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混沌の魔法師  作者: 鈴樹 凛
第1章 謎の幻獣使い
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第11話~懇願~

 ゼロは生徒会室でセリカと向き合うように座っていた。ガイアとウリアはゼロの両肩に陣取っている。

 他にもリーガン、ミリアリア、リリー、リーナ、ダリア、アンが同席していた。

 皆、ゼロ達に疑問の視線をぶつけていた。第一アリーナで一体何があったのか?と。

 そんな皆の疑問を代表してセリカが訊いた。

「ゼロ君、要件は分かってると思うけど改めて訊くわ。第一アリーナで何があったの?」

「……………」

「答えたくないことなら強要はしないわ。でも、これから生徒会の仲間として付き合っていくんだから、出来ればお互い隠し事は無くしていきたいと私個人としては考えているの」

「皆さんはそれを聞いてどうしようというんです?」

 セリカは一瞬も迷わずに答えた。

「どうもしないわ。只、私達は真実が知りたいだけよ。他意はないわ」

 ゼロは到底その言葉を信用することが出来なかった。

「何を証拠に信用しろと?」

「証拠なんてない。これは単なるお願いだもの。ゼロ君が何をそんなに警戒してるか知らないけど、ここで話したことは決して口外しないことを誓います」

 セリカの言葉を他の者も肯定する。ゼロは諦めたかのように溜息をついた。            

(結局いつかは知られることと分かってはいましたし、あの方・・・に迷惑が掛からなければ良しとしましょう)

「……お話しても構いませんが、二つ条件があります」

「条件?」

「はい。一つ目は今から話すことは決して口外しないこと。二つ目は校外への情報漏洩の防止。この二点を厳守することです」

 ゼロがこの条件を提示したのには勿論理由がある。

 一つはゼロとウィズダム王家との関わりである。

 そもそも、ゼロが聖アストラル学院に入学したのは強くなる為だけではなく、幻獣達の王国ストレンジのストレンジ王の推薦があったからだ。ストレンジ王がウィズダム王に取り計らってくれたので、ゼロは人間族の王国ウィズダムでの身分を保証され、聖アストラル学院に通うことになったのだ。

 ゼロが幻獣使いということで、ゼロの素性を調べる者が出てくることは分かりきっていた。幻獣と盟約を交わせるということは、それだけ強力な魔法師だということだからである。

 そして、ゼロがSSランク防御魔法を破る程の魔法師と知られればその重要度は跳ね上がる。ゼロの事を調べる者は後を絶たなくなるだろう。SSランク防御魔法を破ることはそれだけの価値があるのだ。

 そんなことが出来るのは、世界中の最強の人物を集めた最強の組織『グリフォン』ぐらいだろう。

 ゼロの素性を調べてウィズダム王家との関わりを知られたらゼロだけでなくウィズダム王家に迷惑が掛かる。それだけは避けなければならない。

 ゼロは自分の親ともいえるストレンジ王にさえ迷惑が掛からなければ良いのだが……。という事情があり、ゼロは今回のことを他人に話したくなかったのである。

「分かりました。その二つは必ず厳守します」

 ゼロはもう一度溜息をつくと話し出した。

「シュタイン会長も薄々気づいてるでしょうが、僕、ガイア、ウリアは第一アリーナで只鍛錬をしていただけです」

『鍛錬してただけ!!』

 ゼロの言葉に皆が驚愕する。

「じゃあ、ゼロはガイアとウリアとの鍛錬にSSランク防御魔法が耐え切れなかったってことか!?」

「ど、どれだけレベルの高い鍛錬なの!?」

「今まで一体どこで鍛錬をしていたの!?」

 リーガン、ミリアリアに加えて、いつもは無感動なリリーまでもが興奮した体で矢継ぎ早に質問してきた。

「リーガンの言う通り防御魔法自体が耐え切れなくなったみたいでね。鍛錬自体はいつもは今日程レベルの高いものはしていませんよ。いつもは自分で創った空間で外に影響が出ないように注意して鍛錬してるから本気が出せないんですよ。」

「創った空間とは空間魔法のことですか?」

 ゼロの答えに落ち着きを取り戻したらしいリーナが訊いてくる。

「ええ、その通りです。空間魔法について詳しくはお話出来ませんが……」

 ゼロが説明に詰まっているとセリカが助け船を出した。

「今までの話を要約するとこんな感じかしら? 今までゼロ君達の鍛錬はいつもはゼロ君が空間魔法で創った空間でしていたけど、空間魔法の維持に集中力が割かれて本気で鍛錬出来なかった。だから、今回学院のSSランク防御魔法の中で本気で鍛錬をしていたが、結局SSランク防御魔法もゼロ君達の本気には耐え切れなかったと、そういう解釈で合ってるかしら?」

「ええ、概ね合っています」

 そこで不意にダリアがゼロに訊いた。

「イシュタール、今の話だとSSランク防御魔法はお前達の鍛錬に耐え切れなかったそうだが、最終的に防御魔法は破れなかったようだが、それはどういう事だ?」

 ダリアの問いに少し迷った表情を見せた後、溜息混じりにゼロは答えた。

「簡単なことです。僕達が防御魔法に魔力を送り込んで補強したからです」

「何、補強だと! 馬鹿な、そんな事が可能なのか!?」

 ダリアがいきなりゼロに詰め寄った。

 アン、ミリアリア、リリーが悲鳴を上げる。

「ダリア君落ち着いて!貴方らしくないわよ!」

「ぐぅ、すまん。イシュタール、許せ」

 セリカの仲裁によりダリアは落ち着きを取り戻す。

 だが、セリカも驚きを隠せない様子だ。

「でもゼロ君、本当なの? 貴方達が防御魔法を補強したって?」

「はい。本当の事です」

「でも一体どうやって。防御魔法に限らず、他人の魔法に干渉するということはその魔法式を理解していないと不可能なことよ。それも、SSランク魔法に干渉するなんて!」

 セリカの言う通り他人の魔法に干渉するにはその魔法式を理解していなければならない。誰もが日常で使っているような簡単な魔法でも、使う個人によって魔法式は千差万別である。

 よって、他人の魔法に干渉することは不可能といわれる技術の一つにもなっている。それこそ、この世界を創造した神でもなければ不可能なことであるというのが常識だ。

 しかし、その定説を目の前の少年は覆したのだという。

 セリカ達の驚きも至極当然の事であった。

「その事についてもお話しすることは出来ません」

 ゼロは申し訳なさそうな顔で言った。

「いえ、それは仕方ないわ。これもゼロ君達の固有魔法だというのなら私達が詮索するのはルール違反よ」

 正確にはゼロの固有魔法という訳ではない。この魔法は幻乱魔法といい、限られた者にしか使いこなす事が出来ない、幻獣族に伝わる秘魔法である。

 幻乱魔法は魔法に魔力を直接流すことによって魔法を一部を乱し、そこから漏れ出た魔法式の情報を逆算する魔法である。

 しかし、幻乱魔法を使用する際には、幾つもの厳しい使用条件がある。

 まず対象の魔法を乱すために、その魔法を凌駕する大量の魔力を注がなければならない。次に漏れ出た魔法式の情報を逆算するための観察眼と知識、大量の情報を処理する能力が求められる。最後に干渉する際にまた、対象の魔法を凌駕する魔力を注がなければならない。

 幻乱魔法が使いこなせれば、魔法を消去することも、補強することも、主導権を奪うことすらも可能になる。ただし欠点としては大量の魔力を消費してしまうため、使いすぎるとすぐに魔力が枯渇してしまう。ガイアとウリアの擬態魔法が解けてしまったのもそれが原因であった。

「お心遣い、ありがとうございますシュタイン会長」

「当然の事よ。確かにゼロ君の固有魔法には私としても興味を惹かれるけど、さっきも言った通りそれはルール違反よ」

 ゼロの謝辞にセリカは真面目な顔で答えた。セリカが生徒会長としての顔以外にもこんな顔が出来るのかとゼロは感心した。聖アストラル学院生徒会長は能力だけでなく、当たり前だが人柄も評価されるのだろう。でなければ、S組生とはいえ2年生で生徒会長の地位には就けない。

 ゼロは心の中で、セリカという人物に対しての評価を上向きに大きく修正した。

「なあ、ゼロ。唐突で悪いんだけどさ、お願いがあるんだ」

 いきなりのリーガンの言葉によって、ゼロの思考は遮られた。

「どうしたんです、リー?」

 このタイミングで自分に話しかけてくるリーガンの意図が読めず、ゼロは首を傾げた。

「その……な、俺達に魔法を教えてくれないか?」

「はい……?」

 ますます、リーガンの考えが分からなくなるゼロ。

「いやだからな、俺達に魔法を教えてくれないか?」

 ゼロがミリアリアとリリーに目を向けると、二人も頷いていた。ゼロはリーガンの言葉の意味を理解した。

 三人の考えとは、違った意味で。

「固有魔法はお教え出来ませんよ」

「いや、そういうんじゃなくてな、俺達は普通の魔法を教えてくれないか? って訊いてんだよ」

「普通の魔法………、ああ、そういう意味ですか」

 ゼロはようやくリーガンの言う意味を察した。つまり、三人はゼロに自分達を鍛えて欲しいというのだ。

 恐らく、ゼロの魔法技能が自分達よりも圧倒的に優れていることを知ったからだろう。

 しかし、ゼロには一つ不可解なことがあった。

 それは――――――

「どうして、僕なんですか?」

「そりゃあ、お前が物凄い魔法師だからだよ」

「でも、態々僕に頼むことないと思いますよ。僕達にも鍛錬がありますし……」

 ゼロの言う通り、態々ゼロがリーガン達に魔法を教える事は無い。風紀委員会の直属の上司であるダリアに頼めば良いことである。

 ゼロが受けたくない理由はあと二つある。

 一つ目はゼロにはリーガン言う普通の基準が全く分からないというところである。ゼロの基準を押し付けた結果、リーガン達の魔法技術を歪めてしまいかねない。

 二つ目はゼロ自身と三人の才能の差である。魔法の才能は保有魔力量と魔法演算領域だけではない。魔法を使用する感性等も要求される。それらの事全てにおいてゼロと三人は余りにも違いすぎるのだ。

 これらの事柄が、ゼロがリーガン達三人に魔法を教えたくない理由であった。

「そこを何とか、頼む! ゼロ!!」

「お願いします!!」

「お願い!!」

 リーガン達はそう言いながら頭を下げてくる。その様子にゼロはどういった対応をすれば分からなかった。

 そして、困惑しているゼロを見てダリアまでもが頭を下げてきた。

「自分からも頼むイシュタール!こいつらに魔法を教えてやってくれ!」

 それはさらにゼロの困惑を誘う光景だった。

「………どうして、そこまでするんですか?」

 その言葉に顔を上げたダリアはこれ以上ないくらいに真剣な表情だ。

「これはこいつら個人の為だけじゃないからだ。イシュタール、そもそも何故この三人を風紀委員会に入れたと思う。」

「………それは、クラス差別撤廃の為ですか?」

 ゼロの言葉にダリアは笑みを浮かべた。

 聖アストラル学院では、上位組による下位組への差別、虐めが行われている。一種の縦社会ともいえるそれは既に慣習化しており、代々の生徒会、風紀委員会もこの腐った慣習を止めさせようとしたが、結局終わることはなかった。

 そこに人が存在する限り必ず差別は存在する。これはどうしようもなく不条理な現実だ。

 ゼロは差別の事実を考慮した上で、ゼロ達が学校機関に入ることの意味を考えて口にしたのだ。

「やはりお前を生徒会に入れたのは正解だったな。その通りだイシュタール、そういうお前もそうなんだがな。生徒会にしても風紀委員会にしてもそうだが、今まではA組以上の生徒を迎えるのが慣例だった」

「……………」

「お前たちはこの学校に新たな風を巻き起こす新風だ。クラス改竄の被害者であると同時にな。だからこそ自分達はお前達に目を付けたんだ」

 ダリアのその言葉にセリカ、アンが頷く。

「こいつらにお前から魔法を教えて貰いたいのは、自分が教えるのでは意味がないからだ。お前が教えてこそ意味がある。だから、頼む! こいつらにお前が魔法を教えてやってくれ!!」

「ゼロ、頼む!!」

「お願いします、ゼロ君!!」

「お願いします!!」

 ダリアと一緒にリーガン、ミリアリア、リリーが頭を下げてきた。

 だが、ゼロには一つ疑問があった。

「どうしてそこまで強くなりたいんですか? 風紀委員になったからなのですか?」

「いや、それもあるがそれだけじゃない。俺達はあの時、リンスレット先輩を助けたお前の強さに惚れたんだ。だから、俺達も誰かを守れる様な強さを身に着けたいんだ!」

 その熱意溢れる言葉にゼロは昔の自分を少し思い出した。

 特異で強力過ぎる自分の力を完全にコントロールし、自分が憧れ、尊敬するあの人に近づき、守りたいと思ってひたすらに強さを求めた日々。だからこそ今のゼロがあるのだ。過去の自分と三人を重ね合わせて感慨に耽るゼロ。

 果たして、ゼロは決心した。

「……分かりました。微力ながら御力にならせて頂きます。その代り、必ずしも成果が出るとは限りませんよ。下手をすれば、皆さんの魔法技術を歪めてしまう可能性だってあります。それでも構いませんか?

「勿論だ! 例え今より弱くなる結果になっても、それはゼロに応えられなかった俺達の責任だからな」

「リーの言う通りよ。どうなったとしても私達の自己責任だから」

「悪い結果になったとしても、ゼロに非は全くない。頼んだのは私達なんだから……」

 その発言にゼロは溜息をつきながら言った。

「分かりました。ですが僕が皆につける特訓の期間は一週間という条件でお願いしますね」

 ゼロの言葉にリーガン、ミリアリア、リリーは真剣な表情で頷く。

 こうしてゼロは三人の魔法の先生になることが決定したのだった。


何か至らぬところありましたらどんどん教えて下さい。


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