何が起きているのか
「私は何もしていない! みんながこんなになってるのは、私のせいじゃないわ!」
「……誰も、あなた様を非難するようなことは申しておりませんが」
執事の刺々しい物言いに、足が震え、すくみ上がる。
「お願い、早くみんなを助けて!」
執事は頷いて、メイドたちに何やら指示して、ダイニングルームを出て行った。
「アナベル」
ルークの声に振り向くと、彼は背中を丸めた状態で立っている。
彼は、よろよろとした足取りで私のそばに来ると、私の手を握って言った。
「アナベル、しっかりするんだ。何か大変なことが起きているが、あなたも我々も巻き込まれてしまった今、気をしっかり持って落ち着いて対処するしかない」
ルークは言い終えると、その場に膝をついて倒れてしまった。
「ルーク!」
私は彼に縋りつく。
「泣くんじゃない。あなたなら大丈夫だ」
ルークは、私の顔に手を伸ばしかけたが、その手は力無くだらんと下がる。
そのまま彼は、完全に目を閉じて動かなくなってしまった。
メイドたちは、それぞれ倒れている人たちに寄り添い、汗を拭いたり声掛けしたりしている。
しかし、誰も反応しない。みんな、ぴくりともしないのだ。
「嘘でしょ! みんな死んでしまったの?」
私は、衝撃と恐怖で、うずくまったままだ。
しばらくして戻ってきた執事は、大勢の使用人や、医師らしき人を連れていた。
医師と思しき人は、病人を順番に診ていく。
その後、執事は男の使用人に命じて、病人をシーツにくるんで外に運び出させた。
その間ずっと、私は床にへたり込んでいた。テーブルに片手を置いて、もう片方の手はヴェールを口元の辺りで掴んで。
目を開け、全てを見ているつもりだが、何も見えないし、何も聞こえてこない。ざわざわした気配だけを感じていた。
誰かが大きな足音を立て、私の前にやって来た。
両頬を軽く叩かれ、私はハッとした。
「ほう。あなたは無事のようですな」
私の目の前でしゃがんでいるのは、医師だろうか。少し外国語訛りがある話し方をする。
「何があったかは、後ほどゆっくり伺うことにして。立てますか?」
私は頷いた。
医師は、私の目の前に手を差し出してきた。私は小さくお辞儀して、その手に縋るようにして立ち上がった。
彼は、不躾な態度で、じろじろと私の全身を眺めまわした。
かつての私なら、公爵家令嬢アナベル・ウィスハートに対してなら。……こんな無礼は許されない。
しかし、今の私はグラン・ボヌール一座の役者の占い師アンコニュ。
そして、私はたったひとり無傷だったため、おそらく “疑い” をかけられているのだろう。
「それは?」
医師に言われ、私は彼の指差すほうを見た。
ヴェールの先、肩の辺りに、小さな紙片が引っかかっていた。




