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老医師

「おやっさん、いるか?」


 ルークは玄関扉を押して、大声で中に呼びかけた。


「おう」


 どこからか返事がする。


「急患だ、とにかく診てくれ」


 ルークは、ずかずかと家に入って行った。

 ドアを開けてすぐの部屋は、雑然としていた。


 寝具のない寝台、書物が積まれた机、椅子。

 床も、紙切れや衣服のような布類が、所々に散らばっている。


「たまには片付けろよ」


 ルークは顔をしかめた。


「物が多いだけで、掃除はしとるぞ」


 奥の部屋から出てきた老人が笑って答えた。

 ルークも笑って、床のものを拾い始めた。


「で、病人はこの方か?」


 老人が近づいてくると、酒の匂いがした。

 私は不安で、胸が張り裂けそうだった。

 私の体に何が起きているのか。既に酔っぱらっているような、この老人に診察なんて出来るのか。


「お嬢さん、ここに腰掛けてくれんか」


 老人に言われ、寝台に座ると、彼は椅子を持ってきて、私の真向かいに座った。


「ヴェールを」


 彼がヴェールを取るような仕草をしてみせるので、私は気が進まないものの、仕方なくヴェールを外した。

 老人が息を飲む。


「そんなに酷いんですか?」


「あ、いや。……お嬢さんはどこの姫様かな? あまりにお美しいので、驚いてしまったんじゃ」


「この方は、 “国一番の美女” と(うた)われた人だよ」


 さっきから、せっせと床を片付けているルークが自慢げに答える。


「国一番の美女だって? わしは噂に疎いのでわからん。はて? どなたじゃ?」


「誰でもいいじゃないか。で、どうだ?」


「ちょっと失礼」


 老人は、私の右の頬や額をそっと押した。


「痛むかな?」


「いいえ。それよりも、ずっと熱を持っている感じが続いています」


 老医師は、私の脈を取ったり、手の爪を丹念に見たりしてから、大きく息を吐いた。

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