第16話~白と黒~【後編】
ガイアとウリアの二匹はまったく実力を発揮出来ていなかった。一方が攻撃に転じれば、もう一方も負けじと攻撃に転じる。
結果、両者の放った魔法は互いに相殺し合い、威力を殺し合っていた。最初の複合魔法は完璧なマグレだった様で、それからはそのような偶然もない。
一方、魔人と妖魔は互いに互いの長所と魔法属性を生かし、見事な連係プレイを見せていた。その上、魔人と妖魔の実力はSSランク魔法師のレベルに匹敵する。
畢竟、まったく息の合わない二匹と息ピッタリの二人に差が生じるのは当然の事だった。
そして今も―――――
《ウリア! 邪魔をするな! こいつら如き、我一人でも十分だ!》
《それはこっちのセリフだよ! 足手まといは引っ込んでろ!》
―――――身体よりも口の方が活発に動いていた。
その間も敵の猛攻は止まらない。自由自在に空を飛び回るガイアとウリアに向かって魔術を放ち続けている。
「どうした!? 飛び回っているばかりでは何も始まらないぞ!」
「さっさと俺達の餌になっちまえよ、ヒャハハハハハッ!」
餌になるという事はそのまま死に直結する。無論の事、そんな事態に陥る訳にはいかないので二匹は反撃に出る事にした。
《仕方がない。ここは妥協するしかなさそうだな》
《そうだけど、それであくまで一時的なものだからね!》
ガイアとウリアは憎まれ口を叩きながらも、互いに微笑みあう。
それは、長年の付き合いからの、無意識が織り成す偶然だった。
《行くぞ(よ)!!》
叫ぶと同時にガイアは大きく口を、ウリアは大きく翼を拡げた。そこを基点に強大な魔力が渦巻き、巨大な魔法式が生まれる。
次の瞬間、ガイアが咆哮し、ウリアが翼を羽ばたかせると同時に魔法式から魔法が生み出された。
SSランク風属性魔法『大竜巻』とSSランク炎属性『黒陽』が合わさり、SSランク複合魔法『紅蓮陣風』が魔人と妖魔に襲い掛かった。炎を纏った巨大な竜巻は、巻き込んだものを容赦なく骨まで燃やし尽くす。先程と違い、この魔物二人にも簡単に防げる攻撃ではなかった。
「おおっ! これこそ我が生き甲斐! 全ての苦難を乗り越えてこそ、真の幸福が待っているのだ!」
「同感だ! 一仕事した後の魔力はきっとうめぇぞ!」
魔物二人もそう叫ぶと、『紅蓮陣風』に手をかざして、そこを基点に魔術式を展開した。魔法式のリミッターを外した魔術式からは、禍々しい魔力が放たれている。
そして、魔人の魔術式からはSSランク水属性魔術『激流水砕』が、妖魔の魔術式からはSSランク風属性魔術『大鎌鼬』が放たれる。
二つの魔術はSSランク融合魔術『絶対零氷』と化し、複合魔法『紅蓮陣風』と真正面から衝突した。
全てを燃やし尽くす炎の竜巻と全ての物質を消失させる絶対零度の氷塊は、その温度差から膨張した熱と冷気は辺りの空気を引き裂き、燃やし、冷やし、凄まじい爆発を巻き起こした。
世界は紅の炎に包まれ、そして―――――
*****
生徒会室では、バチバチと散る火花の中、リーガンVSミリアリア、リリーの知識勝負が始まろうとしていた。
その進行役を担当するセリカは、三人の醸し出すとてつもない緊張感に冷や汗を流しつつも知識勝負の火蓋を切って落とした。
「それでは、今から出す問題に手を挙げて答えて下さい。初めに言っておきますが、最初の方は基本的に簡単な問題です。数を追うごとに難しくなっていくのでそのつもりでいて下さい。それでは、一問目、全ての基本魔法属性の特性を答えて下さい」
そのセリカの問いに一番早く手を挙げて反応したのは、意外な事にリーガンだった。その事に驚きつつも回答権を与える。リーガンは頭の中の知識を披露する様に、朗々と答え始めた。
「炎属性魔法は破壊、水属性魔法は癒し、雷属性魔法は速度、土属性魔法は構築、風属性魔法は移動、光属性魔法は浄化、闇属性魔法は支配、これらが基本魔法属性の特性と言われています」
「はい、その通りです。リー君に一ポイント!」
セリカの宣言に生徒会室に拍手の音が響いた。ミリアリアとリリーも、音は控えめだが拍手を送っている。
その顔は面白くないものを見ている感じだが……。そんな二人に構わず、勝負は進行する。
「それでは二問目、基本魔法属性の中で最も使い手の数が少ないのは何の基本魔法属性ですか?」
次に回答権を得たのはリリーだった。
「それは光属性魔法と闇属性魔法です。この二つの魔法属性を使いこなすためには相特な素質が必要とされていますが、それが一体何なのかは明らかになっていません……」
「補足説明までしてくれてありがとう。リリーちゃんに一ポイント! ……でも、言われてみればどうしてなのかしら?」
その疑問の視線が向かう先は、言わずもがな、ゼロであった。それに肩をすくめながら答える。
「僕に答えを求められても、知らないものは知りません。僕は全知全能の神という訳ではないのですから……」
「それはそうね……。御免なさい、変な期待掛けちゃって」
「いえ、態々謝るような事ではありませんから」
ゼロの恐縮したような態度に、セリカは申し訳ない気持ちになる。セリカは気を取り直す様に勝負を再開させた。
「じ、じゃあ、次の問題です。第三問、一般的に魔法ランクはSSSランクまでと言われていますが、実はもう一つ上の魔法ランクが存在します。それは何でしょう?」
これには即答出来る者は皆無だった。
皆一様に、何だろう、といった思案顔で悩んでいる。そんな三人にセリカは助け船を出す事にした。
「ちょっと意地悪な問題の様なので少しヒントを出したいと思います。SSSランクは戦略級魔法と呼ばれているのに対して、その魔法は天災や災厄級魔法と呼ばれています。もう一つヒントを出しておけば、神話の時代に密接に関わってくる問題ですよ。他種族連合軍を率いた英雄アレスはそのランクの魔法を使って、魔族を『タルタロス』に封印したとも言われていますしね」
そのヒントに閃いたのか、リリーが手を挙げ、指名を待つまでもなく答えを述べた。
「その答えはEXランク魔法。確か、子供の頃、神話の絵本を読んで聞かせて貰ってた時に、そんな魔法ランクが有った様な気がする」
「正解です!それにしても良く思い出したわね、リーちゃん。皆子供の頃は、神話の昔話の中で出て来るEXランク魔法を聞いたこ事がある筈なんだけど、成長するにつれてどうしてか皆忘れちゃうのよね。成長する過程でSSSランク魔法っていう高難度の魔法ランクばかり耳にする様になっちゃって、EXランク魔法の事は忘れちゃう人が多いのよ!」
「私は、たまに神話の昔話なんかに目を通したりしてるから……。でも、すぐに思い出せなかったのは、セリカさんの言った通り、普段全く耳にしないから。最後に神話を読んだのは、確か一年位前だった様な気がする……」
「それでも大したものよ! 私も生徒会委員に成り立ての頃、ダリアとアンに訊いた事があったんだけど、二人共全く答えが分からなかったのよ。今年の新入生は優秀だわ……」
そう言いながら、横目で話題の二人を見やるセリカ。緯線の先にいたダリアは、そんなセリカを鼻で笑う。
「良く言う。右も左も分からない生徒会委員を一体誰が指導してやったんだか……」
「うっ……!」
痛いところを突かれたセリカは小さく呻く。それにダリアは口の端に小さな笑みを浮かべた。
その事に少しイラッときながらも、次の問題に入った。
「それでは第四問、魔力とは一体何なのかを説明しなさい!」
イライラしているせいか語気がかなり荒い。そんなセリカを余所に、回答者三人は頭の中で論理を組み立てる。
数秒の間をおいて、最も早く挙手をして回答権を得たのはミリアリアだ。
「魔力とは元々身体に流れているものではなく、魔法を使用する際に身体を流れている身体エネルギーが変換されたものです。だから、魔力を消費するという事は身体エネルギーを消費する事と同義であり、使い過ぎれば過労で倒れる場合もあります。万が一にも身体エネルギーが枯渇する様な事になれば、あとあと身体障害を引き起こしたり、最悪の場合、死に至る事もあります。それが魔力の正体です」
「その通りね、丁寧な説明をありがとう。ミリーちゃんに一ポイント」
その声は少し憮然としている。まだ引きずっている事がありありと窺える声音だ。
何にしても、これで全員が一ポイントはとった事になる。
リーガンに一ポイント、ミリアリアに一ポイント、リリーに二ポイント。
実質的にミリアリア、リリー組が一歩リードしている計算になる。
「あの~、ここからは私が進行役を務めますね……」
急に無愛想になったセリカのわ代わりにアンが進行役を買って出た。少しおずおずとした様子だが、次の問題を言い始めた。
「今までは魔法や魔力に関する知識を競うものでしたが、これからは最近活動が活発になってきている魔物についての問題です。それでは第五問、魔物は経口摂取以外にも、もう一つエネルギーの摂取手段を有しています。それは、どの様な手段ですか?」
この問題の回答権を得たのは、連続してミリアリアだった。何故か、その瞳は鋭く細められ、微かな殺気を放っていた。魔物に対して、何か恨みでもあるのかもしれない……。
「先程も言った様に、魔力は身体エネルギーから精製されます。そして、その身体エネルギーを生み出す元となっているのが食事です。人類は食事をする事によって身体エネルギーを生み出し、身体エネルギー
を消費して魔力に変換して、魔法を発動します。
対して魔物は魔力そのものを喰らい、自らの身体エネルギーにする事が出来るのです。勿論、人類と同じく食事する事によって身体エネルギーを生み出し、それを魔力に変換する事も可能です。これが、魔物が経口摂取以外に身体エネルギーを摂る方法です」
「正解です。ミリーさんに一ポイント追加します。それにしても凄いですね、魔物の事をそんなにすらすらと答えられるなんて……。ついでに一つ質問しても良いですか?」
「何ですか、アンさん?」
無意識の内に可愛らしく小首を傾げる。
「先程も言いましたが、最近では魔物の活動が活発になってきています。これについて、ミリーさんはどう考えていますか?」
確かに、何故か最近では魔物の活動が活発化している。それはこれまでにはなかった事だ。あると言えば、神話の中での他種族連合と魔族の戦争の時くらいのものだろう。
この問題は最近における大きな問題の一つとして重要視されているが、詳しい事は何一つ分かっていないのが現状だ。
しかし、ミリアリアは臆することなく自らの考えを述べた。
「あたしは異世界『タルタロス』から魔族が脱走したせいと考えています。そう考えれば、魔物が活発化した理由にも説明がつきますから」
「でも、『タルタロス』は英雄アレスが創造したというこの世界とは完全に隔絶された世界ですよ」
「では逆に訊きますけど、その神話の物語は一体どの位以前の出来事なんですか? 綻びの一つや二つ生じていても可笑しくないとあたしは考えます」
決して考えを曲げないと告げている強い意志を秘めた瞳。その力強さにアンは気圧された。
「確かにそうね。御免なさい、ミリーさん。ケチつける様な事を言ってしまって」
「良いですよ。あたしの考えている事を他の人も考えているなら、今頃何か対策が練られているでしょうから。それはつまり、アンさんの考えが一般的に正しいっていう事。何回も言う様ですけど、今のは単にあたし個人の考えですから、気にしないで下さい。アンさんも、自分の意見を述べていちいち恐縮してたら何にも発言出来ないんじゃないですか?」
「そうですね、悪い癖だって分かってるんだけど、どうしても直らないんです」
お互いに苦笑する。人というのは変わろうと思っても変われないものだ。特に、過去に何らかの過失を伴った人間ほどその特徴は顕著なものになる。
「それでは、次の問題に移ります。第六問、魔術を使用する事以外の『魔神の刻印』の役割を述べて下さい」
この問題の回答権を得たのは、これに答えればリーチを掛けられるリーガンだった。やはり男子で、反射神経は一番優れていた様だ。
遅れた残りの二人は、しまった! とでも言いたげな顔をしている。
それに構う事無くリーガンは答えた。
「『魔神の刻印』とは、魔神や魔族に対する隷属・絶対服従の証と言う意味が込められている代わりに、『魔神の刻印』が在れば魔術を使用出来るようになり、才能の無い者が才能の有る者に追い付ける様になります。それが『魔神の刻印』の役割であり、魔術を扱う利点です」
隷属・絶対服従の証というのはそのままの意味だ。
もしも、魔物が魔族やその主である魔神に何らかの形で逆らおうものなら、『魔神の刻印』を通して全てを超越する様な痛みが発生し、所有者を苦しめる。心身の弱い者は発狂して死に至るという恐ろしい罰である。
魔法のリミッターを外した魔の術、それが魔術。相応の力には相応のリスクが伴っているのだ。
「正解です。これでリー君が次の問題に正解すればリー君の勝利が決定します」
その言葉に、ほっと安堵した様に息をつくリーガン。
そして、それを悔しそうな顔で見つめるミリアリア、リリーという構図が出来上がっていた。
「あんたも馬鹿じゃなかったのね。油断してたわ」
「……本気で見くびってた」
これに対してリーガンは少しだけ誇らしげな表情を浮かべる。
しかし、これで終わりではない事を思い出し、それを引き締める。
「まだ勝負は着いてないんだから、最後まで頑張ろうぜ」
「あんたにそれを言われるとはね……」
「でも、その通り。まだ勝負は着いてない……」
真剣みを帯びた声音に、顔を綻ばせる二人。
リーガンが二人に認められ、三人の仲直りが成立した確かな瞬間だった。
とその時、自分の創った世界で起こった大爆発を感知したゼロが立ち上がる。
この突然の行動に、その場にいた皆が注目した。
「どうしたの、ゼロ君?」
「いえ、ちょっと急用を思い出しましたので、ここで失礼しても良いですか?」
「それは構わないけど、私達には言えない事なのかしら?」
ゼロは説明しようかどうか逡巡する。
先程、ガイアとウリアの二匹を別世界に閉じ込めて世界を崩壊させているところまでは説明したが、魔物うんぬんの部分説明を省いていた。下手な事を口走れば、ここにいるメンバーが付いてこないとも言い切れない。
これはガイアとウリアにも告げていない事だが、これからの鍛錬は魔物退治でもしようかと考えている。
そうすれば空間の狭間に追放されている強力な魔物を殺す事が出来るし、『奴ら』を倒すための経験を積むことも出来て一石二鳥なのだ。
はっきり言って、そこに付いて来られる状況は芳しくない。
だからゼロは―――――
「二人を迎えに行こうと思いまして」
―――――嘘をつくことにした。
それにセリカは、一つの疑問を投げ掛ける。
「それなら、私達が一緒に行っても?」
「僕の創った世界は相当に魔力濃度が高いので、皆さんの実力では命の危険が伴います。だから、僕一人で行こうと思いまして……」
これは半分本当で半分が嘘だ。
ゼロが創った世界事態は誰であろうと関係なく生存出来る。
しかし、今は空間の狭間が開いた状態にある。
空間の狭間の魔力濃度は常人には耐えられない程に高く、相当な魔力耐性を持っていないと漂っている魔力が毒となって人を死に至らしめる。空間の狭間に封印された魔物も魔力耐性の無い者は情けも容赦もなく朽ちていくのだ。
説明不足のゼロに納得がいかない様子だが、ここは個人的な理由の為にも納得して貰う他ない。
果たして、セリカはつまらなさそうな顔で溜息をつきながら言った。
「しょうがないわね。こればかりは個人の問題だもの。私達が口出しして良い事じゃないわ……。それにしても本当につまらないわ。私達は生徒会と風紀委員会の仲間なんだから、もうちょっと頼ってくれても良いんじゃないの?余り自分一人で抱え込んじゃうと、いつかは壊れてしまう物よ」
「でも、そうやって人にばかり頼る訳にもいかないので。僕達には僕達のやり方がありますから」
かなり突き放した様な言い方だったが、何とか納得してくれたらしい。
実際には不満は溜まりまくりなのだが、それに全く気付かないゼロは、Sランク空間魔法『仮想世界』を発動させ、生徒会室の天井に別空間へ通じる穴を開けた。
以前は白一色しかない世界だったものが、今は炎の紅で塗り潰されている。
また派手にやったのだなぁと、嘆息しながらゼロはその世界へと跳躍しようとしたところでセリカが呼び止めた。
「ゼロ君、必ず此処に戻って来て! 後で皆に大事な話があるから!」
それに無言で頷くと、今度こそゼロは穴の中へと消えて行った。ゼロが穴の中へ消えると同時に、まるで最初から何も存在しなかったかの様にそれは消える。
後に残るのは、必要とされない自分に腹を立てる者とそれを静かに見守る者だけだった。
*****
大質量の爆発の中、ガイアとウリアが姿を見せた。さすがは幻獣と言ったところか、その身体には傷や火傷一つ見当たらない。
だが、その身体を巡る魔力は殆ど使い果たした状態だった。
《はあはあ……、まさか貴様に助けられる事になろうとはな》
《それを言うならガイアだって、僕に魔力をくれたじゃないか。あれが無かったら、今頃僕達、焼竜と焼鳥になってるところだったよ》
ウリアの言う通り、ガイアはウリアに魔力を貸与した。
あの爆発は二匹の身体と魔法をもってしても耐えられる様なものではなかった。半ば条件反射でガイアを庇う様に炎魔法属性のSSランク防御魔法『紅蓮巨盾』を発動させ、そこにガイアの魔力が合わさった結果、何とか生き延びる事が出来たのだ。でなければ、本当に命の保証はなかった。
《まったく、今まで何のために争っていたのか……》
《ホント、もうその理由も思い出せないよ!》
仲違いしながらも、お互いを庇い合い、守り合った二匹。
そして、簡単に仲直りという流れは些か吊り橋効果もあったのかも知れないが、その笑顔はそれを示す確かな証だった。
しかし、そんな二匹に新たな不幸が降り注ぐ。
「何だ、あいつら潰されちまったのか。まあ、この俺様に比べれば雑魚なあいつらが死ぬのは当然の事だがな」
《《っ!》》
二匹が振り返った先には新たな魔物が立っていた。明らかに先程の魔物よりも邪悪で濃度の濃い魔力を全身から迸らせている。
今の疲弊しきった自分達が相手取るにはかなり分が悪い。
それでもやるしかないのだ。
ガイアとウリアはお互いの顔を見合わせて頷いた。
とそこへ、いつも耳にしている人間の声が届く。
腰まで伸ばした銀髪をゴムで纏めている、女かと見紛う顔立ちをした少年だ。
その少年が今、此方に向かって微笑みながら歩いて来ていた。
《ゼロ! やっと来てくれたか!》
《そうだよ! もう疲労し過ぎて死にそうだよ。もう金輪際こんなお仕置きは勘弁して!!》
その必死な懇願にゼロは微笑みを絶やさず答えた。
「心配しなくても大丈夫だよ。これからの鍛錬は全部ここでする事にしたから」
その言葉に二匹の表情が凍りつく。ガイアとウリアは恐る恐る訊ねた。
《ゼロよ、もしや今回の事は全てその為の予行演習だったのか……?》
《じ、冗談だよね?》
「勿論冗談なんかじゃないよ。もう僕の創った世界では満足のいく鍛錬が出来ないからどうしようかと悩んでたんだ。丁度そんな時、二人が喧嘩なんて始めてくれたから懲らしめる事も含めて良い機会だと思ったんだよ」
二人は今度こそ絶句した。ゼロはそんな二匹の様子に、顔の笑みを深めるだけだ。
そして、ゼロの登場によって完全に置いてけぼりを食らっていた強大な魔物は激情を顕わにする。
「お前ら、この俺様を誰だと思っている! 無視するんじゃねえ!」
そこで漸くその存在を思い出したのか、少々億劫そうに応えた。
「ああ、すみません。すっかり失念していました」
「てめえ、そこの死に底ないよりも先に殺してやる!!」
そう怒鳴った魔物は大量に邪悪な魔力を身に纏いながら、真っ直ぐに此方に突っ込んで来る。単調だが強力な突進によって生じる風を利用して、宙に舞う羽根の様にそれを回避した。自らの突進を容易に躱された魔物は勢いを殺す事なくゼロのいる方へとターンする。
しかし、ターンによって生じた隙を突いて、自らの身体に身体強化魔法を施したゼロは、身体を空中に躍らせ遠心力をつけた跳び蹴りを放つ。その蹴りを真面に受けた魔物は彼方へと吹っ飛んで行った。
そこへガイアとウリアが近づいて来る。
そして二匹は意志の籠った声で暗黙の了解を確認する。
《ゼロ、今の内に》
《ゼロの真の力を開放するんだ!》
それに無言で頷く。
そして一つと成る為の合図を叫ぶ。
「ガイア、ウリア、『二重同調幻化』を!!」
そうしてゼロの身体から溢れ出した光がガイア、ウリアの身体を包み込んでいく。
と、丁度そこへ駆けつけて来る魔物は見た。世界が神々しいまでの光に包まれる瞬間を。
その光景を最後に、魔物を含めた世界の全ては完全に消滅したのだった。
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