第7話~魔法授業~
今回は連続投稿です。
第5話~追憶~の戦闘シーンを少し改変しました。
日刊学園ランキングと週刊学園ランキングBEST3に入ることが出来ました。
これもひとえに読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
ゼロは今、E組寮のベランダにいた。天を仰げば無数の星々が煌々と輝いている。
ゼロはシェリアのことを考えていた。
久しぶりに再会したシェリアは絶世の美少女に成長していた。彼女はゼロと違って、記憶を失っているようだった。
無理もないと思う。それだけ衝撃的な出来事だったのだから。
しかしそのおかげで、ガイアやウリアと出会うことが出来た。ガイアやウリアも初めからあんな態度だったのではない。むしろ昔は、他の種族に対する態度と何ら変わらなかった。幻獣には遠く及ばぬ下等生物だと見下されていた。それが今では対等なパートナーだ。
ゼロは気づかぬ内に笑いを零していた。
ガイアやウリアとの出会いがなかったら、ゼロは人間として何も成長できていなかっただろう。シェリアも自分を変えてくれる人に出会えたのだろか?
否、出会えたからこそ記憶を失っていても、こうして再会できたのだ。ゼロはシェリアの育ての親に心の中で感謝した。とそこへ、ガイアとウリアがやってきた。
《どうしたゼロ? ゼロが一人笑いなど珍しいではないか?》
《そうだよ。明日は雨でも降るんじゃないの?》
「はは……酷いな」
《あのリーナとかいう人間のことで悩んでいるのか?》
「えっ……」
《隠しきれてると思った。何年ゼロと一緒にいると思ってるの》
「二人には隠し事は出来ないね。うん、そのランカスターさんのことでちょっと……ね」
そう言いながらゼロは心の中でガイアとウリアに感謝した。何も言わなくても、二人がゼロの胸中を悟ってくれるからこそ、今のゼロがあるのだから。
《あのリーナとかいう小娘は何者なのだ? ゼロにここまでショックを与えるということは……まさか……》
「うん、あながちガイアの考えてる通りだと思うよ」
《そうか……》
《ゼロ……》
「そんな顔しないで、二人共。僕は大丈夫だから」
ゼロが笑ってみせると二匹は複雑な顔をした。
《ゼロ、そんな顔はするな。ゼロを悲しませることは我等の本意ではない》
《そうだよ。ゼロが悲しそうだと僕等まで悲しくなっちゃうよ。無理はしないでね》
「ガイア、ウリア、ありがとう…。もう心配ないからね」
《そうだな。まったくゼロは世話の焼ける奴だ》
《全くだよ。やっぱりゼロには僕らがついてなくちゃね!》
そういって、一人と二匹は静かに微笑んだ。
そんな様子を月と星々は冷たくも暖かく見守っていた。
*****
ゼロは真っ白な世界に立っていた。その両手には紅と白の二振りの鍔のない刀剣を握っている。
そして、ゼロの周りには数多の炎、風、光属性の球体が浮かんでいた。ゼロが動くと同時に球体も動き出す。その一つ一つにはたったの一発で半径10メートルものクレーターを穿つ程の威力が込められている。
ゼロを中心に数多の球体が乱回転をしながら襲い掛かるが、それが当たることはない。ゼロは見る者全てを魅了するような美しい剣舞を舞いながら球体を切り裂いていった。前方の球体を切ると、その隙を突くかのように後方から球体が迫る。
しかし、ゼロは動じない。滑らかな円を描く足運びの勢いをつけたまま横薙ぎに刀剣を振るい球体を切り裂く。
そうやって、球体が全て無くなるまで、ゼロの鍛錬は続いたのだった。
*****
「ふぅ、良い運動になったね。今日は防御趣向だったけど、次は攻撃趣向で良いんじゃないかな」
《うむ、良い動きであった。だが、これでも数が少ないとは……、次はもっと球体の数を増やすことにしよう》
《ホントだね~。そろそろリミッターを外して訓練した方が良いんじゃない?でないと、ゼロも僕等もいざという時に力をうまく出せないよ》
「そうなんだけどね……。本気でしちゃうとこの空間が壊れちゃうでしょ。かといって、外でする訳にもいかないし……」
そう言って、周囲に目を見やる。
周りは、まるで天変地異でも起きたかのような有様だった。白の世界は大きく歪み、あちらこちらに次元の裂け目が見える。ゼロが両断した魔法の余波によるものだ。
《確かにこの有様では……》
《そうだね、例えリミッターを解除しても空間の維持に力を割いてたら、結局何も変わらないからね……》
今、ゼロ達がいるのはゼロが空間魔法で切り開いた次元の狭間につくった仮想空間である。ゼロ達は毎朝こうして次元の狭間で鍛錬を積んでいる。今回はゼロの鍛錬だったが、ガイアやウリアの鍛錬の時もある。
「もう大分時間も経ったし、そろそろ空間魔法を解除するよ」
ゼロの一言と共に白の空間は崩れ去った。
*****
「それでは今から魔法理論の授業を始めます。皆さんにとっては既に常識的なことでしょうが、復習はとても大事です。突然当てることもありますので、答えられない方はもれなくルンルンちゃんに甘噛みしてもらいますから、そのつもりでいて下さいね」
ルーナが笑顔で告げるとクラス中に戦慄が奔った。これで、誰もが授業に集中するだろうと判断したルーナは授業を開始した。
「魔法とは、皆さんの中にある魔法式の情報を魔法演算領域へと送り込み、そこで魔力を吹き込み現実に投射する力の事です。そういった魔法を使える人々を私達は魔法師と呼びます。魔法にはそれぞれ得意とする7つの基本魔法属性があります。炎属性、水属性、雷属性、土属性、風属性、光属性、闇属性ですね。それと基本魔法属性の性質をもたない無属性魔法があります。無属性を除く7つの属性にはそれぞれ弱点となる属性が存在します。炎属性は水属性に、水属性は雷属性に、雷属性は土属性に、土属性は風属性に、風属性は炎属性に、そして光属性と闇属性はお互いが弱点の魔法属性といわれています。この魔法属性の弱点をつくとどうなるでしょうか? ギュンター君答えて下さい」
いきなりの指名にリーガンは緊張しながら答えた。
「は、はい。一言に弱点と言ってもその性質は様々で、例えば炎属性と水属性の場合水属性は炎属性を打ち消します。でも逆に炎属性と風属性の場合は炎属性が風属性を打ち消すのではなく、風属性が炎属性の威力を強める結果になります。このように弱点をついても必ずしもその効果を打ち消すだけとは限らない。それが魔法属性の弱点です」
「はい、まさにギュンター君の言った通りです。ですが、一つ抜けているところがあります。皆さんはどこだか分かりますか?」
その言葉にゼロ以外のクラス中の生徒が首を捻る。
しかし、只一人無表情なゼロを見て、ルーナは笑みを浮かべる。
「イシュタール君は分かっているみたいですね。じゃあイシュタール君お願いします」
「はい。それは魔法のランクです。魔法ランクはEランクからSSSランクまであり、E・Dランクが家庭内で使うランクです。CランクからSSSランクは戦闘で使うレベルの魔法です。特にSランクからはその威力が桁違いであり、S・SSランクの魔法は戦術級魔法と呼ばれ、SSSランクは戦略級魔法と呼ばれ、人を殺せるレベルの魔法となります。少し話は脱線しましたが、基本的に弱点の魔法属性であっても1ランク以上上回っていれば負けることはありません」
「はいそうです。イシュタール君の言う通り、弱点の魔法属性であっても1ランク以上上回っていれば威力負けすることはありません。例を挙げるならCランク水属性魔法『水弾』にBランク炎属性魔法『大炎弾』を当てたら『水弾』は蒸発してしまいます。ですが、このような手段をとる魔法師は殆どいません。そんなことをするよりも防御魔法で確実に防いだ方が魔力の節約にもなりますからね。いるとしたら、保有魔力量に余程の自信がある魔法師か魔力計算の出来ない魔法師だけですね。ですから、皆さんが知らなかったのも無理はありません。イシュタール君、よく出来ました!」
「ありがとうございます」
ゼロはルーナの賛辞を素直に受け取った。そんなゼロに向かって不思議そうな視線が飛ぶ。何故、そんなことを知っているのだろう? といった感じだ。無論、ゼロは華麗にスルーを決め込んだが……。
「次は複合魔法と融合魔法についてです。複合魔法は複数の魔法属性を組み合わせて一魔法属性の効果を高めることです。例えば、風属性で炎属性の威力を高めることがそれに当たります。融合魔法は複数の魔法属性を組み合わせて新しい魔法属性を生み出すことです。氷属性を生み出す場合は水属性と風属性の魔法を組み合わせます。このように複合魔法や融合魔法を使う場合は、複数の魔法属性を使いこなせなければなりません。我が校の生徒会長セリカ・シュタインさんは三つの基本魔法属性を使いこなすことが出来ます。皆さんも高みを目指して精進を重ねて下さいね」
「先生は幾つ属性を使いこなせるんですか~?」
リーガンがルーナに訊いた。
「私ですか? 私は魔法属性までは言えませんが3属性は使いこなせます」
「へ~、先生って見た目によらず凄いんですね~」
リーガンはしまった、といった表情を浮かべる。ルーナの顔は引き攣っていた。
「ギュンター君、それってどういう意味かしら~?」
「え、ええと、すみませんでした!!!」
リーガンは椅子から飛び上がるとそのまま机の上に着地しながら土下座した。それに、呆れや同情や憐みなどの視線が向けられる。
ルーナはその様子にバツを悪くしたのか、それ以上は何も言わなかった。
「……もう良いです、ギュンター君。ちゃんと席に着いてください……」
「あ、ありがとうございます!」
リーガンは瞳を潤ませていた。それほど怖かったのだろう。
「こほん! そ、それでは授業に戻ります。次は無属性魔法についてです。
無属性魔法は基本属性に分類不能な魔法の総称です。血の盟約によって結ばれた霊獣を呼び寄せる召喚魔法、魔法師の使える魔法属性を帯びた魔法を防ぐための防御魔法などといった様々な魔法があります。無属性魔法は基本魔法属性ではありませんので誰にでも使え汎用性に優れるのが特徴です。
しかし、扱いが困難な無属性魔法も存在します。例えばどういったものでしょうか? ワンダーさん答えて下さい」
「……はい。代表的な魔法が身体強化魔法や空間魔法、未来予知魔法です。身体強化魔法は精密な魔力コントロールを必要としていて、未熟な者が使用すれば身体が破損してしまうこともあります。空間魔法は使い手が少数のため詳しいことは分かっていませんが、例を上げれば、次元の裂け目を開いて自らの望む場所に自由に移動したり、次元の裂け目に仮想空間をつくるなど神に準ずる魔法と言われています。ですが、これもまた精密な魔力操作を必要とする上、膨大な魔力を消費するという欠点が存在します。最後に未来予知魔法は、自らが指定した数秒間の限定的な未来を見ることの出来る魔法です。この魔法はそこまでの魔力は消費しませんが、精密な魔力操作と強靭な精神力を必要とします。未熟な者が使用すると未来の情報に脳や心が耐えられずに壊れてしまう危険性がある魔法です。……以上です」
クラス中の生徒がリリーに対して瞠目していた。
無属性魔法の空間魔法や未来予知魔法についてそれほど深く知っている者はそう多くないからである。確かに有名な魔法ではあるが情報とイコールという訳ではない。
「ワンダーさんは博識ですね。私も知らなかったことが幾つもありました。皆さん、素晴らしい知識を披露してくれたワンダーさんに拍手を!」
教室中が拍手の音に包まれた。リリーはほんの少しだけ顔を綻ばせていた。丁度その時学院のチャイムが鳴った。
「それでは、今日の授業はここまでです。それにしても本当に良かったわ。ルンルンちゃんに甘噛みされる人がいなくて。危ない人は一人いましたが……」
そう言ってリーガンを見ながら教室を後にした。その視線にリーガンは冷や汗が止まらなかった。
その晩、リーガンの夢にルンルンちゃんが出てきたのは余談である。
*****
「なあゼロ、お前昼休みはどうするんだ?」
「ここに残ってるよ。放課後の件があるから」
「そっか。ゼロ君会長に待ってるように言われたんだっけ」
「お昼何を食べるの?」
「シュタイン会長が帰ったらすぐに食堂に行くよ。だから皆は気にしなくて良いよ」
「そっか……。じゃあ食堂で待ってるからな」
そう言うと、リーガン達三人は教室を出て行った。その後席に着いていると妙な視線を幾つも感じた。その視線を追うと、廊下の方から通りすがりの生徒がこちらを見て、こそこそと話をしていた。ガイアとウリアを見に来てるのかとも思ったが、どうも視線はゼロに向いているようである。その視線に嫌な予感を覚えていると、セリカがやってきた。
「遅くなってしまってごめんなさいね」
《本当だ! ゼロを待たせるとは一体何様のつもりだ!》
《そうそう。ゼロがその気なら死刑だよ》
「二人共、そんなこと気にしてないから。それよりシュタイン会長、先程から僕に視線が集中しているようですが、何かあったんですか?」
「別にそういう訳ではないわ。生徒会は放課後の勝負を大々的に宣伝しました。恐らく、その影響でしょう」
平然と放たれたその言葉にゼロは重い溜息をついた。
「やはりそういうことですか。なんとなく想像はしていました」
「そう、なら話は早いわ。ちょっとここは人目が多いし、場所を移して話しましょうか」
そうして二人と二匹は様々な奇異の視線の中、教室を後にしたのだった。
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