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混沌の魔法師  作者: 鈴樹 凛
第1章 謎の幻獣使い
15/24

第14話~部活動勧誘日~

皆様のおかげでお気に入り登録件数が1200件を突破しました。

これも全て読者の皆様のおかげです。

今後とも『混沌の魔法師』を宜しくお願いします。

 5月1日当日聖アストラル学院の部活動勧誘日である。

 リーガン、ミリアリア、リリーの特訓もゼロの予想以上に順調に進み、今では上位のAランク魔法師のレベルに達している。

 強くなりたいという素直な情念から、ゼロのアドバイスをどんどん受け入れ、ゼロ自身も驚くほどのスピードで実力を身に着けていた。ゼロに教えられる最低限の事をマスターして、後はもう自分で精進していくしかないという事になり、 ゼロの指定した期間内に三人の特訓は無事終了する。

 その三人は今、風紀委員室でダリアの話を真剣な表情で聞いていた。

「いいか、何度も言う様だがお前達はまだE組に所属している。そんなお前達の事を面白く思わない連中が必ず存在する。只でさえ風紀委員は一般生徒に敵視されている面があるからな。過激な連中なら、見回りの最中に魔法で妨害などをしてくる者も出て来るだろう。強くなったからと油断せずにしっかりと取り締まる様に」

「はい!!!」

 三人が気合の入った返事を返すと同時に風紀委員会議はお開きとなった。

 因みに現在の風紀委員会の総員はこの四名のみだ。他の委員はリーガン、ミリアリア、リリーを風紀委員会に入れることに反対して退会してしまったからである。役員募集の呼び掛けは当然しているが、今のところ志願者はいない。

 故に今年の部活動勧誘日は聖アストラル学院の歴史上、最も大変な時といえた。

 今回の風紀委員会の主な仕事は、学院の見回りと校則を冒した生徒の取り締まりである。見回りは二人一組で行われ、リーガンとミリアリア、ダリアとリリーの組み合わせだ。リーガン、ミリアリア組が屋外を、ダリア、リリー組が屋内を見回ることになった。

 こうなると本部である風紀委員室が空っぽになってしまうが、そこは生徒会からの人材派遣で補うことになった。

 そして、風紀委員会にはアンが派遣され、その場で待機することになった。

 その間、生徒会は何をしていたのかというと―――――


     *****


「アンには悪いことしたわね~」

「そうですね。僕が変わってもよかったんですが……」

 生徒会長専用の椅子で大きな伸びをしていたセリカはゼロの発言にとんでもない!と言うように反発した。

「それはいけないわ! 今回の一番の功労者はゼロ君なのよ! それにゼロ君は学校行事は一度も経験がないって言うじゃない。この機会に楽しまなきゃ人生の半分は損するわよ!」

 その言葉にリーナも同意する。

「そうですよ。人生の半分うんぬんは兎も角、経験して損はしないと思いますよ」

「はあ……」

 そういうことが未経験なゼロは言われたまま頷くしか出来ない。

 そんなゼロを余所に、同じく学校行事が未経験な筈のパートナー達も珍しく同意する。

《その通りだぞ、ゼロ。我らが此処にいる理由の一つは社会見学も兼ねているのだ。こういう事に参加して人生経験を積むのも悪くないと我は考えている》

《そうだよ! 僕達は皆の代表・・・・でもあるんだから、思い出話の一つや二つ作っても良いと思うよ。下等な連中が主催してるってのが汚点だけど……》

「ウリア、そんな事言っちゃだめだよ。でも、そうだね。皆、外の事を知りたがってたもんね。それじゃあ、出来るだけいっぱい思い出を作ろうか!」

《うむ!》

《思いっきり楽しんで行こー!》

 ―――――という風に生徒会室でくつろいでいた。

 元々各部活の予算配分などの大量の仕事は既に片付いている。生徒会としてははっきり言って当日は暇なのだ。

 しかし、部活動勧誘日が終わると共に、今度は校内実力模擬トーナメントの準備で忙しくなる。この時間はいわば憩いの時間なのである。

「ところでゼロ君は一緒に回る相手とかいるの?」

「いえ、ガイアとウリアの三人で回る予定です」

「ふ~ん、成程ね……」

 そう言って楽しげな笑みを浮かべて、何かを思案するセリカ。その笑みにとても嫌な予感をゼロは覚えた。セリカが笑みを浮かべて何かを考える時は、大抵嫌な予感が的中するからである。嫌な予感を覚えたのはゼロ一人ではなかったらしく、リーナは先手を打った。

「セリカ会長、私はクラスの友達と一緒に回る事になってますのでお先に失礼します」

「あらそう。残念だわ。ここにいるメンバー全員で楽しもうと思っていたのに……」

 そう言うと子供の様に頬を膨らませて見せるセリカ。

 しかし、何故かその瞳は悪戯が成功した子供の様に輝いている。ゼロは額を一筋の汗が流れ落ちるのを感じた。

「それでは、失礼致します。皆さんで存分に楽しんで来て下さいね」

 そして、生徒会室の扉で御手本の様な綺麗な所作で一礼して退室した。

 しかし、ゼロは見た。

 頭を下げたリーナの口元が薄く笑っていたのを。

「それでは、私達も行きましょうか。のんびりしていると部活動勧誘日が終わっちゃうわ!」

「まだ、始まってすらいませんが……」

 セリカは勢い良く立ち上がるとゼロの言葉を無視した上に、強引に手を掴んで引っ張った。

 いきなり立たされた事でバランスを崩しそうになったゼロは当然抗議の声を上げる。

「な、何をするんですか!?」

「何って、決まってるじゃない。早くに行って、一番乗りで楽しむのよ!」

《ゼロよ、もう諦めてしまえ。この娘の勢いは我にもどうしようも出来ん……》

《何言ってんだよ、ガイア! 僕はセリカちゃんをとっても気に入っちゃたよ。こんなに勢いのある奴はストレンジ王国にもいなかった! ゼロも折角なんだから楽しんでいこうよ!》

 ガイアには同情され、ウリアには急かされ、セリカに引っ張られながら、一同は生徒会室を後にした。


     *****


 聖アストラル学院の部活動とは全て魔法に関するものである。特に魔法戦闘の面には学院側も力を注いでおり、大会において優秀な成績を収めれば将来の道はかなり約束されるといえる。それも成績を収めた本人だけでなく、その部のメンバーにおいてもそれは将来にとっての大きなステータスとなるのである。

 よって、魔法戦闘系の部員捕獲争いは毎年苛烈を極め、特に上位組生徒になればなる程それは顕著になる。それは一種のお祭り状態で、新入生の興味を引くために様々な催しが行われていた。

 聖アストラル学院のとてつもなく広い訓練場で行われている部活動勧誘は一種の混沌とした状況と化している。各部活ごとに大きな声を張り上げて新入生に呼び掛けているが、何処の誰が発した声なのか全く認知出来ない。

 そんな生徒達が溢れかえった喧騒の中をリーガンとミリアリアは歩いていた。左腕に付けている風紀委員の腕章のせいか無駄に注目を集めている。

 それを見て二人の事を知らない生徒は何か問題を起こしていないかと顔を青褪めさせ、知っている生徒は嘲笑を浮かべている。

 無数の恐怖と嘲りの視線を感じながらリーガンは呟いた。

「何か滅茶苦茶鬱陶しいな、どうにかならないのかねこの視線……」

「しょうがないわよ。ダリアさんも言ってたでしょ、風紀委員は何かと目の敵にされてるって」

「それにしてもこの敵意と侮辱の入り混じった視線の山は、感じてて気が遠くなりそうだ」

「同感。ゼロ君はいつもこれ以上の視線を集めてるっていうから驚きよね」

 生徒会と風紀委員の在校生組と新入生組は一部を除いて名前で呼び合う程に親しくなっていた。セリカが「仲間なんだから名前で呼び合うのは当然の事よ!」と、強く主張した為である。

 そんな新入生二人が会話していると、歩いている足元の地面が突然盛り上がり、そこから土で造られた手が襲い掛かってきた。

 それを事前に察知していたリーガンとミリアリアは身体強化魔法を発動、強化した脚力をもってその場から瞬時に離脱した。

 発信源の魔力を辿っていくと、訓練場の端に一人の男子生徒が地面に手を付けた状態で顔を忌々しく顰めているところだった。

 リーガンは即座にBランク土属性魔法『土牢』を発動して、男子生徒を捕縛する。男子生徒の周囲の地面が盛り上がりドーム状の土の牢屋が形成され、男子生徒を覆い隠してしまう。強化された土で構成されている土の牢屋は、隙間がないため中の様子を窺い知る事は出来ない。

 だが恐らくは、噛み切らんばかりに唇を噛み締めている事だろう。突然の事態に周囲の生徒は驚いていたが、二人が近づいて行くと共に騒ぎも静まっていった。

 リーガンが『土牢』を解除すると中に閉じ込められていた男子生徒が土の槍を手に襲い掛かって来た。

 恐らくは魔法で出来ているであろう土の槍を上体を逸らす事で容易に躱しながら、足を突き出し男子生徒の足を引っ掛ける。勢いの付いていた男子生徒はその勢いのまま横転したが、すぐに受け身をとって此方に向き直ってきた。躱されるとは全く予想していなかったのか、その顔を驚愕に歪んでいる。

 リーガンは無言のまま男子生徒が使ったのと同じCランク土属性『土槍』を発動させる。手を基点に魔法式が生まれ、先端を尖らせただけの土の槍が現れた。

 すると、男子生徒も土の槍を手に体勢を立て直す。

 真正面から対峙する両者の勝敗は一瞬で決した。

 男子生徒の突きに対して此方も突きを繰り出す。突き出された両者の土の槍は衝突し、お互いの存在を無に返した。そのことに怯んだ男子生徒の隙を見逃さず、鳩尾に拳を見舞う。

 男子生徒の意識はそのまま闇の底に沈むのだった。


     *****


「ふう、まさか本当にこんな奴が出て来るとはな……。ダリアさんの言った通りだぜ」

 リーガンが一息ついているとミリアリアが防御魔法の張られた手錠を男子生徒に掛けながら言った。

「まあ、良いじゃない。誰も怪我しなかったんだから」

「まあ、そりゃあそうだろうけどよ」

 倒れている男子生徒と周囲の大量の野次馬に目を向け、溜息を一つ。

「そんな辛気臭い顔してないで、早くこいつを風紀委員室のアンさんの所に連行するわよ」

「何か、俺達警察みたいだな」

「学院の警察っていう意味じゃ似た様なもんでしょ。ほら、男なんだからアンタがこいつを運びなさいよ!」

「へーへー。分かりましたよ」

 二人はそんな会話を交しながら周囲の視線を無視してその場を後にしようとしたその時、今まで感じた事がない程の尋常ではない量と質の魔力が迸ったのを感じた。


     *****


 時間は少し遡る。

 相も変わらず人の眼を集めながら歩くゼロは、精神上かなり疲れてきていた。これ程までに疲れたのはウィズダム王国に来て以来初めての事だ。ウィズダム王と謁見した時も、ここまで疲れた記憶はない。

 そんなゼロには目も暮れず、人垣の向こうで生徒達の視線を一身に集めながら、元気に此方に手を振っているセリカと空中で羽根を羽ばたかせているウリアがいた。

「ゼロ君、遅いわよ! 何時までもそんなところにいると置いて行っちゃうわよ!」

《そうだよ! そんなにのんびりしてると日が暮れちゃうよ! ガイアもいつもの勢いは何処に行っちゃたの!》

 その声を聞き流しながらゼロは呆然と呟いた。

「……さっきからずっとあの調子だけど、あの元気の源は何処にあるのかな?」

《同感だ。いい加減付き合わされる此方の事も考えて欲しいものだが……》

「それはしょうがないよ。あの二人には自覚というものが全く無いんだから……」

 そう言って、本日何度目になるか分からない溜息をつきながら、これまでの事を思い出す。

 生徒会室を出た後、結局何もする事が無く何故かハイテンションなセリカに連れられてその辺をぶらぶらした。部活動勧誘週間が始まってからはさらにその勢いに拍車が掛かり、初めての事に興奮した上にセリカと見事に意気投合したウリアに振り回された。

 いつもはストップをかけるガイアは既に無駄だという事を悟っている様で、只只ゼロに同情するばかりで一向に止め様とする素振りを見せない。

 よって、一人と一匹の勢い(暴走?)を止めてくれる者は全くいなかった。

 ゼロとガイアに出来る事は、セリカとウリアという嵐が収まるのを待つ事だけだった。

「ほら、いつまでもボーっと突っ立ってないで、今度はあそこに行きましょう!」

 と、気づいた時には何時の間にか近寄って来ていたセリカに手を掴まれていた。

 セリカがゼロの手を掴んだ瞬間、周囲の生徒の殺気の籠った視線が突き刺さるが当人は全く気が付かない。

《ガイアも何やってんだよ!? ゼロをサポートするのも僕らの大事な役目だろ! それなのにガイアときたら……、そんなだからプリマに振り向いて貰えないんだよ!!》


    ガーン!!!


 誰もが一目で分かる程に表情が強張った後、ガイアは凄まじい勢いで落ち込んだ。今の今まで周りが一切見えてなかったセリカや溜息をつく程に疲れていたゼロがびっくりして我に返る程の落ち込み様だ。

 だが、そんなガイアに全く気付かないウリアは日頃の鬱憤を晴らす様に毒を吐き続ける。

《大体ね、ガイアは何時も僕がゼロにお仕置き食らってる時にそれを促すような事言うけど、ホントはガイアだってその対象なんじゃないの!? ガイアの言う事聞いてるとさ、何時も何時も僕だけが悪いように聞こえるけどガイアだって本当は僕と大差ない筈だよね? ゼロの注意受ける時はガイアだって僕と同じような事ばっかり言ってるし、ゼロのお仕置きを受ける原因になる問題行動を起こしちゃう時だってガイアも僕と同じ行動起こしてるよね? ストレンジにいた頃だって怒られるのは僕だけでガイアはいつも責任逃れしちゃうんだ! そうだよ、思い出したらさらに腹が立ってきちゃった。ねえガイア、この際だからはっきりさせようよ! どちらがストレンジで一番の問題児かを!!》

 ウリアの念話(怒声)で、さらに注目を浴びる一向。ゼロは古の盟約を交わした相手としか念話を行えない霊獣の念話が羨ましく思えてきた。

 そろそろ止めて欲しいと思うのだが、ウリアの怒りには少なからずゼロの行動も含まれている事から止める事が出来ないのだった。

 ゼロのそんな思いとは裏腹に、ウリアの毒舌はますますヒートアップしていく。

《これは僕の胸の内に仕舞い込んで墓まで持って行くつもりだったけどやっぱりやめた! ねえガイア、ガイアがストレンジの女の子達にどういう評価されてるか知ってる?》

 数秒前の怒気溢れる態度とは一変、急に人をからかう様な雰囲気を出す。

《わ、我の評価がどうだというのだ?》

 それは何時もの自身に溢れたものではなく、今にも壊れてしまいそうな儚げな声音だ。

 ガイアの普段見せない態度に気を良くしたのか、ウリアは満面の笑みを浮かべながら朗々と語り始めた。

《ガイアはね、ストレンジ一の堅物問題児って呼ばれてるんだよ。何たって一日中僕と一緒にいる上に、ガイアの性格を考えれば当然の呼称さ! こんな呼称が定着してるから皆にモテないのも無理ないよね~! ガイアってば、黙ってればカッコいいのに、残念だね~!》

 ウリアの言葉に今までゼロの右肩の上で身体をプルプルと震わせていたガイアは―――――

《黙って聞いていれば、殆どが貴様のせいではないか!!!》

 ―――――蓄えていた怒りを爆発させた。

 同時に、その身体から尋常ではない量と質の魔力が迸った。その魔力に耐え切れなかった生徒が何人も倒れる。

 ゼロは咄嗟に光魔法属性のSランク防御魔法『光層膜』を周囲に張り巡らした。周囲の生徒を追い出す様に幾重にも輝く防御魔法が張られ、荒れ狂う魔力を防ぐ。

《なんだい、殺ろうってのか! 望むところだ! どちらが強いか、白黒はっきり着けてやる!!!》

 そして、ウリアもガイアに負けない程の量と質の魔力を放出した。

 二つの魔力は互いにせめぎ合い、物理的な暴力となって吹き荒れる。ゼロが張った防御魔法が無ければ、もっと被害が拡大していただろう。さすがにこれを放って置く程、ゼロは無責任ではない。

 ゼロが二匹を止めるための魔法を発動させようとしたところで、人垣を掻き分けて乱入者がやって来た。

 屋外の見回りをしていた風紀委員のリーガンとミリアリアである。

「道を開けろ風紀委員だ! 一体何があったんだ……って、やっぱりガイアとウリアかよ!!」

「ゼロ君、セリカさん、どうしてこんな事になってるんですか!?」

 ゼロとセリカはその問いに答える事が出来ない。

 ゼロは少なくともウリアの怒りの遠因になっているし、セリカは行き成りの事に混乱していてまだ状況を理解出来ていなかったからだ。

 リーガンとミリアリアが二人を問い詰めている間にもガイアとウリアの身体からは相当な量の魔力が放出されている。それはゼロの張ったSランク防御魔法を破ろうとする程の勢いだ。今張っている防御魔法が破られてもまた張り直す事も出来るが、それでは何の解決にもならない。

 よってゼロは、緊急手段を決行した。

 突如、3メートル程上空に人が一人が入る程の小さな穴が開いた。その穴の奥には全ての色彩感覚を狂わせる様な白が広がっている。

 そして、その穴が現れると同時に空中で大量の魔力を撒き散らしながら睨み合っていたガイアとウリアは穴の中に吸い込まれて行く。

 ガイアとウリアは驚愕し、この後の行動について考えた。

 本気で抵抗すればこの程度の重力・・にも対抗出来るが、それをすれば後でどんな仕打ちが待ち受けているか見当もつかないという見解に至る。

 よって、今出来る最大限の抵抗を試みた。

《ま、待ってくれゼロ! 強硬手段に出るよりも、まずは話し合いから始めよう!》

《そうだよゼロ! 今すぐ仲直りするからそれだけは勘弁してよ!!》

 その言葉に当人は只普段からは考えられない程の満面の笑みを浮かべるだけだ。それを見た二匹は絶叫しながら穴の奥深くへと消えて行った。

 その見る者が見れば分かる世にも恐ろしい光景を目の辺りにしたセリカは恐る恐る訊ねた。

「ねえゼロ君、あの穴は一体何処に繋がってるの……?」

 その問いにゼロは満面の笑みを浮かべたまま―――――

「そうですね、あの穴の向こう自体は僕が空間魔法で創った世界です。尤も、あの二人にとってはそうではないかも知れませんね」

 ―――――と答えた。

 その言葉に質問したセリカの額から頬を伝って一筋の雫が流れ落ちた。

「リー、ミリー、身内が迷惑を掛けてすいませんでした。あの二人には良く言って聞かせておきますから、後の事は宜しくお願いね」

 そう言うと、ゼロは上空に空いた穴に吸い込まれて行った。ゼロが空間魔法で創ったという世界へ続く穴は徐々に狭まっていき、最終的に完全に閉ざされる。

 後に残されたのはこの後二匹に起こるであろう恐ろしい事態に心の中で合掌する者と、初めて見る異様な光景に固まる者だけだった。


『混沌の魔法師』を面白いと感じて下さいましたら、是非とも評価・ご感想をお願いします。

誤字・脱字や文章に対するご指摘なども見つけ次第ご報告下されば幸いです。

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