護送馬車
『じっとしていて下さい』っていうことは。
『馬車から降りなければいい』ということよね?
私は窓の目隠し布を外し、そこから顔を出した。
「ルーク!」
とおせんぼするかのように、馬車と騎士団長の前にルークが立っている、剣を手にして。
「何だ? お前。何をしている」
騎士団長の問いに、ルークが答えた。
「俺はアナベルの恋人だ、彼女を助けに来た」
「恋人?」
騎士団長は何も知らないのだろう。不審そうな声である。
「アナベルを釈放しろ、彼女は無実だ」
「詳しい事情は知らないが、私のやるべきことはウィスハート様を塔にお連れすることだ」
「逆に、俺がするべきことは、アナベルを塔に行かせないことだ」
「ほう」
騎士団長が、素早く腰のサーベルを抜く。
「いやぁ!」
大声で、悲鳴を上げてしまった。
「ルーク、逃げて! この人は国一番の使い手なのよ!」
しかし、ルークは私に答えず、剣を構える。
私は再び悲鳴を上げたが、ふたりとも私に頓着することなく、剣を手に間合いを詰めていく。
ルークが先に切りつけたところ、わかっていたと言わんばかりに、騎士団長はさらりと躱して、そのまま剣の切先をルークに向けた。
互いに譲ることなく剣を交わすふたりは、まるで優雅なダンスでもしているかのように、見事な剣捌きを見せて闘っている。
「なかなかやるな」
騎士団長の声が弾んでいる。
「あんたもな」
ルークの返事に、騎士団長が嬉しそうに答えた。
「俺を舐めるなよ。お前なぞ簡単に潰して、細切れにしてやるぞ」
騎士団長の言葉に対し、ルークは一歩も引くことなく、騎士団長と闘うのを辞めない。
「やめてー!」
私の泣き叫ぶ声に、ようやく気付いたように、騎士団長が「待て!」と叫んだ。
ルークは身構えたまま、息を切らしつつ答える。
「何だ? 俺は辞めんぞ、アナベルを返してもらうまでは」
「わかった、ウィスハート様を釈放する」
「え? 騙そうとしても無駄だぞ。決着をつけるまでは」
「騙すつもりはない。俺と互角に戦う奴は初めてだ、気に入った。ウィスハート様を連れて行け」
騎士団長は、剣をその場に落とすと、両手を上げる。
「本当か?」
疑わしげなルークに、騎士団長は重ねて言った。
「私は私のルールで動く。大丈夫だ、国王陛下には上手く言っておく」
騎士団長は、馬車の扉を開けると、私の手を取り馬車から下ろしてくれた。
「どういうことだ……?」
ルークがぽかんとした表情で言うと、騎士団長は笑った。
「言っただろう? 私は私のルールで動くのだ。本来、騎士団長は正義を守る生き物だ。王家が不正義を働くなら、それを踏まえて動くだけ」
「不正義?」
「王太子殿下のやり方は、はっきり言って気持ち悪い」




