アダバナ
これもオムニバス的なものの一部。しかも未完。
『徒花』『婀娜花』『仇花』『空花』…全部『アダバナ』と読ませて、それぞれの意味に合った話を書こうかなって思ったんですけど、力尽きました。
それは本来ならば、咲くこと自体を望まれなかったはずの花でした。
「好きな人ができたんだ」
そう言って頬を赤らめる彼女を、僕はまるで他人事のように、ただ茫然と見ていた。腫れ物のようにじくじくと痛みだす胸には、気付かない振り。
――本当は、気付いていたけれど。
僕は親身になる振りをして、彼女の話を聞く。
僕には決して向けられないであろう笑顔と、とろけるような甘い声で紡がれるのは、僕ではない誰かへの一途な恋心。どんな関係だとか、どんな風にして出会ったかとか、どんな特徴を持った人だとか……どんなところを、好きになったとか。
そんな話を次々と耳に入れさせられた僕は、焼けつくような胸の痛みに耐えながら、『恋愛相談に親身に乗ってくれる、よい友人』の仮面を決して外さない。そして……僕の気持ちなど微塵も知らない彼女に向けて、思ってもいないことを口にする。
「きっとその人も、君のことを好きになってくれるよ。だから頑張って。うまくいくように、応援しているからね」
いつしか心に咲いていた、彼女への恋心という名の花は、きっと実を結ぶことなど叶わない類のもの。むしろ……咲くこと自体、そもそも許されなかったのかもしれない。
なぜなら彼女は、僕のことを単なる友達としか見ていないから。
僕が彼女を想うように、彼女は僕を想ってくれない。そんなこと、最初っから分かっていたんだ。
だから、この気持ちだけは後生隠し続けようと誓った。彼女が思う通りの、望む通りの関係性でいいから、せめて傍にいたかった。
たとえ、それが自分自身を苦しめ、追いつめる選択だったとしても……彼女の近くに存在することすら叶わなくなってしまうよりは、ずっといい。