脱出②
「アナベル、そんなことに囚われるんじゃない。お前が生きていただけで嬉しいよ」
「そうよ、アナベル。それよりも、今までどうして隠れていたの?」
私は両親に、墓地に花を手向けに来てくれたルークに助けられたことを教えた。
「私は、そのままグラン・ボヌール一座に匿われて女優として修行していたの。私は、ヒロイン候補なのよ」
母は絶句した。
父は目を閉じてため息をついたが、おもむろに目を見開き、「何故、すぐに家に帰ってこなかった?」と、咎めるように言った。
「私はこんな顔になってしまったのが辛くて、すごく……すごく動揺していたし。幸い、ルークが好きなだけ居てくれていいって言ってくれたし。それに」
「それに?」
「家に戻るのが、不安だったのね。私はすっかり混乱しきっていた。また、ミリーに命を狙われるかもしれない。そんな思いもあった」
「待ちなさい。今、ミリーと言ったか?」
「ええ。私は、新年のパーティーの時に、ミリーに貰ったワインを飲んで倒れたのよ」
「だが、『心臓発作だ』と、その場にいた医師が言ったが」
「あの日、私が倒れてから何があったの?」
「確か、あの日は……。その医師は、伯爵が連れて来ていて、国王陛下に紹介しておったな。素晴らしい腕前の医師で、リカストワ一族出身だと、伯爵が言ったのを覚えている」
私を陥れた医師だろうか、新年パーティにも来ていたとは!
「彼は、お前を診て、『お嬢様は、生まれつき心臓にご病気を持っていたに違いありません。それが今になって、“悪さ” をしたわけです』そう言ったが」
「ええ、今でも覚えてますわ。あの医師は、泣き叫ぶ私に、本当に気の毒そうに言ってくれたのよ」
“悪さ” をしたのは、そいつなのに!
私は唇を噛み締め、怒りに震える。
私は自然死扱いで埋葬され、王太子妃の地位を奪われ、今やお尋ね者扱い。
わずか半年ほどの間に、こんなに人生って変わるものなのか。
「アナベル、グラン・ボヌール一座の方、ルークさんとおっしゃったわね。あなたは、あの方と本当に結婚の約束をしたの?」
どう答えたらいいだろう。ルークとは、約束も何もなく “そういう関係” になってしまったが、今更引き返せない。しかし、彼と結婚するというのは、無理な話なのだろう。
「お母様、その件は全て解決してから考えさせて」
「わかったわ、ごめんなさいね」
謝る母の、すっかり痩せてしまった肩を抱き、手を握る。
「あなたが、あのルークという人を好きになった気持ちはわかるわ。私も、あんな素敵な男性を見たことないんですもの!」
母の茶目っ気たっぷりの言葉に、父が「おいおい!」と言って笑った。
「しかし、これからどうなるのか……」
父のため息混じりの声に、私も頷く。




