第1話~運が悪い時は、とことん悪い~
宜しくお願いしますm(__)m
世界は広くて、そして狭い。
物理的な広大さと、その土地や場所で交差するめぐり逢いなどと言った意味でも、数多の未知が今も蠢いている。
それはとある少年が脳裏に浮かべる景色。
日が傾き紅く染まる街並みと空模様。
いくつもの出店がまるで競い会う様に声を張り上げ、商売に勤しむ姿。
店に訪れた客人と店主との喧騒が加わり、街の活気に一役買っている。
大通りには異国からの旅芸人達が様々な芸を披露し日銭を稼ぎ、さらに注目を集めようと見せ付ける仰々しさと華々しさの数々。
それらは道行く子供の視線や興味を一時の間引き付けるが、直ぐに親に手を引かれ思い出すように歩き出し、そして彼らは徐々に忘れさられていく。
街頭の演奏者達は愛でるように、若しくは懐かしむかのように、各々の楽器と指先で震わす旋律を奏でている。
音色に釣られてか、はたまた街の熱がそうさせるのか、通りを練り歩く人々も心なしか軽やかなステップでも踏んでいるかの様な足どりで、往来していく。
ただのそれだけのことだった。
特に何かが起きることもなく、けれど欠けてものも見つからない。
そんな何でもない、ともすれば懐かしさと呼べるような日常が、今でも瞼を閉じれば事細かく思い出せるような、そんな気がした。
「はぁ、はぁ……ぜっ、はぁっ」
漏れ出る吐息は苦しげに、踏みつける足音は
思い出す情景とは裏腹に、今の状況はまるで悪夢のようだった。
『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
背後から浴びせられた獣達の雄叫びが、踏みつける通路に鳴り響く。
「勘弁してくれよ」
誰に向けるわけでもなく泣き言をこぼしながら、獣の大群から一心不乱に逃げていた。
……世界は広い、色んな意味で。
それはつまり、自分の知らない未知の出来事、様々な発見やロマンにだって巡り会える。
けれど。
それと同じように、否、それ以上に下手をすればいとも容易く命を落とすという可能性のほうが遥かに満ち充ちていた。
それは今逃げ回っているこの場所が迷宮、ダンジョンであるのなら、尚更であった。
少年はそれを今、身をもって痛感している。
油断や慢心は身を滅ぼす。その事をもっと心に刻んでおけばと自身に考えと甘さに叱咤と後悔を塗りつける。
ことの顛末は数時間前に遡る。
その日も相方と共に『遺跡迷宮』の未開拓領域の探索へと赴いた。
モンスターと遭遇する頻度も少なく、順調に先へ奥へと進めていく。
そんな時、売れれば1週間分の食費が浮くほどの希少アイテムを見つる事ができた。
手にしたアイテムを確保したあと、相方からこれ以上は危険だと忠告されていた
けれどまだもう少し詮索できると慢心してしまい、そのまま深入りしていってしまった。
その結果、モンスターの群れに鉢会ってしまう。
最初の数体はどうにか倒せていたが、戦闘音やモンスター達の雄叫びに釣られて、徐々に敵の数が増えていった。
やがて二人では手に追えない状況に陥り、劣勢に立たされた末に戦略的撤退、即ち逃亡を余儀なくされる。
だが運悪く、逃げた先にいた他のパーティーが相手をしていたモンスターの群れにまで突っ込み、まとめて引き連れて来てしまう形になってしまった。
その挙げ句、相方とはぐれてしまう。
最終的には群れの大半を引き連れる形でモンスターの大群に、独りで、食い殺される勢いで追われる羽目になってしまっていた。
「(……泣いても、良いかな?)」
調子に乗っていた過去の自分を殴りつけたくなる。
だが"もしも”の未来へと今直ぐやり直す事が出来るものなら、皆苦労はしないだろう。
「(もう後の祭りな状況には変わらない、よな)」
そう結論づけて仕方なく背中越しに後ろを見やる。
改めて確認してみるが、どういうわけかさっきよりもモンスターが増えているようだった。
「(……?)」
目線を元の正面へと戻す。
きっとこれは見間違いだ。あわよくばこの状況もただの幻覚の類いだ。もしくは夢だったんじゃないのか。
『『ガァァァァアアアアアアアッ!!!』』
そう願いたかった望みも背後から聞こえてくる雄叫びによって打ち砕かれた。
「(ヤバい、まさかこんな状況になるってマジでヤバい!)」
狼型モンスター『ヘルハウンド』に続いて、蜂型モンスター『ハニービート』猪型モンスター『ワイルドボアー』そして後方には『ゴブリン』に『コボルト』等々。
どれも駆け出しの冒険者には少し荷が重いが、パーティーで挑めば難なく倒せる難易度のモンスター達だ。
だが数が目を疑う程に尋常じゃなく半端なものではなかった。
ぱっと見で、軽く三〇以上はいると断言出来る程の、圧倒的な数のモンスターの群れ。
その内の数匹が雄叫びを上げながら頭目掛け、足を狙って襲い掛かってくる。だが既の所で躱した。
「ひゃあっ!どこか、逃げ道!隠れられそうな所わぁっ!」
そんな事を律儀に叫びながら、視界をあちこちに巡らす。
自分が走っているこの大きな通路以外にはそれらしい所は見つからず、ただ視界から風景が前から後ろへと通り過ぎていくだけだった。
今はこちらのほうが速度は上回ってはいるが、追い付かれるのは時間と体力の問題だろう。
「だーもう!こんなつもりじゃ無かったのに、このままモンスターの腹の中でご臨終って絶対嫌なんですケドぉッ!!」
涙目になりながらそんな事を叫んでみたが、
『ヴヴォアアアアアアアアアアアアアッ!!』
―――モンスターの雄叫びが再び帰って来るだけだった。
「(……決めた、もう決めた)」
生きて帰って来られたら、お小遣い奮発して相棒と旨いものをたらふく食べに行く!
様々な感情が込み上げて目頭が熱くなるのを感じながら、そんな事を心の中で決意した。
そんな中、いよいよ体力の限界も感じ始めてきた時、唐突に今までと違う光景が自分を包み込んだ様な気がした。
「っ、ここは」
それは走っていた通路を抜けた先の、開けた空間が広がっていた。
向こう岸までは遠く、そして底が見えないクレバスのような谷底が視界に入り込んできた。
そして中央には大人が二人並んで渡れる程の幅で出来た石橋が、少し上り坂気味に架かっていた。
橋を渡った向こう岸には祭壇のような足場と、先へと続く通路を視界が捉えた。
橋の長さは目測でおよそ三〇メートル。他に障害物の様な物はなく、足を踏み外したりでもしなければ特に問題は無さそうだった。
今通って来た通路はモンスターの群れによって塞がれて、もう引き返すことは出来なくなっていた。
「もう、どうにでもなれ!」
他にコレと言った通路や逃げ道は見当たらず、立ち止まる訳にもいかないため橋を渡る事に決める。
石橋を突っ切きりながら、あとはどうにかしてやり過ごす打開策はないか必死に頭を捻るが、何も思い付きはしなかった。
仕方無しにもう一度肩越しに振り返ったとき、とある事に気が付いた。
「(………モンスター達が、立ち止まっている?)」
よく見るとあれだけいたモンスターの大群が橋を前にして立ち止まっていた。
しかもあれだけ群がっていたモンスター達のが数が半分以下まで減っていた。主に低難易度のモンスター達が来た道を急いで引き返していた。
まるでこの先に何か恐ろしい物でもいるのか。
それとも何か不吉な事でも起こる前兆なのか、残ったモンスター達は皆一様にこちらを追ってくる様子は無く、ただ唸り声を上げるだけだった。
その異様な光景にいったい何が起きたのかと、ついその場で立ち止まっていた。
―――その時。
『………~♪……~~♪~………』
「…ん?」
不意に何処からか綺麗な音色が聴こえてきた。
「(歌声……?)」
聴いたことのない旋律に意識を傾けていると。
[―――ゴゴゴゴオオオオオオオォォォォォォ]
まるで空気が震えた様な錯覚を与える、低く重い轟音が轟いた。
少しの間を置いて視界が、足元が、否、『ダンジョン』が大きく揺れた。
「おわっ、何だ地震か!?」
突然起きた異変に驚きながらも橋から踏み外さない様に踏ん張っていると、
[――――ギギギギギギィ]
まるで錆び付いた扉を開く様な、鼓膜を襲う金属的な音が地震の轟音と混ざって背後から聞こえてきた。
音の出所はモンスターの群れとは反対側の、これから向かう先にある祭壇のような足場の辺りからだった。
そこに目を向けると、先刻まで何も無かった筈の空間からうっすらと扉の様な物が現れていた。
「えええっ!?」
突如出現した扉は徐々に姿形がはっきりとしていき、完全に姿が現れた時には鳴動も後を追うように収まっていた。
「……えーと、何あれ?」
次々と起こる突然の異常事態に混乱も相まって、なんとも間抜けな声で口に出した疑問だった。
けれどそれに答える者は誰もいない。
先程までいたモンスターも揺れに巻き込まれて奈落の底に落ちたのか、それとも何処かへ逃げ失せたのか、今は静寂だけが包み込んでいた。
しかし、それは嵐の前の一瞬の静けさと同様に、それほど長くは続かなかった。
[ビキリッ!]
「……っ!?」
唐突に、今聞きたくはなかった不吉な音が鳴り響き、足元の石橋が揺れた、気がした。
[―――ビキビキッ!━━]
もう一度鳴った音と振動から、頭の中で瞬時に最悪な予感が脳裏に過り、危険信号が鳴り響いては額には嫌な汗が滲んできていた。
指先からは熱が引いて、代わりに感覚が麻痺していくような、嫌な錯覚に襲われた。
[――ビキビキッ、ビキガガッ!]
それでも耳は、直感は、心情とは裏腹にしっかりとその役割を全うしてくれていた。
[―――――ガガガガガガガガッ!]
そして当たって欲しくない予想が無慈悲に的中していくその音は次第に大きくなり、轟音へと変わって橋の揺れはそれ以上に激しくなった。
[――――ガラガラガラガラァッ!!]
自分が立っている場所まで橋の崩落が迫って来ていることは、振り向いて確認しなくとも充分理解できる。
そして、自分は次に何をすべきか。
それをコンマ数秒で否応なく判断していた時にはもう通路の先へ、祭壇の方へと全力で、死に物狂いに走り出していた。
「でぇぇぇええええああああああああああああっ!!!」
声と同様に脚が悲鳴を挙げ、肺が痙攣でも起こしたかの様に呼吸のリズムも乱れる。
恐怖と焦りで心拍数が上がり、身体中に不快な汗をドバドバと発汗させていく。
首筋や背筋には悪寒とでも言うべき薄ら寒さを感じる。だがそれでも脚は止めず一歩、又一歩と繰り返し前へと突き出した。
「(ヤバいヤバイやばい落ちる死ぬ堕ちるシヌしぬってもう無理です死ぬぅっ!!!)」
橋から落ちれば命は無い。そんな状況で何かを考える余裕も余力も何処かへ消え失せていた。
ただただ目の前の道へ、その先へと向かう為に、橋を突っ切る事だけを考え我武者羅両腕を振りかぶった。
「あと少しっ、あと少しぃい!」
向こう岸まであと十メートルを切り、残りの体力を振り絞り駆け抜ける。
橋の崩れが足元まで追い付き、瓦礫の崩れる音が背後から打ち上がった。
「だぁあっ!!」
残り最後の体力と気力を共に脚力へと込めて、最後の足場を全力で蹴りつけた。
「とどけぇぇぇえええええええっ!!!」
盛大に叫ぶと共に、間一髪の所で向こう岸へと飛び移った。
飛んだ勢いで数回転がり、受け身をとる事も出来なかったが、無事にたどり着くことが出来た。
「………ハァッ、ハァッ、ゼッハァッ………ゲホっ間に合った、ハァッハァ……助かったぁ!」
疲労と安堵の混ざった声を上げると、その場に足を放り出して大の字になっていた。
もう腕も足も上がらなかった。呼吸するために胸が上下する事以外は何も出来ず、横っ腹は差し込む様な痛みを訴えてくる。
そして時間が経過して呼吸を落ち着かせると、体を起こして改めて橋の全容を見た。
先程まで渡っていた石橋は元から無かったのではないかと錯覚する程に、それはもう綺麗丸ごと見事に崩れ落ちていた。
残るのは、恐怖心を煽る闇が潜める深い谷底だけだった。
もし先程の橋で崖に落ちていたら、もう御天道様に合間見える事なく骨身の死体に成っていたかもしれなかった。
「―――ハハッ」
もしもの結果になっていたらと思うと、恐怖からか、それとも安堵からなのか、想わず笑い声が喉から口へと漏れ出ていた。
立ち上がり自分と壁までの開けた空間。何かの儀式でもしていたと思わせる祭壇の中央部に、先程現れた扉を改めて見てみた。
「これは……」
高さ3メートル程の長方形、所々に金が混じり少し年期の入った頑丈そうな扉だった。よく見てみると、扉は宙に浮いていた。
近付いて少し触れてみたが大した反応が有るわけでもなく、よく見てみると何語か解らない文字が細々と書いてあった。
そして裏側も見てみたが表と大して変わりなく、コンコンとノックの様につついてみた。
だがこれまた無反応であったり、開けてみようと押してみるがびくともしなかった。
秒針が何周か回った頃。あらかた観察してみたが、結論から言うと謎の一言に尽きるものだった。
なぜいきなり此処に現れたのか、ダンジョンが大きく揺れたのは扉と何か関係が有るのか。
その二つの主な原因とこれは関係が有るのか、そもそも一体これは何のか。
頭の中で似たような疑問が往来していったが、結局「解らない」という結論しか出てこなかった。
この扉の他に通路や抜け道はないかと辺りを見回すが、奥の壁に見える通路以外にそれらしいものは見付からなかった。
目の前の扉を放っておく事も出来るが、周りの祭壇とこの扉の模様といった装飾が一致している点が気にかかった。
祭壇での儀式の要。この場所とこの扉、その2つを用いて何かの催しでも奇跡でも起こすつもりだったのか。
先程は死の淵から逃げていたから気にかける余裕もなかった。だが、今では何故か気になってしまい、なかなかこの場から離れる気になれなかった。
こんな得体の知れない物には関わらないのが得策なのだろう。
すぐに相方と落ち合って地上へ戻るべきなのだろう。
だが何故かこの時、帰還よりもこの機会を逃せばきっと後悔する、そんな自分でもよく解らない直感の様な衝動に駆られていた。
だから、その場を後にするための一歩が踏み出せなかった。
――その時。
『……~…、…~♪、ーー~♪』
「ん、またあの音色?」
不意に綺麗な音色を纏った歌声が聴こえ、その音の出所は何処かと探ろうと耳を澄ました。
するとまるで手のなる方へと言われてる様に素直に音の方へ視線を向けると、音の出所は目の前の扉からだった。
歌声に呼応するかの様に、今度は扉の隙間から光が差し込み所々に描かれた文字は白く輝き始めた。
そして扉の周りの祭壇にも変化が現れた。
「……、これは?」
扉を中心に、厳密には扉から聴こえる歌声に共鳴するように、空気から、地面から天井から光の粒子が現れ、引き寄せられてきた。
別段何かしたわけではなかったが、気に掛かっていた物体にまたもや何かしらの反応が現れた。
この先にはきっと何かが待っている。
それこそこの先の運命をも変える程の何かが。
そんな予感と期待が混ざった好奇心に釣られてしまい、心の中の小さな理性が警告する。
だが構わずもう一度、今度は躊躇無く強く扉を押した。
「ん~よい、しょっと!」
[――バンッ]
すると今度はあっさりと開き、風が勢い良く開いた扉の先へと粒子と共に吸い寄せられ、流れていった。
体の重心が前に傾き、足元の扉の敷居に足が引っ掛かり風の勢いが背中を押す。
躓く形で前のめりに倒れ掛かかり。
「アレッ?」
鳩尾辺りを嫌な圧迫感が襲い、肺を押し上げ中の酸素を一気に吐き出させた。
それに伴い声帯が震えて思わず間の抜けた声をあげながら、扉の奥の景色が視界に入り込んだ。
世界のすべてがスローモーションになって、まるで自分だけの時間を得ているかの様な錯覚に囚われた。
よく考えてみれば明らかに怪しさ満点の異常物体なのだ。
次に何が起こるのか解らずとも、そもそもこんな得体の知れない未知の物体ならば何が起きようと不思議ではない。
思えばあの歌声や光は見え透いた罠だったのではと、今にしてみれば安易にそう考えられた。
頭の中では今日の様々な出来事や、今を含めた失敗等が矢継ぎ早に脳裏を過っていく。
そして最後は直感や運命などと頭のイタイ人間が言いそうな、それっぽい絵空事を鵜呑みにしていなければ。
そう思うと、改めてその時の自分を張り倒してやりたくなった。
だが後の祭なのは変わらなず、色々な事が頭の中で往来していたが気付けば相方の顔が浮かんでいた。
「(………アイツに何て言えばいいんだろ)」
相方と最後に交わした言葉もろくに思い出せない。
まさかこんな終わりが待っているとは、図々しくも露程にも思っていなかった。
扉を潜った先には別の空間に繋がっていた。
自分は今地下空間にいる筈なのに、眼下には青空を思わせる明るい青色の虚空が広がっていた。
そして目線を下げるとその先には地上が見えていた、ここから地面までざっと見で数百メートルの高さがあった。
……まさか運命を変えるどころかバッドエンドを自らの手で迎える形になってしまった。間抜けも良いところだ。
そして自分はこのまま、この高さから落ちて呆気なく、いとも簡単に、必ず迎える結末が容易に想像が出来た。
「……はは、笑える程笑えないな、ちくしょう」
と最後は何ともしょうもない事を涙目で呟き、後悔の念を抱きながら落っこちていった。
―――「1名様ごあんなーい♪」
*◆*◆*◆*
人生初の文章、お話しを書きました、つっても書いたり消したり書いたり消したりの繰り返しですケドσ(^_^;)
読んで貰えると有り難いです。