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無実を訴える

「わかりました。とにかく落ち着いてください」


 年嵩の男性が、私のそばに来て跪いた。

 私は、この男性に見覚えがある気がした。名前は思い出せないが。

 執事同様、伯爵家に長年仕えている人だ。


「まだ完全に信じるとは申せませんが、私はあなたのお顔に、亡くなられたアナベルお嬢様の面影を見た気がします」


 男性は、私の足元からゆっくりと顔を上げて、私の顔をじっと見た。

 それから彼は再び目を伏せ、言葉を詰まらせる。


「ずいぶんお変わりになられて……。あなたの言葉が本当ならば、何とお気の毒なことだったのでしょう」


 胸が熱くなる。

 彼は完全に信じていないかもしれないが、気持ちが傾いているのは間違いない。


「お願いです。今回のことだけでも、きちんと調べていただけないでしょうか。私が疑われたのは、私のヴェールに毒薬の包み紙が引っかかっていたからです。でも、それを発見したのは、あのお医者様なんです。お医者様が元々毒薬を持っていて、私のヴェールにくっつけた。そういう見方もできませんか?」


 私は一気にたたみかけた。

 性急すぎる事は無い。

 私のほうだって、さっきいきなり疑われたのですもの。お返しよ!


「私なんかより、お医者様のほうが薬に詳しいはずです!」


 男性が、私の言葉に頷いた。


「彼を調べましょう」


「待って! 私も連れて行ってください!」


 出て行きかけた男性に、私は頼んだ。

 あの医師を調べるなら、私が直接言ってやりたい。


『あなたがやったのでしょう? 何の目的で? 私に罪をなすりつける気なの?』と。


「でも、医師を追及する前に、みんなが無事か知りたいのですが」


 私は同行している男性に聞いた。


「それこそ、今あの医師が診察しているはずです。皆様、命には別状ないと思われます。が……」


「が?」


「お一人だけ、重症のようです。あの、女優さん? ですか」


 男性の戸惑ったような声に、私は確認する。


「丸坊主の小柄な男性のことですね? 一座の花形女優なんですけれど」


 男性は、深刻な表情で頷いた。


「その方だけ、ひどく具合が悪いようです」


 私が連れていかれたのは、別のダイニングルームらしき広間だった。

 そこには、応急で設え(しつらえ)られたと見られるベッド、クッションやマットが敷かれていた。


 一座の皆は苦しいのか、その上でうめき声をあげている。

 しかし、シシィだけは、ぐったりとして静かである。


「ルーク!」


 私は、彼を見つけて叫んだ。

 ルークは真っ青な顔をしているが、私の声に反応して、ゆっくり上体を起こした。


「アナベル! 無事か?」


 矢も盾もたまらず、私はルークの胸に飛び込んで行く。

 私を受け止める彼の手に、ぎゅっと力が込められた気がした。


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