伯爵家の領地、再び
その夜、私は目が冴えて眠れなかった。
両親は疲れたのだろう、ぐっすりと眠っている。騎士団長とルークは隣の部屋で休んでいるのだが、ずっと話し声が聞こえていた。彼等も眠る気配はない。
結局、まんじりともせず一晩過ごし、陽が高くなってから、私たちは隣の伯爵家の領館を訪ねた。
隣といっても、公爵家も伯爵家も、広大な領地を持っているわけだから、馬がないと移動に苦労する。両親は、公爵家の馬車、私たちは馬に乗って訪問することにした。
伯爵家の領館には、今は使用人以外は誰もいないはずだ。
私たちの突然の訪問に、彼等はさぞ驚き慌てるだろうと思ったが、やはり……。
「これは公爵様!? 何事でございますか!」
出迎えてくれた女性は、棒立ちになった。
「館の主人が不在の折に訪問する非礼、お許し願いたい」
父は丁寧に挨拶してから、言った。
「ここの管理の責任者を呼んでくれ」
一度引っ込んだ女性が、男性と女性を連れて現れ、私たちを奥のダイニングルームに案内してくれた。
「すぐ、お茶のご用意をいたします」
「いや、それはいい」
騎士団長が鋭く遮る。
「何も用意しなくていい。とにかく、知っていることを洗いざらい教えてくれればいいのだ」
ルークが、騎士団長の言葉に重ねる。
「ここで働いている古株の人たちを呼んでくれ」
男性の顔に緊張が走った。
管理責任の一人である女性は、私にミリーの噂を教えてくれた人だ。彼女は私に気づいているのだろうが、先程からずっと澄ました顔をしている。
「私を覚えてらっしゃる?」
「もちろん。占い師さんですよね、グラン・ボヌール一座の女優の」
「そうです。でも本当は、公爵家令嬢アナベルよ」
「アナベル様ですって! 嘘でしょう?」
集まった使用人たちが、ざわつき始めた。
「私は、ミリアム・ゴールドウィン伯爵令嬢に毒を飲まされたけど、死んではいなかったのよ」
「えっ! ミリアム様が」
益々大きくなるざわめきを無視して、ルークが叫んだ。
「リュドミラ夫人のことで、知っていることを全て話してくれませんか?」
「……あの方は、ミリアム様がお小さい頃に亡くなられたはずですが」
かなり歳を取っているような女性が、おずおずと話し始めた。
「でも、はっきりとしたことは知りません。伯爵様から『夫人は病気なので、王都で治療を受けさせる。もう、ここを出た』って言われたことがありまして」
「ということは、突然姿を消した?」
「そうです。その後『リュドミラ夫人は亡くなった』と伺いました」
「では、もしかして。生きている可能性もあるということか」
ルークが鋭く言う。




