第1話~世界~
この世界は創造の三神と呼ばれる三人の神の魔法の力によって創造された。
一人は天空を創造し、一人は、地上を創造し、一人はこの世界に住まう生物を創造した。
ある種族は互いに争い合い、ある種族は互いに手を取り合い、ある種族は滅んでいった。
その中でも特に強大な勢力を誇っていたのが、人間族、エルフ族、霊獣族、そして魔族と呼ばれる種族である。魔族は特に強大な力と勢力を誇り、他の種族を次々と取り込んでいった。
そして、ある時魔族は三神に対して反逆を開始した。
当初は神々の勝利を誰も疑っていなかったが、魔族の中に魔神と呼ばれる三神に匹敵する力を持った者がおり、世界の創造に大半の力を注ぎ込んでいた三神は魔族に敗れてしまった。
しかし、三神は魔族に敗れることを予期しており、残った力一部の種族に分け与えていた。そして、このそれぞれの種族は力を合わせ魔族をタルタロスと呼ばれる異世界に封じた。以後、人間、エルフ、霊獣の三種族はそれぞれの国を築いたのだという。
人間族はウィズダム、エルフ族はホーリー、霊獣族はライフという王国を。
*****
聖アストラル学院
この学院は、人間族の王国ウィズダムの中でも有数の名門校である。
入学する者は人間族だけには限らず、他にもエルフ族、妖精族といった様々な種族が入ってくる。入学することが許されるのは、それぞれの種族の中でもトップクラスの実力者に限られる。さらに入学して終わりではなく、E~Sの組に成績ごとに分けられるのだ。
その聖アストラル学院の体育館で今、長々と意味があるのかないのかという、学院長の話を聞いていたのだが―――――
《ゼロよ、この退屈な無駄話はまだ終わらないのか!》
《そうだよ!退屈すぎてもう間違って暴れちゃいそう!》
《ガイア、ウリア、そんなこと言っちゃ駄目だよ。学院長も一生懸命話しているんだから》
《しかしゼロよ、もう既に20分は話してるんじゃないか》
《そうだよ!もう後5分も待たされるぐらいなら本当に暴れちゃうよ!》
ゼロの左右の肩に乗っているガイアとウリアとの念話に付き合わされていた。
ガイアは体長30センチ程で、蛇のような細長い胴に合った翼が生えており、純白の鱗に黄金に輝く瞳は力強い眼光を放っている。
ウリアは体長20センチ程で、その艶やかな深紅の体毛に深緑色の瞳は人の目を引き付けてやまない。
ガイアは光竜、ウリアは鳳凰という幻獣族である。
ゼロ・イシュタールはガイアとウリアとは血の盟約を交わした対等なパートナー同士。
古来より人間族と霊獣族は友好関係にあり、今では人間族と霊獣族で古の盟約を結び、お互いに対等なパートナーとして生きていく者が多く、その者は霊獣使いと呼ばれる。
しかし、幻獣族と古の盟約を結んでいるものはそうはいない。
何故なら、古の盟約を交わす際には相手の魔力と自分の魔力を交わらせる必要があり、霊獣族より遥かに強大な力を持った幻獣族の魔力に耐えられる者がいないせいだ。最も、幻獣族が人間族を下に見ているという理由もあるが……。そのような気質の幻獣だが、ゼロはこの二人と古の盟約を結び、通じ合っている。
だが、その二人を宥めるのに今ゼロはとても必死だった。
この二人が本気で暴れだしたら、今のゼロではとても手に負えないからだ。
しかし、そんなゼロの胸中を察してかようやく学院長の話が終わってくれたと思ったら、今度は別の人物が壇上に上がってきた。
人間族だ。
青を基調としたブレザーの制服を颯爽と着こなしている。
165センチ程の背丈にウェーブのかかった黒髪を腰の辺りまで伸ばしており、描いたかのような眉、黒の瞳は穏やかな雰囲気を醸し出している。整った鼻に、健康的な唇の紅はとても魅惑的な色香を放っている。胸は年の割には大きく、形も服の上からでも分かる程に丸みを帯びている。
だが、腰は折れそうな程細く、足もすらりと長い。100人に100人が振り返るであろう容姿の持ち主である。
そんなことを考えていると、誰かの視線を感じた。その視線に目を向けると、壇上に上がっていた少女がこちらを見ていた。目が合うとニコリと微笑んだ。嫌な汗が背筋を流れた。
《ゼロ、また下等な人間が壇上に上がってきたぞ。一体いつになったら我々は解放されるのだ!》
ガイアが不機嫌そうに言った。
《まったくその通りだよ! でも、あの娘ちょっと良いかも》
《呆れてものも言えんな。我々が認める人間はゼロ唯一人ではないか!》
《……。けどあの娘中々良い女じゃん》
《ウリア、貴様という奴は!》
《はは……まぁ二人とももうちょっとの辛抱だから頑張ろね》
そんなことを話しているうちに、ウリア曰く良い女の話が始まった。
「新入生の皆さん、聖アストラル学院にようこそ。私は、聖アストラル学院生徒会会長の2年生セリカ・シュタインと言います。新入生の皆さんご入学本当におめでとう」
屈託ない笑顔を浮かべたその顔はまるで女神のようだった。現にその笑顔に魅了されている者が多いようで、そこかしこで感嘆とした溜息が聞こえる。
しかし、ゼロにはその笑顔の裏に何かが隠されているような気がした。
「さて、早速本題に入りましょう。ご存じの通り、この学院には霊獣と心と力を通わせる霊獣使いの方々が数多く在籍しております。しかし、何事にも例外が存在するようで、皆さんの中に一人、幻獣族と……それも二匹の幻獣族と古の盟約を結んでいる方がいらっしゃいます。本日はその方のお言葉を伺いたいと思います。それでは、ゼロ・イシュタールさん壇上へどうぞ」
そう言って、こちらに誰もが見惚れるであろう笑顔を向けてきた。事ここに至ってようやくあの笑顔の真意が理解できた。
《ゼロよ、何やらご指名のようだぞ。ゼロの圧倒的な力を見せつけ、下等な人間共を震え上がらせるのだ!》
《そうそう!さっさと終わらせて昼飯にしよう。散々待たされてお腹と背中がくっつきそうだよ!》
《ガイア、そんなことが目的じゃないよ。ウリアももうちょっと待っててね。》
パートナー達とそんな念話を交わしながら、背後に無数の視線を感じつつ、ゼロは壇上へと上がっていった。
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