遅かった?②
執事は驚き、私の顔を見て震え上がる。
「あ、あなたはアナベル様?」
「そうよ。早く話しなさい! あんたの知ってること、全部!」
執事は、観念したように話し始めた。
「ミリアム様はご無事です。心労続きで、お体の具合が良くないのでございます。他に、大したことを私は知りません。あ、いや、伯爵夫人が偽物ということは知ってますが」
「大したことを知ってるじゃないの!」
私の指摘に、執事は目が覚めたような顔をした。騎士団長も呆れている。
「そうか。もう一度、国王陛下の御前で証言してくれるな?」
「はい」
執事は立ち上がり、騎士団長に肩を押されるようにして、部屋から出て行きかけた。
「ちょっと待って!」
私は彼を呼び止め、近づいて行ってお詫びした。
「ごめんなさいね。いきなり失礼なことをして。でも、あんたも悪いのよ。私のことを犯人扱いしたりするから」
執事は、「申し訳ございません」と口の中で言い、もじもじした。
「もう一つ教えて。リカストワ一族の、あの医師はどこ?」
「ああ、あの方は……。そういえば、どこに行ったのだろう?」
その時、騎士の一人が、急いだ様子で現れた。
「私共の許しを得ず、勝手に館から出て行こうとしていた者を捕まえましてございます! あと、町医者と運送業のギルドマスターと名乗る者が、アナベル・ウィスハート様に御面会を求めておりますが」
ルークに倣って、思わず「おやっさん」と呼びそうになり、慌てて「ドクター」と呼びかける。
「ドクター、ありがとうございます。早速ですけれど、あそこで倒れている女性を診ていただけますか?」
ドクターはすぐさま反応して、ミリーに近づいた。
彼は深刻そうな顔で、気を失っているミリーを診察してくれた。
「え! まさかダメなんですか?」
「いや、大丈夫だ。脈はしっかりしている。特に薬を飲んだとか、そういう形跡は無い」
「よかった、無事なのね」
(ミリーが助かってよかった、って。私って、なんてお人よしなの!……でも、ミリーは伯爵とリュドミラ夫人に操られていたのよ。そう信じることにしよう。
ああ、でも真実が知りたい。
ミリー、早く目を覚まして。しっかりして!)
私は、ミリーの顔を何度か軽く叩いてみた。
「アナベル様?」
団長が驚いて、私を止めようとしたが、時既に遅し。ミリーの顔は真っ赤になっている。
「グランドマスター、ミリーが憎くて叩いたんじゃないの。着付け薬の代わりよ」
「着付け薬。おお、そうじゃった!」
ドクターが上着のポケットをゴソゴソして、ウイスキーの小瓶を出してきた。そして、ミリーの上半身を起こすと、彼女の鼻に瓶の口をつけて、中身の匂いを嗅がせた。




