お題『ピザ』
「だからぁ、なんで四角いのよ、そこは普通丸く作るところでしょ?!」
「どうして? オーブンは四角いんだし、四角く作った方が大きく作れるし分ける時も同じ形に切り分けやすい。合理的だろ?」
「ほらまたそうやっていつも合理的合理的って、みっちーはロマンってものが分かってないよ。あの三角形の端から具が落ちそうになるのを「おとと」ってなりながらも慌ててぱくりといくのがいいんじゃないの!」
「それこそ理解不能だね。わざわざ具が落ちやすい形に切るなんて我慢できない。それとみっちーって呼ぶの止めてくれって言ってるだろ、せっちゃん」
「そっちこそ器用にコロコロ呼び方変えるのやめてよ、外では他人行儀に「瀬戸内さん」とか呼ぶくせに!」
「おかしな詮索をされるのは時間の無駄だから。第一、むさ苦しい野郎どもにまでみっちー呼ばわりされる身にもなってみてよ──って、ああほらまた話がずれた。どうでもいいから早く食べよう、冷めたらもったいないよ」
「どうでもよくないから怒ってるんでしょ! ああもう、どうしていつもこうなっちゃうの。最初は何だって完璧に意見が合うのに……っ!」
「……クラフトは厚めのナポリ風で」
「荒く切ったマッシュルームとアンチョビ。もう一枚はシーフードをホワイトソースで……」
「チーズはゴーダとチェダーのダブルチーズ、これは譲れない」
「完全に同意──なのに、それで何で最後に四角くなっちゃうのよ! あと焼くだけだから任せたのに…ちょっとお酒買いに行っただけなのにこの仕打ち……」
「そもそも仕打ちっていうほどのことかなあ、せっちゃんってどうでもいいことほど本気になるよね」
「どうでもよくないの。夢とかロマンとかお約束とかがあるの。寒いなか重いお酒抱えて、でも帰ったらアレが食べられるんだって頭の中に描いてたものが知らないうちに変わってしまってる悲しみをどうして分かってくれないの?!」
「どうもこうもまったく分からないけど……そんなに嫌なもの? その、お約束ってのが守られてないと」
「嫌に決まってるじゃない」
「そっか……分かった。本当は僕も四角にする合理性にはこだわりたいところだけど、そんなことで口論になるほうが無駄だと思うからここはせっちゃんに譲ることにする。今後ピザを焼く時は丸く焼く。四角くしない。ところでせっちゃん」
「…………なによ」
「譲ることを覚えた僕からひとつお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな」
「だ……だからなによ。言っとくけどピザのこと譲ったくらいでなんでも言うこときいたりはしないんだからね? これまで何度となく喧嘩して最後まで解り合えなかったこと忘れてないんだからね?」
「うん。分かってる。だけど結婚しよう?」
「はい?」
「……返事がない」
「~~~~ッ、ってか返事のしようがないわよ、なんで急に結婚──っていうかなんで私と!!!」
「どうでもいいことにこだわるのが面白いから」
「んな!?!」
「そこにこだわることで何が生まれるのかまったく理解できないところに信じられないパワーを使ってるのが興味深いから」
「なんなのそれ、ほめてないから……ほめてないですからね?!」
「ほめてないですけどそれが理由ですから。それに、そこまで言うなら譲ってあげてもいいかなって思える相手なんてせっちゃんしかいないから」
「…………」
「どうせ結婚式にも住むところにも生活のルールにもよくわからないこだわりがあるんでしょ? そういうの僕じゃない誰かにキャンキャン要求してるのなんて想像するだけで虫唾が走る。だったらできるだけ譲歩するから僕のお嫁さんになってください」
「…………虫唾って……譲歩って……」
「せっちゃんって昔からびっくりすると相手の言うことオウム返しになるよね」」
「う、うるっさい! 誰のせいでびっくりしてると思ってるわけ?!」
「お返事」
「う……」
「せっちゃん、お返事は?」
「……次のピザ丸く焼いてくれるなら考えとく」
「了解」
「あと、このプロポーズは納得いかないから再度やり直しを要求します」
「それはどうかなあ、プロポーズの二回目なんて不合理じゃない? 僕の要求はもう伝わってるんだし──」
「あーーもーーー!!
時間制限に悩んで会話オンリーにしてみた、ずるいとか知ってる。