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混沌の魔法師  作者: 鈴樹 凛
第1章 謎の幻獣使い
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プロローグ

突然のタイトル改変やプロローグ投稿を深くお詫び申し上げます。

これからも目を通して頂ければ幸いです。

 鬱蒼と生い茂る森の中を一人の少年が歩いていた。辺りは不気味な程に静まり返っており、月明かりだけが前方を見据えるための光源だった。

 少年は肩口でバッサリと切られた銀の髪が月明かりを反射して幻想的な雰囲気を醸し出している。

 だが、身に纏う衣服はその雰囲気とはあまりにも掛け離れていた。真っ白な衣服には真っ赤な液体が付着しており、なにより少年の空色の瞳の奥には底の知れない 虚無が広がっている。その瞳はまるで、世界に絶望しているかのようだった。

 そんな少年に、不意に複数の殺気が飛んできた。

 少年が足を止めて殺気のする方向に視線を向けると、群れを成した20匹の魔獣がいた。

 体長は2メートル程で顔の周囲が深い毛で覆われ、二本足で立っており、その手には人肉など簡単に切り裂ける鋭利な爪が、その口にはあらゆるものを食い千切る牙が生えている。直立二足歩行する巨大なライオンといった感じだ。

 その魔獣が少年に向かって血に飢えた眼を投げ掛けている。少年と魔獣は暫く静かに対峙していたが、我慢出来ないとばかりに先に魔獣が動いた。

 魔獣は連携などまったく考えていない動きでバラバラに少年に襲い掛かる。対し、少年はその場から全く動かない。只冷然と立ち尽くし、虚無の瞳で魔獣の全てを観察していた。

 魔獣の内の一匹が一番乗りとばかりに吠え、少年をその鋭利な爪で引き裂こうとする。

 そして次の瞬間、何をされたのかも自覚できぬまま全ての魔獣は絶命した。いつの間にか少年の姿はそこにはなく一番後方にいた魔獣の後ろに立っている。20匹の魔獣の首は重力に従って地に落ち、制御を失った身体はそのまま崩れ落ちた。

 少年は返り血一つ浴びてはいない。シルバーの髪が、流れる微風に揺れているだけだ。その様子に生を奪った事に対する良心の呵責はまるで感じられない。

 その瞳には既に魔獣の姿など映ってはいなかった。どうでもいいとばかりに背を向け先に進もうとすると、今度は理性的な男の声が森の中に響いた。少年はゆっくりと声のした方向へと身体を向ける。

「困りますねぇ、勝手にこんな所まで来られてわ。捜索して連れ戻す私の立場も考えて下さい」

「……」

 沈黙を貫く少年に構う事無く男は続ける。

「行く方向から見て、君の行先は第一施設といったところですか……。全く勝手な事ばかり。あそこに行ってどうしようというのですか?」

「……」

 男は愉快そうに顔を歪ませながら、

「まさか、あそこにいる同類たちを助けにでも行くつもりですか? 君が? 可笑しいな、そんな考えを出来る様には育てていない筈なんだけど……」

 と、そこでようやく少年は、固く閉ざしていた口を開いた。

「……貴方の言う通り同類を助け出す。そして貴方達は抹殺します。もう二度とこんな悲劇を繰り返さない為に」

「馬鹿な事を。仮に今ここで私達を壊滅させても、結局同じ事を考える者は必ず出て来ますよ。それが、あの方に魅入られた者の宿命なのですから」

「……」

「だから君もこんな馬鹿な事は止めて今すぐに本来在るべき居場所へ戻りなさい。今なら何時もより2倍ほど苦しいお仕置き程度で我慢してあげますよ」

「……御冗談を」

「冗談なんかじゃないさ。それに君は私達からは決して逃げられない。何故なら私達はどんな事をしてでも君を連れ戻すからだ。それが家出した息子に対する親心というものでしょう?」

 その何をしてでも逃さないという男の発言は、呪縛。それは少年が生を受けた時からずっと付き纏ってきたものであり、過去に恐怖したものの正体でもあった。身も心も全てを呪縛される恐怖。その恐怖も自らを縛り付ける呪縛。この二つは少年の心身に深く根付いていた。故に男は確信する。この少年は何があっても自分達からは逃れる事が出来ない、と。

「さて、無駄な話し合いもこれくらいにしてそろそろ決心してくれたかな? 此方としてはいつでも構わないのだが……」

 そう言って男が手を挙げると同時、その背後に黒いフードを深く被り顔を隠した集団が現れる。その纏う気配から只者ではないという事は、少年には容易に理解出来た。

「これが最後通告だ。私達に投降しなさい」

 その誘いに少年は無表情なまま、

「……お断りします」

「そうか、やりなさい」

 その言葉を合図に、黒いフードの集団が素早く動き、少年を隙間無く包囲、その中央に位置する少年へと一斉に掌をかざす。それを基点に複雑な文様を描く式が生まれ、不気味な色の光が放たれた。光は少年へとぶつかり、瞬間的に弾けた光が一面を照らした。

「残念だよ、君がそこまで愚かだったとは……。でも安心しなさい。今度こそ、二度とこんな事を起こさない様に徹底的に教育してあげよう」

「……そうですか、それは残念ですね」

「なっ!」

 自分の真後ろからいきなり聞こえてきた声に、男は驚愕した。振り向き見てみると、そこには光の中に居る筈の少年が無表情で立っていた。

「どういう事だ!? 貴様にこんな事は出来なかった筈! これではまるでっ……」

 男の言葉は最後まで続かなかった。眼にも止まらぬ程のスピードで動いた少年が男に向かって拳を放つ。男は不気味な色の光へと吹っ飛び、光に触れた瞬間、男は文字通り消えた・・・

「なっ、どういう事だ!? あれにはその様な効果など!」

 その異常事態に、黒フードの集団が狼狽する。だが、その隙を見逃すほど甘くはない。今度は少年を基点として広範囲に眩い光が放たれる。必殺の効果を持つ光は黒フードの集団を包み込み、光が消えた後には、既にその姿はなかった。

 全てを終わらせた少年は未だ滞空している不気味な光を見つめ、そっと呟いた。

「……成程、あれは生物の精神を冒し発狂させる効果がある。ならば……」

 そして、再び少年を基点として光が放たれる。光は不気味な光ににぶつかり、浸食し、完全に消し去った。少年はその結果を確認する事もせずに、背を向け歩き出す。



 少年は行先も分からない道を行く。

 無自覚な孤独と絶望の中で。

 この先、虚無の瞳が何を見て何を映すのか……。それは希望なのか絶望なのか……。

 少年の門出を祝福するかの如く、夜空に浮かぶ月と無数の星々が煌々と輝いていた。


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