絶望
「どうやら、毒を飲まされたようじゃな」
「やはり、そうか。顔の青あざのほうはどうだ?」
ルークは眉をひそめ、語気鋭く言った。
「しばらく様子を見ないと、何とも言えないな。日が経てば薄くなるかもしれんし、そのままかもしれんし」
私は悲鳴を上げそうになり、口元をしっかりと押さえた。涙があふれ出てくる。
「治療できるか?」
「残念ながら、有効な解毒剤も治療法もない。栄養を摂り、休息するしかない。しかし、脈もしっかりとしているし、青あざ以外は顔色もいい。大丈夫だ」
「実は、さっきまで、このレディは死んでいたんだ」
「なんとまあ! そうだったのか。お若くて健康でいらしたのが幸いしたのだろう。……わしは昔、一度だけ同じ症例を見たことがある。丸一日経ってから、死者は蘇った」
「へえ? その人はどういう?」
「拳闘士だった。今も身体壮健で、わしより歳上だが、年老いても元気に過ごしているよ」
「良かった!」
ルークが、ため息混じりの声を上げ、私を振り返る。
「アナベル、心配することはない。今は療養に専念することだな」
ルークと医師の会話を聞いても、私の気持ちは沈んだまま。
恐ろしくて、もう一度確認する気すら起きないが、さっき墓地で見た私の顔。
ルークの小さな手鏡でも、はっきりとわかった。右の額から目にかけて、青黒く変色していたのだ。
「おやっさん、新年早々、すまなかったな。また来る。……おっと、忘れるところだった。これを」
ルークは、ゴソゴソとロングコートの内ポケットをまさぐり、金貨を何枚か老医師に渡した。
「こんなに要らないよ、何もお役に立ててないからな」
「いや、充分助かったよ、ありがとう」
ルークは頷いて、私を手招きした。
私は医師にお礼を言い、機械的にお辞儀して、ルークと共に診療所から出た。
「さてと。では、お家までお送りするとするか」
「待って。お願いがあるの。今日だけでいいから、グラン・ボヌールにでも泊めて下さらない?」
「えっ?」
「家に帰る前に、一旦仕切り直ししたいの。何も考えられなくて」
「気持ちはわからんでもないが、一刻も早く、ご両親の喜ぶ顔を見たいだろう?」
「それはそうなのだけど」
私が死んでしまい、両親はどんなに嘆き悲しんでいることか。生きていると知ったら、さぞかし喜ぶだろう。
でも。
この変わり果てた顔を見たら、再び絶望するかもしれない。
何より、ミリーと王太子様の反応が怖い。
今は、私が生きていることを知られたくない。しばらく身を隠していたい。
しかし、どうしたらいいの? やはり早い段階で、両親と相談するしかないのだろうけど……。
私が余程打ちひしがれているように見えたのだろう。ルークは、「わかった」と、短く呟いた。
彼は、私をエスコートし、待たせていた馬車に乗り込んだ。




