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混沌の魔法師  作者: 鈴樹 凛
第1章 謎の幻獣使い
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第9話~ようこそ!~

 聖アストラル学院の敷地はとても広大である。学院やアリーナ、12戸の学生寮の他に、四方三キロメートル程の森がある。燦々と注がれる太陽の光を受けて森全体が生き生きとしている。

 ゼロはその森の奥にある大樹に背中を預けて、自らの所業を後悔していた。

 Bランク炎属性魔法『爆撃』やAランク炎属性魔法『業炎』はまだ良い。仕方がなかったとはいえ、あんな大勢の前でSランク空間魔法『転移』を発動してしまったことが問題なのだ。

 しかもこの後は生徒会室に行かなければならない。セリカ達からの追及は避けられないだろう。

《ゼロ、何をそんなに気に病んでいる。愚民共にゼロの実力を知らしめることが出来たのだ! 高笑いでもして我らと喜びを共有しようではないか!!》

《そうだよ! これでゼロが学院を掌握する日も遠くないよ!!》

「二人共、僕は学院を掌握する気なんて毛頭ないからね……」

 ガイアとウリアにも困ったものだと思う。普段は多くを語らずともゼロの心理を理解してくれる。

 だが、周囲のゼロに対する評価のことになると軽い暴走状態に陥るのだ。

 挙句の果てに学院の掌握などと言い出す始末…。

《ゼロよ、過ぎたことを後悔しても仕方があるまい》

《その通りだよ! これでゼロの実力が分からない愚かな種族に馬鹿にされることも無くなるんだよ!》

「僕はこの学院ではあまり目立ちたくなかったんだよ。表舞台に立つのは、卒業した後でも遅くないからね」

《むう、我はゼロのその消極的な姿勢は数少ない欠点だと思うがな…》

《そもそも、どうしてゼロはこの学院で目立ちたくないの?》

「僕がまだ弱いからだよ。今の僕には大切な君達を守りきるだけの力はない。ウリアの力を取り戻す・・・・・・・・・・ためにもこの学院で力を蓄える必要があるから……」

《ゼロ、ウリアのことはお前のせいではない! 我等の力が足りなかっただけだ!》

《それにあの時、もっと早くゼロの力を開放していれば……!》

「単純に僕の力が足りなかったんだ。確かにあの時よりも僕は遥かに強くなったけど、まだ足りない。真の力に頼らなくても、君達を守れるくらい強くなりたい!」

《ゼロだけではないぞ!》

《僕達も強くなるよ!》

「ありがとう、二人共……。じゃあ、そろそろ行こうか。みんなもう集まってるだろうし」

 そう言ってゼロは、腰を上げ大樹から離れていく。

 森の中に射す木漏れ日が、スポットライトの如く、ゼロ達を照らしていた。


     *****


 森の中で落ち込んでいたせいで集合時刻に30分も遅れてしまった。生徒会室に入室したゼロを待っていたのは、女性陣からの冷たい非難だった。

「随分遅いご登場ね。何か用でもあったのかしら?」

「待ち合わせの時刻に遅れるなんて信じられません! そんな方ではないと思っていたのに!」

「10分前行動という言葉をご存知ですか?」

 セリカは満面の笑顔で、アンは憤怒の形相で、リーナは底冷えのするような笑みを浮かべての言葉だった。

 ゼロだけでなく、ガイアやウリアまでもが戦慄している。ゼロ達が生まれて初めて女性の恐ろしさを実感した瞬間だった。

「す、すみません。少し森の方で考え事をしていたもので……」

「森? ああ、『神秘の森』の事ね。考え事って、勝負の後、すぐ生徒会室に来る約束だったでしょう。まさか、忘れていたのかしら?」

 セリカのその言葉に女性陣の視線が鋭くなる。ゼロは必至で言い訳を考えたが、分かることは額に浮かぶ汗だけで、肝心の回答は全く分からなかった。

 そんな珍しく焦るゼロの様子に満足したのか、女性陣の視線も柔らかくなった。

「もう良いわ。ゼロ君、早く席に着いて。突っ立ってるままでは何も始まらないわ……」

「すみませんでした……」

 ゼロは大変恐縮しながら、リーナの隣、下座に着席した。

 配置的には、上座に座っているリーナの正面にセリカ、その隣にアン、その正面にゼロというは配置になる。ガイアとウリアは特等席である、ゼロの両肩に陣取っている。

「それでは、役者も揃ったところで本題に入りたいと思います。生徒会としては是非、ゼロ君とランカスターさんに生徒会に入っていただきたいと思っているのです」

 セリカは真剣みを帯びた声音で告げた。半ば予想していた事だけにゼロとリーナの反応は薄い。ゼロは何となく横に視線を向ける。するとリーナもゼロを見ようとしていた様で、ゼロと視線が合う。それでゼロは何となくリーナの意志を読み取った気がした。

 ゼロは正面を向いてセリカに訊いた。

「生徒会に入ると、僕達にどういった利があるんですか?」

『……えっ……』

「僕はこの学院に明確な目的をもって入学しました。その目的が阻害されるようなら生徒会には入る事は出来ません」

「その目的を訊いてもいいかしら?」

「強くなることです」

「強くなる? でも、ゼロ君は今でも十分強いじゃない。この学院にも空間魔法を使える人は何人かいるけど、あの規模の空間魔法の使い手は聞いたことがないわ」

「それは、学院という箱庭の中での話です。あの程度の力では僕の望みは何も叶わない…」

「望み……?」

「いえ、何でもありません。話は戻りますが、僕とランカスターさんにどんな利があるんですか?」

 その言葉にセリカはアンと視線を合わせる。ゼロの意図を図りかねている様子だった。

 セリカに助け船を出すためか、アンがゼロに訊いた。

「イシュタール君は、生徒会に入らないとしたら何をする予定なんですか?」

「僕は僕達の鍛錬の時間にしようと考えています」

「鍛錬ですか?」

「えぇ。先程も言ったように、強くなるためにはさらに努力を重ねなければなりませんから」

 そこまで言ったところで、セリカとアンが顔を見合わせて微笑んだ。ゼロに向き直り、どこか納得したような面持ちで言った。

「ゼロ君、聖アストラル学院には様々な最新鋭の魔法設備が充実しています。生徒会役員になれば、生徒会の用事が無い時に、その設備が自由に使うことが出来るの。これが私達がゼロ君とランカスターさんに提案する利です」

「何故、生徒会役員はその設備を自由に使えるんですか?」

 今まで口を開かなかったリーナの言葉だ。

「生徒会役員とは我が校を代表する生徒の事です。生徒会とは生徒を統括する機関であり、校内での高い権限を有します。それ相応の実力が求められるのは当然の事じゃないかしら?」

「成程、そういう事ですか。それで、どういった設備があるんですか?」

「そうね、代表的なものは防御魔法発生魔法具ね。防御魔法の属性は使用者が自由に決められる上に、ランクはSS相当よ。ライガーさんの発動したSランク炎属性魔法『陽炎』の直撃さえ防ぐわ。私やアンやダリア君でも打ち破ぶった事は無いの。それに防御魔法の外からでは中の様子は見ることも聞くことも魔力波を感じることも出来ないから、安心して魔法を使えるのよ」

 魔法師の中には固有魔法を有する魔法師が数多く存在する。一般に知られている魔法は、元は先人の有していた固有魔法である。固有魔法を国に進呈してその価値が国に認められれば、特許を得ることが出来、その魔法は魔法大辞典に載ることになる。

 よって、固有魔法は魔法師の固有財産であり、むやみやたらに他人に見せるようなことを好まないのだ。

(成程、悪くない見返りですね。鍛錬中の僕の空間魔法の強度はAランク程度。SSランクなら今の僕達が本気で暴れても壊れることはないでしょう)

 そう思い両肩のパートナーに目を向けると、同じことを考えていたのかすぐに肯定してくれる。ゼロは決めた。

 そして、リーナを見やった。

「ランカスターさんはどうするんですか?」

「そう言うイシュタールさんはどうするの?」

「僕は生徒会に入ることにします」

「そう、なら私も入ることにします」

「それは、どういう意味ですか?」

「さあ、何でしょう」

 ゼロの質問にリーナは笑顔ではぐらかした。そのまま暫しの間、リーナと見つめ合う。

「こほん! 二人だけの世界をつくっているところ申し訳ないのだけれど、ゼロ君とランカスターさんは生徒会に入会してくれる、ということで良いのかしら」

 その言葉で前方に視線を送ると、セリカは不機嫌そうに、アンは顔を赤くしている。それでけでなく、両肩の二匹までゼロとリーナに恨めし気な視線を送っていた。

《ゼロはそのような娘が好みだったのか……》

《ゼロとは長年一緒に生きてきたけど、そういうことまでは気付かなかったな……》

 ゼロは意味が分からないといった顔をし、リーナは微かに頬を赤く染めた。

「どうしたんですか、皆さん? そんなに怖い顔をして。僕が何か気に障るようなことでも?」

『………』

 呆れを通り越して憐みの視線がゼロに向けられ、何故かゼロはその場から一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られた。本日二度目の戦慄を味わっていると、ドアがノックされ「もう話は済んだか?」というダリアの声が聞こえてきた。セリカが返事をすると、ダリア、リーガン、ミリアリア、リリーの4人が入って来る。4人は生徒会室内に漂う不穏な気配を察知したようで、皆一様に首を傾げていた。

「セリカ、何かあったのか?」

「別に、何でもないわ。ただ、ゼロ君が超鈍感よね~って、話してただけ……」

 そう言って、今度は怒りを宿した瞳をゼロに向ける。ゼロは額だけでなく体中から汗が噴き出すのを感じた。

「ゼロ、本当に何があったんだ?」

「ゼロ君が、そんなに動揺するなんて想像できないわ。それに超鈍感って……」

「どういう意味?」

 ゼロに出来ることは、何も答えずに肩身を狭くすることだけだった。

「……もう良いわ。ところでダリア君、その3人を連れてるってことはそういうことかしら?」

「そういうお前も成功したんだな」

「ええ、ゼロ君にはいろんな意味で冷や冷やさせられたけどね」

「そうか……」

 その二人のやり取りで1年生組は全てを理解した。

「シュタイン会長、初めからこういうつもりだったんですね」

「ええ、そうよ。ゼロ君とランカスターさんを生徒会に取り入れて、ギュンターさん、スレインさん、ワンダーさんを風紀委員会に取り入れる。当初の目的は見事達成されたわ」

 なんとも図々しい物言いだった。尤もこの豪胆さこそが、人を引き付ける魅力なのかもしれない。

「という訳で皆さん、明日からよろしくね」

「「「ようこそ! 生徒会と風紀委員会へ!」」」

 こうしてゼロとリーナは生徒会役員に、リーガン、ミリアリア、リリーは風紀委員会へ入会することが決定したのだった。


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