中学校……公立ですが?
6年後、ようやく『お金持ち』な生活に慣れてきた。
厳密には2か月ほどで慣れていたが。
丁度2年前に車いす生活が終了。けれどもこの体は軟弱のようで、100m走るだけで死にそうになる。
どうにかこうにか、運動量を上げた結果、ようやく1000m完走できるようになった。かなり遅いけど。
で、今ようやく中学3年。
小学校時代はもう、しつこいくらいに色々な餓鬼が媚を売ってきたものだ。
それにイラッときて、祖父母に無理を言って家から一番近い公立の中学校へ進んだ。まぁ、高校はまた金持ち学校に通う約束になったが。
この体も随分と慣れてきて、習い事の合間にサッカーの練習をメイドの百夏としている。
百夏はウチ、白雨院家に代々使える家令の血筋で私と同い年の美少女である。
大事なことなので2回言う。
美少女である。
従順でおっとりしていてスタイル良く、正確も良いしかも家事万能の美少女。
モテないわけがない。
この学校ではあまり積極的に係らないようにと命じているものの、事あるごとに係ってくる。
嗚呼、何この可愛い生物。
―――揺らぐんじゃない、私の理性!
これでも元男なんだ、6年も前のことだけど!
そこら辺のカッコいいとか噂になっている男子?何それ興味ありません。
そんなことだったら百夏を眺めています。
「……天白さん、鍵お願いしますね?」
「あ、はい」
急に声をかけられてビビる私。
現在の仕事はもっぱら図書委員。中学校3年間図書委員をしているので、大抵の本のありかは分かっている。
そして、基本的に私が教師から許可を持らい居るのが図書予備室。
古くなった本が主に置かれている所で、清掃した結果、立派なテーブルとイスが出てきたのでそれを利用してこの部屋でいつも時間をつぶしている。
何故時眼をつぶす必要があるかと言えば百夏の生徒会が終わるのを待つためだ。
この公立高校には自身の名字は伏せて『天白』という苗字で通っている。
結構白雨院の名は強いらしい。最悪拉致される可能性もあると言うことで、苗字を伏せている。
この時間を潰す、ための良い本を見つけた『陰陽入門』
完全に大昔の本で、文字も書道で培った技術無くしては読めないレベルの達筆。
霊符、なんだそれ?とか言うものから、神をこの世の憑代に憑依させるシキガミ。なんとも心躍る言葉が満載である。
これでもファンタジーとかSFとか大好きだ。
主に体が不自由だから本や勉強に意識を向けた結果だけど。
習い事は主に和の方よりで、書道、茶道、合気道、洋琴、琴。
後、完全なる趣味でギターを少し。
金持ちで良かった、10のことの一つに入るかもしれない。
「遅くなって申し訳ございません、静流様」
「主扱い禁止と言ったはずですが?」
「で、ですが、私は―――――はぃ、ごめんなさい」
ちょっと人睨みをすればしゅんとする。
嗚呼、可愛い。
この娘、食べても良い?
荒れ狂う私の理性を押さえつけ、無表情に徹する。
「それじゃ帰りましょうか」
「はい♪」
癒される。
もういいや、百合ルート進もう。
そんなことを考えながら職員室へ図書準備室のカギを返し行き、職員室から出たところで、サッカー部期待のエースこと、同じクラスの瑞樹幸平と出くわした。
「あ、あの天白さんは今から帰り?」
……何故、会話をするときにどもる。
しかも会話するときどもるのは完璧美少女の百夏だけだろう。
「はい、これから帰宅ですが」
「あ、あの一緒に帰らない?」
なんかフラグ立ってないか?
いや、こんな黒髪をセットするもこともなく、適当に結んである上に、わざと似合わないメガネを装着し、基本マスクを着けているような私のどこにときめく要素があるんだ?
ちなみに、毎朝百夏にセットされそうになるが、全力で逃げています。
「いいえ、帰宅は迎えの車ですので」
いや、この丁寧口調にやられると言うことはないだろう。
「あ、うん、変なこと聞いてごめんね」
「お気になさらずに」
何故“しゅん”とする!?
明らかに犬の耳としっぽの幻影が見えて、力なく垂れさがっているように見えるんだが……
158㎝の私より身長高いのになぜか小さく見える。
「それでは、さようなら」
「あ、うん。さようなら!」
そして何故挨拶するだけで尻尾を振る!(*尻尾は幻覚です)
なんだか後ろ髪を引かれながら、私は校門で待つ百夏のの元へ早歩きで向かった。
自宅に帰るとひたすらベースの練習。
百夏が、ドラムやりましょうか?と言うのでお願いしたら、何と言うかあっさりと叩いてしまっている。
まぁ、何故ギターなんて始めたかと言えば男の夢と言うか、何と言うかで自分は男であった、と自覚させるために引いているようなものだ。
それと対照的に洋琴、つまりピアノを演奏するのは祖父母からの女らしさを持ってほしいとのこと。
精神年齢がおっさんになっている私にそんなことは言わないでほしい。
ちょっと大人びた女の子や、元気な女の子に目を奪われるようなおっさんですよ?
――この言葉遣いは百夏がどうしてもと言うのでこうなったと言っておこう。
しばらくすると屋敷のメイドさんが夕食の準備ができたと教えてもらったので、それで、一度身なりを正してからランチルームへ向かう。
何故、身なりを直すかと言われれば祖母が化粧とか云々にうるさいのだ。
一応、化粧水とか最低限のことはやっているが、それでも祖母は華を咲かせたいらしく、髪とかをよく弄ってくる。
雑に縛られた髪をほどいて、ブラシをかけしっかりと延ばしておく。
……いつも思うのだが、なんでこんなに雑に扱い、最低限の事しかしてないのにこの髪は枝毛無く、綺麗なくと濡鴉色をしているのだろうか。
そして、いくらご飯を食べても太らないし、日焼けもしてるかしてないか程度しかしない。尋常じゃない不思議体質である。
前髪を一応、ピンで留めておく。
鏡を見ると両方黒目ではあるんだが、片目が若干赤く変な感じがする。
最後に家用の母がデザインしたと言う服(スカートとか落ち着かない)に着替え、向かう。
夕食をいつもと同じたわいない話をして、終わった。主に学校生活のことを色々と聞かれる。
言葉遣いも威厳のあるものだが、言葉の意味を考えれば怖いとか、恐れることは何ひとつない孫思いの優しい祖父母である。
午後8時ごろ、電話が来た。
現在、絶賛海外にいるらしい両親はちょくちょく連絡をくれる。
時々、姉の和の声も聞こえテンションが高いことを知る。
朗報と言うかなんというか、高校生活では和と一緒に過ごすことになるらしい。 もうすぐ日本に帰ってくる目処がついたのでそれを機に和もこっちの高校へ転入するらしい。時間的には4月か5月。
それを聞いた瞬間、ちょっと頭痛が走った。
それに何の問題もない、と答え向こうのことを聞いて電話が終わった。
一時間弱も話をしてしまった。
その後、時刻的にも寝ないといけない時間なのでお風呂に入り(途中で百夏が背中を洗いに入ってきて、シャワーの蛇口をひねる方向を間違いびしょ濡れになり、急遽一緒に入ることになり若干理性が崩壊しかけるもののどうにかしのいだ)
そのまま、どこか頭に痛み残し、痛みで気絶した。