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急げ

 陛下の御言葉の途中で、突然、伯爵が倒れた。しかも、騎士団長が伯爵に駆け寄った時には、既に虫の息だった!

 陛下が驚き、椅子から立ち上がる。


「国王陛下、申し訳ございません。私はどうしても、愛娘のミリーを未来の王妃にしたかったのです」


「ミリーなら、側妃にできたではないか」


「陛下。娘を王太子妃にし、ゆくゆくは孫を国王に……。そんな夢を見てしまったのです。娘はそれに従っただけ。娘は、王太子様を心から愛しているので、独占したかっただけなのでございます」


 彼は弱々しく言って、私のほうに手を伸ばしてきた。その手は震えている。


「アナベル、あなたにひどいことをした。ゆる……し……て」


 それだけ言うと、伯爵は気を失ったようだ。

 目を見開いたままの姿、もしかして、死んでいるのか。


「医師を呼べ! グランド・マスター、今すぐ伯爵家に部下を連れて向かってくれ。伯爵夫人、いやリュドミラ夫人とやらを捕まえるのだ!」


「承知」


 騎士団長は言うが早いか、謁見の間から飛び出していった。


「伯爵はどうされたのでしょう?! やはり、まだ具合が良くなかったのですね」


 陛下は私に頷き、暗い声で言う。


「おそらく。いや、もしかすると、ここに来る前に再び毒を飲んだ?」


「まさか……! 陛下、失礼します!」


 私は、慌てて謁見の間を飛び出した。

 ミリーの命も危ない!


 ドレスの裾をたくし上げ、王宮の廊下をひた走る。

 磨き上げられた廊下で滑りそうになった私は、靴を脱ぎ裸足で全力疾走した。


 どんなに急いでも、もう既にミリーは死んでいるかもしれない。

 そんな予感に怯えて立ち止まる。しかし、死なせるわけにはいかない。

 彼女の口から、全てを話してもらわなくては!


 ようやく王宮の建物から外に出ると、私は門のそばにいた騎士に、馬を貸してください、と頼んだ。


「何ですって?」


「いいから!何でもいいの。馬を貸してちょうだい」


 叫ぶ私に、「そういうわけには参りません」と、騎士はにべもない。


「国王陛下のご命令よ」


 私がそう言うと、彼は不思議そうに、「はぁ?」と答えた。


 ちょうどその時、白馬に跨がった団長が、騎士団を連れて王宮前の道路に現れた。走っていく彼らの後ろ姿を指さす。


「あれを見て。伯爵家で、大変なことが起きているのよ。私も行かなくては」


 門番の騎士は、きょとんとしている。


「申し訳ございませんが」

 彼が前置きして、恐る恐る尋ねてきた。

「あなた様はどなた様ですか?」


 私は胸を張る。


「公爵家令嬢アナベル・ウィスハート。未来の王太子妃、つまり、未来の王妃様よ!」


 門番の騎士は固まっている。私の行状は、既にいろいろと知れ渡っているのかもしれない。

 あ! まさか私のこと、幽霊と思ってる?

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