混乱状態
「ルーク、よかった! さっきより顔色は良くなってるみたい」
私は慰めるつもりで大げさに言って、彼に軽くキスする。周りに人が大勢いるけれど、そんなことはどうでもいい。
「アナベル、あなたはなんともないか?」
ルークに優しく問われ、私はどう答えたものか迷った。
何故か私だけ無事なせいで、犯人と疑われているが、私を信じてくれそうな人が、ひとりだけではあるが見つかったようだ、ということ。
そして、地下牢で襲われかけたこと。
いろいろ伝えたいことはあったけれど、今は言う時ではない。
「ルーク、私は大丈夫よ。あなたは、お医者様に診てもらったの?」
「ああ。今、医師は伯爵のそばに付き添っているみたいだが」
「そのお医者様のことだけれど、伯爵家のお抱え医師かしら?」
「多分、そうだろうな」
「外国訛りがあったわよね?」
「そういえばそうだな。それが何か?」
「あなたのお国の言葉?」
「違うな」
「そうね、雰囲気が違うものね。なんとなく思うんだけど、ミリーの世話役だったリュドミラ夫人、彼女と同じ国の人じゃないかしら?」
「なんだって?」
「もちろん、証拠はないのよ。ただ、なんとなくそう思っただけ。でも、リュドミラ夫人ことアンナ・リカストワと繋がりがある人物のような気がするの」
本当は、そう思いたいだけなのかもしれないが、そう考えると全てが繋がってくるのだ。
私は、ルークに頷いてから、今度はシシィのそばに近づいた。
シシィに呼びかける。
しかし、シシィは青い顔で目を閉じたまま。
そっと手を取って、語りかけた。
「シシィ、起きて。目を覚まして。私を置いていかないで!」
しかし、シシィは何も答えてくれない。私は焦る。
普段なら、照れ臭くて言えないようなことも言ってみよう。
「私はあなたがいないと、ひとりでは何もできないわ。私が死ぬまで、ずっと一緒にいてくれないと困るわ! あなたは多分、いいえ、きっと、私にとってルークよりも必要な人なのよ」
その時、シシィの瞼がピクピクと動いて、「アナベル」と言ってくれた。
「私、どうしたの?」
「よかった! これであなたは助かるわね」
「一体、何が起きたの?」
「何だかわからないけど、さっきのご馳走の中に、毒が仕込まれていたみたいなのよ」
「何ですって? アナベル、あなたは大丈夫なの?」
「それが、私はなんともないの。だから、私が毒を入れた犯人に疑われて、さっきまで地下牢に入れられてたの」
「ええっ?!」
「でも大丈夫。私のことを信じてくれそうな人が見つかったし、怪しい人がいるの。伯爵家のお抱え医師なんだけど、私を犯人と決めつける態度をとったりして」
「ミリー様!」
メイドの声に、私は反応して振り向いた。
部屋の入り口に、ミリーが立っている。




