっていなかった。
腰から下はホットパンツと太ももを強調するこれまた黒のニーソックス、上から斜め掛けのベルトには左側に獲物がぶら下がっていた。
背は少し高めで、見た所三、四つ程歳上のお姉さんに見えた。
そんな彼女はこちらの様子を伺いながら話し掛けてきた。
「目が覚めたんだ、体の方は大丈夫?」
「はい、助けていただいてありがとうございます」
そう言って気遣ってくれる優しいお姉さんは、微笑ましい顔つきから。
「て言っても、この部屋まで来れてるし、そんなにジロジロ見れるくらいピンピンしてるなら、体も頭も問題無さそうだね?」
ジロリと半目で皮肉げに言ってきた。
「え?あっいや、その……」
見蕩れて固まっていた事に今頃思い出したせいか、耳を赤くしながらも直ぐには言葉が出てこなかった。
「まぁ年頃の男の子なら仕方ないか、でも勝手に人の獲物を横取りってのは可愛い顔に似合わず良い度胸してるね?」
「いや、その……あの時はお腹が減っていて、つい……」
「へぇ、お腹が減るのはあんただけなんだ?」
首を傾けてニッコリ、と目が笑ってない笑顔で訊かれる。
「いえ、俺だけじゃないです……すいません」
下手に言い訳すると、出会った時に貰った重い一発をまた喰らうはめになりそうだと観念して素直に謝罪した。
「ん、宜しい」
今度はさっきまでとは打って変わって屈託のない笑顔を向けて来た。
「とまぁそんなこと言っても、実際あんたが手をつけようとする前にあたしがぶっ飛ばしてたし、そこはもうチャラでいっか?」
「……チャラならそんなに追及しなくても良いんじゃ?」
「ん?いやね、あまりにあんたの反応が可愛かったから、つい意地悪したくなっちゃってね?」
彼女はケタケタと笑いながら、あっさりと薄情した。
「さて、それじゃあまず先に自己紹介といこうかな?」
彼女はそう切り出すと、少し居住まいを正した。
「あたしはレベッカ、ここで隠居生活している元冒険者、んであんたは?」
隠居生活?元冒険者?いまいち要領を得ない上に自己紹介の短さに、少し面食らう。
疑問を覚えつつもそれ以上の追求はしなかった。
そして相手から訊かれたら答えない訳にもいかない。
「えっと、フィル・レイドハートです。二人組で活動してる冒険者です。」
「ふーん……フィルね、二人組って言ったけどそれなら相方は?はぐれた?」
「えっと、それは……」
彼女からの質問に少したじろいだ。一言で済ませられる内容ではなかったからだ。
彼女は物珍そうに、こちらの頭からつま先まで一通り見つめたあと。
「まぁ、ここで立ち話もなんだし、ちょっと移動しようか?」
状況は未だによく飲み込めていないが、部屋を出ていく彼女の後を付いて廊下を進んで行った。
すると今度はドアが無く、代わりに暖簾がぶら下げてある出入り口だった。
暖簾をくぐり中に入るとテーブルの上に食器に椅子、そしてその奥にあるキッチンなどどれも生活感に溢れていた。
「大して種類も無いけど、どくだみ茶でいい?」
「え?あ、はい」
お茶を出して貰う立場で言うのも何だが、客に出す飲み物がどくだみ茶というチョイスとそれが有るというのは如何なものだろうか。まぁいただくのだが。
座って待つ様に促され、椅子に腰を掛けて何の気なしに部屋の中の所々を見渡す。
窓の外の光景、景色に目が停まると。ふと改めてこの状況に違和感の様なものが再び沸き上がってきた。
暫く色々と考えたが、やはりどうしても気になる物の一つの疑問を口にした。
「あの…ここって、何処なんですか?ここに来る前は確かダンジョンの中にいた筈なんですけど…」
そう訪ねると彼女は慣れた手つきでお茶を作りながらサラッと平然と答えた。
「ん?あーここね、ここは宝物庫、そしてあんたがいた場所は最奥迷宮樹海、ちゃんとダンジョンの中に今も居るからそれは安心して良いよ?」
「………へ?」
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昔小学生の時にクラスメイトが黒板に「3年3組の三野さん」を「3-3のサンノサン」って書いてて、意外にツボって今でも思い出します。
と言っても実際に三野さんと言う人はいませんでした。(笑)
そして「2-3の二野さん」とか続いてしょうもないネタ紛いな事考えたりする今日この頃です。