王宮に連行される
もともと色白な王太子様は、今は青白いと言っていいほど、顔色が悪くなっている。もしかして、私の “裏切り” にショックを受けているのか?
「アナベル、まさか! そんな……」
王太子様の声は震えている。
「連れて行け」
彼の冷たい声がして、私は屈強な騎士たちに両脇から抱えられるようにして、部屋から出された。
「どこに行くのですか?」
「王宮だ。取り調べを受けてもらう」
背後から、王太子様の声が響いてきた。
(そうだ! みんなは? みんなの容体はどうかしら?そしてルーク!)
「お願いです! 王宮に行く前に、せめてみんなに一言!」
私は振り返り、王太子様に叫んだ。彼は私を見て、わざとらしいため息をついて頷いた。
ダイニングルームでは、さっきと変わらぬ姿勢で、みんなが横たわっていた。
「アナベル!」
シシィが叫んで、上体を起こす。
「シシィ、大丈夫?」
「だいぶ気分が良くなってきたわ」
シシィはそう答えたが、顔色は真っ青だ。
「私、王宮で取り調べを受けることになったの」
「なんですって!」
「でも大丈夫。私は何もしていないんだもの。調べが終わったら、劇場に帰るわ。早く良くなってね」
シシィは、目に涙を浮かべて頷いた。
「ルークの姿が見えないけど」
「そういえば、どこに行ったのかしら? あなたが連れて行かれる時に、ルークも後を追って行ったみたいなんだけど」
私は王宮に連れて行かれる馬車の中で、身の潔白を証明するにはどうすればいいかを考えた。ルークが姿を消したことや、彼の容体は心配なのだけれども。
まずは、時系列を追って説明したほうがいいだろう。今回の事件と、私が毒殺されかけたことは無関係ではない。
王太子様には、全てミリーが関わっているのだ、と印象づけなくては。
そのためには、印象的な出来事を思い出すのよ。
でも、私が覚えているのは、私がワインを飲んだ後、『これからは私があなたの代わりになるから。安心して永遠におやすみなさい』と、邪悪な目をした彼女が言ったことくらい。
他には、直接ミリーが関係しているわけではないが、伯爵様は彼女を正妃にしたかったこと。しかも、伯爵様は、優しそうに見えて、意外な面も持ち合わせているらしきこと。
それらが、ふたつの毒薬事件に関係している、と説明しなくては。
今日のことも、私はあくまで被害者側である。一座は伯爵家にお茶会に招かれただけなのだ。
そして、一番重要なこと。
ミリーが幼かった頃、彼女に仕えていたリュドミラ夫人、彼女こそ今回の一連の事件のキーパーソンだわ。
確証はないが、彼女はかつて毒殺未遂事件の犯人として疑われたことがあったようだし。
「降りろ!」
声がして、外側から馬車の扉が開けられた。
必死で考えをまとめていた私は、顔を上げた。




