騎士団長
ほとんど眠ることもできず一夜明けて。
朦朧としていた私は、扉をガチャガチャさせる音に目覚めた。
「起きろ」と言う声と共に、王太子様の護衛兵が入ってくる。王家の騎士団長の顔が、最後尾からちらりと覗く。
彼は、幼い頃から王太子様の側近くにいる人だから、私も彼の人となりをよく知っている。
さすがに、マナーも教養も身に付けている人だから、兵士たちに厳しく言った。
「お前たち、この方は犯罪者といえど、公爵家令嬢だ。無礼な振る舞いはするな」
護衛兵たちは、こそこそと騎士団長の背後に回る。
「ウィスハート様、ご無沙汰しております」
「ごきげんよう」
「こんな場所で、あなたと再会したのは残念です」
彼の感傷的な言葉に、一瞬胸が痛くなった。しかし、言葉と裏腹に、まだ若く美しい彼の表情からは、何の感情も読み取れない。
(それはそうよね。私のことは、ミリーや伯爵、そして無関係な一座の人たちを殺そうとした恐ろしい毒殺魔、とでも説明されているに違いないもの)
「では、ウィスハート様。今からあなたを塔にお連れいたしますが、どうかお願いです。手荒な真似はしたくないので、抵抗などしないでください」
私は彼の言葉に笑った。
「今更、抵抗なんてしても無駄なこと。……でも信じてほしい。私は無実の罪で投獄される被害者なのです。いずれ、真実が明らかにされることを祈っています」
地下から地上に、そして外に出たときは、ほっとした。
これからまた、陽も差さない場所に連れて行かれ、そこで死ぬまで幽閉されるかもしれないのに、降り注ぐ太陽の光のおかげか、気持ちは暗くなかった。
今、私が心配なのはルークのことだけ。
彼は私の後を追って、どこかに行ったらしいが、大丈夫なのだろうか。体は、まだ万全ではないはず。
一体、どこに行ったのだろう。
私は騎士団長に伴われて、護送馬車に乗せられた。
馬車は黒一色で、窓には黒い布が掛けられている。
私が乗るとすぐ、騎士団長の号令が掛かり、馬車は動き出した。
私を逃さないためか、私の隣に騎士団長が、くっつくように座った。
「グランドマスター」
「何でございますか?」
「護衛はあなただけ?」
「私だけでございます、目立つわけには参りませんので」
「そう」
その後はずっと、私たちは無言だった。窓に布が張られているため、どこを走ってるのかさっぱりわからない。
突然、馬のいななきが響いて、馬車が急停止した。
「何事だ!」
騎士団長が鋭く叫んだ時、うわっ! という悲鳴が聞こえ、何かがどさっと落ちる音がする。もしかしたら、御者が御者台から落ちたのかもしれない。
「じっとしていて下さい」
騎士団長は私に言うと、彼は馬車から飛び降りた。




