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途中小説集  作者:
6/54

中庭の二人5:浅川先生と折原先生

未完成オムニバス、同僚教師編。

 校内の一階廊下、東側の大窓。

 煉瓦模様のアスファルトの向こうに広がるのは、草原と呼ぶにふさわしい緑一色の広場だ。中心部にはぽっかりと大きな穴が開いており、そこに丸い形をしたプールのような水槽が埋め込まれている。常に透明な水が満ちているその中では、色とりどりの鯉が無数に泳いでいた。

 落ち始めたオレンジの太陽に照らされた光景は、美しくも堕落しつくした奇妙な楽園のようで……。

 アスファルトと草原のちょうど境目のところに置かれた朱色の古びたベンチに、人影を見つけた。その姿は逆光を浴びて暗く、まるでシルエットのようになっている。

 気になって、控えめにそっと大窓を開けてみた。カラリ、という小さな音とともに、生温い風が吹き抜ける。

 ぺたり、ぺたり……。

 校内用のスリッパの音が、アスファルトを蹴る。音と気配に気づいたらしい相手が、ふと顔を上げた――らしかった。煙草をくゆらせているのか、手元と思しき部分から一筋、身体に悪そうな色をした煙が立ち上っている。

「折原先生?」

 相手の声がした。よく通る、けれどほんの少しだけ掠れた特徴的な低い声に、ピクリ、と無意識に耳が反応する。

「……浅川先生、ですか」

 とくり、と鳴る心臓の音に気付かぬ振りをしながら、相手に問いかける。ふ、と相手が笑ったような気配を感じた。

「よく分かりましたね」

 もう一歩、足を踏みだす。先ほどと角度が変わり、夕陽に照らされた先客の顔が今度ははっきりと映し出された。

 こちらを見ながら、目尻に皺を寄せ微笑んでいるのは、そろそろ齢四十に差し掛かろうとしている(と、噂で聞いた)社会科教師の浅川先生。色素の薄い髪に少し白髪が混じっていて、それがオレンジ色の光を吸収していつもより輝きを増している。

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