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混沌の魔法師  作者: 鈴樹 凛
第1章 謎の幻獣使い
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第6話~相応しい場所~

「今の俺達があるのはゼロ、お前のおかげなんだ。ありがとう」

「ホント、あの時のゼロ君、かっこよかったわ(あの時から…)」

「瞬殺だった(ポッ)」

 リーガンは律儀に頭を下げ、ミリアリアとリリーはゼロの勇姿を思い出したのか頬を染めた。

《ゼロ、そんなことがあったとは流石は我が唯一認めた人間だ》

《そんな面倒なことがあったんなら僕等を召喚すればよかったのに》

「ごめんね。言われるまですっかり忘れてたんだ。リーガン顔を上げて。大したことなかったんだから」

「ゼロ、ありがとう!」

 そう言って、二人は握手を交わす。新たに二人の友情が育まれた瞬間だった。

 その光景を見てリーナが口を開いた。

「本当に立派ですわね。見返りを求めない無償の人助け。イシュタールさん、感服いたしました」

「そんな大したことではありません。ランカスターさんだって、同じ状況に立ったら同じことをしたでしょう」

「フフ……、そういうことにしておきます」

 そういって誰もが見惚れるほどの輝く笑顔を見せる。そんな空気の中、セリカは感慨深げに呟いていた。

「そんなことがあったのですか……」

 彼ら(リーナを除く)の試験結果改竄にガートン侯爵家が関わっているのは確定的だろう。

「和やかな雰囲気の中すみません。少し話は変わりますが、何故今回の入学式で入学生代表による答辞発表がなかったと思いますか?」

「そういえば……」

「なかったわね……」

「どうして……?」

 ゼロとそのパートナー、リーナは口を閉ざしたままだ。

「それは、ゼロ君が筆記、実技共に受験者9546人中トップだったからです。他でもそうですけど、答辞を発表する人はトップの成績を収めた主席だけです。けど、その主席であるゼロ君はE組生。学院としては、次席であるランカスターさんに任せるという案もあったのですけれど、結局答辞の発表は諦めることになったのです」

「てことは、本当はゼロはS組の超優等生ってことですか!」

「道理で強いはずよね……」

「でも、それだけの実力があるならいずれは学院の不正が発覚するはず……」

「はい、その通りです。そこで生徒会が提案したのが今年からの新しい行事です」

『新しい行事!?』

 ゼロ、リーナ、リーガン、ミリアリア、リリーは揃えて驚きの声を上げた。

 非常識にも程があるからである。どこの学校でもそうだが、学校行事というのはいわばその学校の伝統である。そこへ新たに行事が追加されるなど一体どのような行事なのか。

「そんなに堅くならないで下さい。私達生徒会が提案したのは全学年を対象としたトーナメント方式の校内実力模擬戦です。もちろん学年別ですが……」

《ゼロよ! 不正により偽られたゼロの力を今こそ見せつける時だ!》

《その通り! 屍の上に立って高笑いしてるゼロの姿が目に浮かぶようだよ!》

「ウリア……、君は僕のことをなんだと思ってるのかな?」

 そのウリアの言葉にゼロは冷たい笑みを浮かべた。

《ゼ、ゼロ、落ち着いて。も、もう言わないからごめんなさい!》

《ははは、我が言っても全く意に介さないからな。たまにはゼロに、お灸を据えて貰え!》

 ゼロは貼り付けた笑みをうかべ、ウリアの翼を容赦なくひっぱっていた

「あの~お楽しみのところ申し訳ないのだけど、話を進めても良いかしら?」

 気づけばゼロ達に向かって、生暖かい視線が送られていた。空気を読んだゼロは、高速ともいえる速度でウリアの翼から手を放し居住まいを正した。

「ゼロも羽目を外す時があるんだな」

「ホント、すっごく意外(でもちょっと可愛い)」

「でも挑発したウリアも悪い(また挑発してくれないかな)」

「見た目通り可愛いところもあるんですね」

 自分達が直接言えないようなことを平然と笑顔でと口にしたリーナを、ミリアリアとリリーは軽い殺気を込めて睨む。

「こほんっ!」

 今度はこの4人が居住まいを正す番だった。

「先程も言ったようにゼロ君はS組相当の実力者にも関わらずE組に在籍しています。生徒会の調べたところ、他にも学院側の勝手な都合で実力に見合わないクラスにいる生徒が何人もいました。これは、今まで機会に恵まれなかった生徒が実力を示す良い機会になるんです。もちろん、貴方達も例外ではありません」

『どういう意味ですか?』

 リーガン達三人の声が見事にはもった。

 だが、本人達にそのことを気にする余裕はなかった。

「先程も言いましたが、ランカスターさんを除いた貴方達の入試結果は改竄されています。本来なら、ギュンターさんとスレイブさんはB組、ワンダーさんはA組相当の実力者なのです。はっきり言って、これほどの暴挙は学院の存続にも関わってきます。なので、今大会では一つのルールを定めました」

「それは一体どのような条件なのですか?」

「そうですね、面倒事の臭いがプンプンしますが……」

 リーナとゼロが問うた。

「め、面倒事とは失礼ねゼロ君」

 セリカが遺憾そうに顔をしかめた。

「セリカ……、話が前に進まないからお前は少し口を閉じてろ。ここからは自分が説明する」

「あら、随分な物言いね。心外だわ」

「む、別にそういう意味で言った訳では……」

 セリカが拗ねてみせるとダリアは一瞬で動揺した。何となく普段の二人の力関係が垣間見えた瞬間だった。

「セリカちゃんにダリア君、話が脱線してるよ」

 そんな二人にアンがすかさずフォローを入れる。案外いつものことなのかも知れない。

「んんっ、それでは自分から話そう。先程会長が言ったルールだが、それ相応の実力を示した者はクラスに関係なく実力に見合ったクラスに異動するというものだ。その逆は言わなくとも理解できるな。一言でいえば下剋上ルールだ。これにより生徒同士の競争心を仰ぐことが出来るし、実力者を相応しいクラスに異動させることも出来る。まさに一石二鳥という訳だ」

「ですが、上位のクラスの大部分の生徒はエリート意識の塊です。そんな彼らが納得するでしょうか?」

 ゼロのこの疑問は至極当然のものだ。他も同様に頷いたりしてそれぞれの反応を示している。

「そこは私達も同様に悩んでいました。そんな時嬉しい吉報が届いたのです」

 アンの言葉にゼロ達の視線が集まる。アンは少々怯えた様子ながらも、ゼロに向けて顔を綻ばせて言った。

「イシュタールさんです。イシュタールさんとライガーさんの試合でイシュタールさんがライガーさんに勝てば、今後の良い切っ掛けになると生徒会では考えています」

 その言葉にゼロ達は、皆一様に顔に納得の色を浮かべた。そこで、セリカはアンの言葉を引き継ぐ。

「という訳で、生徒会としてはゼロ君には是非ともライガーさんに勝って欲しいんです。ゼロ君お願いできますか?」

「……分かりました。ご期待に沿えるよう精一杯頑張りたいと思います。ですが、一つ質問があります。」

「一体何かしら?」

「どのようなシナリオで勝てば良いのですか?」

 ゼロとそのパートナー以外の全員の頭の上に? が浮かんだ。そんな皆を代表して、ダリアが訊き返した。

「その質問はどういう意味だ?」

「ですから、どのようなシナリオで勝てば良いのですか? 勝つと言ってもその勝ち方は様々です。例えば圧倒的な力で捻じ伏せるのか、互角の戦いを繰り広げた末に勝利するのかでは、かなり意味合いが違ってきます。結果によっては、生徒の反感を買いかねません。そうなれば、今回の勝負は意味がありません。だから、お訊ねしているのです。どのようなシナリオで勝てば良いのですか? と」

『………』

 皆一様に言葉を失っていた。二匹の幻獣とリーナを残して。

《さすがはゼロだな! そんなことまで考えているとは! 我には思いつかなかったぞ!》

《さすがは僕達のパートナーってところだね。並みじゃないや!》

 幻獣二匹は大騒ぎである。そんな幻獣の様子で皆我に返ったのか、ゼロに不思議そうな視線を向ける。

「確かにそんなところまでは考えていませんでした。しかしゼロ君、彼に圧勝することは本当に可能なのですか? ゼロ君がS組の実力者とはいえ、さすがにそれは厳し過ぎるのではないの?」

 セリカ疑問は最もな事だった。

 実のところセリカ自身もS組の実力者である。

 だが、結局のところA組生とS組生の明確な違いは魔力保有量である。魔力保有量は先天的なもので、後天的に伸ばすことも可能ではあるが相当に困難なことだった。

 極稀に魔力を殆ど持たずに生まれてくる子供達がいる。以前、そんな子供達に他人の魔力を分け与えるといった実験が行われたことがあったが、子供達の身体が強い拒絶反応を起こした。

 その結果、生き残れた子供はたった一人だけだったという。

 魔力保有量は血筋も関係してくる。故にこの国では大量の魔力を持つ者には貴族の地位が与えられ、何人もの妻を娶ることが出来る。

 話は逸れたが、A組生とS組生の明確な違いは技量加え魔力保有量の違いである。

 しかし、一年生の現時点でS組生とA組生に大きな実力差があるとは思えない。

 だからセリカは訊いた。本当にジオに圧勝出来るのかと。

 だが、ゼロの返答はある意味予想通りであり、ある意味予想外なものであった。

「あの程度の相手なら今の僕・・・でも十分圧勝出来るでしょう。ガイアやウリアの力を借りるまでもありません」

「ほ、本当に大丈夫なんですね?」

「はい、会長。ですので、早くシナリオをお考え下さい。その通りに動きますので」

 ゼロは精一杯の作り笑顔・・・・を浮かべて告げた。

 すると、その笑顔にほだされたのか場の緊迫した空気が緩む。セリカも真面目な顔をで答えた。

「分かりました。その件に関しては少し考えさせてください。明日のお昼休みに報告します」

「はい、分かりました」

 会話の流れからして、もう用は済んだと判断したゼロ達はセリカ達に頭を下げて生徒会室を後にし、廊下に出る。

 そこで、セリカが思い出したかのように背後から声をかけた。

「待って下さい。もう一つの用をすっかり失念していました。ゼロ君とランカスターさんは明日の勝負が終わった後、生徒会室に来て下さい。お話したいことがあります」

「僕とランカスターさんですか?」

 ゼロはリーナに目を向けた。リーナも首を傾げている。

(一体何の用だろう?)

「来ていただければ分かります、お願いしますね。後ゼロ君、明日のお昼休みは教室で待っていて下さい」

 まくし立てるように言うとセリカはそのまま生徒会室に引っ込んだ。一体何なんだ? と、ゼロ達は頭に? を浮かべるのだった。


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