ミリーの罠?
「アンコニュことアナベル・ウィスハート? 何を言っているんだ、ミリー」
「王太子様、そこにいる女優の正体は、亡くなったはずのアナベルですわ」
「なんだって!」
王太子様はミリーから目を外して、私をジロジロと見てくる。
「アナベルだと? ずいぶん雰囲気が変わっていて、わからなかった……! ヴェールを外せ」
私は慌てて、ヴェールで顔全体を隠そうとしたが、後から強い力で羽交い締めにされ、ヴェールをむしり取られた。
「何をするの!」
いつのまにか、騎士が私の背後に回っていたようだ。
「今まで気づかなかった。その美しい瞳は、確かにアナベルだ。どうしてそんな姿に!?」
「聞いてください。私はミリーに毒を盛られて殺されたんです!」
王太子様は、口をぽかんと開けた。
「何を言ってる? 毒を盛ったのはお前で、ミリーを殺そうとしたんだろ?」
「いいえ! 私はそんなことをしていません。私が言いたいのは、半年前、ミリーに毒入りワインを飲まされて、私が死んだことです。私は蘇って、グラン・ボヌール一座の支配人に助けられました。その後、女優として匿ってもらっていたのです」
王太子様は、目をパチパチ|瞬かせながら、私の話を聞いている。その傍で、ミリーは黙ってじっとしていた。
しかし、彼女の目つきは鋭かった。
「王太子様。私とアナベル、どちらの言うことを信じるおつもりですか?」
ミリーが、弱々しく尋ねた。
王太子様はハッとした様子で、「ミリー、可哀想に!」と彼女の肩を抱いた。
「私のお腹には、あなた様の……」
「そうだ! アンコニュ……ではなくて、アナベル。お前は、この国の未来の国王まで殺そうとしたのか!」
「お待ち下さい、王太子様。申し上げましたでしょう。私は毒など入れておりません! そんな物、どこから私が手に入れることができると言うのですか?」
「それはわからん。しかし、現にたくさん病人が出ているではないか」
「一座の人たちですよ。私を助けて匿ってくれた恩人に、毒を盛ったりするものですか!」
叫んで否定するうちに泣けてくる。そんな私に、ミリーが冷たく言い放った。
「邪魔になったんじゃないの」
「邪魔?」
「あなたは、支配人のルークとかいう人と深い仲よね。仮にあなたが王太子妃になりたくても、そんな人がいたんじゃ無理よね」
血の気が引く、とはこういうことを言うのだろうか。私は目の前が暗くなった。
「……深い仲だと?」
王太子様の呟く声が、遠くから聞こえてくる感じだ。
「アナベルは女優として匿ってもらっているうちに、支配人と関係を持っていたのですよ。私のこの目で見ましたから、間違いありません」




