第17話~勝負の行方~
ゼロ、ガイア、ウリアは以前と同じく、ゼロが創り上げた真っ白な世界にいた。ゼロはもしもの時のために、いくつかの世界をストックしているのだ。
『二重同調幻化』によって溢れ出した魔力は、崩壊していた世界を跡形もなく消し飛ばした。ゼロは世界が消失する寸前に、SSSランク空間魔法『次元転移』で脱出したのである。
そして今、その世界でゼロ、ガイア、ウリアは息を切らしていた。その消耗は『二重同調幻化』によるものだ。只でさえ『同調霊化(幻化)』は大量の魔力を消費する。大量の魔力を消費するという事は大量の体力を消費する事を意味している。それが二重の負荷となって襲い掛かってくるのだから、いくらこのメンバーでも息を切らす程に消耗する事は当然と言えよう。
ある程度呼吸が正常に戻った頃、おもむろにガイアが口を開いた。
《それにしてもさっきは危なかったな……。危うく死ぬところだったぞ》
《ホントだよ。あそこまであの世界が脆くなってたなんて……。ゼロったら本気で僕達を殺すつもりだったの?》
その質問にとんでもないとばかりにを横に振った。ゼロ自身としても、あそこまで早く世界の崩壊が進むとは思っていなかったのだ。つまりそれは、それだけ激しい戦闘が行われた事を意味していた。
「あそこまで空間の狭間に魔物が漂っているとは思ってなかったんだよ。過去の空間魔法の使い手達は魔物を無造作に空間の狭間に放り込んだんだろうね。だから、あんなに魔物が漂流してたんだ。二人共、本当に御免ね」
《むう、まあ確かにゼロだけのせいではなく、我らにも落ち度はあったな》
《そうだね。元はと言えば今回の原因は僕らにあった訳だし、ゼロ一人に責任を押し付ける訳にもいかないよね》
そう言って肩(羽根?)をすくめて見せるウリア。その姿は以前よりも少しだけ、大人に成長したかの様だった。
「まあ、取り敢えず生徒会室に戻ろうか。セリカ会長から何か話があるみたいだしね」
《話だと?》
《また何か面倒事を持ち込んでくれそうだね》
ウリアの発言に皆で笑い合った。
そうして笑い合える瞬間がいつまでも続く事を、ゼロは秘かに願うのだった。
*****
生徒会室では、リーガンVSミリアリア、リリーの知識勝負も終わりを迎えようとしていた。
ルールでは先にリーガンが三ポイント、ミリアリア、リリー組が六ポイント取った方が勝利するという事になっている。現在、リーガンは二ポイント、ミリアリア、リリー組は四ポイントで、リーガンはあと一問正解すれば勝利する事が出来る。
しかし、リーガンは既に勝敗への興味を失ってしまっていた。そもそも事の発端はミリアリアとリリーがリーガンを侮っていた事なのであって、その問題は既に解決されているので、もはや争う理由もないとリーガンは考えていた。
だが、一つ見落としている事があった。それは勝った方に与えられるある権利の事である。
「なあ、この勝負もう終わって良いんじゃね?もう争う理由もない訳だし」
リーガンの発言にとんでもないとミリアリアが反対する。
「何言ってんのよ!そうしたら罰ゲームの権利は誰の手に渡るっていうの!?」
「まだ言ってんのかよ。もう良いだろそんな事、面倒なだけだしな」
「じゃあ、あんたが罰ゲームを受けるってことで構わないわね?」
そう言って薄ら笑いを浮かべるミリアリアにリーガンは戦慄する。
(もしもそんな事に成ったら、どんな罰ゲームを食らうか分かったもんじゃねえ!こうなったら絶対に負ける訳にはいかねえ!)
「良いだろう。その挑戦受けて立とうじゃねえか!」
「男に二言は無いわよ。もし、あんたが負けた場合にはあたしとリリーの言う事を何でも一つだけ聞いて貰う。その逆の場合はあたし達があんたの言う事を何でも聞くって内容だったわね。覚悟は良いのかしら?」
「望むところだ!絶対に吠え面掻かせてやる!」
と、リーガンとミリアリア(リリーは蚊帳の外)が再び闘志を燃やしていたその時、生徒会室の扉がノックされ、ゼロの声が聞こえた。セリカが入室を促すと何時もの様に両肩に幻獣を乗せたゼロが入ってきた。
リーガンとミリアリアの様子を見たガイアとウリアは、入って早々に笑い声を上げる。
《見てみろウリア!我々が下らない争い事をしている間に、こやつ等も何かいさかいを起こしているぞ!》
《ホント!僕等とタイミングピッタリなのがムカつくけどね。まあ尤も、今確実に言える事はこいつらは面白い人間だって事だけどね!》
その言葉に二人を覆っていた空気は見事に霧散する。同時にその場の全員が疑問顔になった。
「なあ、お前達はもう無事に仲直りしたのか?」
「ゼロ君から物凄い罰を受けたって聞いたけど、それに耐え切るなんて相変わらず凄いわね……」
ガイアとウリアはげっそり顔で答える。
《本当にもう駄目かと思ったな。久々に死を覚悟したぞ》
《まあ、僕達にとって死は受け入れるべき連鎖の一つに過ぎないしね》
「二人共!それは言わない約束でしょ!」
《《あっ!》》
ゼロが嗜め、二匹もその事に気づくが時既に遅し。それを聞きとがめたリーナが表面上は素っ気ない振りで、内心では好奇心旺盛に訊いてきた。
「それってどういう意味なんですか?御二人は死が怖くないのですか?」
他の皆も興味津々の体で聞いている。今の発言を幻獣族の秘密と捉えたのだろう。
しかし、だからといって言って良いものではないので、ゼロは丁重に断った。
「すみませんがこれについてはお教えする事は出来ません。今の二人の不用意な発言は皆さんの心の中に大切に仕舞っておいて下さい。もしも口外でもしようものなら、僕は決して皆さんをお許しする事は出来ませんから」
真剣な表情を浮かべたゼロによる脅しは決して嘘ではないという事を物語っていた。またしても踏み入れてはならない領域に足を踏み入れてしまった事を悟り、一同は深く反省した。
尤も、その踏み入れてはならない領域が広すぎるゼロ、ガイア、ウリアにも問題があるのだが、それは言わないお約束である。
そこでふと、ゼロは思い出したかの様に訊いた。
「ところで、僕達が此処に入って来た時に、何故リーとミリーは睨み合っていたんです?物凄い剣幕だったけど、もう二人は仲直りした筈では……?」
「ゼロ、聞いてくれよ。この欲の塊女が負けた方が勝者の言う事を何でも一つ聞くっていう罰ゲームの話を急に思い出してよ、俺としてはそんな事どうでも良いって言ってるのにも拘らずゴリ押ししてくるんだよ。何とかしてくれ!」
「あ、ズルいわよ!あんただって今さっきまで乗り気だったじゃない。ゼロ君にあたしの事を悪く言うのは止めなさいよね!」
「はあ、しょうがない後輩達ね。二人共いい加減にしなさい。ついさっき仲直りしたばかりなのにまた喧嘩してどうするの?付き合わされるこっちの身にもなって頂戴」
溜息をつき、呆れながらも仲裁に入るセリカ。リーガンとミリアリアは、はっと我に返ったように大人しくなった。
そこに、リーナが一つの提案をする。
「ここは公平にジャンケンをするというのは如何でしょう?それなら後腐れも残りませんし」
セリカもその提案に同意する。
「確かにリーナさんの言う通りだわ。二人共、最後の勝負内容はこれで良いかしら?」
セリカの言葉に二人も渋々といった体ながら首を縦に振る。
「ルールは10回勝負で、先に6勝した方の勝利とします。これなら偶然だと言う後腐れも残らないでしょうから。問題はミリーさんとリリーさんのどちらが出るかなんだけど……」
ミリアリアとリリーは一瞬だけ目を合わせると、すぐにセリカに視線を戻した。どうやら今の動作だけで互いの意志が確認出来たらしい。本当に仲の良い二人である。
「あたしが出ます。ここまで面倒事が長引いたのもあたしとこいつのせいだもの。やっぱり最後はあたしがケリを付けなきゃいけないわ」
「半分俺にせいにされたのは気に食わないが、その他の部分については俺も賛成だ。そうと決まったらさっさと済ませようぜ」
二人は正面切って向かい合い、互いに右手を腰に構えて反対の手をそっと添えた。たかがジャンケンに気合を入れ過ぎだが、この両者にとってはとても大切な儀式の様で、真剣な表情を浮かべている。
「それではいきますよ。最初はグー、ジャンケンポン!」
両者はセリカの言葉に従順に従う機械の様にグーの右手を突き出して、ジャンケンポン!の合図と共に各々の思うままの形に掌を変形させる。
勝負の行方は、果たして―――――
*****
王直属近衛騎士隊隊長アッシュ・ヘルはウィズダム王城の謁見の間にて片膝を着いて跪いていた。その視線の先には豪奢な椅子に威厳をもって座る主君の姿がある。
ウィズダム王国の王族の証たる水色の長髪に鋭く整った眉、神秘的な色を讃える翡翠の瞳は楽しげに細められている。齢60歳を超えたとは到底感じさせぬ一国の王に相応しい風貌と風格であった。
ウィズダム王国第97代目の王であるエルセルト・ジ・ウィズダムだ。
「そうか、お主でも手に負えなかったか、アッシュよ」
「は、真に恐縮の至りでございます、陛下。それだけに限らず、陛下の顔に泥を塗るような浅はかな真似を致しました。このアッシュ・ヘル、この場で命を絶てと命じられれば喜んでこの命、陛下に御捧げ致します」
その言葉にエルセルトは愉快だと言わんばかりに豪然と笑う。
「クハハハハハッ!馬鹿を申すなアッシュよ。貴様の命はこの国の宝だ。お主が本当にこの国に忠誠を誓っているというのならば、簡単に命を粗末にする様なことを申すでない。それとアッシュよ、自ら命を絶つという事は現実に対する只の逃げでしかない。それが分からぬ時点で、お主もまだまだ未熟ものだ。今後ともさらに精進を重ねよ」
「は、御忠告頂き、光栄の極みと存じます」
「うむ、ところでアッシュよ。本当にゼロ・イシュタールは闇属性魔法を使用したのだな?」
「それは間違い御座いません。私が直接攻撃を受けましたゆえ。闇属性魔法の特性は支配。恐らく、ゼロ・イシュタールはこの世界で人類を地に縛り付ける重力を支配したと思われます」
その報告に、エルセルトは顔を顰める。
「うむ、光、闇属性魔法の使い手は非常に稀な存在だ。是非とも『グリフォン』に奪われる前に、世の傘下に加えたいものだが」
世界最強の部隊『グリフォン』。それぞれが炎属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、土属性魔法、雷属性魔法、光属性魔法、闇属性魔法の内の一魔法属性を非常に得意とする七人から成る部隊。尤も、現在の人数は六人だけで、闇属性魔法の使い手の席が空席のままというのが現状だ。
只でさえ闇属性魔法の使い手は希少なのに、『グリフォン』に入れるだけの実力を備えた者が見つかるなど奇跡としか言いようがない。
だが、その奇跡の存在かも知れない者は今、ウィズダム王国内の聖アストラル学院に在籍している。何としてでも自分の傘下に加えたいというエルセルトの気持ちは当然の事だった。
しかし、アッシュは首を横に振った。
「それは不可能に近いかと存じます。ゼロ・イシュタールは幻獣の王、ストレンジ王に忠誠を誓っている様子でございました。もしも下手に干渉すれば、只でさえ少ないストレンジ王国との外交が完全に閉ざされてしまう事も考えられます。事は慎重に運ぶべきかと」
エルセルトは暫く難しい顔をして考え込む。謁見の間を静寂が支配した。そのまま5分が経過した頃、何か名案でも閃いた様にばっと顔を上げた。
「そうだ、この手があった。何故こんな簡単な事を今まで思いつかなかったのか、余は余で過去の余を叩きのめしてやりたい気分だ!」
「い、如何なさいましたか、陛下?」
些か王にそぐわぬぶっ飛んだ発言に、アッシュは軽く狼狽した。現在、謁見の間はSSSランク防御魔法で完全に外との交信が閉ざされた状況にあるが、それでもエルセルトの声が外まで響かないか心配した程だ。
しかし、そんな事は気にも留めていないエルセルトは生き生きとした様子で言った。
「あの謎の幻獣使いゼロ・イシュタールといえども一人の男である事に違いはない。ならば簡単な事だ。女を送り込んで籠絡してしまえば良い!そうは思わぬかアッシュ?」
アッシュは心の中で、本当にこの方は王国の長い歴史の中でも五本の指に入ると言われた名君なのかと疑った。政治や外交に関しては本当に優秀で頼りがいのある王だとは聞いているが、こと男女の情に関してはあり得ない程に鈍感で、現在いる二人の王妃も苦労していると聞いていた。その実例を目の前で見せつけられて、事の真偽を理解した。―――――この方は本当に鈍感でいらっしゃる、と。
そんなアッシュの胸中には全く気付かないエルセルトは、自らの考えた計画の内を自慢げに、赤裸々に語ってみせた。そのとんでもない計画を聞いた瞬間、アッシュは全力でその計画を阻止する事を決めるのであった。
*****
ジャンケン勝負の結果は驚く事にリーガンの圧勝で幕を下ろした。ミリアリアが勝てたのはたったの一回きりで、後は全てリーガンの勝利であった。リーガンが強すぎたのか、ミリアリアが弱すぎたのかは定かではないが、今言える事は只一つ、勝者はリーガンという事だけだ。
その勝者リーガンは今、笑いを堪え切れないと言わんばかりに顔を歪めていた。当然、それを見た二人は恐怖に戦慄する。自分達は一体何をやらされるのか、知れたものではないからだ。そんな本能的な恐怖に耐えていると、その様子が楽しくて仕方がないとリーガンはさらに顔を歪ませる。それを見てまた身体を強張らせるという見事な悪循環が展開されていた。
とそんな時、絶対零度の眼をしたアンが言った。
「リー君、お二人へ不埒な行いは絶対に看過出来ません。もしもその様な行為に及んだ場合は覚悟しておいて下さい」
それに今まで黙っていたダリアも、
「アンの言う通りだ。風紀委員が風紀を乱す様な真似は絶対に許しはしない。もしもそんな行為に及ぼうものなら退学処分になるだけでは済まさんからな」
その怒りに燃えた静かなる忠告に、リーガンの額から一筋の雫が流れ落ちる。
「ご、誤解しないで下さいよ、アンさん、ダリアさん!俺は決してそんな不届きな輩じゃありませんよ!」
「では、一体何を命令なさるおつもりなのですか?」
リーナは多分に軽蔑の念を含んだ眼差しで訊いた。
「リーナさんまで!ゼロ、お前はそんな事思わないよな?」
ゼロは両肩にいる幻獣二匹と顔を見合わせながら、
「そうですね、確かにさっきまでのリーの様子は警戒されても文句は言えないものかと……」
《その通りだ。まるで餓えた獣の様な眼をしていたぞ。幻獣である我が言うのだから間違いない》
《そんなに女に飢えていたのかい?》
ゼロは肯定し、ガイアは断言し、ウリアは疑問を提示した。最後の砦も破られ、リーガンは胸の内で血の涙を流しながら必死で否定する。
「そんな訳ねーだろ!俺がこいつらに求める事は只一つ、もう勝手な思い込みで俺を侮らない事を約束させたいだけだ!」
その懇願の言葉にミリアリアは少し納得の言った様子で、
「ホントかしら。まあ、確かに理に叶った条件ではあるわね」
「例えそうだとしてもさっきみたいな事は止めた方が良いと思う。ちょっと怖かったから」
リーガンは少し安心した様子で溜息をつきながら言う。
「分かったよ、俺が悪かったよ。俺も少しやり過ぎたと思うしな。だから、皆もそう警戒する様な眼で俺を見ないで下さい!」
途中までは反省の体で、その後は嘆願の声を上げる。すると、その声に興が冷めたのか、リーガンを貫いていた視線も柔らかいものへと変わった。その事にリーガンは心の中で安堵した。
「随分楽しそうな話をしているね~」
とその時、陽気な声が生徒会室に響いた。
驚いてそちらに顔を向けると黒のスーツを颯爽と着こなし、丸帽子を深く被った若い男が部屋の中に入って来るところだった。
(おいおいマジかよ。全然気配を感じなかったぞ。それどころか何時あの重厚なドアを開けたんだ。絶対に音がする筈だろ!)
その事に驚愕しながらふと周りを見渡すと皆一様に驚いた表情を浮かべている。唯一人ゼロだけは、まるでその事に予め気付いていたかの様に無反応だったが。
「スミス先生、毎回の事ながら驚かさないで下さい。最近は全く顔を出されなかったのに、どうしていきなり?」
「いや~、御免ね。最近は色々と大変でね、来たくても来られなかったんだよ。それに僕が今日来た理由は、君も見当がついてるんじゃなかな~?」
セリカ真剣な表情を浮かべて相槌を打つ。
「それについては私も今から話をしようと思っていたところです。何せこの学院を正しい方向に軌道修正する為の大事な事ですから」
それにスミスは満面の笑みを浮かべながら頷く。
「そっかそっか。なら良いんだ。それじゃあ、さっさと終わらせ様か。僕も早く帰りたいしね」
「それが本音ですか……」
ダリアとアンは、そんな溜息をつくセリカを気の毒そうに見つめている。
「あの~」
とそこで、状況が分からず完全に置いてけぼりを食らっていた新入生を代表してミリアリアが手を挙げた。
「あなたは一体何者なんでしょうか?」
スミスは今思い出したと言わんばかりに、右手でグーの形を作って左の掌にポンッと乗せた。
「ああ、忘れてた忘れてた。自己紹介がまだだったね、風紀委員のミリアリア・スレイン君。僕の名前はスミス・アミドロール。1年S組の担任兼学年主任兼生徒会顧問を務めていま~す。是非、今後とも宜しくね~」
怒涛の自己紹介にぽかんと呆気にとられる新入生一同(ゼロを除く)。
そのまま暫く思考停止状態に陥っていたが、一番早くに我に返ったリーガンが自己紹介の為に口を開こうとしたところで、いつの間にかその眼前に移動していたスミスの立てた人差し指によって口を塞がれる。
「おっと、面倒だから自己紹介は省略しようか。時間が勿体無いしね。心配しなくても僕は君達の事なら大概知ってるから、安心してね。1年E組のリーガン・ギュンター君に同じクラスのミリアリア・スレイン君とリリー・ワンダー君。リーナ君は僕のクラスだから良いとして、最後に僕のクラスの生徒になるかも知れないゼロ・イシュタール君とその仲間達、だろ」
仲間達と一括りにされた事が気に入らないのか、ガイアとウリアはゼロの両肩で憤慨した。
《貴様、下等な人間の分際で我らを愚弄するとはな》
《どうやら死にたがりらしいね。どうだい?今から僕達に殺して下さいと懇願すれば、死に方くらいは選ばせてあげるよ》
一方のスミスは輝かんばかりの笑顔で、
「嬉しいな!幻獣の戦闘をこの身で体験出来るなんて、光栄の至りだよ。さあ、早く僕を殺してくれたまえ!死に方はそうだな、君達の餌なんてどうだい?君達の身体の中にも興味が尽きないからね」
むしろ殺して餌にしてくれというスミスの狂った願いに、ガイアとウリアは薄い笑みを浮かべた。
《ほう、何だ貴様は?我らの餌になりたいだと?》
《悪いけど、僕達は人間を喰らう性癖は持ち合わせていないんだ。だけど、そんなに死にたいなら今すぐにでも殺してあげるよ》
が、そこでゼロが止めに入った。
「二人共、そこまでだよ。スミス先生も悪ふざけが過ぎるのでは?」
「ふざけてないんだけどな……」
不穏な事を呟きながらも渋々納得した様子のスミス。幻獣二匹もぶつぶつ言っているが、全面的にゼロは無視した。
「スミス先生、そろそろ会議を始めませんか?今日は何だか凄く疲れました」
「おっと、またすっかり忘れていたよ。最近物忘れが酷くて困るね。僕もそろそろ年かな」
その外見はどう見ても20代後半である。物忘れが酷いのはその性格のせいだろう、と全員の思考が合致した。
「あ、風紀委員の皆に朗報だけど、新しい風紀委員会の顧問はルーナ先生になる事が職員会議で決定したからね。生憎と今日は用事があって来られないらしいから、今日はここで一緒に会議に参加して貰うからそのつもりでね。というより早速、会議を始めようか~」
全く緊張感を孕まない声でそう告げるとセリカに目を向ける。その視線に応える様にセリカが口を開く。
「それでは今から、生徒会と風紀委員会の会議を始めます。今回の議題は『学年別校内実力トーナメント』についてです」
そして語られる『学年別校内実力トーナメント』の詳細。一同は様々な意見を交わし合い、その細部を固めていった。
次回はエピローグとなります。
第一章もまもなく終了し第二章に突入しますが、これからも『混沌の魔法師』を宜しくお願いします。