お酒が飲める云々よりも
15分短編です
二十二時半を過ぎたころ、課題を進める俺の部屋のチャイムが鳴った。彼女だ。今日は仕事の後に飲み会があると言っていたけど、それにしては早い。社会人の飲み会って存外早く終わるんだなぁ。
「たぁだいまぁぁ~!!」
ドアを開けると、べろべろに酔っぱらった彼女が入ってきた。案の定酒臭い。
「いらっしゃい、早いと思ったけど、結構飲んだ?」
「んん~、どうだろぉ~、ハゲとぉ、お局様が居なかったからぁ、めっちゃ楽しかったのは覚えてる~!」
よくウチまで来られたなぁと言いたくなるほど、酔っぱらっている。ここまで酔っているのは久しぶりだ。
「よかったね、お水飲む?」
大学生の狭いワンルームだから、おしゃれなソファなんてものはない。ベッドに座ってもらって、コップに水を入れて持ってきた。
「んふふ~ありがとぉ~!!」
彼女は、日本酒を飲むような仕草で水を飲む。お酒好きなんだなぁ。
「早く一緒に呑みたいなぁ」
課題を進めるべく、テーブルの前に座った俺の背中に、彼女がそう言った。俺だって、はやく酒を飲める年齢になりたい。でもあと一年。法律がそれを許してくれないんだから仕方ない。
「俺も早く飲んでみたいよ~。そしたら一緒に居酒屋とか行けるもんね」
「お堅いなぁ~、同学年の子でお酒飲んでる子いるでしょう?」
「いるけど、俺はそんなことでバレて問題になったら嫌だからさ」
「真面目だなぁ~。ま、そんなところが好きなんだけど」
背中越しでも、彼女の顔が浮かぶ。ふやけた笑いを浮かべているんだろう。彼女の手が俺の方に伸びてきた。
「課題、まだやってるの?」
「そう、今日新しいの出されちゃってさ・・・」
「ははぁ~、学生も大変だねぇ」
そう言いながら彼女が俺の背中を指でなぞる。
「ちょっと」
「んん~?邪魔はしてないよぉ~、背中なぞってるだけぇ~」
ゾワゾワとした悪寒のような物が背中を走る。くそう、今すぐ振り向いてベッドに押し倒してやりたい。でもこの課題は明日までだから、終わらせないと。
「がんばれ、苦学生!」
「苦学生じゃないよ~」
課題終わったら覚えてろよ~?
「んふふ、じゃぁ~、これ分かる?」
そう言って彼女が背中に文字を書く。文字当てゲームが始まった。今課題やってるんですけど?
「え~?なんだろう・・・」
課題を進めつつ、彼女のゲームにも付き合う。存外器用だなとは思う。時たま彼女は俺の反応が少ないことを怒って、背中を叩いてきたけど、年上のくせに可愛いところが好きなんだ。社会人の女性ってこんなに可愛いモノなんだろうか?
しばらく課題に集中していると、後ろが静かになった。
振り向くと、彼女はベッドに横たわって眠ってしまっていた。コップの水は飲み切っていたけど、ベッドが濡れてしまうので、そっとコップを取り上げて、シンクに置いた。
彼女の寝顔を見ていると、俺も不思議とやる気が湧いてくる。
よ~し、課題終わらせて一緒に寝るぞ~!
と思ったところで目が覚めた。机に突っ伏して眠ってしまっていたみたいだ。課題の画面は真っ白だし、背中は痛い。後ろを振り向くと、彼女の姿が無くなっていた。
——あぁ、俺、彼女いたことないんだった——
起きるんじゃなかった・・・。




