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混沌の魔法師  作者: 鈴樹 凛
第2章 学年別校内実力トーナメント
23/24

第1話~演説~

 放課後、聖アストラル学院の第3アリーナに全校生徒が集まっていた。生徒会から招集が掛けられたからである。

 大多数の生徒が集まれば自然と喧騒が溢れるのは当然の事で、今も自分達の話題に興じていたり、今回は何があるのかと面倒そうな声を漏らしたりとその反応は様々であった。

 そうして会場の空気が温まってきた頃、生徒会メンバー4人が壇上に立つ。

 そして4人の内の1人、ウェーブの掛かった長い黒髪を伸ばした美少女セリカ・シュタインが、魔法により音を拡張させた第一声を放った。

「厳粛なる聖アストラル学院生徒の皆さん、今からお話しする事は、皆さんの進路に深く関わってくる事です。なので私語は謹んで真剣に私の話に耳を傾けて下さい」

 セリカの言葉にその場が騒然となった。これからセリカの語る内容が何であるのか、自分達の進路に関わる事とは何なのか、誰もが気にしたからだ。

 騒ぎが収まるのを待ってから、セリカは後ろに静かに控えていたアンに視線を投げる。それに反応してアンは手に持っていた書類を手渡した。

 それを片手に持ち、セリカは再び口を開いた。

「今回の皆さんにお知らせする事は、この聖アストラル学院の新たな学院行事についてです」

 その発言に全生徒に動揺が走るも、今度は空気を読んでか誰も口を開く様な軽率な行動をとる者は誰一人として現れなかった。

「その行事名は『学年別校内実力トーナメント』です。その名の通り、現在における全校生徒の実力を明確にする事を目的としたものです。残念ながら我が校には、所属しているクラスの実力に沿わない生徒が数多く在籍しているのが現状です。これは明らかに看過しておけないこの問題を修正するためでもあるのです」

 さすがにセリカのこの発言に我慢ならないものがあったのか、一人の男子生徒がいきなり怒りを顕わにした。

「ふざけんなよ! いくら生徒会長っていっても、言って良い事と悪い事があるんじゃねえのかよ!? 俺達を馬鹿にするんじゃねえ!!」

 その周りにいた生徒も今の言葉を聞いて急に怒りが込み上げた様で、次々とセリカに対する馬頭が飛び交った。セリカもここまでの反発は予想外だったのか、少し驚いて口を閉ざしてしまった。

 確かに生徒会長であるセリカの支持率は相当なものであったが、それも100パーセントという訳ではない。セリカを支持しなかった生徒は、セリカの立場から見れば反乱分子に等しいものだ。

 今回セリカの発言に真っ先に苦言を呈したのは、その反乱分子であった。そしてこれを機に、セリカの支持率を無くし、生徒会長の座から退けようという思惑も少なからず孕んでいた。

 騒ぎが伝染していく中、セリカの後ろに控えて、事の成り行きを静観していたゼロが前に進み出た。いつもとは違い、その両肩に幻獣の姿はない。

「全校生徒の皆さん、いい加減な発言はお控え願います。もしもこのルールが守れない方は、強制的にこの場からの退場を命じ、『学年別校内実力トーナメント』への参加権利も剥奪しますので御了承下さい」

 ゼロのこの発言によって場が再び静まり返った。これに、ある者は口を閉ざし、ある者は反感を覚え、ある者は憤怒を露わにした。

「幻獣使いだか何だか知らねえが、E組の落ちこぼれが調子に乗ってんじゃねえぞ! 強制的に退場? やってみろよ! てめえ如きがこの俺をどうにか出来る訳ねえだろーが!!」

 そう怒鳴ったのは、一番初めにセリカに対して怒鳴った男子生徒だった。その顔には、明らかな怒りと嘲笑の色が浮かんでいる。

「二度は申しません。今すぐにその口を閉ざして下さい。でなければ先程申し上げました様に、強制的に御退場願いますが……どうしますか?」

 男子生徒は顔に浮かぶ怒りと嘲笑の色を濃くしながら、

「俺も二度は言わねえ。出来るもんならさっさと俺を退場させてみやがれ! ハハハハッ……ハ……?」

 突如、哄笑する男子生徒が宙に浮いた。アリーナの天井には魔法式と共に小さな黒い穴が出現しており、その穴が男子生徒を吸い込んでいる様だ。

 突然の事に理解が追い付かず、男子生徒は悲鳴をあげながら穴に吸い込まれていく。その他の生徒は、その光景をただ唖然として見守る事しか出来なかった。

 男子生徒が穴の中へ消えると同時、その穴も面積を小さくしていき、最終的に完全に消え去った。

 信じられない光景を前に何度目かの静寂が訪れる。そのまましばらくして、唐突にゼロが口を開いた。

「お分かり頂けたでしょうか? 此処では騒がず会長のお話にただ黙って耳を傾ける、このルールが守れない方には、今の様に強制的に御退場願う事を改めて御了承下さい」

 ゼロは無自覚に人を見下し、自分の中で他人を差別化する傾向がある。それが高すぎる才能からか、生来の性質タチからなのか、それとも長い時を幻獣と共に過ごした事によるものかは定かではないが、それは明らかな傲慢であった。

 いつもの事ながらそんな事には全く気付かないゼロは、視線だけでセリカに演説の再開を促し、元の場所―――セリカの後方に戻った。

 それを受けたセリカは引き攣りそうになる頬を必死で抑えながらも続きを語った。

「ちょっとしたアクシデントもありましたが、あの方の身柄の安全は生徒会長の座に誓って保証しますので安心して下さい。それでは先程の続きに入っていきたいと思います。申し上げました通り『学年別校内実力トーナメント』は現在の生徒の実力を公平に測る為の学校行事です。言っておきますが、これは生徒間の差別化を促すようなものでは決してありません。これからルールの説明に入りますが、それだけは取り違えない様にお願いします」

 あらかじめの注意事項を言い終えると、セリカは「学年別校内実力トーナメント」の説明に移っていった。

 

     *****


 セリカの説明が始まった頃、壇上を、正確には壇上に立ってセリカの後ろに控えているゼロを注視する視線が3つあった。

 興味深そうに観察する視線、心底おもしろいものを見る様な視線、珍しいものを見る様な視線。

 その中で、ゼロをおもしろいものを見る様な視線を送っていた女生徒が活発さを感じさせる声で、

「いや~凄いね、彼。ボク、空間魔法なんて生まれて初めて見たよ。さすがはリーナが嬉々として話してただけの事はあるね」

 それに興味深そうにゼロを観察していた男子生徒が覇気のない声で、

「全く以てその通りだね。そういえば、『部活動勧誘日』の時も、空間魔法を使用してたらしいし……」

 最後に珍しそうにゼロを見ていた女生徒が物静かな声で、

「それならわたくしも聞きましたわ。何やら馬鹿騒ぎしていた幻獣をどこかに追いやったとか何とか……」

「何にしても、僕達の興味は彼が一体何者なのか……だね。A組のジオ・ライガーに圧勝し、第一アリーナのSSランク防御魔法発生魔法具を破壊し、幻獣をも容易く手懐けるその実力。是非とも一度、手合せ願いたいものだよ……」

「まあ、後の二つはともかく、ジオ・ライガーに圧勝するのはボク達でも楽勝だけどね。まったくあの程度の実力で威張っちゃって、何様のつもりだよって感じ。だったらボク達はどんな態度取ってればいいわけ」

 彼らの事を何も知らない第三者が聞いたら、威張っているのはお前達だろう! と憤慨したかも知れないが、この会話を聞いていた周りの生徒がその様な感想を抱く事は無かった。

 ジオを憐みこそすれ、彼らとA組のジオとの間にはそれ程の実力差がある事を、周りの生徒は重々承知の上だからだ。

「問題なのは後の二つですわ。SSランク防御魔法発生魔法具を破壊し、幻獣を手懐ける―――そんな事はわたくし達には到底不可能ですわ。そんな相手と戦って、わたくし達が勝利できるとは思いませんが……」

「そう? 戦闘力が強大な奴ほど内面の強さは大したことないもんだよ。うまく心理的弱点を突ければ案外すんなりいけると思うけどな。まあなんにしても、一度手合せ願いたいものだよ」

「まあ、珍しいですわね。面倒臭がり屋のあなたにそこまで言わせるなんて! それだけ彼に対する期待が大きいということかしら?」

「さあね? でも、今はそういう事にしておこうかな」

 そんな会話の中で顔を見合わせる三人。どうやら思いは一致したらしい。

「僕達S組一同歓迎しよう、ゼロ・イシュタール。『学年別校内実力トーナメント』が本当に楽しみだよ」

 壇上に立つゼロを真っ直ぐに見据えて、男子生徒は不敵な笑みと共にそう告げた。



      *****



  <学年別校内実力トーナメントのルール内容>

 ①「学年別校内実力トーナメント」は予選と本選の二つに分けて実施する。

 ②予選競技内容と本選競技内容は異なり、予選はバトルロワイヤル形式で、本選は1対1の対戦形式で実施する。

 ③予選競技会場は「神秘の森」、本選競技会場は「第一アリーナ」で実施する。

 ④使用出来る魔法は、生物を殺害しないAランクまでとする。なお、生徒の安全を確保するため、競技に臨む全校生徒には、防御魔法発生スーツ型魔法具の着用を義務付ける。

 ⑤勝敗の判定は防御魔法発生スーツ型魔法具のダメージ耐久値が0になった有無で決定する。

 ⑥本選に進出する事が出来るのは予選で生き残った上位8名となる。

 

 

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