何が起きているのか②
何の紙かしら? と思う間もなく、医師がヴェールに刺さっている紙きれを、素早く引き抜いた。
この時も「失礼」の一言もなく、無礼極まりない態度だった。
一瞬、苛立ちを覚えたが、医師が発した言葉に驚いた私は、それどころではなくなった。
「これは……! 毒薬の包みではないか! 何ということだ」
「毒薬の包み?」
驚愕する私に、医師は恐ろしい顔をして、唸るような声で、更に追及してくる。
「そうだ。毒薬の包み紙。何故、こんなものを持っている?」
「お、お待ちください。何のことか、さっぱり」
(アナベル、しっかりするのよ! 私は無関係なのだから、落ち着いて堂々と反論すればいいだけ)
「私は何も知りません!」
ところが、そう叫んだ瞬間、私は背後から頭を殴られてしまった。
「しらばっくれるな!」
あまりのことに、その場に倒れた私は、誰が私を殴ったのか確認することもできないまま、呆然となった。
「や、辞めなさい」
ミリーの苦しそうな声が聞こえて、その場にいた人が一斉に、彼女のほうを見た。
彼女は、メイド達に囲まれ、床に座り込んでいる。
「今は犯人探しどころじゃないでしょ」
「お嬢様の仰る通りだ。とりあえず、その女は地下牢にでも入れておけ」
執事の声がして、私は使用人の男たちに無理矢理、立ち上がらされた。
彼らは無慈悲な態度で、私の両腕を締め上げてくる。
思わず呻き声を上げると、
「うるさい、大人しくしろ」
と、罵られる。
その後、長い長い廊下を歩いて、城館の外れまで連れて行かれた。
(こんな場所があったのね)
今更だけれど、ここは幽霊が出現するにはぴったりな場所だわと、私はぼんやりと考える。
連れて行かれたのは、薄暗い、昼間でも日の差さない半地下の部屋。
私をその部屋に残し、使用人たちは去って行った。
(何か粗相のあった使用人を、懲罰目的で入れる部屋かしら)
あの慈悲深そうな伯爵の館にも、こんな場所が作られているなんて。
しかし、どうしたらいいのだろう。
“毒薬の包み紙” と医師が言ったけれど、やはり食べ物に毒が仕込まれていたのか? 何の食べ物に?
そして、不思議なのは、私だけが無事だったこと。
しばらく考えているうちに、あまりの不自然さに、苦笑いが込み上げてくる。
一応、客人である私が、毒を仕込むなんて無理なことなのに。どうやって、あの場にいた人たちにわからないように毒を入れたというの?
そこまでして私を犯人にしたいの? 茶番すぎる!
あの医師は何者なのだ?
私のヴェールに刺さっていた毒薬の包みだって、彼がこっそりやったかもしれないのだ。
でも今は、そんなことよりも、気になるのは一座のみんなの容体だ。




