久しぶりの休息
私は今まで何を見てきたのだろう。子供だったとはいえ、物の見方が狭かった。
私のお父様は公爵、友達もみんな貴族。騎士団長は騎士団長であって、それ以上の何者でもない。人となりを深く知ろうなんて思ったこともなかった。
大人になったら王家に嫁ぐ。その事しか、頭になかった私。
すっかり狂ってしまった運命。
今はマイナスだけれど、絶対に失った物を取り戻すわ!
「ルーク、私にも剣を教えてちょうだい!」
「突然、何を言い出すんだ?」
「遅いかもしれないけれど、身を守るには大事なことなのよね? 女優修行のおかげで、私は動きが軽やかになった。トラヴィスさんからも褒めてもらったじゃない?」
「そうだな。だが、無理はしちゃいけない。あなたのことは俺が守る」
「嬉しい、ありがとう。そういえば、私が塔に護送されるなんて、どうしてわかったの?」
「それも、おやっさんが教えてくれた。情報網が凄いのさ」
「あのお医者様は、一体どういう人なの?」
「有り体に言えば、間者だな」
「間者ですって! あの方、『自分は噂に疎い』なんて仰ってたわよね?」
「人間は、何か隠したいことがある時、正反対のことを言うもんだ」
なるほど、それで……。
伯爵とミリーの発言に矛盾があったのも、そういうことなのかも。
ミリーが身籠ったから、王太子妃になることを許した、みたいなことを伯爵は言ってたけど、実際は違っていた。伯爵が、彼女を王太子妃にしたくてたまらなかったのだ。
その日は、私たちは夜が更けるまで、粗末なベッドの中で、お互いの子供の頃の話をした。
「こうやって話をしたのは久しぶりね」
「そうだなあ」
「目まぐるしく色んなことが起きて、思い出話どころじゃなかったわ」
「夜、ゆっくり話をしようと思っても、あなたがさせてくれないし」
ルークは、意味ありげな含み笑いをして言う。
「ちょっと待って。それはあなたのほうでしょ。あなたのせいで、私はずっと睡眠不足よ」
「それはどうかな? 寝かせてくれないのは、あなたのほうだろ?」
くだらないことで言い合いになり、私は吹き出した。
「おあいこよ」
「そうだな」
「今日は疲れたわ。……おやすみなさい」
「おやすみ、愛してる」
ルークはそう言って、私を抱きしめてくれた。
暖かい。
彼の腕の中で、私は久しぶりにゆっくり眠ることができた。
翌朝、私はルークに叩き起こされた。
「ルーク? いま何時?」
「それは知らん。朝食の支度は済んでいる」
ルークの言葉に、私は飛び起きた。
「いつの間に?」
「あなたが眠っている間に、近くの農家に行って食料を分けてもらったのさ」
「まあ! 全然知らなかった」
「仕方がないさ、あなたは疲れ切っていたようだから。どうだ? 少しは元気を取り戻せたか?」
「そうね。朝食によるかな?」
私の口角は自然と上がる。




