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プロローグ
今年も、白い薔薇が庭園を埋め尽くす。
むせ返る白い花の匂いに吐き気がして、デュークは庭園に面する窓をピシャリと閉めた。
閉めた窓ガラスに映る自分の漆黒の髪から、デュークは鬱陶しそうに目を逸らした。
この国の貴族には黒髪などいない。
王族でありながら、その特徴である金髪碧眼を持たない自分は、この国にとって異物だ。ましてやこの夜のような暗い藍色の瞳など。
窓を閉めても漂う白い花の残り香に、デュークはめまいを感じた。
この白い花は、病気を患った白い母の顔を思い出させるのだ。
そしてこの庭で出会った、触れることも許されない大切な少女を...。