騎士団長の来訪
その後、私とルークは、表面上は平穏無事な毎日を送っていた。
お尋ね者だし、両親も人質に取られたりと、問題山積ではあるけれど。
私は、ルークに食事の支度などの家事を、少しずつ学んでいる。ここでの暮らしで、いろいろ身に付けることが出来て、それは素直に嬉しいことだった。
剣の扱いのほうは、さっぱりだ。しかし、ルークに「さすがは公爵令嬢だな、筋がいい」と褒められると、やる気も出るというもの。
ただ。
ミリーのせいで、大事件の犯人に仕立て上げられている私は、そのことを思うと時々無性に悲しくなる。
私たちは、毎晩のように同じ会話を繰り返していた。
「伯爵や伯爵家の方々がグルだったとは思えない。伯爵自身は、自分の身を危険に晒すわけだし、伯爵家の使用人なんて、仮に伯爵に命令されたとしても、畏れ多いというか、怖くて毒を入れたりはできないと思うのよ」
「それはそうだが。伯爵という人には、底しれぬ怖さみたいなものを感じるんだ。自分の欲望のためなら、全てを犠牲にしても構わない人、とでも言おうか。それに、ミリーの単独犯というのは、やはり無理な気がする」
ルークが怖いことを言った後、彼は急に何かに気づいたような顔をした。
「どうかした?」
「しっ!」
彼は、人差し指を唇に当てた。
「ルーク?」
ルークは椅子から立ち上がり、そろそろと扉のほうに向かって歩いていく。私はテーブルから離れ、部屋の奥に逃げ込んで様子を伺った。
ルークは静かに扉を引いた。すると、ウワッと声がして、若い男性が部屋に転がり込んでくる。
その後ろには、騎士団長が立っていた。
「グランドマスター?!」
「さすがだな。物音は立てなかったつもりだが」
騎士団長は笑って、ずかずかと家に入ってきた。
「ウィスハート様、お元気そうで何よりです」
「あなたのほうも。お怪我の具合は? 大丈夫ですか?」
「ありがとうございます、すっかり良くなっております。それよりも、心の傷が大きかったくらいで」
「心の傷?」
「あなたを “攫われる” という不手際、散々笑い者になりました。おかげで、しばらく役職を停止させられています」
驚いて頭を下げる私たちに、騎士団長は微笑んで言った。
「いや、いいんだ。今は好きなように暮らせているからね。だから、今回もあなた方の手助けをする余裕がある」
そして、床に座り込んでいる男性の腕を引っ張って起こした。
「組織の人たちから、連絡をもらった」
「組織?」
私の疑問に、ルークが横から答える。
「おやっさんを始めとする、王都の商人たちのギルドさ。そこが間者の組織を持つ秘密結社なのだ。ということは、つまり」
「失礼しました。私はドクターと同じ組織に属している者です。よろしくお見知りおきを」
若い男性が、にっこり笑った。




