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混沌の魔法師  作者: 鈴樹 凛
第1章 謎の幻獣使い
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第8話~圧勝~

 放課後、第3アリーナで、ゼロとガイア、ウリアはジオとそのパートナーである体長1メートル程の大きさの蜥蜴の霊獣と10メートル程の距離を置いて対峙していた。

 聖アストラル学院には5つのアリーナがあり、全てのアリーナに防御魔法が張られている。第1アリーナには最も強力な防御魔法が張られており、その強度はSSランクになる。

 この第3アリーナにはAランク防御魔法が張られている。全てのアリーナは闘技場のような形状をしており、第3アリーナの観客席には収まりきらない程に大勢の生徒が足を運んでいた。

 セリカが行ったという宣伝の効果だろう。ゼロ達には多くの野次馬的視線が向けられている。

 それだけ、E組の謎の幻獣使いとライガー伯爵家の一人息子であるA組のジオ・ライガーの勝負は見るに値する価値があるということだろう。

 ゼロは自分達に向けられる視線の量に内心うんざりしていた。そんな様子を勘違いしたのか、ジオが挑発をしてきた。

「なんだ、怖気づいたか。まあ、そうだろうな。なんたってこのA組のジオ・ライガー様と勝負するんだからな。見ろ! お前の無様な姿を見ようとこんなにも人が集まっている。今ここで土下座するのなら手加減してやらんでもないぞ」

「グアー!」

《ほう、威勢だけは良いようだな。今ここで貴様達を瞬殺することも可能なのだが》

《ガイア、もういっその事そこの蜥蜴も含めて殺っちゃおうよ! さすがに堪忍袋の緒が切れそうだからね》

 ガイアとウリアの殺気にジオと蜥蜴の霊獣が恐怖する。特に蜥蜴の霊獣の方は格の違いが理解出来るようで後退りさえしている。

「ど、どうしたんだガイル! し、心配するな! お、俺がお前を守ってやるから!」

 自身も震えながらも霊獣を思いやる姿勢に、ゼロは少しだけジオの評価を上げる。

「良いところもあるんですね。少し見直しました」

「お前ごときに見直される覚えはない! 地面に這いつくばる落ちこぼれは黙っていろ!!」

 ゼロの言葉で緊張も解れたのか、急に威勢が良くなる。ジオの言葉に反応してガイアとウリアはまた殺気を飛ばすが、今度は怯まなかった。と、そこへ審判役のアンがやってきた。

「私はこの勝負を取り仕切らせていただく、生徒会副会長アン・リンスレットです。今からルールの説明をさせていただきます。

勝利条件は相手が降参するか、相手を気絶させるか、私が勝負がついたと判断した場合です。霊獣と共に戦うことは構いませんが、相手を殺害出来るSランク魔法の使用は認めません。もし使用した場合は、強制的にその場で敗北が決定しますのでご注意下さい。それでは双方とも準備はよろしいですか?」

「はい。いつでも構いません」

「いつでもいいぞ」

「はい。それでは始めて下さい!」


     *****


 ジオは戦闘開始の合図と共に手をゼロにかざし、複雑な文様の魔法式を展開、その魔法式からCランク炎属性魔法である『炎弾』が5つ放たれた。

 ゼロが何の挙動も見せないのを見て口元に笑みを浮かべる。A組に所属するジオにとって魔法を同時に5個発動することは難しい事ではない。

 だが、E組のゼロには魔法演算領域が足りずそんなことは出来ないと確信していた。聞いた話だとE組の連中は精々3個がやっとだと聞く。ジオはその気になれば10個は魔法を同時に発動出来る。A組とE組とではそれ程の実力差があるのだから、ジオの傲慢も決して行き過ぎたことではなかった。

 しかし、次の瞬間ジオは瞠目した。

 今まで何の挙動も見せなかったゼロの前面に魔法式が現れ5個の『炎弾』を放ち、ジオの『炎弾』を相殺したからである。

(馬鹿な! E組程度が挙動もなしで『炎弾』を5個も! そんなことは俺にも出来ないぞ!!)

 ジオが驚愕するのも無理はなかった。

挙動は魔法を使う上で重要な動作だ。挙動は人それぞれだが、一般的にはジオのように手をかざしてそこから魔法を発動する。その方が、魔法を発動するイメージがしやすいからだ。

 それに比べてゼロは何の挙動もなしに魔法を発動して見せた。その上、魔法の質も落とさずに5個もの『炎弾』を放ったのだ。この場に居た者の全員が驚いていた。

 ジオはすぐにショックから立ち直ると、先程よりも複雑な文様の魔法式を展開しBランク炎属性魔法『爆撃』を放った。『爆撃』は『炎弾』と見た目は変わらないが、物体に着弾すると四方10メートル程度の爆発を起こす魔法だ。

(この魔法ならば相殺されることなどある訳がない! さっきのはマグレだ! そうに決まっている!!)

 しかし、ジオの考えはすぐに覆された。

 ゼロはやはり何の挙動も無しに魔法式を展開、Bランク炎属性魔法『爆撃』を放ったのだ。同等の威力を有する『爆撃』と『爆撃』は着弾と同時に互いの威力を食い合い爆発を起こしながら、辺りに煙と熱風を撒き散らす。

 ジオが爆発地点からの煙と熱風に怯んでいると、煙を穿ちながら6個の『炎弾』が飛んできたので、ジオは咄嗟にBランク防御魔法『炎盾』を前面に展開して『炎弾』を防いだ。

(あ、危なかった……。咄嗟に防御魔法を展開してなかったら終わってた! くそ!まさか『爆撃』を使えるとは……。落ちこぼれのぶんざ……い………で…………」

 ジオは、今日一番の驚愕を味わった。ゼロの頭上に特大の火球が浮かんでいた。『炎弾』の100倍のサイズと威力を誇るAランク炎属性魔法『業炎』。『炎弾』とは違い、精密な魔力操作を要求する上、一歩でも魔力操作を間違えれば暴発の危険すらある魔法がE組の落ちこぼれに使えるはずがなかった。

 そこでジオは見た。こちらの反応を見て愉快そうに唇の端を歪めて見せたゼロを。

(この野郎!! 勝負なんてどうでも良い!! ぶっ殺してやる!!!)

 そして、ジオは冷静さをかなぐり捨てた。

「ガイル、『同調霊化』だ!!! 俺の中に来い!!!」

 ジオが叫ぶとガイルは一条の光となってジオの中に消えた。その身体が赤い光に包まれ、次の瞬間爆風が巻き起こり、その姿を顕わにした。


     *****


 ゼロはセリカの指示した通りに動いていた。

 昼休みセリカの後をついて行ったら生徒会室に通された。中には誰もいないようでセリカと二人きりということになる。セリカはゼロを席へと促すと自身も着席した後言った。

『ゼロ君、昨日あなたが言ったように、ジオ君に圧勝して下さい。しかも只圧勝するだけでなく、ジオ君の実力を全て引き出した上でです。可能ですか?』

『分かりました。ですが、どうしてそういう結論になったのかを教えて下さい』 

『ゼロ君の実力を生徒に示すためです。短時間で終わらせてしまえば、まぐれかと考える者も出てくるでしょうから……』

『成程……、分かりました。最善を尽くします』

 というセリカの望み通り、ジオの実力を引き出すためにジオの魔法を悉く相殺して見せた。

 Aランク炎属性魔法『業炎』は只の脅しのつもりだったが、あれで戦意が喪失する可能性もあったので、極めつけにあの笑みである。それによって完全に冷静さを失ったらしいジオは『同調霊化』をしたのだった。

 手からは炎で構成された鋭い爪が生え、お尻からはこれまた炎で構成された尻尾が生えている。

(へえ……、A組とはいえ『同調霊化』を使えるなんて、計算外ですね。ですが……)

 『同調霊化』とは古の盟約を交わした霊獣と行える魔法。霊獣と古の盟約を交わす際に、盟約者は霊獣の魔力を体内に取り込む。そうして盟約者の体内の霊獣の魔力と盟約者自身の魔力を共鳴させ、霊獣本体を体内に取り込み自身の力と為す魔法の事である。『同調霊化』をすれば、その霊獣の特徴を一部有する様になる。

 この古の盟約こそ、かつて創造の三神から魔族を滅ぼすために与えられた力である。

 しかし、霊獣と盟約を交わした者なら誰しもが使える訳ではなく、扱うためには高い魔力操作能力が要求される上、霊獣との信頼関係がその力に比例する。

 よって、『同調霊化』を使えることは一種のステータスであり、誇りでもある。

 だが、ジオはゼロへの怒りから『同調霊化』の力を暴走させていた。

「殺す! 殺してやる!!」

「やめなさい! それほどの魔力は人を殺せます! 試合放棄と見なしますよ!」

「うるさい!!」

「きゃっ!!」

 ジオの身体から溢れ出た魔力は物理的な衝撃となってアンを襲った。アンはそのまま5メートル程吹き飛び意識を手放した。そんなことには目も暮れず、ジオは叫んだ。

「殺す!! お前だけは絶対に殺してやる!!!」

 そう叫ぶととジオの頭上に巨大な魔法式が生まれ、『業炎』よりも巨大な火球が生まれた。

 Sランク炎属性魔法『陽炎』。その威力は半径500メートルを焦土と化す程であり、この場で使ったら間違いなく防御魔法を破り第三アリーナを焼き尽くすだろう。

 あまりの異常事態に周りの生徒は声を出す事も出来ず呆然としていた。ゼロ達以外は。

《ゼロよ、どうする? 我等も『同調幻化』をするか?》

《そんな必要ないよ! ゼロならあんなの一発だ!》

《うん。あの程度なら今の僕でも十分出来るよ。》

《そうか、分かった》

《頑張ってね!》

 多くを語らずともガイアとウリアはゼロの意志を理解した。そんなパートナー二匹に感謝しながら、ゼロは『陽炎』に対してSランク空間魔法『転移』を発動した。

 途端、ジオの頭上にあった『陽炎』の周囲に一瞬魔法式が生まれ『陽炎』が消えた。

 そして、第3アリーナを揺るがす振動と共に遠くで爆発音が聞こえた。

 いきなりの出来事に理解が追い付かず呆然とするジオ。ゼロはその隙を見逃さずにジオとの距離を一瞬で詰めると、勢いそのままにジオの鳩尾に突きを繰り出す。

「かはっ……!」

 ジオの身体は九の字に折れ曲がり、そのまま意識を失った。


     *****


 リーガン、ミリアリア、リリーの三人はリーナと共にこの勝負を観戦していた。ゼロには終始驚かされっぱなしだった。無挙動で魔法を5個も発動したり、Bランク魔法にAランク魔法まで使った時は思わず声を上げそうになった。

 だが、同時に納得してもいた。

 黒服達から助けてもらったあの日、その実力をもって圧倒して見せたのだから。その後、ジオが『同調霊化』して生み出したあの巨大な火球を消し去った時は言葉が出なかった。直後、遠くで爆発音が聞こえたのをきっかけに我に返ったミリアリアが沈黙を破った。

「ねぇ、ゼロ君は何したの? あの爆発音は一体何!?」

「そんなの俺に聞かれても分かる筈ないだろ…」

「リリーはどう思う?あれ……」

 今まで沈黙を保っていたリリーが答えた。

「……あれは、空間魔法。それもすごく高ランクの……」

「え! マジかよ、それ!」

「一体どうやって……」

 リリーは無言でリーナを見やる。すると、リーナも口を開いた。

「リリーさんの言う通り。あれは恐らくSランク空間魔法でしょう。私も空間魔法自体を目にするのは初めてなので、なんとも言えませんが……」

「私も……あんな規模の空間魔法聞いたことない…」

「イシュタールさんは、空間魔法であの火球を何処か遠くへと移したのでしょう。だから、直後にあの爆発音が聞こえた」

「でもそれだけの規模の魔法を使うって相当量の魔力を消費するんじゃない。しかも、空間魔法って馬鹿みたいに魔力持って行かれるんでしょう。普通ならフラフラになってるんじゃないの?」

「だけどよ、ゼロの奴はすぐにあのムカつく野郎を気絶させたぜ。10メートルの距離を一瞬で詰めたあの身体能力にも驚くけどよ、それ以上に全然疲れを見せないことに驚いたぜ」

「それだけイシュタールさんが規格外ということなんでしょうね。でなければ、幻獣二匹と古の盟約など出来ないでしょうから……」

 そう言うと、リーナは無意識のうちに口元に笑みを浮かべた。


     *****


 ゼロは倒れ伏したジオには一瞥も暮れず、ジオの魔力で吹き飛ばされ気絶していたアンのもとへ向かった。

「リンスレット副会長、大丈夫ですか?」

「う……ん………、ライガー君やめなさい!」

 目を覚ますと同時にアンは虚空に向かって手を伸ばし叫んだ。

「もう大丈夫ですよ。ライガーさんは気を失ってます」

「え……、でもライガー君は『同調霊化』して暴走したはずでは……」

 そう言って倒れているジオを見やると、

「本当のようですね、でも一体どうやって……」

「勝負はつきました。終了の宣言をして頂きたいのですが……」

「そ、そうですね!」

 アンはすぐに立ち上がると宣言した。

「これにてゼロ・イシュタールとジオ・ライガーの勝負を終わります。勝者は、ゼロ・イシュタールです!!」

 その宣言と共に一部の生徒は拍手喝采を送り、一部の生徒はゼロを恨めし気に見つめるのだった。


     *****


「凄いわね、ゼロ君……」

「あれは凄いという言葉で形容出来るものなのか? この学院にも空間魔法を使える奴は何人かいるが、あれ程の使い手は聞いたことがないぞ?」

「そうね、でもこれでますますゼロ君が欲しくなったわ」

 そう言って、セリカは少しだけ頬を赤く染めた。そんな様子を見てダリアは細い溜息をつきながら、誰にも聞こえない声で呟いた。

「……あいつも大変だな。こんなじゃじゃ馬に目をつけられるなんて……」

 ダリアは第三アリーナを後にするゼロの背中を見つめた。

 ランクAの魔法を無挙動で発動させた上、信じられない規模の空間魔法を発動させた、謎の幻獣使いゼロ・イシュタール。

 ゼロが今後この学園にどのような影響を齎すのか。ふと、セリカに視線を向けると目が合った。どうやらセリカも同じことを考えていたらしい。

 セリカとダリアは自然と零れる笑みを抑えることが出来なかった。


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