中庭の二人2:浅川先生と折原さん
ここから未完成品。
前作とは舞台と登場人物名のみ同じですが、登場人物の立場とストーリーが異なるという感じです。
男性教師と女子生徒編。
校内から中庭へ出るところに、煉瓦模様のアスファルトが敷き詰められている。その奥には草原が広がっており、中心部には丸いプールのような水槽が埋め込まれていた。
夕暮れ時、オレンジ色の帳が降りた中庭は、落ちる寸前の太陽に照らされキラキラと輝いている。もしこの世に楽園というものが存在するのなら、きっとこんな世界なのだろう。
夕焼けのような色の古びたベンチが置かれているのは、アスファルトと草原のちょうど境目のところだ。校内の窓から覗くと見える位置ではあるものの、普段から中庭の様子など気に留める者はほとんどいないから、案外見つかりづらい。
授業が終わってからずいぶん経っているこの時間、中庭付近の一階廊下には人通りがほとんどない。他の生徒たちは各々部活に行ったり家に帰ったりしているのだろうし、先生たちは部室ないし職員室で仕事をしているのだろう。
そんな頃にわたしは独り、中庭にポツンと佇むそのベンチでぼんやりと過ごす。いつの頃からかは忘れてしまったけれど、それは今や日課となっていた。
その日も、オレンジ色の温かな光に包まれた楽園を眺めながら、わたしはベンチに腰かけていた。いつもは喧騒に満たされているはずの学校なのに、この時間のこの場所だけが違う次元にあるみたいだ。
この異次元は、わたし一人のもの。わたししか、この楽園を知らない。
その時までは、確かにそう思っていた。
なのに……。
「こんなところで何してんだ、折原」
カラカラ、と大窓が開いた音がしたかと思うと、不意に無骨で低い声が聞こえた。何事かとすぐさまそちらに目を向ければ、見知った姿に思わず顔をしかめる。
「……浅川、先生」
そこにいたのは、わたしのクラスの担任である浅川先生だった。開け放した大窓のサッシに、右半身を預けながらポーズを取っている。色素が薄く指通りの良さそうな髪が、そよぐ風に靡いてさらりと揺れる。全体的にバランスの取れた長身が、夕陽のオレンジ色に包まれて、憎らしいほど綺麗だと思ってしまった。
「お前、帰宅部だろう。帰らないのか」
「先生には、関係ないでしょう」
いくら担任とはいえ、自由時間である放課後の行動まで指図される覚えはない。そう言外に込めつつ、上部に位置するその顔をじろりと睨めば、浅川先生は愉快そうに唇の端を吊り上げた。
「ふぅん……大人しいと思っていたのに、なかなか言うじゃん」