表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第三章〜邂逅〜

 テュワー一二階臨時設置室――

「それでは只今より、TOUA機関説明会を始めます」

 部屋の一番前においてある、大きな木造のデスクに手をついている男が言った。

 男はテュワーの正装である、聖職者が着込んでいる様なダークスーツを身に纏い、その長身と眼鏡越しに見える冷たい瞳から近寄りがたい雰囲気を放っている。

 影山麟角。それが彼の名である。人材教育部部長という地位にある。

 そして今、彼は前方に並んだ見慣れぬ面々を見回している。まだ十代半ばくらいの少年や四十代位の男性、影山同様冷たい目をもった女。

 その面々は色々だった。海下もその一人だった。

 色々な年齢の面々があるが、彼らには一つだけ共通点がある。テュワーに入ったばかり、ということだ。

 人材教育部部長である影山は、テュワーのことを説明するためにこの面々を集めた。まだテュワーに入ったばかりの彼らは、ここのことを全くといっていいほど知らない。

 いや、世間一般的情報程度は下調べしているのだろうが、本当の姿は公に出されている情報とまったく違っている。

 だからこうして影山はテュワーに新しく人が入るたびに説明会を開いているのだ。

「それでは、資料の三ページを開いてください」

 彼らは資料を開く。三ページには挿絵もなく、つらつらと文字が並んでいるだけだった。

 海下も資料を開いて文章をちらりと覗くが、見たことも無いような単語が幾つか並んでいることに気付いた。影山は平坦な声音で文字を読み上げる。

「TOUAとは、The Organization Using Atomicの略で、“アトミックを使用する機関”という意味です。これがTOUA本当の略ですが、世間一般には、The Organization which has decisive power and the right to be Used to Japan-U.S. military Affairs、で“日米軍事に対しての決定権、使用権を所持している機関”とされています。アトミックというものが国家機密情報であり、外に漏れてはいけないということから、フェイクの意味が使われているのです。その証拠に、貴方達の中にアトミックという単語の意味を知っている方はいないはずです」

 そこで冷たい目をした女が手を上げて、立ち上った。自信に満ちた、小さな笑みを浮かべていた。

「知っています。英語で、原子という意味です」

 影山はそれにため息をついて、目を伏せる。そして呆れた様な、どこか憐れみを含んだ様な声を出言った。

「はいはいありがとう、高崎君。そんなのに即答できて、自分の評価が上がるとでも思ったのか? 国家機密情報が単なる英単語なわけが無いだろう? 少し黙っておけ」

 高崎は不服そうに目を細めて、静かに椅子に座った。影山はデスクにもたれかかり、頬杖をついて神妙な面持ちで続ける。

「それではアトミックというものがどういうものか、説明しましょう」



「影山さぁん」

 説明会も終わり、影山は一服しようと喫煙コーナーに向かっていた。その途中、後ろから気の抜けた様な声と、ばたばたという足音が聞こえた。

 影山が振り向くと、そこには案の定手を振るって走ってくる海下がいた。

 彼は息を切らせながら、影山の横に並んで歩みを緩めた。

「いっやぁ、流石影山さん。今日の説明会は最高でしたよ」

 彼はにこにこと笑ってくるが、影山は前方を見据えたまま、静かに言い放つ。

「何か用か? お前の様な奴が上司に媚びを売りに来たわけでもあるまい」

「あらら、読まれちゃってますね。まあ、大学のときの先輩に今更媚び売っても仕方ありませんし。アトミックに関して聞きたいことがあるんです」

「やはりな。何を聞きたい?」

 海下も前方に視線を戻し、微笑を浮かべる。

「ヘヴンの事に関してです」

「ほほう、ヘヴンのことを聞きたがるとは珍しい。普通はソムニアの方に興味を持つと思うのだが……ヘヴンは今神戸にいる」

 それに、海下が首をかしげる。

「何故神戸に?」

「三宮にいるといわれる不法入国者の発見と、優秀な人材を探すためにだ」



 神戸三宮――

「雄二……何故おまえがここに……?」

「浩一……俺はあの女よりも、お前が好きだ」

「えっ……」

「お前のその可愛い顔に惚れちまった……」

「……俺もお前が大好きだよ」



「何よあの映画!」

 綺羅は頬を膨らませて、不満げな表情をする。

 俺は呆れて声もでない状態だ。

 二人に誘われて、見た映画。これが最悪最低で――

 雄二の顔をちらりと見ると、彼は上目遣いに、顔を赤らめて俺を見ていた。

 お、おい、マジか?

 さっきの映画は、偶然にも浩一という少年が主人公で、これまた偶然、雄二と言う少年と好きなの女の子を争奪し合うという、どこにでもありそうな話だったのだが。

 クライマックスで意外や意外のどんでんがえし。

 雄二は実はゲイで、浩一、いや俺じゃないよ? こ……浩一に告白して、そして浩一もOKしちゃって。いや、だから俺じゃないよ?

 でも雄二はなんで俺のことマジで見てるんだろう。ホントにゲイ?

「お、おい雄二。なんでそんなにまじまじ俺の顔見てるんだよ」

 綺羅がばっと振り向き、雄二の赤らんだ顔を見つけ、絶叫した。

「雄二がゲイになっちゃった!」

 おいおい、大胆に言うな。雄二はぼけっとしたまま、首をかしげて。

「いやぁ改めてみると、浩一の顔って可愛いなぁって」

 かわいいだと? かわいいだと? お前一体何を言っている……

 かっこいい、だろ!

 かわいいなんて……どこがかわいいっていうんだ!

 雄二の言葉に、少し驚く綺羅だが、ちらっとこちらに目線を向けてきて、はっと気付いた様な表情になる。

「ホントね」

 え? ぐ、ぐぅ。女に言われるなんて、ちょっと嬉し……いや、やっぱりかっこいいと言え!

「お、俺のどこが可愛いわけ?」

 綺羅は目を細めて、俺の顔をいろんな角度から眺め、微笑みながら言う。

「そのちょっと自信なさげな垂れ目よ。そしてぷっくりほっぺよ。よく見てなさい、雄二」

「おう!」

 頬が丸っこいだと? 俺のどこが……あごをさすってみると、確かにちょっとふっくらしている様な?

 俺のその行動を見た途端、綺羅が大声を上げて俺を指差してきた。

「そうやって頬が丸っこいって言われて、確認するところがまた可愛いのよ!」

 え、あ、じゃあやめないと。俺がいそいで手をばっと下ろすと、また綺羅が大声を上げる。

「そう指摘されて、恥ずかしくて止めるところがまた可愛いのよ!」

 はぁ? じゃあ、俺どうすればいいの? は、恥ずかしい。だめだ、顔が熱くなっていく。

 顔隠すべきか、いや、そうしたらまた可愛いとか――

 って、なに相手のペースに巻き込まれているんだ。これじゃあ詮索どころじゃない!

 ば、バカにしやがって。後で目に物見せてやる。

 顔が赤らむのもおさまってきて突っ立っていると、綺羅は腕を組んでつまらなそうに俺を横目で見てくる。

「なによ。その後は倉田君が顔隠して、また私が可愛いって言って、倉田君が私達から背を向けたところで、背後からチューしてあげようと思ったのにぃ」

 その言葉を聞いた途端、雄二が驚いた様子で振り向き、綺羅の顔を凝視する。

 “俺と言う男がありながら何を言うんだ”、って言うんだよな? な?

「き、綺羅……浩一は俺の男だ! チューだって俺がするんだからな!」

 そ、そうきたか……綺羅は大声を上げながら、雄二を指差す。

「じゃあ勝負よ! 雄二、分かってるわよね!」

「おうよ!」

 二人は地面にひざをついて、スタンディングスタートの構えをした。

「位置について」

 綺羅が言うと、二人がばっと顔を上げた。二人のぎらぎらとした眼光は、俺の頬へと向けられていた。

 お、おい、もしかして。

「よーい……どん!」

 二人は唇を突き出して、案の定俺に向かって走り出していた。

 や、やばい。このままだったら俺のファーストキスがこんな奴らに。

 されてたまるかぁ!

 俺達は街中の視線を集めながら走り出した。



 や、やっと逃げきった。この男子トイレの個室なら流石に追ってくるはずもない。それに、いろんな所に入ったり出たりして錯乱させたから、更に分かりにくくなっているはずだ。

 つまらん喜劇につきあうのもここまでだ。ずっと三人でいたから時間がなかったが、今なら一人。堂々とERCCでテュワーを調べられる。

 いや、一応電子スコープつけて、周りからは画面不可視にしておくか。

 俺はERCCを早速起動させると、右目に小さな片眼鏡の様なものをつけた。これが電子スコープ。画面の光を周りから不可視にすると、この電子スコープでしか画面は見えない。

 ネットに接続し、ERCC本体の下部をスライドさせてキーボードを取り出す。

「T,O,U,A……いや、一応正式名称入れるか。日米軍事決定有権機関っと。お、早速公式ページ発見」

 そこには、TOUAの名前の意味、主な仕事、機関の構成などが記載されていた。

 たいした情報があるとも思えないし、ほとんどは嘘の情報だろう。雄二の力に関しては載っているはずがない。

 だが、機関構成と仕事くらいは本当のことが少しは載ってるかもしれない。

 調べる価値はある。

 機関構成、と書かれたボタンをタッチし、そのリンクへととぶ。

 ――調べてみたが、特別目立つものはなかった。

 最高責任者、日米二人の総官、その下に次長二人、次長のかなり下のほうに各部の部長、各課の課長――

 そして日本には防衛陸軍、 ハンターキラーなどの海上自衛隊。

アメリカには戦闘陸軍などが敷かれている。

 戦争中なら当たり前の構成。

 いや、これにもどうせ一部違う点はあるのだろうが。

 最高責任者が違ったりするのだろうか? いや、それは流石にないか?

 じゃあ次は仕事の方を――

 とその時、突然扉がノックされた。出る気なんてないよ、まだ調べる内容があるんだから。隣開いてないのかなぁ。でも俺出る気ないし、漏らすがいい。ふふっ。

 さ、続き続き。

「ママー、浩一のお兄ちゃんが出てこないから漏れちゃうよー」

「我慢なさい、浩一のお兄ちゃんは変態なんだから、この個室に入った途端貴方の身包みがはがされて、ママもはがされて……あぁ、これ以上は……!」

 こ、この声は! っていうか何故男子トイレに、ママなる人が!?

 急いで俺はERCCを終了させ、ゴーグルも外して二つをリュックの中になおした。

 こ、これってトイレしていた様に見せた方がいいよな?

 思ったが実行だ。俺は早速ズボンを下ろし、便座に腰掛けた。

「ママ、これは僕が侵される前に浩一のお兄ちゃんをヤるしかない様だね」

「えぇ、ヤってあげなさい」

 や、ヤる? どのヤるだ。闘る? 殺る? 他にヤるなんてあったっけ。

 ともかく、ヤバい。逃げないと。でもどこから?

 逃げるったってズボン上げないと。いや、だから何処から逃げる?

 俺らしくないぞ、落ち着け。

 そうしてるうちにも、扉の上に雄二のものらしき手がかかっていて、必死によじ登ろうとしている。

 こうなったら……強行突破だ。

 俺はズボンを上げ、リュックを肩にかけてゆっくりとドアへと近づいた。

 そしてひどくゆっくり、錠を横に引いていく。そして小さな金属音と共に錠が外れた。途端、俺はドアを思いっきり開けて、もろとも雄二を壁へと叩きつける。彼は短いうめき声を上げると、するすると地面へ倒れこんだ。

 それに雄二を応援していたと思われる、綺羅の動きが一瞬止まった。

 俺はそれを見逃さず、彼女のわきをすり抜けあっという間にトイレからとびだした。

 外は人だらけの商店街。これならなんとか逃げきれ――

「つかまえた」

 後ろから、体が細い両腕につかまれ、視界が一瞬で変化する。

 俺は再び、トイレの中へと舞い戻っていた。

 そして一気に個室の中へと連れこまれる。その中には、艶笑を浮かべる雄二が待っていた。

「だ、誰かぁ!」



「ふっふっふ、倉田君のホッペは柔らかかったわぁ」

「ふっふっふ、浩一の唇は甘酸っぱかったぜ」

「黙れ!」

 こいつ等は、本当にラリってるな。

 個室に連れこまれ、俺はキスを迫られた。が、何故か二人は途中で止めた。

 結果としてはよかったが、やはり冗談だったということだったのだな。

 とんだ冗談に付合わされてしまったものだ。

 いつもならキレるところだが、我慢しなくては。

 腕時計を見ると、時針はすでに一時を指していた。そういえば、腹が減ったな。

 商店街の、人が行き交うど真ん中で俺は立ち止まった。

「そろそろご飯食べない?」

 それに二人は目を光らせて、二人そろって頷いた。

『行きたい店がある!』

 二人が同時に手を挙げて、同時に言った。本当に一心同体だな。

 まあ、俺はたいしていきたい店があるわけでもないし、二人に従うか。

「何処?」

『スカイラット!』

「あぁ、あの中華料理店か。あそこ美味いよね」

 スカイラットと言えばチャーハンが美味かったよな。餡かけそばも美味いし、キムチラーメンも美味いし、ツバメの巣も美味いし――あぁ、よだれが出てきた。

「それじゃあ綺羅、浩一、行こうぜぇ」

 雄二が前方を指差しながら、元気よく行進しはじめた。本当に子供なんだな。疲れるよ。

 俺は行進する綺羅と雄二の後ろからゆっくりとついていきながら、久しぶりに来た商店街を見回した。

 三ヶ月前はなかった大きな衣服店、アイスクリームの店。それくらいで、あまり変わったところは見られなかった。

 おっと、こんなことに気を取られている暇はなかった。早くこの二人の詮索をしなきゃな。

 でも、今日見た限りではどうもテュワー機関員として相応しくないくらい、子供じみた行動が多かっ――

 刹那、後ろから物凄い殺気が溢れ出した。心臓が射ぬかれた様に、俺は一瞬硬直した。

 前方にいた二人が物凄い形相で後ろを振り向いてきた。俺もそれに反応するが如く硬直が解け、後ろを振り向いた。

 しかし後ろは街を行き交う人達ばかりで、とくに変わった物はなかった。そして、振り向いた時には殺気は消えていた。

 俺は首をかしげながら前方に向き直ると、俺の前に二人がいた。俺が驚いて一歩のけぞると、雄二がいつもとは全く違う、平坦な声音で俺につぶやいた。

「スカイラットに行っててくれ」

 えっ――

 気付いた時には、もう何処にも雄二と綺羅はいなかった。

 ど、どうなってる。どうなってるんだ。

 さっき放たれた殺気が関係してるのは間違い無い。でも、これだけじゃ駄目だ!

 この状況ではあの二人についていき、殺気の正体を見極めることがベストだった。しかし、もうすでに二人は何処にもいない。

 くそ、一杯食わされた。こうなったら、スカイラットで待っておくしかないじゃないか。

 ……まあいいだろう。二人がいない間に、じっくりとこれからの事を考えよう。

 いまさら窮策を出しても無駄だ。

 俺は少しずれたリュックをかけなおして、ふたたびスカイラットへと向かった。



 三宮から少し離れたところにある、廃墟となった大きな工場。

 二年ほど前からはもう誰も近寄らなくなり、来月にも取り壊される予定である。

 工場は中央に大きな空間があり、その周りを囲む様に壊れた機械やコンピューターが並んでいる。

 誰もいないはずの工場に、三人の人間がいた。

 一人は大きな機械の上に座りこんでいる、碧眼の少女。赤い線で模様が入ったダークスーツを身に纏っている。

 それに対峙するは、中央にたたずむ雄二と綺羅。

「お前、アトミックだよな。その青い目見れば分かるぜ? 何故俺達をつけたんだ、答えろ」

 雄二が碧眼の少女を睨みつけたまま言う。それに少女は微笑んで、返答する。

「まあまあ、まずは自己紹介しようよ。アトミック名でね? 私はラスター。“輝”って書いてラスター。お兄ちゃん達は?」

 二人は一瞬戸惑った様に目を合わせたが、前方に向き直って雄二が言う。

「……俺はヘヴン。“天”と書いてヘヴン。そっちはフォーチュン。“占”と書いてフォーチュンだ」

 ラスターはそれに、ふーんとあごをさすりながら二人を眺めた。

 その眼差しは、まるで全ての者を疑っている様なものだった。

「で、私に何か様?」

 ラスターがそう訊くと、雄二はきっと睨み返す。

「こちらのセリフだ。それに見た限り、お前テュレイトの様だが?」

「テュレイト……あぁ……そうよ、私反逆者」

 ラスターが人差し指をくわえて、ぽかんと彼を見つめる。表情を崩さず、彼は頷いた。

 綺羅が一歩前に出る。

「反逆分子は処分する。それがテュワーのルールよ。覚悟できてるんでしょうね?」

 それを聞いて、ラスターはため息をつきながら目を瞑って、立ちあがった。

 二人が反射的に、体制を低くして構える。

「へー、お兄ちゃん達自信満々なんだ。でもごめんね」

 彼女はかっと目を見開いた。

 刹那、空気が揺れる。工場一帯に常人なら耐えられぬほどの殺気が溢れ出す。

 その殺気は本当にどす黒いものだった。全てを殺してやる、全てを消してやる。

 そういうものに溢れていた。

 強大過ぎる殺気に一瞬潰されそうになる二人だが、なんとか持ちこたえた。

 ラスターはにやりと笑みを浮かべる。

「私、だてにテュワー抜けてないから」

 途端ラスターの姿が霞み、足元にあった機械が真ん中からぐにゃりと捻じ曲がった。機械は左へと崩壊し、大きな音をたてて地面へと倒れた。

 左に機械が倒れたということは、右に移動したということ。

 二人はとっさに右を向くと、少し上にある二階の手すりに片手でつかまり、握り拳をつくった右手をこちらに向けているラスターがいた。

「お掃除始め」

 ラスターは握り拳をぱっと開いた。途端、ラスターの周囲に小さく割れたガラスの様なものが大量に現れ、雄二達へと放たれた。

「任せろ!」

 雄二が、握り拳を作った右手を前に突き出し、手をぱっと開いた。

 そして雄二の背中辺りからぐにゃぐにゃした鉄が現れ、それが彼の前方で固まって鉄の壁を成形した。

 綺羅は飛び込む様に雄二の背後へとまわった。

 金属音が響いたかと思うと、周りの地面に大量のガラスが刺さっていた。

「左行け!」

 雄二と綺羅は鉄の壁を放置し、左右に分かれて弾ける様にとびだした。

 直後、背後で轟音が響く。雄二がちらと振り向くと、鉄の壁がラスターに蹴りで吹っ飛ばされていた。

 ラスターは体をかがめて地面に着地し、ゆっくりと立ちあがって残念そうな表情をする。

「お兄ちゃん達も速いね。でも鉄の壁を現した事で前方にいる私の姿は見えなくて、キックは成功するはずだったんだけどなぁ」

 二人はその言葉を聞いて、舌打ちした。こいつは分かっていたのだ。

 雄二が鉄を主に使うこと、防御の方法はあの鉄の壁だということを。

 でなければ、ラスターがこんなにも速く蹴りを飛ばしてくるはずが無かった。

 ラスターはつま先で地面をとんとんと叩いて靴のずれをなおす。

 そして憎悪の光を含んだ瞳で、彼らを嘲笑する。

「でも死ぬのは、テュワーのお兄ちゃん達だよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ