中庭の二人3:浅川事務員と折原先生
引き続きオムニバス(未完成)
事務員と女教師編。
校内の一階廊下、東側の大窓を何気なく覗く。
煉瓦模様のアスファルトの向こうに広がるのは、草原と呼ぶにふさわしい緑一色の広場だ。中心部にはぽっかりと大きな穴が開いており、そこに丸い形をしたプールのような水槽が埋め込まれている。常に透明な水が満ちているその中では、色とりどりの鯉が無数に泳いでいた。
よく晴れた空の下、太陽に照らされてきらきらと輝く中庭は、まるで現実味のない遠い世界の楽園のようで……そこで伸び放題になっていた雑草を慣れた手つきで刈っていた作業服姿の男性は、本来なら異質なものとして映るはずだった。
それなのに、彼の姿は楽園の中に自然と溶け込んでいて。この風景を切り取って一枚の絵に収めてしまっても、きっと違和感なんてないだろうと思えてしまうほどだった。
吹き抜ける風にそよぐ、色素の薄い髪。長時間陽に当たっているはずなのに、ほとんど焼けていない繊細そうな肌。華奢なようでいて、肉付きのしっかりとした腕。軍手に包まれた大きな掌だって、きっと作り物のように整っているのだろう。
紺色の作業服の上から肩に掛けている、水色のラインが入った白いタオルで、時折汗を拭う。その仕草すら、様になっていると思った。
大窓の隣にある、小さな窓にそっと手を伸ばす。カラリ、と開く音に気付いたのか、それまで黙々と鎌を振り上げていた男性は、ふと顔を上げた。陽の光を受けキラキラと光る、鳶色の瞳が目の前に飛び込んでくる。
不思議そうにこちらを見る彼に、そっと微笑みかけた。
「お疲れ様です、浅川さん」
「……折原先生」
彼――この学校で事務員として働いている浅川さんは、目を丸くしながら私の名を呼んだ。
「授業は?」
「今はちょうど、空き時間で。どこのクラスの授業も入ってないんです」
生徒に人気の笑顔を絶やさぬままに答えれば、笑みを浮かべた相手が返してきたのは「そうですか」と何ともそっけない答え。それでも話ができたこと、それに私を知っていてくれたことが嬉しくて、私は「はい、そうなんですよ」なんて思わずはしたなくも弾んだような声を上げてしまった。