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1章:公爵令嬢と社交会デビュー

クロスフォード王国の建国祭の前日に届いた盛装に、第2王子であるデュークは困り果てていた。


 

贈り主は自分の後見人であるカティス・トゥエラ公爵。父親である王とほとんど会ったことがないデュークにとって、父親のような存在である。

贈られてきた盛装は、デュークの漆黒の髪によく合う同色の生地で、金糸で縁取られ、白いスカーフを止めているタイピンは、彼の夜を溶かし込んだような深い藍色の瞳のような色をしていて美しい。軍服のようなデザインは華美すぎず、デュークの好みのものだ。

それならば、なにが問題であるのか。

デュークが気にしているのはそのデザインではない。その用途だ。

「今更盛装なんて贈って、あの方はなにを考えておられるのだ?」

訓練所で部下たちの勇士を眺めながら、一人ごちる。

自慢ではないが、デュークは滅多に公の場に顔を出さない。それは建国祭のような大きな行事と言えども例外ではない。理由は、まぁいろいろとあるのだが、それはカティスも了承済みのはずだ。なぜ今になってこんなものを贈ってくるのか。

「決まっているだろう。明日のパーティーに出るためさ。」

事も無げに答えたのは、同僚であり、友人であり、兄貴分であるクラヴァンスことヴァンだ。それと同時に彼はカティスの長男でもある。同僚と言うのは、デュークが王子であるにもかかわらず、王立騎士団に所属しており、ヴァンが暁部隊の部隊長、デュークが白夜部隊の部隊長を勤めているからである。

男の汗くさい訓練所とは明らかに違う空気をまとい、相変わらずの甘いマスクでにっこりと微笑む。一見優美で中性的な顔立ちであるが、引き締まった身体故か、どことなく男らしい。この国の貴族らしい金髪碧眼は彼の美しさを引き立てて、醸し出す無駄な色気は鬱陶しいほどだ。

先程からこちらを見て顔を赤くしているメイドたちをひと睨みで追い払って、デュークはため息をついた。

若い娘なら悲鳴をあげかねない美青年だが、残念ながら男であるデュークにとっては面倒くさいことこの上ない代物である。この男の垂れ流しの色気で、メイドや貴婦人たちの視線が鬱陶しくてたまらないのだ。

デュークは特に気にしたことがないので知らないが、デュークはヴァンに劣らない容姿をしている。少し癖のある漆黒の髪と深い藍色の瞳はこの国では珍しく、落ち着いた表情は陰があってステキ!と評判である。

メイドたちの視線はデュークの容姿のせいでもあるのだが、気がつかないほうが幸せといえよう。彼女たちは、デュークとヴァンがただならぬ仲だと噂しているのだから。

垂れ流しの色気の弊害である。

気を取り直して、デュークはヴァンに反論した。

「俺は行かないぞ。申し訳ないがカティスにもそう伝えてくれ。」

喩え恩あるカティスの頼みといえども、そればっかりは聞きたくない。

「しかしなぁ、いいのか?明日の建国祭は、我が麗しき妹リティエラの社交会デビューだというのに。」

そんな事聞いてない。

ヴァンが投下した爆弾発言に、デュークは耳を疑うしかなかった。

リティエラはカティスの娘でヴァンの妹、デュークにとっては幼なじみの少女である。

「なに、っという言うかまだだったのか!?」

デュークが驚くのも無理はない。

彼女はすでに16才。この国の平均的な社交会デビューは12から遅くとも14才。普通なら嫁に行ってもおかしくない年齢なのだ。

「まぁ、知らなくても無理はないか。騎士団に入ってから6年間、お前はずっとリティを避けているのだからね。」

ヴァンが意地悪く言うのにも理由がある。彼は何を隠そう、度が過ぎる程の妹至上主義者、いわゆるシスコンなのである。ヴァンからしてみれば、どこからどう見ても可憐な妹を避けようとするデュークが信じられないのだろう。どこから見ても完璧な彼の顔が、リティエラと言うときにデレデレとだらしなくしまりのない顔になったのは、そのためである。

デュークとしても、リティエラのことは憎からず思っている。美しく可憐で、賢く優しい。そんな彼女に、ただの幼なじみとしてではない感情も抱いている。

だが、だからこそ彼女を避けるようにして騎士団に入隊したのだが、ヴァンはそれが気に入らないようだ。

「ついでにもう一つ教えてやろうか。我が妹が社交会に出ないは、頭の病気だの、人前に出るのがはばかられる顔だのけしからん噂があったんだが…。」

と、ヴァンは甘いマスクを信じられないくらい歪めた。彼は妹が絡むと、見境がない。今も鬼のような形相をして、音を立てて舌打ちしている。

「その噂のおかげで今回の建国祭での社交会デビューは、注目の的だ。」

その鬼のような表情を変えず、ヴァンは憎々しげに呟く。

「つまり、なにがいいたいんだ?」

何となく、予想はできている。リティエラは美しい。6年たって、きっとさらに美しい少女になっただろう。ただでさえ注目を集めている彼女は、その美貌で人々の視線を独り占めするのだろう。

「いいのか、お前は。リティが…どこかの馬の骨に、たっ誑かされても…!!」

ヤケにどもったのは言いたくなかったのだろう。大切な大切な妹が誑かされるなんて。

その言葉にはデュークも真っ青になった。

リティエラが誑かされる…?

冗談ではない。

デュークにとっても、リティエラは大切な大切な少女だ。汚してしまうのが怖くて、必死にこの6年間耐えてきた。会いたいと手紙が来ても、今忙しいとそっけなく返し、諦めようと必死に必死に避けてきたと言うのに。

結局は、リティエラが誑かされるというたった一言で、社交会のことも、諦めようとしたことも全て忘れ、デュークは建国祭に参加することにしたのである。



次回、根暗王子が長々と回想に入ります。

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