第12話~特訓~
先日プロローグを追加しました。
翌朝、ゼロ達の姿は第三アリーナにあった。リーガン、ミリアリア、リリーの特訓の為である。
因みに三人の霊獣達はいない。霊獣との連携を高める為にはまだ実力が不十分だからだ。
三人は皆一様に真剣な表情を浮かべている。何故なら三人は早急に強くなる必要があるからだ。
一週間という制限期間もあるがそれ以外にも理由がある。それは昨日の生徒会室でのことである。
ゼロがリーガン達の特訓を承諾した後の顛末はこうであった。
*****
『イシュタール、三人の特訓のことだが勿論明日から始める予定か?』
『勿論です。期間を制限したのは僕ですからね。何かあるんですか?』
『今週の部活動勧誘日があるからだ』
『ああ、そういうことですか……』
ダリアの言葉にゼロは成程と頷ぎ、納得した。
部活動勧誘日では、生徒間で問題で問題が少なからず生じる。例を挙げるなら部活同士での生徒の奪い合いや、勝手な決闘などその問題は多岐に渡り、そんな生徒達を鎮めるためにはそれなりの実力が必要になってくるのは必然と言える。
だが、リーガン達にはまだそれだけの実力は無い。
『分かりました。早速明日の朝から開始したいと思います』
『そうか、助かる。お前の鍛錬時間を削る結果になってしまうがよろしく頼む!』
こうしてゼロは朝から三人の特訓に付き合うことになったのだった。
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「では早速始めたいと思います。初めに何でも良いから魔法を使ってくれないかな?」
ゼロがこの要求をしたのにはもちろん理由があった。それは三人の魔力操作能力の確認だ。
魔法を使うにはいくつかの手順を踏む必要がある。
魔法とは、自分の中に存在する魔法式の情報を魔法演算領域に送り込みそこでその魔法式に必要な魔力を注入して現実に投射する技術の事だ。
ここで重要なのは魔法式に送り込む魔力量である。この基本技術を完璧に習得出来ていないと、魔法式に余計な魔力を送り込むことになる。魔法式に余分な魔力を送り込んだところで魔法の威力が変わる事は無い。魔法式とは魔法の情報そのもので、魔法の威力は決まっているからだ。保有魔力とは無限ではなく有限であり、魔力を使いすぎれば当然消耗もする。
よって、戦闘においては如何に少ない魔力で戦えるかが勝利の鍵を握るポイントとなってくるのである。
「ああ、了解したぜ!」
「あたしの魔法をしっかり見ててね!」
「……私の一挙手一投足を見逃さないで」
そう言うと三人はリーガンを先頭に魔法を発動した。
「まず、俺からだな!」
リーガンは掌を前方に翳すとCランク土属性魔法『土弾』を発動した。リーガンの手を基点に7つの魔法陣が生まれ、そこから7つの土の塊が飛び出す。『土弾』はアリーナのAランク防御魔法にぶつかると一瞬で無に返った。
「こんなもんかな。どうだゼロ?」
「うん、そんな感じでお願い。注意する点は皆が終わった後にするから」
「じゃあ、次はあたしね」
ミリーは意気込みながら真上に掌を翳しBランク水属性魔法『大水弾』を発動した。ミリーの頭上に巨大な水の塊が浮いていた。それをアリーナに張られている防御魔法にぶつける。するとやはり『大水弾』は一瞬で蒸発した。
「……最後は私」
リリーは前方に手を翳して一つの魔法陣を生み出し、Aランク雷属性魔法『雷撃槍』を発動した。雷の槍は防御魔法にぶつかり、魔力と魔力でせめぎ合い防御魔法に穴を穿った後、『雷撃槍』は消滅した。
この光景を前にリーガンとミリアリアは暫く呆然としていたが、我に返るとリリーに対して素直に賞賛を送った。
聖アストラル学院ではE組からS組までを実力に応じて組み分けしているが、必ずしも〇組だからといって〇ランクの魔法が使える訳ではない。かといって、E・D組の生徒がE・Dランクの魔法を使いこなせない訳ではないのだ。そもそもCランク魔法も使えないような者が聖アストラル学院に入学など出来はしないのだから……。
よって、一年生でAランク魔法が使えることは誰もが真似出来ることではなかった。
「すげーぜリリー! Aランク魔法なんて使えたんだな!」
「ホントホント! Aランク魔法って凄く制御が難しいのに!」
二人の賞賛に頬を赤らめていたリリーだったが、不意にゼロに視線を向けた。その真意を悟ったゼロはすぐさま気持ちを言葉に出した。
「凄いねリリー。シュタイン会長がリリーの実力はA組相当って言ってたけど、まさかAランク魔法を使えるなんて思わなかったよ」
リリーはその言葉で完全に表情を綻ばせた。普段は無表情なリリーだけに、その笑顔はとても可憐だった。リーガンやミリアリアも笑顔を浮かべる。三人の光景はとても微笑ましいものだった。
だが、ゼロは容赦がなかった。
「でも、雰囲気を壊す様で悪いけど、早速皆の良くない点を発表するね」
ゼロの言葉で三人は一瞬で現実に引き戻された。先程の喜びようは影を潜め、真剣な面差しを取り戻す。
「問題点は色々ありますが、皆に共通して言えることは魔力を無駄遣いしすぎです。それではすぐに魔力が枯渇してしまいます。後、個人個人の問題もあります」
ゼロの本当に容赦のない言葉に三人の顔が思いっきり引き攣った。
しかし、ゼロは甘やかされた環境の中では人が成長しないことを知っている。
だからこそ、三人に現在の現実を突き付けた。
「本当に容赦ねえな……」
「そこまで遠慮なく言われると……」
「凄く凹む……」
今までの明るい雰囲気が嘘の様に霧散した。それでもゼロは続ける。
「まずリーです。リーは三人の中で一番魔力操作が下手です。リーの保有魔力量の基準を100と考えたとして、さっきの『土弾』一つに込める魔力は2程度で良かったのに、リーは6も魔力を込めていました。あれではすぐに魔力が枯渇してしまいます。これで仮にAクラス魔法を発動させたとしたら一瞬にして魔力が枯渇するでしょう。よって、今後の課題として、リーは魔力操作を中心的に鍛える必要があります。次にミリーですが、魔力操作能力は現段階では十分だと思います。けど、魔法の並列演算がうまく出来ていません。一つの魔法式に魔力を注ぎ込むのに神経を研ぎ過ぎています。今後の課題としては複数の魔法式に同じだけの魔力を注ぎ込めるように魔法演算領域の拡張に努める必要があります。最後にリリーですが、リリーの問題は魔法操作能力ですね。魔力操作、魔法演算領域についてはリーやミリーの上を往っていますが魔法操作が雑です。『雷撃槍』が防御魔法に衝突した際に力が拡散していました。あの魔法は一点集中型ですから、魔法をしっかりと操作していれば一瞬で防御魔法に穴を穿てたでしょう。リリーはその他の技術は優れているんですから、魔法操作さえマスターすれば格段に実力が上がりますね。以上が、僕の感じた三人の魔法技術の改善点と今後の課題です」
リーガン、ミリアリア、リリーの三人は先程の悲嘆とは裏腹に驚きに顔を歪めていた。
普通、魔法師が魔法を発動するところを見ただけで魔法式に込められた魔力量を、魔法師の魔法演算領域内を、魔法の威力を看破することは難しいとされている。そんなことが出来るのは魔法を極めた一部の魔法師だけだ。
ゼロの年齢でその域まで達したのは世界で数える程しかいない。
確かにゼロの実力は同年代の中ではずば抜けて高いが、その域まで達しているとは考えなかったのだ。ゼロが自分達の魔法を一目見ただけでその改善点を見抜いたことに驚いたのはその為である。
ゼロはその様子を見て少し表情を緩めてた。
「まあ、厳しいことばかり言いましたが、大体こんな感じです。最終的に皆には最低でもSランク魔法師にはなってもらう予定ですから、頑張っていきましょう」
そんなゼロの言葉にまた顔を驚愕に歪める三人は見ていてとても面白かった事は秘密だ。
「ゼ、ゼロ。冗談だよな? 俺達がSランク魔法師って……」
「ホ、ホントにそんな事が可能なの……?」
「信じられない……」
そんな三人にはっきりとゼロは告げた。
「嘘ではありませんよ。僕が見たところ、皆にはそれだけの素質があります。それに、目標が低いと強く成れるものも強く成れませんよ?」
その言葉にまたまた驚く三人。
皆例外なく、口を限界まで広げてその驚き様を示していた。その表情に到頭限界を限界を迎えたのか、ガイアとウリアが声(念声)を上げて笑い出した。
《ワッハハハハ! 何なんだ貴様らのその顔は! 落ち込んだと思ったら、次の瞬間には口を限界まで拡げて驚きを表現しおって! 貴様らはそんなに顔芸が得意なのか!?》
《アッハハハハ! ホントだよ! そんなことでいちいち驚いてたら、ゼロの友達なんて続けられないよ! ゼロの凄さはまだまだこんなもんじゃないんだからさ!》
ガイアとウリアの言葉でようやく放心状態から抜け出せた三人はその言葉にムッと顔をしかめる。リーガン、ミリアリア、リリーの三人は口々に反論した。
「しょうがねえだろ! ゼロが凄すぎて驚いちまったんだからよ!」
「それにあたし達は誰に何と言われようとゼロ君の友達よ! 勝手なこと言わないで!」
「その通り! ゼロ君がどんなに凄い人でも私達は受け止めてみせる!」
暫く驚いていたガイアとウリアだったが、三人の反応に満足した様子だった。
だが、一番驚いていたのは他の誰でもない、ゼロ自身である。それはガイアやウリアにしか伝わらない程度のものだったが、確かに満足げな表情を浮かべていた。それを見た二匹もまた表情を緩ませる。とても暖かな空気がその場を支配した。
それまで興奮していた三人だったが、自分の発言が恥ずかしくなったのか顔を赤らめる。それもまた、暖かな空気を醸し出した。
暫く誰も口を開かなかったが、何かを惜しむかのようにゼロは口を開いた。
「ありがとう、皆。これからもよろしくね」
ゼロの言葉を切っ掛けにリーガン、ミリアリア、リリーも口を開く。
「ああ。さっきは小っ恥ずかしいこと言っちまったけど、よろしくな!」
「そうよね。本当に凄く恥ずかしかったわ。けど、これからもよろしくね、ゼロ君」
「……よろしく」
こうして友情を固め合った後、ゼロによる三人の特訓が始まったのだった。
*****
昼休み、授業を終えた後いつも通りのメンバーで食堂に向かおうとした時、ルーナがゼロを呼び止めた。
「イシュタール君、今ちょっといいかしら?」
いつもと違う真剣な声音(本人に聞かれたら確実に怒られるだろうが……)に少し嫌な予感を覚えつつもゼロは振り、ルーナの顔を見てすぐに後悔した。
「何かご用でしょうか?先生」
「ええ、今日の放課後に学院長室に来てくれないかしら?学院長先生から大事なお話があるわ。勿論、幻獣ちゃん達は外してね」
嫌な予感が的中したゼロは顔を顰める。それに何故か二匹の呼び方が殿からちゃんになっている。
ガイアとウリアはルーナの言葉に顔を怒りを覚えたのか顔を赤く染めていた。今にも怒りが爆発しそうな二人を視線で抑えながら、ルーナに訊いた。
「二人を外してまで僕に一体何のご用でしょうか?」
「詳しいことは学院長先生からお話があります。なので必ず来てくださいね」
最後に笑顔でまくし立てると、ルーナは早々と教室を出て行った。
「なあゼロ、何か俺、滅茶苦茶面倒臭そうな予感がするんだが……」
「そうよね、いつもあんなにおちゃらけてるルーナ先生があんな真剣な顔してるとこなんて初めて見たわ」
「……一体、学院長先生がゼロに何の要件だろう?」
そんな不安げな友人たちにゼロはそれを煽るような形で答えた。
「大体の想像は出来ますが……、リーの言う通り面倒臭い事になりそうですね」
そんなゼロの嘆息と共に、昼休みは過ぎていくのだった。
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