遅かった?
門番の騎士は、何が起きているのか、わからないかもしれないが、厩舎から馬を連れてきてくれた。かなり手間取ったが、グランドマスターが先に公爵家に向かっているから大丈夫だろう。急ごう。
ドレス姿の女が、髪を振り乱して馬を走らせる。
それが王都のメインストリートで繰り広げられたら、近隣の人はどう思うだろう。
馬車や人が行き交う中、私は「どいて!」と、叫びながら馬を走らせる。
突然、ゆっくり移動する荷車が、前を横切ろうとした時は、さすがに慌てた。少し手綱を緩めなくてはいけない。
「どうどう!」
その荷車を引く商人の姿には、見覚えがあった。私は馬上から大声を張り上げる。
「もしかして、あなたは、あの時の?」
彼は私を見上げると、嬉しそうに叫んだ。
「あなた様は、アナベル様!」
彼は、あの日、騎士団長と共に隠れ家に来てくれたギルドの人だった。
「ちょうどいいわ。ギルドマスター、あのお医者様を呼んできてほしいの。私は、今から伯爵家に行くの」
「ドクターですか?」
「あちらには怪しい医者がいるから、こっちはちゃんとしたお医者様を用意しなくては!」
「なんだかよく分かりませんが、ドクターを連れて伯爵のお城に行けばいいのですね」
「ええ、私は一足先に行っているから。伯爵家はどこだか、わかるわよね?」
「もちろん。すぐにお伺いします! あのドクターが、ちゃんとしてるかどうかは疑わしいんですが」
伯爵家に到着し、私は馬をそのまま走らせて門から屋敷の真ん前まで着けた。
既に、たくさんの馬が伯爵家の敷地内をウロウロしており、伯爵家の使用人達は困り果てて右往左往している。
私は馬上から叫んだ。
「公爵家令嬢アナベル・ウィスハートよ。失礼するわ」
「アナベル様!」
誰かの声がする。あのお茶会の日、私を信じてくれた人かもしれない。声のするほうに頷いて、私は馬から降りると、伯爵の城館に堂々と入った。
「ミリーはどこ?」
あてどなく、うろうろ彷徨ううちに、ざわめきが大きく聞こえる場所を発見し、私はそちらを目指した。主寝室の前の廊下に、たくさんの騎士がいる。
騎士団長とミリーは、その部屋にいるに違いない。
「どいてくださる?」
騎士たちに言い、部屋に入った瞬間、私は小さく悲鳴を上げた。
ミリーが床に倒れている。
遅かったのか?
「アナベル様」
騎士団長から声をかけられた。
「グランドマスター、ミリーは?」
「ご無事のようですが。……医師はまだか?」
騎士団長が、執事の男性に尋ねた。
(この執事は、毒殺未遂事件の際、私を犯人扱いしたいけすかない野郎だわ!)
私はその男のところに行くと、彼の胸ぐらをつかんで怒鳴りつける。
「あんた、全部知ってるんでしょ?言いなさいよ!」




